モノ、ヒト、サービス、テクノロジー。WiMAXを取り巻くあらゆるトピックスを追いかける本連載「WiMAX Watcher」。昨年もさまざまな話題を紹介してきたが、今回、シーズン2として再スタートすることになった。
立春を迎え、暦の上では春。このシーズンでは、今春から多くの人がスタートするであろう新生活にもぴったりの、数々の新端末を中心に紹介していくことにしたい。
今回紹介するのは、モバイルWiMAXルーターの定番的存在のひとつ、NECアクセステクニカのAtermシリーズ新機種「AtermWM3600R」。ベストセラー機「AtermWM3500R」のコンセプトを継承し、さまざまな面から改良が加えられた新製品だ。
ルーターは使い始めた時点で黒子になって存在感を消してしまうのが理想だが、モバイルルーターはそうとは限らない。電波状況やバッテリー残量など、刻一刻と変わる状況の変化を何らかの方法でユーザーに伝えなければならないからだ。今回の新製品は、モバイルユーザーが、こんな機能があれば便利だろうと思っていた、多くのことが実現され、きわめて意欲的な仕上がりになっている。
今回は、その開発元であるNECアクセステクニカの小笠原弘道氏(開発本部)、永井寿彦氏(マーケティング本部販売推進部)、宗像卓実氏(同)らに話をきいてきた。
― 1年と少しでの刷新ですが、大幅な改良がなされているようですね。
永井もちろん外見だけではなく、中身も別物です。ちょうど昨年末に電波法設備規則のWiMAXに関する改定があり、UQ WiMAXの性能向上が図られましたが、それにいちはやく対応しています。1つは「WiMAXハイパワー」対応として、通信出力を3dB上げて当社の従来製品比の2倍の送信出力にしていますから、弱電界エリアに強くなりました。また、もう1つは、上り理論速度を15.4Mbpsにする変調方式「UL 64QAM」対応により、強電界での上りスループットが向上しました。
機能追加という点では公衆無線LANへの接続に対応したことがポイントですね。かつては、WiMAXはエリアが狭いというイメージもあったんですが、今では不便を感じることはほとんどなくなりました。とはいえ、地下鉄や新幹線や空港などでは公衆無線LANを利用したい場合もありますよね。そこで、WiMAXと公衆無線LANの接続切り替えができるようにしました。
WiMAXと公衆無線LANのどちらか一方の電波しか無い場合は当然自動的に判別して接続しますし、両方の電波がある環境でも起動や再接続時にどちらの回線に接続するかを優先接続設定で設定していくことで自動的に選択して接続してくれます。
― どのような公衆無線LANに対応しているのですか。
永井UQ Wi-Fi、Wi2 300、BBモバイルポイント、HOTSPOTなど、主な公衆無線LANサービス設定の無線アクセスポイント接続設定済みですので、サービスの認証情報を1回設定すれば簡単に接続できます。基本的にWebで認証するタイプのものなら無線アクセスポイント接続設定とユーザー認証情報をプロファイルとして1回設定・保存すれば、次からは自動接続ができるようになっていますので、Wi-Fi端末側は接続ごとの認証操作や設定が不要になり、接続がとても簡単になりますよ。
永井今回、機能や性能の強化はもちろんですが装置の小型化も大きな改善テーマでしたが、特にポケットやカバンの中でも邪魔にならない薄さにこだわって開発し、結果的に従来比78%の小型化を達成できました。特に、女性が持つことを意識して、携帯に近いイメージの仕上がりになっています。薄さという点では業界最薄なんですよ。
小笠原前機種の商品企画のときから、モバイルルーターとはどうあるべきかをずっと考えてきました。ずっとあたためてきたものが、今回実現できたと思っていますが、欲張りすぎたところもあるかもしれませんね(笑)。
利用時間を延ばしながらもコンパクトにしましたが、実際のところ、WiMAXハイパワーへの対応で消費電力が増えてしまうこともあり、かなり苦労しました。無線の設計技術によって、消費電力をふやさずにパワーをあげる方法を探り、新しいデバイスを使ったり、ソフトにも相当手を入れています。
― バッテリーでの連続通信時間も2時間延びて10時間になりましたね。
小笠原モバイルルーターはバッテリーだけで何時間使えるかが重要であり生命線でもあります。WM3500Rでの8時間の使用時間はきわめて好評でしたが十分とは言えません。今回はシステム全体を見直し、装置の小型化をしながらも連続動作時間を10時間まで延ばし、かつ今回追加したウェイティング機能と組み合わせることにより1回の充電でほぼ丸一日利用できるように大幅に省電力化を強化しています。
― ウェイティング最大25時間というのがありますが、これはどのような状態なんでしょうか。
小笠原ウェイティング状態とは、Wi-Fiだけが起きていてその他のシステムは寝ている状態で、PCなどのWi-Fi子機が接続されると、本体が眠りから覚めてWiMAX側の通信を再開する仕組みです。初期値では10分間Wi-Fi通信が途絶えると自動的にウェイティングに移行し、再びWi-Fi機器が接続されると数秒で復帰しますので、待たされる感じはほとんどないかと思います。
― 子機の様子をみながらうまくさぼる仕組みということなんですね。
小笠原はい、Wi-Fi子機を切ったときは自動的に眠りにつきバッテリー消費を抑えWi-Fi子機が接続されると自動的に起き上がって通信を再開しますので体感的には10時間という動作時間以上に長時間使うことができます。たとえば、朝起きて本体の電源を入れたら、あとは使いたいときだけタブレット等のWi-Fi子機の電源を入り切りさえすればルータ本体の電源ボタンに触ることなく夜寝るときにクレードルの充電台に置くまで使えるルーターを目指しました。
また、この製品にはウェイティングのほかに「電源完全オフ」、「休止状態」というものがあります。「休止状態」はWi-Fiも含めた全システムが眠っている状態で、そこから電源ボタン操作により15秒程度のクイック起動が可能です。「休止状態」なら待機時間は170時間ですから、使い方にもよりますが、1日2~3時間程度の利用なら充電は2~3日に1回だけで大丈夫です。長時間使わない場合や使いたい時のために電池を温存しておきたい場合は電源ボタン長押しで「完全電源オフ」にしておくなど、ライフスタイルや利用シーンに合わせて使い方ができるように工夫してあります。
― モバイルルーターにつなげる機器として、スマートフォンが増えてきているようですが、今回はスマートフォン連携を強調されているようですね。
宗像はい、スマートフォンを特に意識しているのは確かです。ご存じのように、予想以上にスマホが売れているんです。スマホユーザーは1年前までは30~40代のビジネス層が多かったのですが、今では若い人や女性のユーザーも増えています。そのような層にも安心して使ってもらえるようにしたいというのがありましたね。
宗像今回は、Wi-Fi設定用の「AtermらくらくQRスタート」と言う専用のアプリを用意し、簡単に接続設定ができるようにしました。先日、発表した据置き型のAtermから導入している仕組みなのですが、QRコードを使ってスマートフォンのWi-Fi接続設定を自動で行えるようになりました。製品に同梱されているQRコードをスマートフォンのアプリで読み取ると、自動的にスマートフォンのWi-Fi設定ができるようになっています。現在はAndroid版だけですが、追って3月にはiOS版をリリースする予定です。
― このコードをカメラで撮影してスマートフォンに保存しておけば、ミーティングなどでルーターを共有する際にも重宝しそうですね。個別の設定に応じてQRコードを生成できるようになっていればさらに便利かもしれません。使い始めるときの敷居の高さが一気に下がりますね。
宗像はい。ほかにも、従来から提供している「らくらく無線スタートEX」のAndroid版を12月にリリースしており、こちらもAndroid用のアプリで設定が簡単に行えるようになっています。
さらに、リモートでルーターの状態表示を確認したり、設定を変更できるアプリを用意しました。アクティブないしウェイティング状態なら、スマートフォンの専用アプリを使って、電波強度の確認や電池残量のチェック、WiMAXと公衆無線LANの優先接続設定の切り替え、休止状態への移行、本体の再起動など、多くのことができるようになっています。これもAndroid版とiOS版を提供します。
― 本体のLEDだけでは把握しにくいステータスも、スマホの大きなスクリーンなら一目瞭然ですね。
― 今回もクレードルがオプションとして用意されていますね。
小笠原はい。WM3500Rと同様に充電台を兼ねたクレードルを用意しています。クレードルにはイーサネットポートが付いていますので、ホームルーターのようにWi-Fi機能を持たないPCやテレビなどを接続することができるほか、クレードルのスイッチでWiMAX通信機能をオフにして通常のWi-Fiアクセスポイントとして使うことができます。
― クライアントをWM3600Rに接続したままで、外出先ではWiMAX、家では固定回線と、ユーザーの手間なくシームレスに切り替えられるのは便利ですね。
宗像手間といえば、ファームウェアのバージョンアップがありますが、電源をオンにしたときに、新しいファームウェアをチェックするようになっていて、今までの製品同様にパソコンがなくてもボタン操作で簡単にバージョンアップできるんです。
小笠原ユーザーに常にいいものを使ってほしいですから、機能アップや操作性向上、WiMAXの通信性能向上などで、3ヶ月~半年に1回くらいの更新を予定しています。今回は、公衆無線LANのプロファイル追加などもありますから、もう少し頻度が上がるかもしれません。
― モバイルルーターとしての使い勝手を大幅に向上させながら、宅内での利用も想定し、まさに24時間365日、あらゆる環境でWiMAX接続をサポートする画期的な製品ですね。今年の春から引っ越しなどを含めて新生活をスタートさせる方も多いと思いますが、WiMAXだけで、すべてのネットワーク接続をと欲張るなら、この製品は頼もしい存在になりそうです。ありがとうございました。
(Reported by 山田祥平)