UQコミュニケーションズでは、家庭や一人暮らし向けに宅内でのWiMAX利用をアピールしている。ただ、そのような利用をするためには、モバイルルーターを据置機として転用するケースが多かったわけだが、ついに、用途にピッタリの製品が登場した。それがシンセイコーポレーションの「URoad-Home」だ。面倒な回線手続きや工事は不要で、配線も最小限。この新しいコンセプトの製品についてレポートしていきたい。
URoad-Homeは、家庭での利用が想定された据置ルーターで、そのコンパクトでスタイリッシュな筐体の中に、各種機器のインターネット接続に必要なすべてが凝縮されたオールインワンルーターだ。
これ一台で最大12台の機器をWiMAX経由でインターネットに接続でき、クレードルを底部につけて縦置きで使ったり、側面につけて壁掛けにしたりと、設置の自由度も高い。家庭のみならず、小さなオフィスや、短期工事現場、イベント会場など、あらゆるシーンで便利に活用できそうだ。また、LAN側の接続のための有線LANポートが2つ装備されているので、Wi-Fi対応していない機器があっても問題ない。
しかも、仕様を見ると、WiMAXハイパワー、ハイパワーWi-Fiという気になるキーワードがズラリと並んでいる。
そこで、今回は、この製品の企画開発に関わったシンセイコーポレーションの大西知徳氏(東京事務所長)と、UQコミュニケーションズの望月崇史氏(企画部門事業開発部プロダクト推進グループ)に話を聞いてきた。
― シンセイコーポレーションは、UQ WiMAXに数多くの端末製品を提供されていますね。
大西姫路にある本社は主に電子部品事業が中心ですが、通信関連は東京と韓国に拠点を持っており、韓国の優れたベンチャーを発掘し、協業による製品作りを推進しています。WiMAX関連では、LGエレクトロニクス出身の人たちが起業したMODACOM社との関係が深く、この製品も彼らとのコラボレーションによるものです。UQコミュニケーションズには、WiMAX機器として、USBドングルやExpressカードモデムの他、URoadシリーズのモバイルルーターとして、5000、7000、9000、8000を提供してきました。今回のURoad-Homeは7つ目の製品になります。
― URoadシリーズのモバイルルーターは定評がありますが、今回は、製品の性格が大きく違います。
大西ご存じのように、家庭でのインターネット接続は、どうしてもメタルや光の回線にしばられてきました。もちろん、別途ルーターも必要になります。ですから、家庭にインターネット回線を敷こうとすると、技術や機器にくわしい人には簡単でも、そうでない人にはたいへんでした。
WiMAXはワイヤレスがセールスポイントですから、とにかく配線を極限まで省略するにはどうしたらいいのかを考えました。そうして出てきた結論が、モバイルルーターの延長線上にあったというわけです。実は、これまでのURoadシリーズのモバイルルーターは、ACアダプタをつなぎっぱなしで家庭の据置ルーターとして使われるケースが少なくなかったんですよ。
望月シンセイコーポレーションは、モバイルルーターを得意としてきましたが、家庭での据置利用を考えて、有線LANをサポートした機器もキャッチアップしたいという思いがありました。
家庭用のテレビが、TwitterやYouTube、フェイスブックをサポートする時代です。そしてテレビのインターネット接続のデフォルトは有線LANですね。業界的には、半歩先をにらめば有線LAN対応は必須でしょう。LANを高速にというニーズも強いです。
大西有線ポートをつけることで、筐体のサイズも大きくなります。この製品は2つのポートを装備しています。家庭での利用に有線LANなど必要がないという議論もあるようですが、インターネットサービスプロバイダなどに聞き取り調査をした結果、やはりあったほうがよい、それも2個は必要だ、というのがわかってきました。秋に開催されたCEATECの展示でデビューさせたのですが、ごらんになったお客様からは、かなりいい反応がかえってきました。特に、既存のWiMAXユーザーにアピールできていたようです。
大西特にモバイルを想定しているわけではありませんから、サイズ面を究極まで追求する制限はありません。むしろ筐体を大きくすることで性能を大きく上げることを目指しました。
― 筐体が大きくなったことがワイヤレスの性能に寄与しているということですね。
大西筐体内部に空間の余裕があるので、WiMAXもWi-Fiもハイパワー対応させることができたのです。
WiMAXに関しては、今年の4月に総務省令が改訂され、技術基準適合証明において、送信出力、アンテナ利得、最終出力の規定が変わり、最終出力は従来の25dBmから28dBmまで高めることが認可されました。
望月今後も、数機種が対応を計画中ですが、今回のURoad-Homeは、新規定に準拠した最初の製品となります。送信出力とアンテナ利得の向上によって、弱電界での利用がさらに改善され、結果として快適に使える場所がさらに広がります。
総務省によるワイヤレスブロードバンド研究会の成果でもあるのですが、高度化の位置づけとしてワイヤレスブロードバンドをより広帯域に、そして、より速くするための方法を提案してきました。たとえば、スマートグリッドでWiMAXを活用する際など、家屋の奥まったところにある機器がつながりにくいのでは困るということで、アンテナゲインと送信出力の向上が求められていたのですが、それが実現した形です。
WiMAXのように、比較的新しく免許が与えられた周波数やシステムにおいて、その普及を加速させるために、国もいっしょに動いてくれたということになります。やはり、今後はますますデータトラフィックが増えていきますから、利便性を高めていくためには、こうしたことに取り組むことは必須だということです。
大西Wi-Fiに関しても高出力を実現しています。モバイルルーターは、コンパクトであることが最優先ですから、その制限の中で、Wi-Fiの出力を上げ過ぎてしまうと、WiMAXと干渉してしまい、かえって速度が得られない結果を生みかねません。でも、筐体内の空間をある程度確保できれば、その干渉を抑止することができます。それによって、従来機と比べて出力が上がり、クライアントが離れても安定して使えるようになっています。実際のフィールドテストでも、二階建ての一戸建て家屋の隅々まで電波が届いています。
― 据置WiMAXの新しいトレンドが生まれそうですね。電源端子がMicroUSBなのも汎用性が高そうです。
大西実は、この製品、3月の震災のときに企画の真っ最中だったのです。もし、PCのUSB端子に接続して使うことができれば、きっと便利だろうと考えました。
望月震災のときには、復興支援のためにUQとして回線を用意し、ルーターなどの機器を準備しましたし、社員も手持ちの端末などを寄贈し、合計約1000台もの端末を使っていただけるよう対応しました。また、東北のボランティア施設や避難所などに社員が出向き、インテル様と協力しながらさまざまな活動を行ってきたのですが、そこでわかったのは、やはり、電源さえ入れればすぐに使えるというWiMAXの強みでした。何の設定もいらないということが、いかに重要かということです。だから、本当はPCから電源を供給できるならと思っていたのです。
大西電源としてはDC5V 2Aあればいいのですが、PCによっては、供給電力をオーバーすることで、PC側にダメージを与えてしまうケースがまれにあることが判明し、あえてできなくしました。一般的なUSB端子は500mAまでの電源供給が可能で、それを超えて要求されても供給しないだけで本体は大丈夫なはずなのですが念のためということです。
― 今後は、USB3.0なども普及しますから、PCからの電源供給でも安定して運用できる可能性もありますね。その際はぜひ、ファームウェアのアップデートなどで対応してください。汎用的な端子はやはり便利です。そのほかに、機器の設計段階でのエピソードがあれば教えてください。
大西今までより基板の設計はたいへんでした。ハイパワー化によって、電波の干渉がどのくらい増えるのかが理論値でしかわからないからです。干渉と感度の損益分岐点のようなものがあって、それを探っていくのですが、作ってから効果を確かめるのもたいへんでしたね。電波暗室のようなところで実験するのと、実際のフィールドでやってみるのとでは、結果も違ってきます。そこのすりあわせがたいへんでした。
でも、最新の仕様として、最初の上り速度高速化への対応も実現できましたから、さまざまなシーンでメリットを感じていただけるはずです。
望月UQでは、より快適にWiMAXをお使いいただくために、新たにアップリンクの変調方式として64QAMの導入の準備をすすめています。これにより、電波環境の良い場所で更に高速な通信がご利用になれます。
WiMAXハイパワーは、弱電界で威力を発揮しますが、強電界エリアでは大きな恩恵は得られません。でも、強電界では上り速度高速化対応が活きてきます。強弱電界エリアにおける新規格対応はURoad-Homeの大きな強みとなるに違いありません。
― 家庭でのWiMAX利用が、ますます広がっていきそうです。今日はどうもありがとうございました。
(Reported by 山田祥平)