WiMAXは、サービスインから2年と少しが経過し、そのエリア展開は、当初の約束をどんどん前倒して進んでいる。1年前には、ちょっとしたところで感じていた不満も、今ではそれを感じることはまれだ。今回は、WiMAXのエリア展開について考えてみよう。【山田祥平】
ワイヤレスネットワークのサービスエリアを数値的に表現する際に使われる指標としては実人口カバー率がよく知られている。ちなみに、WiMAXでは、現時点で全国政令指定都市で95%超、さらに東名阪主要都市(東京23区、名古屋市、大阪市)では99%以上に達している。
都市部におけるWiMAXを端的に表現すれば、昼間の場合でいえば、外光の気配が感じられれば、必ずWiMAXは届いているというイメージだ。もちろん、WiMAXの屋内展開も急ピッチで進んでいる。だから、奥まって外の様子がよくわからないような場所でも使える場所はどんどん増えている。
現時点でも、都市部をマッピングすれば、ほぼ使えないところはない状態だが、実際には、そのスキマにあるわずかな死角を埋める作業が懸命に続けられている。それは、毎月発表される月ごとの拡充予定のサービスエリアリストを見れば伝わってくるはずだ。いつでもどこでも、より安定した接続をかなえるためには、地図を真っ赤に染めるだけでは足りないことをWiMAXはわかってくれているようだ。
さらに、人の集まる繁華街などでは、十分な電界強度が得られても、ユーザー数が多くトラフィックが混雑するために快適に利用できないといった状況に陥りやすい。都市部特有の現象だ。移動体通信事業者各社は、その対策に大わらわで、いろいろな方法でその不便を解消するべく対策が進んでいる。携帯電話でさえつながりにくいと感じるような場所、時間でもWiMAXなら何の問題もないというようになることを目指しているとのことで、実現性は高く、ユーザーとしては頼もしい限りだ。
一方、地方ではどうか。実際につないでみると、地方都市の方がリッチなコネクションが得られている印象がある。東京のように高層ビルが乱立していることもないし(都市部の高層ビルは電波の乱反射の原因となる)、ひとつの基地局がカバーするエリアが比較的広範で、さらにユーザー数も東京ほど多くないからなのだろう。そういう意味では地方都市でのWiMAXが、うらやましくさえ思うことがある。
さて、そのWiMAXだが、安心して使えるエリアをわかりやすく表示するさまざまな施策が併行して進められている。たとえば、カフェのプロントの一部の店舗内にはステッカーが表示されており、そこでは店内の奥まった場所でも快適にWiMAXが利用できる。店舗の多くは通りに面しているため、安定して利用できることは多いのだが、中にはビル内の奥まったところに店舗を構えていることがあり、場合によっては電波が弱く、最悪の場合は接続ができないケースもある。そんなときでも、UQ WiMAXステッカーを店頭に見つけることができれば安心だ。
さらに、鉄道駅。地下コンコースが多く、使えないのかと思いきや、JR東日本では、かなりの駅で特別な対策が施され快適な利用が可能だ。JR東京駅の場合なら、地下京葉線ホーム、地下総武線ホーム、地下銀の鈴付近、地下中央通路コンコースなどが対応エリアになっている。
また、興味深いのは成田エクスプレスで、E259系の車内では、成田エクスプレスの運転区間全線において、トンネル区間をのぞいて接続ができる。列車内に基地局を設置し車外アンテナを使って拾った、沿線基地局からの電波を中継するようになっているため、きわめて安定した通信ができる。
人の集まるところという点では、各種イベント会場となる大規模展示場はどうか。これも対策が進められていて、現時点では、幕張メッセ、東京ビックサイト、パシフィコ横浜といったところで、屋内展示ホールなどでの利用が可能だ。
なお、UQのホームページでは以上のような、WiMAXやUQ-Wi-Fiが快適に使えるスポットを「おすすめスポット」として、公式ホームページに掲載しており、http://www.uqwimax.jp/service/area/area_guide.htmlで確認できる。
ちなみに、UQ WiMAX契約者なら無料で利用できる公衆無線LANサービス「UQ Wi-Fi」と「UQ Wi-Fi ワイド」も、いざというときにスポットで使う際に心強いので、接続方法を確認しておくとよいだろう。UQ Wi-Fi ワイドは事前の申込(無料)が必要だが、全国5,000ヶ所以上のアクセスポイントが利用できるようになるので、是非とも使用可能にしておきたい。
冒頭で、外光の気配を感じられるところならまず大丈夫という言い方をした。そういう意味では地上を走る電車であれば、ほとんどの場合、困ることはない。東京であれば、山手線、京浜東北線、中央線、総武線などのJR緩行線車内はもちろん、新宿や池袋、渋谷、品川などの各ターミナル駅から郊外に向かう私鉄沿線などでも快適に利用できるようになっている。
一方、都市部の第二の動脈といえる地下鉄はどうだろう。残念ながら、現在、地下鉄駅では、WiMAXは使えない。都営地下鉄ではUQ Wi-Fiのサービスが提供されているため、あらかじめ登録しておけば、Wi-Fiを使ってインターネットを利用することはできる。それはそれで重宝するのだが、UQコミュニケーションズでは、地下鉄駅はもちろん、地下鉄駅と駅を結ぶトンネル内をWiMAXのサービスエリアにする計画で作業を進めている。まずは、東京の東京メトロと都営地下鉄で対応するべく、協議を進めているようだ。
地下鉄トンネル内をサービスエリアにするためには、さまざまな方法があるそうだが、現状でかなり有力な手法が見つかっている。実験を繰り返す中でわかったそうだが、WiMAXの電波は周波数の特性上、直進性が強く、さらにトンネル壁への反射をうまく利用することで、トンネルの入り口、つまり、ホームの末端からトンネル内に向けて電波を発射することで、トンネル内でおもしろいように安定した電界強度が得られるのだそうだ。だから、工事に際しても、トンネル内での作業を省略することができるケースが少なくないため、実際の工事の着手後は比較的短い期間で利用できるようになる。そして、実はすでに各方面との調整が完了しており、この秋には実際に着工が始まるということだ。
地下鉄に乗っている限り、ずっと使えるというインフラは、ある意味でWiMAXのキラーエリアとして特筆すべきものになりそうだ。東京に限っていえば、この環境は3G携帯電話でもWi-Fiでも実現できていなかった領域で、最初からあきらめるしかなかった。駅に着くのを待っては接続するというのを繰り返すのは、やはりめんどうだ。地下鉄車内で携帯電話でメールを書いて送ったことがあるなら、それは想像に難くないはずだ。
その領域に対応できるというのは、WiMAXの魅力を満喫できる大きな要素となる。来るべきWiMAX2の時代には、高速移動中のハンドオーバーも容易になり、現在は、UQ Wi-Fiで対応している300Km/h超で走行する新幹線内でも快適に使えるようになるだろう。そうなれば、最終的にWiMAXが使えないのは旅客機の飛行中で空中にいるときくらいになるということを意味するわけで、実に画期的なことだ。
ちなみに、国内空港内での使用については、WiMAXは早くから主要空港での対応を進めてきたが、先月には新潟空港、小松空港、広島空港、高松空港、松山空港、長崎空港、大分空港、熊本空港、宮崎空港、鹿児島空港、那覇空港の11空港で新たに利用可能になり、合計26の国内空港で使用できるようになった。
また、観光地である軽井沢も、駅を中心とした主要エリアが年度内に拡大を予定しているようで、それも非常に楽しみだ。
おそらくは、他社の新世代サービスも、こうした対応施策をキャッチアップしてくることになるだろうが、WiMAXがいちはやく着手して実現、サービスの使い勝手を高めてくれるであろうことは間違いない。
以上で見てきたように、WiMAXのエリア展開は、単純に「高速通信を全国エリアへ」というのにとどまらず、「これまで使いづらかった」「みんなあきらめかけていた」スポットがより快適になるのを目指し、続けられている。それは「地道」としか言いようがない作業だが、その地道な努力がユーザーひとりひとりの快適さに直結していくのは言うまでもないことだろう。
点を線で結び、その線で囲まれた領域を塗りつぶす。これは、多くの移動体通信事業者が必ず通る道筋であり、携帯電話事業者はそれをアナログ通信で始め、その後デジタル化、さらに3Gでほぼ完成の域に達した。だが、次の世代の通信では、彼らはこれからそれを始めようとしているわけで、サービスインから2年以上のアドバンテージがあるWiMAXは、一足先に、新世代の通信において、想像を絶するエリア展開を達成することになるだろう。
(Reported by 山田祥平)