LaVie Xが発表された。まもなく出荷が開始されるという。LaVie Zに始まり、LaVie Yに続くNECパーソナルコンピュータの、イノベーションを象徴する製品だ。今まさに登場するLaVie Xは、何を目指したのか。
LaVie Xは、15.6型スクリーンのUltrabookだ。それだけきけば、ありきたりだが、実機を見て驚く。なんといってもその薄さが際立つ。12.8mmというのはこのサイズのスクリーンを持つPCとして世界最薄なのだそうだ。
15.6型というスクリーンサイズは、日本の多くのノートPCユーザーが慣れ親しんできたサイズだ。何台ものPCを買い替えてきても、必ず、このサイズというユーザーも少なくないはずだ。PCの世帯普及率がここまできていることを考えると、どこの家庭にも必ず1台くらいはこのサイズのスクリーンを持つノートPCがあるといっても過言ではない。
NECパーソナルコンピュータの製品でいえば、LaVie LやLaVie Sなどがこのサイズのスクリーンを持っている。コンシューマー的には自宅で使うノートPCといえば、このサイズというイメージが強いのではないだろうか。
LaVie Xは、このサイズ感を維持したまま、本体を徹底して薄型化することに取り組んだ。12.8mmは、LaVie Lの33.2mmの1/3近い薄さだ。しかも、875gという異次元の軽さをかなえたLaVie Zの14.9mmよりも薄いのだ。身近な例でいえば、12.8mmというのは200ページくらいの新書や文庫本の厚みだ。このくらい薄いと、使わないときは本棚に立てて収納するといった使い方も現実味を帯びてくる。
薄型化に際して、NECパーソナルコンピュータは、LaVie Xに、さまざまな技術を惜しげもなく投入した。マザーボードの片面だけにコンポーネントを実装し、厚みが増すことを回避したり、フットプリントのサイズをうまく利用し、標準的に使われている部品の中でも、ある程度の厚みがあるバッテリーやファン、マザーボードなどを平面上に実装するといった工夫がなされている。
筐体内部を見ると、冷却ファンが2個搭載されていることに気がつく。プロセッサからのヒートパイプが左右に伸び、個々のファンにつながっている。これによって、熱が2分割され、熱の移動量が半分になることからヒートパイプ自体の薄型化にも貢献している。
しかも、ファンが2個、同じ速度で回った場合、共振を起こし、結果としてうるさく感じてしまうそうだが、LaVie Xでは、システムで制御することによって、2つのファンの回転数をずらし、静音化を実現するという工夫もある。
NECパーソナルコンピュータでは、LaVie Xを「フリーロケーションUltrabook」と位置づけている。Ultrabookは、13型前後のスクリーンが一般的で、モビリティを強く意識した製品が多いが、過去に日常的にオールインワンノートPCを使ってきたユーザーにしてみれば、やはり画面が狭苦しく感じるかもしれない。モバイルPCなのだから仕方がないと、あきらめるしかないのだろうか。NECパーソナルコンピュータはそうじゃないと考えた。Ultrabookは、毎日外に持ち出し、さまざまなシーンで使われることが想定されてはいるが、モバイルにこだわりすぎるのではなく、今までのノートPCの利用スタイルを踏襲しつつ、新しい当たり前を提案しようとしたのだ。
家庭で使われているノートPCのうち、その多くが一度も外に持ち出されたことがないままにライフサイクルを終えてしまうという。モバイル全盛の今、PCのそんな使われ方は、今後も続くだろう。いや、むしろ、その傾向が強くなる可能性もある。一人が複数台のデバイスを所有し、適材適所で使うことが当たり前になっていく中で、だからこそ、大きなスクリーンを持ったオールインワンノートPCには、これまでとは別のことが求められるようになりつつある。
LaVie Xの外観はきわめて綺麗な印象がある。ポップな感じではなく、どちらかといえば重厚なイメージだ。高級感もある。基本的にはシルバーなのだが、角度によって青白く見えることもあるオーシャンシルバーの筐体はヘアライン処理が施され高級感を醸し出している。この処理が天板のみならず、底面にも施されているのは贅沢な印象を受ける。しかも吸気のためのスリットもなく、外観は限りなくシンプルだ。そして、薄いのに薄っぺらな印象は受けない。
ぼくは仕事で外出する際に日常的に持ち運ぶカバンに、角2型封筒が収納できることを最低条件としている。角2というのは、いわゆるA4の書類を入れるための封筒で、発表会資料などA4書類が、ほぼ間違いなくこの封筒といっしょに手渡されるからだ。
LaVie Xは、この封筒に入らない。今使っているカバンは角2封筒がギリギリ収納できるサイズだが、試してみたら、いつものカバンには入らなかった。
だから、LaVie Xが手元にあっても日常的に毎日持ち運ぼうとは思わないだろう。モバイル用途ではちょっともてあますサイズではある。だが、宿泊を伴う出張となると話は違ってくる。出張先のホテルで、日常の作業と同様にWebなどを参照しながらある程度の量の原稿を書かなければならなかったり、長時間のミーティングなどで、会議出席者と画面を共有しながらああでもない、こうでもないとディスカッションするようなときには、モバイルノートPCよりも、一回り大きなスクリーンが欲しい場合も多い。
出張時には荷物も増えるので、カバンもある程度大きくなる。だから、サイズの大きなLaVie Xも問題なく収納できる。
モバイルには点と線があるということは、いつも言っていることだが、LaVie Xは、点のモバイルを徹底追求した製品だといえる。このサイズのPCを電車の中で立ったまま使うということは考えにくい。たとえ座席に座れたとしても両脇の乗客に迷惑だろう。飛行機のエコノミーシートで使うのもつらい。これら線のモバイル、つまり移動中の領域は、別のPCを使うと割り切るべきだ。
その一方で、点のモバイルはどうか。線としての移動を完了し、腰を落ち着けて使うという点ではどうだろう。家庭で使われているノートPCが一度も外に持ち出されたことがないと書いたが、LaVie Xの薄さを体感すれば、たまには持ち出してもいいんじゃないかと考えるユーザーが増えていきそうだ。たとえ、家から持ち出さないにしても、家の中で、リビングルームから寝室、ダイニングと、そのときパソコンを使いたい場所に移動する場合の気軽さは、これまでになかったものだといえる。
LaVie Xは、究極のポータブルパソコンを目指した製品だ。ある意味でラップトップパソコンの復権ということもできる。かつてのラップトップパソコンは、その重量から膝の上に載せて使うには拷問に近い感覚があったが、LaVie Xは1.59kgしかない。だから、そんなスタイルで使っても負担はない。この重量も、15.6型スクリーンを持つパソコンでは国内最軽量となるという。
モバイルパソコンが、さまざまな「線」の、あくまでも、ついでに「点」をフォローしてきたのに対して、ポータブルパソコンは世の中のあらゆる「点」で、快適な作業環境を提供する。プロジェクターなどの大仰なシカケのない現場でのビジネスプレゼンはもちろん、家族ででかけた旅行の写真を、近所のファミリーレストランでみんなに見せるようなカジュアル用途でも、このサイズがあれば、ある種の「迫力」を見せられる。これは、スマホでは無理だし、10型程度のタブレットでも似たようなものだ。13型前後のモバイルノートPCでも難しい。さすがに、フルHDのIPS液晶がこのサイズで写真を表示すれば美しく迫力がある。
薄型軽量化によるUltrabookによって、今、新たにポータブルという領域を見つめ直したLaVie X。その未知数としてのXの名前に秘められた可能性は、これからのパーソナルコンピューティングに、これまでとは違った境地を提案するにちがいない。
(山田 祥平)