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JR東の「キュンパス」を使った 1万円で山形へ新幹線&ローカル線の旅

JR東日本が定額で乗り放題になる切符「旅せよ平日!JR東日本たびキュン♥早割パス」(以下、キュンパス)を発売しました。今回はこの切符を使って東京から山形に旅行してきましたので、その様子をレポートしたいと思います。

数万円の節約も可能な人気の切符

キュンパスは2024年に初めて販売され、遠方に行くとかなりお得になることから好評を博したそうです。2025年も発売が決まり話題になっていました。2024年は1日用(10,000円)のみだったのですが、今年は2日用(18,000円)も登場しました(いずれも大人用。子供用は設定無し)。

期間限定の切符になっており、今年の利用期間は2月13日~3月13日のうち平日のみ。土日祝日に比べて旅行者が少ない平日に鉄道を利用してもらおうという企画のようです。

対象路線は新幹線を含むJR東日本全線と、青い森鉄道線、いわて銀河鉄道線、三陸鉄道線、北越急行線、えちごトキめき鉄道線(直江津~新井間)の普通、快速、特急列車、BRTが1日または連続する2日乗り放題となります。

さらに、新幹線や特急列車の指定席を1日用は2回まで、2日用は4回まで乗車可能。遠方まで新幹線で座って往復できるようになっています。制限回数を超えて指定席を利用する場合は別途特急券などを購入すればOKで、乗車券はキュンパスに含まれる格好です。

各駅でも大々的に宣伝されています(東京駅)
こちらは山形駅にたくさん貼られたポスター

この切符は料金をかなり抑えることができるのが魅力で、例えば「東京-新青森間」の新幹線往復(はやぶさ、全席指定)は通常34,940円のところ1日用なら10,000円で済んでしまうわけです。新幹線駅から乗るJR東日本のローカル線もキュンパスに含まれているので相当節約した旅行が可能です。

購入は利用開始日の14日前まで

キュンパスはWebサイトの「えきねっと」限定で販売されていますので駅などでは買えません。初めて利用する場合はえきねっとのアカウントを作ります。キュンパスは利用日をあらかじめ指定して購入するのですが、購入期間は利用日の1カ月前~14日前という制限があります。

出典:JR東日本

ですので予定している利用開始日まで14日を切っていると、その日のキュンパスを購入することはできません。名称に「早割パス」と入っているとおり、早めに利用日を決めて購入する仕組みになっています。25年のキュンパス最終日は3月13日ですから、2月27日まで購入が必要になります。

キュンパスを購入したら「申込履歴」でキュンパスを選択し、「このきっぷを利用して列車を申し込む」に進んで指定席券を選びます。

えきねっとでキュンパスを購入

キュンパスの人気が出たため指定席の確保が難しい列車もあったようで、24年の際は希望する指定席が取れなかったというWebでの投稿もいくつか目にしました。キュンパス自体は数量限定ではないので売り切れはありませんが、指定席は数が限られます。早めに指定席を確保するか、場合によっては指定席の空き状況を先に見てからキュンパスの利用日を決める事も必要かもしれません。

今回キュンパスのWebサイトでは「【東京駅6~7時台発の新幹線】は大変な混雑が予想されるため、自由席にお乗りになれない場合がございます」との注意書きもありました。全席指定の新幹線も多いので座席は最速で確保した方が良さそうです。

2月13日の始発と最終は比較的空きがあり指定席を確保できました

キュンパスと新幹線の切符は駅での発券が必要になります。当日朝だと時間が無さそうだったので、念のため前日に発券機から受け取っておきました。このとき購入に使ったクレジットカードか発行されるQRコードが必要になります。

駅の券売機で発券します

発券機からはキュンパス、新幹線の往復券、キュンパスのご案内、特典のご案内の計5枚が出てきました。キュンパス購入者には駅関連施設などでの特典が受けられますので、チェックしておくと良いでしょう。

キュンパスの券
新幹線往復の券
案内が2枚

東京→山形→左沢の旅

筆者はキュンパスを使うのは今回が初めてで、1日用を買いました。最初は東京-新青森往復も考えましたが、移動時間が長く現地の滞在時間が短くなってしまうと考えて山形に行くことにしました。最終目的の駅はJR左沢(あてらざわ)線の終点である左沢駅に決め、駅周辺にある最上川の景色や温泉などを楽しもうという計画になりました。

列車は行きが、東京発(6時12分)→山形着(8時58分)、山形発(9時19分)→左沢着(10時1分)。帰りが左沢発(16時15分)→山形着(16時57分)、山形発(20時43分)→東京着(23時28分)です。

左沢駅は山形駅から11番目の駅です

現地での時間を多くとるために新幹線は始発(つばさ121号)と最終(つばさ160号)の指定席を取りました。利用日はキュンパス期間初日の2月13日。座席の指定をしたのは1月27日の夜でしたが、行き帰りとも空きはあり理想としていた窓側を確保できました。ただ、始発の次のつばさ号はすでに満席でした。

乗車時間は東京-山形間が約2時間45分、山形-左沢間が約42分です。正規料金は新幹線が往復で22,500円、左沢線が往復で1,020円なので、キュンパスによって13,520円節約できたことになります。

ローカル列車に揺られて雪の最上川へ

当日の東京駅では5時30分から開いている「駅弁屋 祭」で朝食の駅弁を買い、新幹線に乗り込みました。

まずは駅弁を購入

改札機には新幹線の切符とキュンパスの券を両方入れる必要があります。新幹線の切符だけでは乗れないのでキュンパスの券を忘れないようにしましょう。

新幹線の改札を通ります。2枚とも出てくるので取り忘れないようにします
ちなみにつばさの次に北陸新幹線も来ますが、JR東日本およびJR西日本の管轄の関係で長野または上越妙高より先はキュンパスの対象外になっています
入線したつばさ121号。2024年3月デビューのE8系という新しい車両です
選んだ駅弁は「チキン弁当デラックス」。ひもを引くと発熱して温まるのでより美味しくいただきました
座席が窓側のA席なので日の出も見られました。日が高くなると眩しい状態がしばらく続きます
福島駅を過ぎた辺りから本格的な雪景色になりました
途中の米沢駅もこの積雪
山形県の天王川と交差するあたりからは雪化粧した山並みを眺められました

新幹線から景色を見ているとかなりの積雪になっていました。実はこの数日前には大雪の影響で山形新幹線が運休になっており、今回の山形行きも心配ではありましたがひとまず運休はありませんでした。

しかし山形駅に近づくにつれて強風の影響で速度を落としての運転となったため、山形駅到着が約20分遅れになりました。もともと左沢線への乗り換え時間が20分ほどしかないため、乗り継ぎができないと次の左沢行きは2時間半以上後の11:56発になってしまうので焦りました。

結果的には左沢線が新幹線からの乗客を待って発車してくれたので無事に乗ることができました。左沢線は列車の本数が少なく、途中の寒河江止まりもあるので注意したいところです。

山形駅では6番線の左沢線に急いで乗り換えました。新幹線の改札を出るときにキュンパスの券が出るので忘れずに受け取りましょう
左沢線は愛称「フルーツライン」。ディーゼル式なので普段乗っている電車とは音が違ったのが印象的です
途中の羽前金沢駅。今の時期は雪原に佇む駅舎になっていました
午前中の下り方向なのであまり乗客はいませんでした。横に動かすカーテンなど車内に風情があります
左沢駅の直前で蛇行する最上川が見えました
梨形の看板が出迎えてくれます。難読駅としても有名だそうで、筆者も最初読めませんでした
左沢駅ホームの様子。奥が山形方面。ここでは降車の時にキュンパスを見せればOKです
左沢駅に直結している大江町交流ステーションでは左沢線や大江町ゆかりの品々を見ることができます(入場無料)
秋祭りの囃子屋台も展示されていました

大江町交流ステーションを見学したところで左沢駅を後にし、日本一公園(左沢楯山城史跡公園)、最上川、旧最上橋、原町通り、テルメ柏陵健康温泉館、道の駅おおえを巡る街歩きに出発します。

帰りはまた左沢駅に戻って、16時15分発の山形行きに乗るプランにしました。日中は特に本数が少なく、12時54分発の次は3時間以上列車が来ません。

左沢駅の時刻表
左沢駅の全景。左側が大江町交流ステーションになっています
駅前のマップ。今回は最上川に沿いつつ歩きます

誤算もあったが至福の温泉で帳消し

左沢駅の裏側から線路沿いに進み、山の上にある日本一公園を目指しました。最上川などを一望できる展望台もあるとのことです。駅からは1.5kmほどの距離なのですが、坂道の途中まで来たところで積雪がかなりあり進むのが難しくなったため今回は引き返すことにしました。

線路近くに「楯山公園まで約490m」の案内があり坂を登って行きましたが……
途中でかなり雪が積もっていたため、残念ですがここで引き返すことにしました

続いては大江町の観光スポットとなっている旧最上橋に向かいました。三連アーチが美しい橋として知られています。ところが現在は補修工事が行なわれており、通行はできるのですが橋の半分ほどに覆いがかかっていて写真映えという点では今ひとつな結果に。日本一公園と旧最上橋の件は誤算でした(笑)。

旧最上橋は3月25日まで補強工事をしているようです
橋の半分ほどが板で囲われていました

気を取り直してそのまま南に進み、原町通りに来ました。古い建物が軒を連ね、最上川の舟運で栄えた往時を偲ばせます。国選定重要文化的景観になっており、積もった雪も良い雰囲気になっていました。

原町通りの歴史ある街並み

温泉を目指してさらに南に進みます。途中で渡った左沢橋は、最上川に合流する月布川の上にかかる橋です。ここからは月布川の流れや山並みも望めました。

左沢橋からの風景

左沢橋を越えてしばらく歩くとテルメ白陵(大江町健康温泉館)や道の駅おおえの標識が見えてきました。雪が降ったり止んだりでなかなか寒いので、先にテルメ白陵に向かいひとっ風呂浴びることにしました。

標識が見えたら温泉はもうすぐです
テルメ白陵(大江町健康温泉館)に到着

入浴料は400円とリーズナブルながら、2つの内風呂、露天風呂やつぼ湯、サウナもあってちょっとしたスーパー銭湯のようでした。露天風呂は屋根の高い開放的な作りで、雪を見ながらの入浴は格別。2時間ほどゆっくり過ごしました。

源泉掛け流しの温泉に大満足。ここまで雪道を歩いて来た甲斐がありました

続いてはテルメ白陵の近くにある道の駅おおえに立ち寄りました。24年10月にグランドオープンしたばかりという新しい建物です。地場の野菜や加工食品などお土産も豊富。レストランやカフェも入っていました。

最上川で使われていた小鵜飼舟が建物のデザインモチーフとのこと

道の駅おおえではだだちゃ豆を使ったご当地グルメ、じんだん大福とじんだん饅頭を購入。カフェでコーヒーと一緒にいただいて一休みしました。

じんだん大福と饅頭。だだちゃ豆の風味が溢れるお菓子でした

道の駅おおえから左沢駅までは徒歩30分ほどなので、16時15分発山形行きに間に合うように出発しました。左沢駅に着く頃には吹雪いており、なかなか歩くのも大変でした。

夕方には雪が強まるタイミングも。冬の北日本なので防寒対策は万全で臨みたいところ
定刻通り発車となった左沢線に乗り山形駅に向かいました

山形城跡を見てどんどん焼きに舌鼓

山形駅に着いたのは17時頃。降雪も収まっており駅近くの山形城跡(霞城公園)を散策することにしました。山形駅の西口を出て右に進むとすぐの場所です。雪景色のお濠などこちらも風情ある景観が楽しめました。

山形駅
山形城跡は立派なお濠に囲まれていました
本丸御殿広場の公開は4月初旬~11月初旬ということで、今回は外から眺めました
本丸方面も雪景色で味わい深いものでした

霞城公園には国の重要文化財である旧済生館本館もあります。元は病院として使われていたそうで見事な建築物でした。

旧済生館本館は現在、山形市郷土館になっています

帰りの新幹線までは時間があったので、山形のB級グルメとして知られるどんどん焼きをいただこうと霞城公園近くの有名店「おやつ屋さん」で「チーズどんどん」をオーダー。中に溶けたチーズが入っていて大変美味。ボリュームもあって夕食代わりになりました。

どんどん焼きは各地にありますが、割り箸に巻くのが山形流

その後山形駅に戻り、20時43分発のつばさ160号で帰京しました。東京着は23時28分です。最終列車のせいかもしれませんが、筆者が乗った車両はそこそこ空席が目立っていました。最終列車の指定席は穴場かも知れません。

注意点も多いが元は取れる!

キュンパスは割引率が大きい代わりにどちらかというと観光のオフシーズンに実施されているという印象です。今回訪れた大江町も風光明媚な観光地ではありますが、観光客風の人が街を散策している姿は見かけませんでした。

キュンパスの期間がほぼ厳冬期なので雪で通れない道があったり、鉄道が積雪や強風で遅延、運休したりという点には注意が必要でしょう。山形駅からは仙台までを結ぶ仙山(せんざん)線というローカル線も出ているのですが、実際この日は強風で一部区間が運休になっていました。

思えば、旧最上橋の補強工事もちょうどオフシーズンの冬の時期に行なわれており(毎年ではないと思いますが)、行き先によってはそういった施設のメンテナンスに当たってしまう可能性もあるでしょう。また今回で言えば霞城公園の本丸御殿も冬場は開いていません。そういった冬期ならではの事情も考慮して自分で納得できる旅のプランを立てたいところです。

キュンパスの利用開始日の変更は、新しい利用開始日の14日前までとなっています。例えば利用開始日の直前に大雪などの予報が出て日程を延期したくても柔軟に利用日を変更することができません。この辺りも留意する部分になるでしょう。

筆者のところには利用日の前日にえきねっとから「運休・遅延の可能性あり」というタイトルのメールが届き、最新の運行状況を確認するようにとのことでした。遅延や運休があってもキュンパスの使用開始後は払い戻しができないそうなので、今の時期は乗車直前まで運行状況をチェックした方が良さそうです。

とはいえ、北日本には冬ならではの楽しみもあると思いますので平日に時間が取れる人はぜひチャレンジして欲しい切符でした。実際に使ってみて、10,000円でいろいろな体験ができたので十分元は取れたと思っています。

来年もキュンパスが発行されるかわかりませんが、もし実施されるようなら次はもう少し遠くまで行ってみたいと早くも次のプランを思い描いているところです。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。