安心・簡単・快適を軸足に製品を世に送り出してきたNEC。それがちょっと物足りないと感じるパワーユーザー層が存在したのも現実だ。だが、今のNECは、そこにイノベーションへのチャレンジを加味しようとしている。世界最軽量のLaVie Zのような、とんがった製品は、その延長線にあるといえる。今回は、今、最もとんがったノートPCを最新のWindows 8で使ってみた。
LaVie Zの軽さ875グラムというのは異次元の軽さだ。
しかも、1600×900ドットの13.3型液晶を持ちながらそのフットプリントはA4用紙とほぼ同じだ。この軽さがどういう感じかというと、たとえば、10型前後のタブレットが600グラム前後だとして、情報の消費だけならそれだけでもいいが、情報を生産しようとするとキーボードが必要だといって、外付けBluetoothキーボードなどをいっしょに持ち歩くとしよう。たいていの場合、このキーボードが300グラムを超える。あわせれば1キロ弱になってしまうのだ。そしてそれはLaVie Z一台よりも重い。
ぼくはLaVie Zを使うようになって、外出時のカバンを変えた。会議や記者会見などで配布されるA4の資料が入らなければならないというカバンに求める要件は以前と同じだが、ちょっとばかりシンプルで華奢なものを調達してきた。LaVie Zの面積はA4用紙とほぼ同じなので、本体が収納できるカバンなら資料も必ず入る。
このカバンにLaVie Zと7型タブレットを入れ、スマホの充電セットや名刺、折りたたみ傘、モバイルルータなどを加えても1.5Kgちょっと。毎日の外出は驚異的にラクになった。なにしろ、それまで使っていたしっかりしたデニムのカバンを空で持ち歩いているより、まだ軽いのだ。
試しに量ってみた。手元のLaVie Zはスペックよりもまだ軽く850グラムだった。傍らにあった、いつもプリントアウトに使っているA4普通紙(64g/平方メートル)をLaVie Zと同じ厚みになるように束にしてみて数えると180枚になり、その重量を量ってみると692グラムだった。ほぼ同じ容積の紙を持ち歩いているよりも、ちょっと重いだけというのはすごいことだと思う。
軽さばかりが強調されるが、実際の使い勝手でもストレスはほとんど感じない。筐体が薄いので、キーボードのストロークが浅いことによる打鍵感が心配だったが、それもすぐに慣れた。13.3型という比較的大サイズのスクリーンが功を奏してキーのピッチも十分確保されている。欲をいえば、IMEのオンオフを切り替えるために変換キーがもうちょっと大きかったらよかったなといったところだ。
ポインティングデバイスに物理的な左右ボタンがないことは、最初とまどった。でも、面積が大きいので、タップホールド&ドラッグで何とかなりそうだ。
Windows 8はタッチ操作が大きくクローズアップされているので、タッチスクリーンを持たないLaVie Zは真っ先に選択肢から外してしまうという人がいれば、もったいない考え方だ。Windows 8はタッチがすべてではない。実際、ノートパソコンとして従来のような使い方をする場合には、Windowsストアアプリにはまだそれほど依存しないのだ。
液晶を開けばスリープから復帰してログオンスクリーン、パスワードをキーボード入力すれば、クラシックデスクトップアプリを使っていた直前の状態が復帰する。作業が終わったら液晶を閉じる。それを繰り返している限り、Windows 8のスタートスクリーンを見ることなど、ほとんどないことがわかる。もちろん、それは、今の時点で、まだWindowsストアアプリが充実していないということもあるのだが、タッチばかりにこだわっていると、モバイルノートパソコンの本質を見失ってしまうようにも思う。実際、タブレットを持ち歩いて仕事にバリバリ使っているユーザーは、必ずといっていいほど外付けキーボードを併用していることを見ればそれがわかる。
もっとも、LaVie Zが唯一無二のパソコンとして、机上の作業から移動中の電車まで、すべてのシーンをカバーできるかといえば答えはノーだ。適材適所というか、机上ではパワフルで、さらに大きなスクリーンを持つデスクトップパソコンを使いたいし、電車の中で立ったまま使うにはスマホが便利だ。運良く座席に座れればタブレットがいい。
こうして、モバイルシーンの「点と線」を考えたときに、「線」はスマホやタブレットがカバーし、「点」をLaVie Zがカバーする。
そもそも、Windows 8は、マルチデバイス時代を見据えたOSだ。個人が複数台のパソコンやスマートデバイスを所有し、場面に応じて使い分けることを想定している。Windows 8デバイス間であれば、そのデータや設定の同期も簡単だ。つまるところ、パソコンは足し算ではなく掛け算なのだ。100の力を持ったパソコンと、50の力を持ったパソコンを持っていれば、その力量は150ではなく、5000になる。
Windows 8は、これまでのWindowsで使われてきたローカルアカウントではなく、Microsoftアカウントでログインするように設定できる。Microsoftアカウントは、Hotmailに代表されるWindows Liveサービスで使われてきたアカウントで、手持ちのWindows 8パソコンが複数台あったとしても、すべて同じMicrosoftアカウントでログインすることで、設定などがデバイス間で同期されるようになる。たとえば、2台のパソコンを目の前にして、そのうちの一台で壁紙を変更したとしよう。すると、ものの数秒で、自動的にもう一台のパソコンの壁紙が同じものに変わる。
また、ぼくは、タスクバーをスクリーン上部に置いているのだが、それをどれか一台で設定すれば、他のパソコンも全部同じようにスクリーン上部にタスクバーが置かれるようになる。これは実にラクチンだ。ブラウザのお気に入りだって、一台のパソコンに登録すれば、他のパソコンでも同じものが使える。
ちなみに、Windows 8で新しく使えるようになったWindowsストアアプリは、Windowsストア経由でしか入手できないが、Microsoftアカウントがなければストアを利用することはできない。ストアで入手したアプリは5台までのパソコンに、また、ひとつのMicrosoftアカウントは、10台までのパソコンに設定することができる。この台数は、これから先のことを考えると、ちょっと少ないくらいじゃないかとも思う。
肝心のデータはどうか。こちらは、SkyDriveを活用すると便利だ。SkyDriveは、Microsoftが提供するストレージサービスで、まさに文字通り、クラウドの上の空に置かれたデータドライブだ。Microsoftアカウントがあれば、7GBを無料で利用できるほか、有償で容量を追加できる。個人的には100GBを年間4000円で追加している。
このドライブを参照するにはいくつかの方法がある。ブラウザを使ってウェブのインターフェースを使う方法。Windowsストアアプリを使って参照する方法。そして、Microsoftが無償配布している専用のアプリケーションを入手し、パソコンの任意のフォルダとデータを同期させる方法などだ。また、スマートフォンやタブレット用にも無償のアプリが配布されているので、とにかくすべての自分のデータをSkyDriveに置くようにすれば、すべてのデバイスから参照できるようになる。でかけた先であれがないとか、これを持ってくればよかったとか、そういうことがなくなるのだ。
既定では個人用フォルダ内のSkyDriveというフォルダが、クラウド上のSkyDrive内と同一になるように保たれる。
たとえば、LaVie Zをインターネットに接続した状態で、カフェなどでお茶を飲みながら作業をしていたとしよう。そして、作業途中でファイルを保存して自宅に戻る。自宅のパソコンでもSkyDrive以下のフォルダは同一なので、さっきまで作業していたのと同じファイルを開くと、その内容はすでに同期され、すぐに作業を再開することができる。
たとえ、同期の間もなくLaVie Zを閉じてしまったとしても、自宅に戻って充電のためにアダプタを接続するついでに、スリープから復帰させて放置しておけば、ほどなく同期は完了する。ぼくは、インタビューや打ち合わせでは、LaVie Zを使ってメモをとり、自宅に戻ったらデスクトップパソコンで、そのメモを参照しながら仕事をするといった使い方をしている。取材や打ち合わせのときに使ったパソコン内のみにメモのデータが存在する時間がほとんどないというのは安心だ。インタビューしている間も、データは同期が行われているからだ。すなわち、クラウドにひとつと、パソコンの台数分のバックアップがあるのと同じだ。
SkyDriveのほかにもビジネスやプライベートで十二分に使えるクラウドサービスがある現在、もはやHDD容量でノートPCを選ぶ必要はなくなっている。ここにきて、ようやく純粋に自分の行動スタイルに合わせてノートPCを選べるようになったのだ。
Windows 8が同期の対象としてとつながるのは、Microsoftのサービスだけではない。Googleのアカウントにも紐付けることができる。だから、多くのユーザーが、今使っているメールや予定表の内容を複数台のパソコンやスマートフォンなどで同期でき、どれを見ても、どれで入れても同じという結果が得られる。まさに、クラウドあってのWindows 8だ。
そして、こういう時代だからこそ、モバイルに特化し、軽量を追求したLaVie Zのような製品が生きてくる。タッチ対応で重量にして100g、厚みにして数ミリ。それなら軽さ薄さを優先するというのはNECならではの大人の見識だ。そして、そこに価値を認めるユーザーは必ず存在する。
もちろん、次世代はタッチが求められるだろう。でも、タッチが欲しくなるアプリが揃うには、まだ少し時間がかかりそうでもある。だから、それまでは、LaVie Zを毎日持ち歩き、頻繁に使っていよう。そろそろLaVie Zもくたびれたかなと思うころには、アプリも揃い、Zの新型も出ているかもしれない。パソコン購入のタイミングというのは、そういうものじゃないかと思う。
(山田 祥平)