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野球場の冬は経営の冬? エスコンフィールドはどう乗り越えたか

エスコンフィールド。3塁側・ネオバンクゲート

プロ野球・北海道日本ハムファイターズが本拠地を置く野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」構内の飲食店・商業施設は、公式戦の開催日以外も営業している。

周囲の施設も含めた「北海道ボールパークFビレッジ」(以下、ボールパーク)全体でみると、非試合日にも平日4,500人、休日1万人ほどを集客しており、2024年は年間で419万人、うち半数(211万人)が野球観戦以外の目的でFビレッジを訪れている。「野球観戦がなくても楽しめる街」として、すっかり定着したと言えるだろう。

「年間の降雪4.4m、平均気温-3.2℃」の場所に1日3000人集客

しかし、ここは北海道・北広島市だ。冬場は「年間平均降雪量:約4.4m 冬場の平均気温:-3.2℃」(北広島市の平均値)と雪・寒さともに厳しく、さらにボールパークは最寄駅(JR千歳線 北広島駅)からは約2kmも距離がある……そんな冬場でも、1日約3,000人以上(ちょっとした大型スーパー並み)を動員しているというから驚きだ。

ボールパークへ向かう道路も積雪・凍結している

一般的に、冬場の野球場はとにかく寒く、集客イベントの開催そのものが難しい。ましてや自然条件が厳しい北海道では、電車の運休などで周辺の交通が途絶し、到達できない日もある。野球場にとっての冬は、物理的にも集客・経営的にも「冬」であることは間違いない。

それでもなぜ、冬場のエスコンフィールドに人々は集まっているのか、施設の運営を担う「ファイターズ スポーツ&エンターテイメント」(以下、FSE社)は、ボールパークの最大の難点「経営の冬」を、どう越えているのか? まずは、-5℃まで冷え込んだボールパークに足を運び、実際の様子を見てみよう。

-5℃の野球場、「3000人集客」のカギは?

エスコンフィールド周辺に配置された池や丘は、冬場には「F VILLAGE Snow Park」に変わる。「スキー体験エリア」「そり・雪遊びエリア」の2エリアに分かれ、さらにスケート場もある。大人から子供まで、冬の遊びが一通り体験できるとあって、ボールパークは家族連れでいっぱいだ。

積雪時のエスコンフィールド。手前側の池はスケートリンクになっている(25年1月撮影)
通常時のエスコンフィールド(23年6月撮影)

いくら北海道は雪が多いとはいえ、利便性が良い場所にスキー場はない。ボールパークならシャトルバスも駐車場もあり、大人から子供までスキーやそり・雪遊びを楽しめて、安全な遊び方の指南やスキー教室(有料)に対応できる職員も常駐。そこまで広くないので、野外のスキー場より迷子の心配をしなくていい。

数千円出せばスキー板・スキーウェアを貸してくれるものの、自前持ち込みとおぼしき来客が多く、地元率の高さがうかがえる。ボールパーク内の通路はきっちり雪が積もっているものの、雪靴なら何も考えずにエリア移動できる程度には歩きやすい。

それなりの料金はかかる(2時間制:大人2,200円 子供1,650円)ものの、客足が落ちがちな冬場の収益源として、きっちり機能しているようだ。

食事を楽しみながら学びも得られる

球場内のフードコートは、名物「シャウエッセンドッグ」を出す「tower eleven foodhall」や、醸造ビールが飲める「そらとしば」などが営業。ただし夏場より客足は落ち込むせいか、3塁側内野席うしろの「七つ星横丁」「裏路地ラーメンテラス」はエリアごと閉鎖。また、営業している店舗も、1月・2月はほとんど「水曜休業」となる。

エスコンフィールド名物「シャウエッセンドッグ」
「KUBOTA AGRI FRONT CAFE」では、施設内の野菜工場で獲れた食材を活かしたランチを食べることもできる

また球場外・ボールパーク内だと、農機具メーカー・クボタが運営する農業施設「KUBOTA AGRI FRONT」に、クラス単位・班単位での子供の訪問が多いようだ(施設内のガイドさん情報)。この日も自由研究とおぼしき子供たちと親が併設のカフェで、「さっき見た、水耕栽培施設で獲れたレタスだ!」とはしゃぎながらランチを食べている。ボールパークは娯楽だけでなく、格安で学びを得られる場所としても定着しつつあるようだ。

ファイターズ・松本剛選手のサイン入りトラクター。人気選手のパネルは至る所にある

屋外の雪遊びで疲れた家族連れの訪問客は、エスコンフィールド内外の飲食店に吸い寄せられるように入り、次々と絶品グルメを頼んでいく。最寄駅や幹線道路から離れたこのボールパークに居る限り、よそに行かずに食事もボールパーク内で済ませるわけで、なかなか美味しいビジネスモデルだ。

また、海外からのインバウンド観光客とおぼしき人々を、かなり多く見かけた。このボールパークは札幌市と新千歳空港の中間地点にあり、子供に安全な雪遊びをさせながら、フライトまでの時間を過ごすスポットになっているという。

いまや世界を代表するプレイヤーとなった大谷翔平選手(2017年にファイターズから海外移籍)、ダルビッシュ有投手(2011年にファイターズから海外移籍)の壁画もあり、見学する人々の中には「Ohtani! Ohtani!」と、英語での歓声が混じる。

ダルビッシュ有選手は24年11月にエスコンフィールドを訪問、自らの壁画にサインを入れていった

そしてグラウンドは、もちろん野球場としても機能している。夏場には全開になっている屋根は閉じられ、グラウンドには植物用の照明器具「グローライト」を至る所に設置。スタジアムツアーのツアーガイドの方によると、地中には温度をコントロールする配管が張り巡らされ、地温とライトで芝を育てているという。

25年1月のエスコンフィールド。屋根は閉ざされ、芝生にライトが当たっている
24年9月のエスコンフィールド。スタジアムツアー中は屋根全開だった

隅の方では投手が1塁コーチャーボックスに立ち、捕手がライト側ファウルゾーンで受けるという、公式戦ではまず見られない投球練習を見ることもできた。実質的な球団自前の球場ならではの自由な使い方で、もしスタジアムが借り物であれば、ちょっとした練習にも使用料が発生するところだ。

グラウンドの隅での練習風景

スポーツの枠を飛び越え実現した「バスケ公式戦」

そして24年12月28日・29日には、初めての試みとして「野球場でのBリーグ(プロバスケットボール)公式戦」が行なわれた。

エスコンフィールドで開催されたバスケ・Bリーグの公式戦(北海道ボールパーク公式サイトより)

幅28m×縦15mのバスケのコートがグラウンドの内野席に設置され、野球なら内野席にあたる座席を通常の座席として使用。また、外野の芝生も子供が駆け回れるアトラクションとして開放され、内野では白熱したバスケの試合、外野では子供がキャッチボールやかけっこという風景が広がっていたという。

北海道は2日間とも最高気温0℃、日本海側は各地で豪雪。にもかかわらず、28日は19,462人(Bリーグ観客動員数1位)、29日は15,113人(Bリーグ観客動員数2位)がエスコンフィールドに足を運んだ。集客・興行的には成功といっていいだろう。

なお、エスコンフィールドに限らず野球場のグラウンドは平坦でないため、この試合のためにBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」から移動式コートを借り、苦心して水平に設置したという。なら、足元がコンクリートの札幌ドームで開催した方が良かった気もするが……そこまで営業努力の必要がないのだろう。

いずれにせよ、「レバンガ北海道」をはじめとするBリーグの関係者、エスコンフィールドの尽力、ファイターズの本拠地が札幌ドームのままなら発揮されなかったであろうFSE社の企画提案力・営業力、すべてが噛み合って「冬の札幌で大規模スポーツ興行」が実現したのだ。また来冬以降、開催のノウハウが他のスポーツでも活かされることを願いたい。

プロ野球経営の宿命? 「上期の利益が下期でマイナス」解消なるか

こうして、ボールパークは「冬場の集客」で一定の結果を残した。しかし、FSE社にとっては「季節上の冬=経営の冬」であることに変わりはない。

24年5月に発表された決算資料によると、FSE社は上期が売上高185億円、事業利益63億円、下期は売上高50億円、事業利益-44億円。上期の利益を、シーズンオフの下期で7割がた吹き飛ばしている。

日本ハムグループ決算資料より

直近の25年1月発表の決算資料では、上期(4月~9月)で売上高196億円、事業利益70億円を積み上げ、下期に挑む。第3四半期(24年10月~12月)は、ファイターズがパ・リーグで2位につけ、10月の「クライマックスシリーズ(上位3チームで優勝を競う)」が開催されたこともあり、売上高43億円、事業利益は-12億円。前年同期(売上高30億円、事業利益-19億円)より大幅に改善した。

日本ハムグループ決算資料より

今後ともFSE社には、「プロ野球シーズンの上期は利益最大化、下期は工夫を凝らして極力赤字解消」という課題が付きまとうだろう。

今後、第4四半期(25年1月~3月)の実績も含めた通期決算はどうなるのか。物議をかもす北広島市からの固定資産税優遇が終了しても、利益を出す体質を作れるのか。そのためには、冬場の集客だけでなく宿泊・アクティビティなど高単価サービスの強化で、下期を「せめて収益均衡」まで持っていくことは必須であろう。

通期の実績は、おそらく5月のGW明けに実施される、日本ハムグループ全体の決算発表で明らかになる。楽しみに待ちたい。

クボタ施設の前に建てられていた氷柱。職員の方が手作業で建てていた
シャトルバス乗り場。ここだけ雪や凍結は少なかった
宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。