UQコミュニケーションズがWiMAXの本サービスを開始したのが2009年7月。あれから2年を待たず、この6月には累計契約数が100万件を突破した。そしてauスマートフォンへの搭載の波に乗り、12年3月の年度末には200万超の契約も視野に入った。絶好調ともいえる契約数の推移、その成長には、どのような背景があるのか。WiMAX Watch創刊にあたり、その初回は、日本のWiMAXを推進するUQコミュニケーションズ株式会社・野坂章雄代表取締役社長に話を聞いた(聞き手:山田祥平)。
― 100万契約を超えて一般への認知も浸透してきたのではないでしょうか。
100万契約に胡座をかくのではなく、今のタイミングでこそWiMAXをストーリーとして再構成したいと考えています。このビジネスを2年前から先行してやってきましたが、いわゆる次世代モバイルインターネットという土俵には、後発がほかにもいろいろ出てきているのはご存じの通りです。そんな中で、「古い」という印象を持たれてしまっても困りますから、エリアもスピードも料金も広くて速くて安いのはWiMAXなのだと、よりいっそうのアピールが必要です。
9月13日にはUQのWebサイトも一新しました。利用シーンのバリエーションが広がっていて、モバイル以外での用途も、さらに訴求していくつもりです。つまり、WiMAXの価値を、もっと目に見える形で展開して訴求しようということですね。
量販店の店頭展示も模様替えして新しくしますし、これからはWiMAX内蔵スマートフォンのラインアップも増えていきます。それに伴ってauショップやauコーナーでの露出も多くなるはずです。量販店頭でもPCと携帯の両コーナーで大々的に展開していきます。一般認知度の向上は重要ですが、それに加えて大事なことは、モバイルシーンを牽引してくださっているコアの層に先進的なWiMAXの魅力をもういちど確認していただくことです。
― エリアも広がっていますね。以前はうまくつながらなくてあきらめていた場所でも、久しぶりにPCを開いてみると安定して使えて、エリアが拡大していることを実感します。
今、人口カバー率何%などといっているエリアですが、データ通信の需要が多いところを中心に、今後もどんどんエリアを拡大していきます。それに加えて、都市圏の課題を解決する必要があります。というのも、特定のエリア――新宿や渋谷、秋葉原などで、アクティブユーザーが突出して多くなっているんです。いうまでもなく、auスマートフォンでWiMAXが使われるようになったことも影響しています。
この状況をこのまま放置すると、WiMAXでさえ、大都市圏の一部で3カ月とか半年くらいのスパンで破綻してしまうかもしれないほどです。他事業者さんも同じ悩みを抱えているのは確実で、気が気でないんじゃないでしょうか。WiMAXとしては、こうした密集地をきちんとフォローし、いつでもどこでも快適に利用していただけるようにしていきます。サービスエリアであったとしても、「つながる」ことと「使える」ことは違います。つながって当たり前で、快適に使えなければ意味がありません。だからこそ、その点を積極的に改善し、満足度を向上させていきたいと考えています。
― 公共交通機関での利用はどうでしょうか。
鉄道関係のエリア拡充にも精力的に動いています。首都圏でいえば、まずはJR東日本、そして私鉄、さらに地下鉄と、点を線に、線を面にする方向で努力を続けています。列車のように広域を移動する交通機関ではWiMAXが効率的であるはずなんです。関連工事も各エリアで着工しつつあります。最終的には通勤路線を「完全に」カバーできることを表に出していきたいですね。もちろんそこでも、つながることだけではなく、「快適に使えること」がゴールです。
また、観光地、たとえば、軽井沢など都心型ライフスタイルの延長として人が出かけていくところも重要なエリアだと考えています。これから来年の春にかけて、こうしたエリアも拡充されていきますよ。
あとは空港ですね。地方空港のカバーを精力的にやってきた結果、先日ご利用可能空港の拡大について、ご案内したところです。
さらに、空港から都市部への移動導線も重要です。たとえば北海道の千歳空港から札幌までであれば、現状ではあと3カ所の基地局を設置しないと完全カバーができない状況で、この路線を移動するユーザーの方にはわずかな時間とはいえご不便をおかけしているのですが、そのうち2カ所は稼働のめどがたちました。
これまでは点としての駅を押さえてきたわけですが、次は各駅を結ぶ完全な線を実現します。かねてから計画を進めてきた地下鉄トンネル内のカバーなども含め、きちんとご期待にお応えしていくつもりです。年度内にはWiMAXのエリア展開に関して、びっくりするようなことがいっぱい起こると期待していてください。
― WiMAX2も視野に入り、さらに新たな展開が起こりそうです。WiMAXの速度はこれからまだまだ上がっていくのでしょうか。
速度についてはWiMAX2の大きなテーマです。でも、そのためには、しっかりした技術的な基盤はもちろんですが、世界標準を視野に据えたビジネスの視点が求められます。
というのも、海外の話に飛んでしまうのですが、WiMAXの基地局を誰が作って、誰がデバイスを出すかが重要なテーマになってくるからです。もちろん、各国の法律による電波についても重要課題です。いずれにしても、海外でビジネスを展開する複数の事業者が出てこないと話にならない点を理解していただければと思います。
この7月には、マレーシアでWiMAXサービスを提供しているYTL Communications Sdn. Bhd.(以下、YTL)との間で、WiMAXのビジネスと技術について相互に協力することで合意し、覚書を締結しましたが、これもその一環です。なぜだと思いますか。単に海外ローミング先を増やすといった発想ではないんですよ。
YTLは、これまで以上にWiMAXのビジネスに注力するとのことで、当然、デバイスベンダーもそれに向けて動いています。通信のサービス展開も、はたまたデバイスの製造も、グローバル連携しない限りうまくいかないはずです。そのことはビジネスを進めていれば痛感します。だから、台湾の事業者なども、そのことがわかっていて、われわれといっしょにビジネスをやりたいと言い始めているんです。
ちなみに台湾のWiMAXは6社がビジネスを展開しています。国が別々に会社を認可してしまったという経緯があるのですが、その再編の動きもあります。
UQが音頭をとってグローバル対応を強化、さまざまなコストを下げていきます。接続のためのデバイスは、本当は全世界で統一したいんですよ。そうすればワールドワイドで同じデバイスが使え、コストは極限まで下がります。それによって何が起こるかは想像に難くありません。
― グローバル化は基地局や端末デバイスのコストが下がることで、ビジネスが飛躍的に大きく広がるということですか。
そうです。UQはマルチなデバイスが連携することをやらなければならないと考えています。これからデバイスがリッチになっていくにつれ、それに連携したサーバー系のサービスを提供していくことになるでしょう。つまり、ルータもデータ通信カードも、PCもスマートフォンも、すべてのデバイスを連携させていくということです。
アイディアとしておもしろいんですが、現実問題として、UQ一社で何万台ものデバイスを引き受けるのはたいへんです。でも、各国の事業者が協力すればそれがかないます。つまり、投資をして国際ローミング先を拡充をするといった方法論ではないわけです。ローミングは副産物に過ぎないのです。協業でビジネスを拡大しても、UQは失うものがないんです。そこが、アライアンス型のビジネスだと言われるゆえんです。
― 現状ではどうしても後発の次世代モバイルインターネットと比較されがちです。
2年前のWiMAXに、ようやく時代が追いついたと考えています。目先の高速化としては、年内に上り64QAM対応の準備を進めていて、こちらはすでにめどがつきました。64QAMの法令改正が済んで、今は既存端末絡みの法令改正を待っているところです。
インテルの新モジュールも進化しています。ダイバーシティアンテナに対応したKelseyPeakでは、ハンドオーバーが従来以上に快適になり、速度やエリアの連続感が実現でき、今までのエリアが、さらに広がった感覚に陥ります。こうしてPCで経験したことをルーターにも反映しています。つまり、WiMAXは、各社が次世代と称してこれからやることをすでにやってきてしまっているということなんですね。
今、話題になっている各社の次世代モバイルインターネットの比較対象は、WiMAX1ということになります。すでにWiMAX2が見えている点で、われわれには大きなアドバンテージがあります。だからこそ、それを早く日本で実現しようとしているのです。さきほどお話したアジア諸国との協業のような形をとりながら、今までヨーロッパ主導でできた世界を、アジア主導の形に変えていきたいと考えています。
トラフィックが著しく増えてきている以上、とにかく早くレールを敷く必要があります。だから、WiMAXかLTEか、などといった議論は古くなってきているんです。とにかくありったけのネットワークを使わないと間に合わなくなってしまいます。実は、WiMAXとLTEは方式としては似ているので、技術的には親和性が高いんです。経験も活かせるし、技術は日進月歩ですから、わずかなコストアップで共存デバイスも作れてしまう可能性もあります。そのコストアップもグローバル化で吸収できてしまいます。
いずれにしても、今は、有限の資源である電波を、いかに効率的に使うかを考えなければなりません。われわれは、MVNOモデルを成功させることで、電波の利用効率の公平感を達成できたと考えています。誰もがこのビジネスに参入できるようにしましたからね。
今後の我々は、基盤を整備することに努力を惜しまないのはもちろん、その基盤を活用するための端末ビジネスにも力を入れていきたいと思います。やはり、ユーザーの方の目に見えるものは端末デバイスですから。
垂直統合型のビジネスに戻るというわけではないのですが、顧客とその予備軍に刺激を感じていただけるという点では、やはり最終的には魅力的なデバイスを揃えていくことが重要だと考えます。今後のWiMAXにさらなる期待を、そして応援をお願いします。
― ありがとうございました。