ついにWindows 8が一般向けにリリースされた。もちろん、NECパーソナルコンピュータのパソコン新製品も、そのすべてが完全対応だ。さまざまなバリエーションのモデルで、この新しいオペレーティングシステムを堪能できる。今回は、Windows 95以来、17年ぶりともいわれるインターフェース革命にあたり、パーソナルコンピューティングのスタイルにNECがどんな提案をしようとしているのかを見ていくことにしよう。
Windows 8の世界を提供するにあたり、NECが考えたのは、まず、「ワクワクできるパソコンをすべての人に」というイメージだった。これまでのNECは、安心・簡単・快適を軸足に各製品を作ってきたわけだが、そこにイノベーションへのチャレンジを加味しようとしている。古い話で恐縮だが、Windows 95がこの世に出てきたとき、これが本当にあのパソコンの世界なのかと誰もがワクワクし、その結果、爆発的なパソコンブームにつながっていったのだが、その感覚を、もう一度多くの人々に体験してほしいとNECは考えている。
Windwos 8の新しさは、なんといっても、まるでスマートフォンのように、アプリがタイル状に並んだ美しいスタートスクリーンと、タッチに対応した操作方法だ。多くの人々が、スマートフォンやiPadなどで慣れ親しんだタッチ操作に大きな期待を寄せている。
NECも、そのことをしっかりと理解し、驚きと感動をスローガンに、さまざまなバリエーションによるタッチ操作を提案しようとしている。
この秋冬モデル新製品の発表会は、Windows 8発売の直前、その前週に都内のホテルで開催されたが、そこでNECは集まったプレスに対して実に大胆なメッセージを発信した。
「デスクトップにタッチパネルはありません」
これは、目からウロコのようなメッセージだ。世の中のパソコン用モニタディスプレイは、ノートパソコンの液晶にしろ、一体型デスクトップにしろ、たとえそれがタッチ対応でなくても、多かれ少なかれ、表面に指の跡が残っている。それは、人々が画面上の何かを指し示すために指でさわりたいと思っているからだとWindowsの開発元であるMicrosoftは考えた。だから、Windows 8はタッチに対して真剣に取り組んだのだ。それはそれで正しい。だが、今回の新製品VALUESTAR Nのように、20型を超えるようなサイズのモニタディスプレイに向かっているとき、その利用時の距離を考えると、実は指がスクリーンに届かないというのも事実なのだ。
今、この原稿を書いているパソコンも、20型超サイズのモニタディスプレイを接続しているが、メジャーで測ってみたら瞳からスクリーンまでの距離は75cmだった。これだけの距離があるととても指は届かない。たとえ届いたとしてもやっかいだ。
だからこそ、NECは、何が何でもスクリーンをさわるということではなく、もっとリーズナブルな方法があるのではないかを模索し、その距離感を考えた結果、ひとつの結論に達した。
それは、まるでスクリーンにタッチしているかのような感覚で使える機能をポインティングデバイスに付加しようということだったのだ。
実は、Microsoft自身も、Windows 8は、従来のマウスやキーボードでも快適に使えるように設計したと言っている。NECは、そこをもう一歩進めようとしたわけだ。
NECが注目したのは、デスクトップパソコンは、多くの場合リモコンで使われているという事実だった。これは、SmartVisionによるテレビ機能で、絶大な支持を得ているNECならではの発想だといえるだろう。
だったら、リモコンでタッチができるようにしようと、NECはリモコンの裏側にタッチパッド(右下写真の赤枠内)を装備した。これがタッチパッドリモコンだ。NECパソコンではVALUESTAR WとNに添付されている。
リモコンを裏返すと、タッチパッドが現れる。きわめてシンプルな作りだ。まるでノートパソコンのタッチパッドのような四角いパッドがあり、その両脇にマウスでいうところの左ボタンと右ボタンが用意されている。また、左ボタンの上にはスタートボタンがあって、いつでもスタートスクリーンを呼び出すことができる。
このパッドを2本の指で左にスライドすると、スクリーンでは左スクロールとなる。同様に右にスライドすると右スクロールだ。スクロールバーのスクロールと同じ方向になっている点がミソだ。つまり、一般的なスマホとは逆方向だ。実際にスクリーンにタッチしない場合は、この方向の方が直感的だという判断なのだろう。
一方、パッドの右外側から指をスライドインさせると、Windows 8の基本操作のひとつであるチャーム表示ができる。チャームは、Windows 8用アプリケーションで、各種機能を呼び出すためのものだ。
また、左外側から指をスライドインさせたときには、順に、タスクが切り替わる。ちょうど本のページをめくるような感覚だ。
この他、三本指、四本指、五本指のスライド操作にも各種の機能が割り当てられ、スムーズにスクリーンの操作をすることができる。
このタッチパッドリモコンによって、本体から離れて操作しているときにも、タッチの感覚でパソコンを使える。これがNECの一つ目の提案だ。
NECは、マウスについてもタッチライクな操作感を提案する。これが二つ目の提案だ。こちらは、LaVie LやS、とことんサポートPC、さらには、タッチパッドリモコンを持つVALUESTAR NやWなどに添付されているものだが、左右ボタンの間にあるホイールのチルトに、スライドインの機能を割り当てたのだ。
ホイールを左に倒すと、右からスライドインしたときと同じようにチャームが表示される。そして、ホイールを右に倒すとアプリの一覧表示となる。
マウスのタッチ対応をどのように定義すればいいのかを考えると、それがとても難しいことだというのが実感できる。サードパーティ製品の中には、ホイールをタッチセンサーに置き換えるなど、さまざまな試みが模索されている。
実は、Windows 8の標準的なインターフェースでは、マウスホイールの縦回転による上下スクロールと左右スクロールが混在している。たとえば、スタートスクリーンは横長で左右スクロールしかできないのだが、そのときにホイールを縦回転させると、画面では左右スクロールが起こる。
かと思えば、メールアプリなどは横は固定で上下スクロールしかできない。このときは、ホイールの縦回転によって上下スクロールとなる。
ホイールのチルトにスクロールを割り当てたとき、左右スクロールしかできない場面では、ホイールの回転とチルトで同じ現象が起こることになる。それならば、チルトにはスライドインの機能を割り当てようというのがNECの考えであり、これはこれでひとつの見識であるといえるだろう。
Windows 8のタッチ対応はその提案がなされたばかりで、まだ暗中模索の状態が続いているといってもいい。まして、従来のマウスやキーボードをどのように位置づけるのかはやっかいだ。NECでは、LaVie Lのような定番的ベストセラーノートパソコンにタッチスクリーンを装備することで、タッチの裾野を拡げるとともに、デスクトップパソコンにもタッチ操作を取り込み、これからの新しいパーソナルコンピューティングのスタイルを提案しようとしている。タッチ機能が一般的なパソコンのプレミアム機能であった時代はもう終わりだ。いよいよ新しい時代がやってきたということだ。
(山田 祥平)