富士通のLIFEBOOK SHシリーズは、13.3型液晶を搭載した薄型軽量のモバイルノートPCだ。従来からコモディティとして必要十分な装備を持つことで、ユーザーに高い評価を得ていたシリーズだが、2011年冬モデルで大きなステップアップを実現、まるで別シリーズであるかのような大変身を遂げた。
新LIFEBOOK SHシリーズのSH76/Eは、本体の大部分にマグネシウム合金を採用し、基板面積の見直しや、薄型軽量液晶の採用、SSDの標準搭載などによって、光学ドライブ搭載の13.3型ノートPCとしては、世界最薄の23.2mm(最厚部)を実現している。従来モデルの32.3mmに対して薄さは約2/3になると同時に、重量も1.66kgから1.34kgに軽量化されている。重量については、実に20%のダイエットであり、モバイルマルチベイに搭載される光学ドライブを取り外すことで1.22kgでの運用も可能という、まさにウルトラC級のイメージチェンジを果たしている。
本体仕様としては、第2世代インテル® Core™ i5-2520M プロセッサー(クロック周波数2.50GHz)、メインメモリ4GB、SSD 128GB、DVDスーパーマルチドライブ、13.3型ワイド液晶 1,366×768) 。バッテリー駆動時間は約13.7時間と、外に持ち出して使うPCとして申し分ない。Webカメラや指紋センサーを標準搭載している点もポイントが高い。まさにオールインワンなスペックを、これだけの薄型軽量に詰め込んでしまった。
当然、WiMAXも標準搭載だ。しかも、Wi-Fi/WiMAXのモジュールとして、最新のインテル® Centrino® Wireless-N+WiMAX 6150(開発コード名:Kelsey Peak)を搭載している。このモジュールは、Transmit Antenna Selection(TAS)機能をサポートすることで、WiMAX通信におけるアップロード時に、2つのアンテナから電波状態のいい方にダイナミックに切り替えながらデータを送信する。これは、上位のモジュールにはない機能であり、WiMAXをメインに使うユーザーにとっては垂涎の仕様だ。
インテル 技術本部 応用技術統括部 統括部長・本間康弘氏によれば、最新のインテル® Centrino® Wireless-N+WiMAX 6150では、前世代製品と比較してWiMAXの接続性 が著しく向上し、安定性が高まっているという。アップリンクの改善はもちろん、接続時の認証に要する時間も短くなり、たとえ、いったん切れたしまったとしても再接続までの時間が短くなっているという。また、都市部での移動時など、電波が不安定なところでもねばり強く接続を維持するようになっているなど、安定感は飛躍的に高まっているそうだ。
基地局とデバイスとのやりとりについても改善され、機能的な検証作業をインテルとUQコミュニケーションズの間で密に行うことで、WiMAXのインフラと新モジュールはコンビネーションとしても改善されている。
このように、WiMAXの使い勝手にも妥協がないLIFEBOOK SHシリーズ。今回は、その開発に関わった富士通の嶋崎麻雄氏(富士通パーソナルビジネス本部第一PC事業部モバイルノート技術部)、軽石毅氏(同PCデザイン技術部)、小西美智弘氏(同本部ソリューション開発統括部プラットフォーム開発G)、安本知典氏(同)らに話を聞いてきた。
― 別シリーズといってもいいほどのイメージチェンジですね。
嶋崎SHシリーズは情報機器の最新動向を積極的に取り込むというコンセプトで企画開発を進めてきたのですが、その点は従来からブレてはいません。しかも、この一台で家でも外でも不満を感じることなく使えることを目標に、いわゆる「モバイルに特化した二台目のパソコン」ではないということを重要視して企画開発を進めているシリーズです。
最近は、ご存じの通り、スマートフォンがブームですよね。より薄く、より軽くという要素が強く求められるようになってきています。それに伴って、お客さまの目線が、持ち歩くものは薄くて当たり前、軽くて当たり前というように変わってきているのです。だからベンダーとしても、こうした潜在ニーズに応えておく必要があります。妥協はいつでもできるけれど、どこまでふんばるかですね。作る側としても一番を目指したいと思っています。だから、まずは、かたちから入りました。これだけの薄さにすると。これ以上の厚みは許せないとね。
― それで世界最薄ですか。
軽石構造の設計はたいへんでした。すでに外形がきまっていて、その中に入れるものも決まっているわけですよ。でも、そこに工夫の余地があるんです。プリント基板の見直しなどはその流れで必須でした。
従来の考え方を、そのまま踏襲していては、絶対にこのサイズにはならないんです。だから、これにするためのスタートを改めて考える必要がりました。そのために何をしなければならないかを考えて、それを一個一個つぶしていくわけです。衝撃や圧迫を吸収するための構造を作るために、応力シミュレーションを繰り返すのですが、今まで当たり前であったことをくつがえすために、リブなどの構造物をどうすればより効果的なのかをシミュレーションしながら模索していきます。
今だから言えますが、薄さに関しては開発途中で他社が当初我々が目標としていた厚みの商品を出してしまったんですよ。そのために、最初からもういちど開発をやりなおしたという経緯もあります。
― 薄型軽量化にもかかわらず、従来のマルチベイ構造がそのまま踏襲されています。光学ドライブを取り外してダミーカバーをつけて軽量化したり、追加のバッテリーを入れたり、プロジェクタを内蔵したりと、実にフレキシブルに対応できるのは便利です。
嶋崎マルチベイに装着できるモバイルプロジェクターを用意しているというのも高い評価をいただいています。モバイルプロジェクターと本体の接続はマルチベイ内のSATAとバッテリーのコネクタをそのまま使っています。専用に別のコネクタ類を用意すると、それだけで重くなってしまいますからね。
軽石機能を削らないで重さをどう軽くするかを考えた結果です。
嶋崎安くする、軽くするために機能を削除するのは楽です。でも、せっかく世の中に製品を出す以上、なかなかできないことにチャレンジしたいと考えています。
― WiMAXは標準搭載となっていますね。
嶋崎WiMAX内蔵は必須でしたね。家でも外でも使えるPCというコンセプトがある以上、ネットワークに関してもどこに持って行っても同じ環境で使えるようにするのは当たり前です。パソコンを使って何をするかが問題で、モバイルをうたう以上はWiMAXを使わないというのはありえないと考えました。その便利さを多くの人に知ってほしいです。
小西実のところ、今のWiFi/WiMAXアンテナは値段勝負というところがあります。でも、今回は、液晶を薄型のものにしたことで、アンテナを従来よりも薄いところにいれなければならなくなりました。フレキを使うことなども考えたんですが、当社で採用するには板金と比べてコスト的に差が出すぎるんですね。フレキも板金もそれほど性能は変わらないので、今回は、コストを重視して板金を使っています。位置的には液晶部のトップに実装しています。できるだけ障害物を越えて電波を飛ばせる位置ですね。ここにはWebカメラがあるのですが、カメラは真ん中にないと困るので、残った空間をどう使うか、というのがあります。WiMAXのアンテナはWi-Fiと共用ですし、たとえばWANのアンテナと比べても小さいので、天板もここまで薄くできました。
― バッテリー駆動時間も十分な時間が確保されています。
嶋崎バッテリーを犠牲にしてただ薄く軽くすれば、見栄えは良いですが、そういう目先のことだけではすまされないということです。バッテリーでの駆動時間が短くていいのなら、まだまだ軽く薄くできます。でも、今回も、やはり十分な容量をもったバッテリーを搭載することを優先しました。
目指すところは、朝パソコンを持ち出したら、オフィスに戻ってくるまでずっと使えることです。いろんな使われ方をする中で、システムに負荷がかかるような作業をしても、バッテリーの心配をしなくて大丈夫なようにするために、妥協をするわけにはいきません。
― WiMAXモジュールにインテル® Centrino® Wireless-N+WiMAX 6150を搭載しています。アップロードの高速さが体感的にもわかりますね。先日、インテルにも取材に行ってきたのですが、移動中の使用でも切れにくくなり、切れたとしても再接続までの時間が短くなっているそうです。
安本インテル® Centrino® Wireless-N+WiMAX 6150は2011年の春モデルから使っています。インテルから最新のドライバがリリースされて、本領を発揮できる状況になりました。
WiMAXを屋外で状態で使う分には、今まででとあまり違いを感じないかもしれません。でも、屋内で使う場合はずいぶん違いを感じるはずです。弱電界でのパフォーマンス向上ですね。開発の過程ではUQコミュニケーションズさんと、その接続性についても、協力しながらいろいろ検証してきました。
実際に弱電界の環境でテストしてみても、明らかに電波を拾いやすくなっています。パソコンが発するノイズの影響をどのくらい受けるのかにもよるのですが、弱電界環境では従来比で3~4倍の感度が確保できていると思います。
基本的には電波ですから、ノイズなどが原因で数字が悪くなってしまいます。それを回避するために、内部的なノイズをどこまで落とすかと、どれだけ外側のノイズの影響を受けないようにするかも重要になります。
― ちょっと横にそれますが、WiMAXをうまく使うコツのようなものってあるんでしょうか。
小西やはり基地局とクライアントの位置関係が重要です。基地局に対してできるだけ安定した電波を受信できる位置にパソコンを置けばいいのですが、それがなかなか難しい。今回使用しているアンテナの特性としては、どちらかと言えば側面方向の方が良いので、液晶の両耳方向から電波のやってくる方が望ましいことになります。ただ、ほんの2-3センチ程度ズレただけでも、電波環境はガラリと変わってしまう場合もあります。
テーブルに座っていて、隣の人はうまく受信できているのに自分は入らないというようなこともあります。理想的なアンテナなら、どの方向から電波が来ても受信出来るのですが、実際にはどうしても指向性を持ってしまいます。だから、電波が弱い場所ではちょっと動かすと、とたんに入りがよくなったりもするんです。極端な話、部屋の壁でも電波は反射していて、反射波の方が結果的にいいこともあるんです。
PCに搭載されたアンテナというのは、見えないところにあるのでいつもアピールしずらいのですが、WiMAXを快適に使える最高のものができたという点では満足しています。これは計算の積み上げだけではできないことなんですよ。
安本ワイヤレスのモジュール自体はインテルが供給しているのですが、ネットワークの担当としては、ユーザーにネットワークの存在を自然に使ってほしいし、WiMAXならそれができると思っています。インテルの人ががんばっているなかで、ちゃんとそれを入れることも重要じゃないですか。そういう意味で、きちんと使えるものができたと自負しています。
― SHシリーズの正当な継承シリーズとして相当の自信作ですね。
嶋崎今回の製品は従来のSHシリーズの延長として考えていますが、進歩の度合いは大きいですね。大きくジャンプしたという実感があります。よくなったよね、といわれる以上のものができたと思います。それぞれの担当にこだわりがあるとは思いますが、自分の立場的には、ハードとソフトを含めた製品全体としての完成度に注目してほしいです。この製品であれば、従来、モバイルで不満を感じていたことの多くが解消されるはずで、その上で、従来からこだわっているベイの構造や通信機能など、何一つ省略していないんです。だから、今までのユーザーの方には是非買い換えてほしいし、新しいユーザーとして初めて使っていただいても、開発のこだわりが伝わるはずです。
軽石設計からものづくりまで日本でやっているということも強調しておきたいですね。ODMを使うと、設計、製造のバラバラ感がどうしても出てきます。それを吸収するためのマージンが必要になってしまいます。
でも、ここで設計して、島根で組み立てて、国内で製造しているパーツを使うようにすれば、押さえどころが実感としてわかるんです。だからアンバランスにならないわけですよ。出雲モデルとして、イチオシする自信があります。
― ありがとうございました。
(Reported by 山田祥平)
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