WORLD WiMAXは、WiMAX内蔵PCを海外で利用できるサービスだ。現時点では、米国と韓国の各都市でサービスが提供されている。日本にいるときと同じように、PCを開いてログインするころには、もうインターネットにつながっているというこの感覚。今回は、ブロードバンド先進国、韓国・ソウルを訪ね、その便利さを満喫してきた。
WORLD WiMAXのサービスを利用するためには、WiMAX内蔵PCとUQコミュニケーションズまたは日本国内のWiMAX提供会社との何らかの契約があればいい。UQが提供している基本料金プランには、UQ Flat、UQ Step、UQ 1Dayなど、複数の種類があるが、どのプランでもかまわない。特に、登録料や月々の基本料金も必要のないUQ 1Dayでも利用できる点は特筆できる。
ただし、米国でWORLD WiMAXを利用する場合は、日本での契約後、約2週間程度の時間が必要なので注意してほしい。渡航が決まったら、早めにWiMAXの契約をしておくといいだろう。UQの場合、1Dayプランの場合でも申し込んでから90日間は契約が有効な状態を保てるし、日本での1Dayサービス利用ごとにその90日間が更新される。
このサービスは、WiMAX内蔵PCでのみ利用できる点にも注意しておきたい。WiMAXルータやUSBアダプタ、WiMAX内蔵スマートフォンでは利用できないのは残念だが、だからこそ、米国と韓国を訪れる機会が多いのなら、次のPC購入時にはぜひともWiMAX内蔵PCを選ぶようにしたい。
現在、サービスが提供されているのは米国と韓国の二カ国で、今後、直近の提携によってマレーシアも加わる予定になっている。米国では、アトランタ、サンフランシスコ、シアトル、シカゴ、ダラス、ニューヨーク、ヒューストン、フィラデルフィア、ホノルル、マイアミ、ラスベガス、ロサンゼルス、ワシントンD.C.などの各都市、韓国では、ソウル、プサン、インチョン、テジョン、クァンジュ、テグ、ウルサンなど、日本人が出張や観光で訪れる可能性がある大都市は、ほぼ網羅されているといっていいだろう。
個人的には、米国の西海岸に出張することが多いのだが、IT関係のイベントが開催されることが多いサンフランシスコ、ラスベガス、ロサンゼルスでの利用が可能なので、いつも便利に使っている。
ちなみに、海外での利用料金は、米国内はなんと無料、韓国は有料だが、3000ウォン/24時間となっている。3000ウォンは約200円程度(2011年10月初旬現在)なので格安といっていいだろう。WiMAX内蔵PCを持っているなら利用しない手はない。
今回は、年初にサービスインした韓国でのWORLD WiMAXを体験してきた。昨年の秋にソウルを訪問したときには、まだサービスが開始されていなかったので、高額な3Gネットワークのローミングを利用するしかなかった。韓国では廉価な現地SIMを購入するのが難しいので、今回は、WiMAXでリッチなインターネット体験ができるかと思うと実に楽しみだ。
というわけで、羽田空港からのソウル便に搭乗した。最近は、飛行機に搭乗してしまってもドアが閉まるまでは電子機器の使用ができるので、ギリギリまでいつものようにWiMAXを使ってPCをインターネットに接続できる。Twitterで「ソウル便ボーディングなう」などつぶやくのもカンタンだ。そして、ここでノートPCを閉じ、日本のWiMAXとはしばしのお別れだ。
2時間弱でソウル・金浦空港に到着。今回は1泊2日の短期間滞在なので身軽な装備で預けた荷物もない。だから、入国審査をすませて税関を通過し、すぐにターミナルの建物の外に出る。
ここで、さっき羽田でスリープ状態に入っていたWiMAX内蔵PCを開くのだが、いつもならログインするとすでにつながっているのに、ここでは、接続ユーティリティがUQ WiMAXを探し出そうと懸命だ。ここは韓国なので、当然、UQ WiMAXは見つからず、接続ができない。
そこで、WiMAX接続ユーティリティを使ってネットワークを検索すると、「olleh WiBro」という名前のネットワークが見つかる。これが、UQと提携している韓国テレコム(KT)のネットワークだ。韓国では、「WiMAX」という呼称はポピュラーではなく「WiBro」という名前で知られている。
接続そのものはアッという間だ。接続が完了したことを確認して、ブラウザを開くと、スタートページがどこに設定されていても、申し込み手続きのページにリダイレクトされてKTのWiBroサイトが表示される。いくつかの選択肢が表示されるが、ここで申し込むのは「kt Day Pass」だ。いってみれば、UQ 1dayのようなサービスで、24~240時間分をまとめて契約することができる。今回は、1泊2日なので、48時間分を申し込むことにした。
申し込み画面で、ホーム・カントリー・プロバイダーとして「UQ」を選択、サービスピリオドとして6000KRW/48h(6000ウォン/48時間)を選択、メールアドレス、パスポート番号やクレジットカード番号と有効期限を入れ、各種利用規約に同意すれば手続きはおしまいだ。
手続きを完了すると、成功してから約2分でアカウントがアクティブになるというダイアログボックスが表示されたが、ものの数十秒で、起動しっぱなしのメールソフトが、メールをダウンロードし始めた。新着メールの中には、KTからの登録完了通知もあった。
実は、この手続き、時間の関係もあって、金浦空港からソウル市内に向かうクルマの中で行った。それでも接続が途切れることはまったくなかったことにも驚いた。
これで、日本でしているのと同じように、ソウルでWiMAXが使えるようになった。スピードテストを試してみると、下りで10Mbpsを超えている。かなり快適だ。
ソウル市内では、移動の際にいろんなところで試してみたが、そのインフラの充実ぶりには感動に近いものを覚えた。かなり奥まった部屋でも十分に接続が可能で、まさにいつでもどこでもを満喫できたからだ。もちろんホテルの部屋でもバッチリで、部屋に引き込まれた有線LANに遜色のないスピードでインターネットを楽しめた。
地下鉄にも乗ってみた。驚いたことに、地下鉄駅構内、ホームはもちろん、走行中の地下鉄車内でも何の問題もない。途切れることがなく快適にインターネットが使える。
UQにWiMAXルータなどを供給しているシンセイコーポレーションの現地法人スタッフによれば、KTは現在、韓国で二番手の移動体通信キャリアであり、日本と同様に3Gデータ増加のトラフィックオフロードをWiBroとWiFiを使って解決しようとしているのだそうだ。その他のキャリアが、この夏にようやく次世代のネットワークサービスを開始したのに対して、すでにWiBroとWiFiのネットワークが順調に稼働している点で大きなアドバンテージがあるそうだ。
インテルの現地オフィスも訪ねてみた。マーケティング担当者によれば、WiMAX内蔵PCは、現在、サムスンなどから発売されていて、各PCショップ、量販店での入手が可能だ。インテル的にはUltrabookの普及推進も促進するため、パートナー各社とますます強力なタッグを組み、WiMAX推進に力を入れていくという。
今回は、短期間の滞在だったため、ソウル市内のみでの利用となったが、行動範囲のほぼすべてで快適にWiMAXを使うことができた。日本から持って行ったスマートフォンも、高額なローミング料金を支払うことなく、WiMAX接続を共有してルータ化したPCを、電源を入れっぱなしで持ち運ぶことで、いつものように、いつものインターネット接続ができた。最近のPCは、下手なスマートフォンよりバッテリがもつからこその離れ業だ。
WiMAXの強みは、それがインテルの強力な推進により、世界標準のひとつとして普及している点だ。米国では4Gネットワーク、韓国ではWiBroと、呼称が異なるものの、世界標準規格という点では同じものだ。
野坂社長のインタビューでも言及されたように、今後、各国のキャリアとの提携が進み、各社がWiMAXを採用することで、設備等に大幅なコストダウンが実現できるようになる。そうなれば、まさに、世界中、どこに行ってもいつものPCでいつものWiMAXが使えるというインフラになるだろう。海外でのWiMAX利用は、日本にいるときと同じような情報収集をかなえる強力な手段となるのは間違いないが、基地局設備や端末などの共同調達によるグローバル標準のスケールメリットと、それによるコストダウンの副産物であることを実感することができた。いわゆるローミングサービスが、これほどの低価格で提供され、ユーザーがそれを享受できるのには、こうした背景があるわけだ。
(Reported by 山田祥平)