WiMAXの全国実人口カバーが1億人を突破した。この値は全国WiMAXエリアの居住人口の合計だ。日本の人口は約1.3億人なので約77%の居住人口をカバーしていることになる。だが、それでもまだつながらないところがあるのが現実だ。WiMAXが使えるロケーションでは高速大容量を堪能し、どうしても使えないところでは3Gでつなぐ。しかも、意識することなく切り替えたい。そんなわがままな望みをかなえてくれるのがWiMAXと3GのハイブリッドモバイルルーターDATA08Wだ。
今回は、DATA08Wの企画にかかわったKDDIの平田誠氏(プロダクト企画本部パーソナルプロダクト企画部)とUQコミュニケーションズの竹崎誠也氏(営業部門営業企画部)に、この欲張りな端末について話を聞いてきた。
― WiMAXのエリアは、これからもまだまだ広がっていくでしょうけれど、今、このタイミングでこうした製品を提供されるのはなぜですか。
竹崎
軽く、バッテリーだけで長時間使えるモバイルPCやタブレット端末が登場し、それらが持ち出されるシチュエーションが増えたことで、ビジネスの面でも、パーソナルな面でも、様々な場所で多彩な機器をネットワークに接続したいというニーズは高まる一方です。個人的にも、週末の外出にタブレットとルーターを持って出かけることが多くなりました。
そういった方々にこれまで使っていただいていたのがWiMAXモバイルルーターですね。WiMAXは実人口カバー1億人達成ということで、普通にたくさんの人が暮らしているエリアでは、すでに十分通信できるレベルに達していると思います。ただ、過疎地を含む全国をくまなく訪れる営業マンなどは、使っていてどうしてもつながらないところがあるでしょうし、ゴルフ場、スキー場、キャンプ場といった地方のレジャースポットなども同様です。そういった場所で使いたいというニーズに対して、3GはWiMAXを補完するために最適な手段といえます。
実際、大部分の人たちは都市部でさえ使えれば支障ないはずですが、ビジネスマンなら地方出張で使えないと困るでしょうし、休日のレジャーでも使えた方が断然便利です。かと言って、普段、都市部で使う際のWiMAXの通信スピードも捨てがたい。そこが、ハイブリッドルーターへのニーズです。
― KDDIは、3GトラフィックのオフロードにWiMAXを使っているそうですが、この製品の場合は、その逆の考え方なのでしょうか。
平田KDDIにとっては増える一方の3GのデータトラフィックをWiMAXに逃がすことを、この端末に託していますが、WiMAXにとってはエリアの補完が目的です。ある意味で、互いに足りない部分をうまく補い合っているということでしょうか。中身が同じ製品を別のブランドで出していますが、双方の願いがうまく合致した形です。
竹崎もともと、KDDIがリリースした「DATA08W」をUQのほうでも扱えないか、という話からスタートしました。ただ、auロゴが付いた商品をそのままUQが扱うと、ユーザーにわかりずらい点もありますから、UQコミュニケーションズのものだとわかるようなものにしたいということで、意匠を変えた端末としてリリースしました。
サービス料金としては、通常のWiMAX通信料金よりも、ちょっとだけ高くなりますが、それによってauエリアで使用できるということで、その付加価値はあると考えています。ただ、UQ WiMAXの機器追加オプションは使えません。
お客様にとっては、量販店頭などで、PCコーナーでUQブランド、携帯コーナーでauブランドの製品を選んでいただくというイメージでしょうか。
(※)ご利用時には別途プロバイダ契約が必要です。プロバイダの初期設定としては「au.NET」(525円/月)が設定されています。
― 将来的にWiMAXのエリアがKDDIの3Gに追いつくとすれば、過渡期的な製品ということになりますか。
竹崎 そうですね、やはり過渡期の「今」、必要な端末だと考えています。やはり今日、そして明日つながらなければ困るユーザーの方はいるわけですからね。とはいえ、その過渡期はそれなりに長くなりそうです。そういう意味では、コンセプトは「長持ちする端末」であり、ハードウェアとして完成しているんじゃないかと思っています。
平田仕組みとしては、3GとWiMAXをハンドオーバーして、できる限り通信が途切れないようにします。エリアの狭間でばたつくことがないように、不安定にならないように、実用的な閾値を探してテストを繰り返しました。そこは人海戦術でしたね。電界強度と切り替えタイミングの関係を探りながら、もっともよい値を見つけていくわけです。
もちろん、手動でのモード切替もできるようにしてあります。液晶ディスプレイがリッチなものですから、WiMAXと3Gのどちらにつながっているかの表示もわかりやすくなっています。
バッテリーに関しては、オプションで安価にご購入頂けます。
― GPSがついているというのもおもしろそうですね。
平田はい、PCなどで接続してブラウザでルーターの設定画面にアクセスし、GPSをオンにして、そこから地点の緯度、経度情報をGoogleマップに渡すことで現在地周辺のスポット情報を得ることができます。
ほかには、MicroSDスロットを装備しており、32GBまでのメモリカードをネットワークディスクのように利用することもできます。設定画面とは独立していて、管理者パスワードを知らせないでもMicroSDに記録したファイルをダウンロードしたり、アップロードしたりといったことができます。セキュリティ的にクラウドに置くにはためらわれるファイルを少人数の会議で共有してディスカッションしたいといったニーズにお応えできるのではないかと考えています。
― WiMAXと3Gのいいとこどりを堪能できる製品ですね。
平田ワイヤレスのサービスは1にも2にもエリアである一方、1にも2にも高速大容量が求められます。とにかく必ずどこでもつながる接続性を確保すると同時に、つながる限りはできるだけ高速大容量のネットワークをユーザーの方に使っていただきたいというのがわたしたちの願いです。その微妙なバランスをうまくとれているのがこの製品なんじゃないでしょうか。
今は、スマートフォンでテザリングといったことも一般的になりつつありますが、この製品はルータ機能に特化しております。PCとの設定は最初の一度だけで、あとはルーター自身が自動的にWiMAXと3Gをスマートに切り替えてくれるのですから悩むことはありません。買ったのに使えないというケースは皆無だと思います。売りやすくもありますし、買いやすい製品でもあるといえるでしょう。
― まさに、UQコミュニケーションズとKDDIの二人三脚でできた製品ということですね。今日はどうもありがとうございました。
さて、先日、WiMAXのエリア地図を何気なく見ていて驚いた。実家のある福井県小浜市が春以降のエリアに予定されていたからだ。オバマ大統領で有名になったとはいえ、ようやく3万人に手が届いて、かろうじて「市」を維持できている小さな町だ。一生、この町でWiMAXは使えることはないだろうと思っていたから、うれしいニュースではあるが、想いはちょっと複雑だ。こうした過疎に近いエリアをにUQが力を注ぐことをWiMAXのユーザーが本当に望んでいるかどうか、自信がないからだ。
すべての人に便利なサービスであるためには、日本中くまなくエリアを張り巡らすのが一番だろうが、それは莫大なコストと引き替えとなってしまうし、WiMAXをいまのような料金で利用できなくなる可能性も出てくる。そういう意味では、3Gも利用できるハイブリッドルーターはそうした事情をフォローしてくれる「うまい」提案の製品かもしれない。
いずれにしても、モバイルとひとことで言っても、人それぞれで出かける場所は異なり、それぞれの場所ごとに特性も異なる。WiMAXでは、シングルルータ、ホームルータ、3Gハイブリッド、WiFiハイブリッドといった機能の異なる端末ラインアップを揃え、ユーザーの利用形態、利用エリアに応じて選ぶことができる。今一度、自分が移動する可能性があるエリアをマップで確かめて、端末選びの参考にしてみよう。必ず、それだけでオールインワンになるという端末が見つかるはずだ。
(Reported by 山田祥平)