石野純也のモバイル通信SE

第71回

KDDIはなぜiPhoneで「RCS」に対応するのか

近く配信が始まるとみられるiOS 18.4のベータ版に、auやUQ mobileのRCSが対応した

au、UQ mobileで、iOS用のRCS(Rich Communication Service)を設定することが可能になった。といっても、これは近く配信されるとみられるiOS 18.4に向けたもの。

「my au」や「my UQ mobile」で申し込みを行ない、パブリックベータ版などのiOS 18.4をインストールしたiPhoneを使うと、RCSの設定が有効になる。

iOS 18.4でRCS対応の意味

iOS 18.4では、「メッセージ」アプリの設定メニューから「RCS」を有効にする必要がある。現状では、あくまでベータ版向けの試験提供という位置づけだが、OSアップデートに合わせて正式サービスが開始される可能性は高い。

RCSは、携帯電話業界の業界団体であるGSMが策定した標準仕様に基づくメッセージサービスで、Androidが採用しているほか、アップルもiOS 18で(しぶしぶ)この仕様をメッセージアプリに取り込んだ。

RCSは、24年9月に配信が始まったiOS 18の新機能の1つ。グーグルからは非対応なことをたびたび批判されており、しぶしぶ対応した格好だ

iOS同士でメッセージをやり取りできるiMessageとは異なり、RCSであれば、iOSとAndroidで相互にやり取りすることが可能だ。

実際、UQ mobile回線を入れ、RCSを有効にしたiPhone 16 Proと、ソフトバンク回線で「Googleメッセージ」のRCSに登録したXiaomi 14T Proで、相互にメッセージや写真を送受信し合えることを確認できた。電話番号を使ってやり取りできるが、SMSのように1通ごとの料金がかからないのはRCSの利点。長文のやり取りもできる。

冒頭の写真はiOS側だが、こちらはその相手となったAndroid側の画面。iOSと相互にRCSで通信ができている

この下準備として、KDDIは24年に開催されたGoogle I/Oに合わせ、Android端末にRCS対応のGoogleメッセージを標準搭載する方針を明かしていた。iOSのメッセージアプリがRCSをサポートすることをにらんでの対応だ。Android側のRCSはキャリアの対応が基本的に不要で、アプリさえインストールすればRCSを利用できるが(上記のように、ソフトバンク回線でも利用できている)、キャリアモデルのスマホが標準搭載することでより広い層への普及が期待できる。

KDDIは、昨年5月に、Googleメッセージの採用を発表していた

+メッセージとは何が違うのか

RCSという規格だけで言えば、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が相乗りして開発した「+メッセージ」が存在する。また、楽天モバイルのコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」も、RCSを採用したものだ。一方で、+メッセージはキャリア3社が運用しており、海外との互換性がない。また、+メッセージとRakuten Linkの間でメッセージなどのやり取りをすることもできない。

Rakuten Linkも同様だ。このアプリは、電話番号を使った音声通話ができ、Androidの場合はSMSの送信にも対応しているが、RCSとしてやり取りできるのはRakuten Link同士に限定される。海外との相互接続ができていないのはもちろん、国内でも大手3社と楽天モバイルで足並みがそろっていなかった。

+メッセージもRCSを使ったサービスの1つ。ドコモ、KDDI、ソフトバンクで相互にやり取りできる
Rakuten LinkもRCSを採用したサービスだ

これに対し、iOSとAndroidのRCSは相互に接続している。仕様策定当初のRCSは、キャリアの音声通話やメッセージサービスを制御するIMS(IP Multimedia Subsystem)というシステム上で運用する仕組みになっていたが、グーグルはこれに相当するシステムを構築しており、回線を問わずにサービスを提供できるようになった。iOS側はキャリアの対応が必要だが、この条件さえクリアできれば、プラットフォームをまたがってRCSを利用することが可能になる。

RCSの提供はどちらかというとキャリアが先行しており、特に日本は3大キャリア間の相互接続も早かった。そのため、現状では、キャリアのRCSである+メッセージやRakuten Linkと、プラットフォーマーのRCSの双方が併存している形になる。

とは言え、他国では、キャリア側がサービスの提供をやめ、プラットフォーマーのRCSに乗っかるケースも出てきている。

なぜKDDIはiOSのRCSに対応したのか

では、なぜKDDIはiOS側のRCSに対応したのか。同社の代表取締役社長CEOの高橋誠氏は、MWC Barcelona 2025で実施されたグループインタビューで、+メッセージは「インフラが高いが、(プラットフォーマーの)RCSだとそれが安くなる」としながら、「iPhoneにRCSが入ることが大きい」と語る。プラットフォームをまたがってやり取りでき、かつコストが下がるとなれば、そちらにシフトしていくのは自然な流れだ。

KDDIの高橋氏は、MWCでRCS対応の狙いを明かした

また、Starlinkを活用したスマホと衛星の直接通信でも、RCSを活用していく計画があるようだ。高橋氏によると、「春に始まるもの(直接通信)は、RCSとその先のGeminiにつながる」という。グーグルは、RCSを活用し、Geminiとメッセージをやり取りできる「Gemini in Googleメッセージ」というサービスを展開中。衛星との直接通信では音声通話やメッセージサービスに限定されるが、RCSを介することでGeminiの利用も可能になるというわけだ。

災害時などにはSOSを送りたいため、悠長にGeminiと会話している余裕はなさそうだが、登山などで直接通信しか利用できない場合、Geminiが生きてくる。「ここで泊まりたいけど、どうすればいいという聞くとGeminiから回答がくる」(同)といった具合だ。また、「テキストの延長線上で写真ぐらいは送れるようになる」(同)というため、目の前にある道具の使い方のアドバイスを求めるといったような使い方も可能になる。

Android側のGoogleメッセージでは、RCS経由でGeminiとやり取りすることができる。衛星との直接通信でも、これが活用できるという

高橋氏が、「今はGeminiだが、もう少しここが拡張される可能性もある」というように、RCSには「RCSビジネスメッセージ」という仕組みが用意されており、iOS、Androidの双方がこれに対応している。これを使うことで、キャリア側やサードパーティが何らかのサービスを提供できれば、より広がりも出てくる。KDDIがiOSのRCSに対応したのは、こうしたチャンスを見据えてのことだ。

+メッセージとRCSのこれから

では、RCSはiOSやAndroidのそれに集約されていくのだろうか。現状では、ドコモやソフトバンクがiOSのRCSには対応しておらず、Googleメッセージも積極的には提供していない。また、子ども向けケータイなど、Androidをベースにしたフィーチャーフォンでも+メッセージが採用されており、スマホと相互にやり取りできるようになっている。そのため、+メッセージをすぐに廃止するということにはならないだろう。

+メッセージとプラットフォーマーのRCSは独立した存在になっており、1台の端末に2つのRCSを併存させることができる。例えば、Androidの場合、SMSとRCSをGoogleメッセージで管理しつつ、+メッセージではRCSだけをやり取りするといった使い方が可能だ。ユーザーにとっては少々複雑になってしまうが、+メッセージのユーザー数も24年時点で4,000万を超えているため、当面の間は併存することになりそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya