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日本の光学地球観測衛星が14年ぶり復活へ その歴史を振り返る

2025年2月25日、NTTデータが2024年7月に設立したMarble Visions(マーブルビジョンズ)は、新たな光学地球観測衛星の開発計画と、衛星製造にあたるキヤノン電子、衛星運用にあたるパスコとのパートナーシップを発表しました。Marble Visionsは宇宙戦略基金の資金の下で、JAXAの先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」に代わる衛星のシステム開発者となっており、キヤノン電子とパスコもそこに参加します。

ALOS-3は、災害の多い日本を宇宙から知る衛星として長く期待されながらも計画がなかなか実現せず、やっと打ち上げになった2023年3月にH3ロケットの失敗で衛星ごと失われたという悲劇的なミッションでした。その後継機(仮称「次期光学ミッション」)をNTTグループが開発することになった経緯について振り返ってみましょう。

地球の今を知るカメラ「光学地球観測衛星」とは

「地球観測衛星」とは、地球上で発生するさまざまな現象や地表の状態を観測する人工衛星の分野で、気象衛星や光学衛星、レーダー衛星などの種類があります。

大きく分けて「パッシブ(受動)型」と「アクティブ(能動)型」の2種類があり、パッシブ型とは地表から発する電磁波を衛星で受信してデータ化するセンサーを持った衛星を指します。光学衛星は地表で反射した太陽光を受信するパッシブ型の衛星で、いわばストロボを使わずに自然光だけで撮影するカメラのようなものといえるでしょう。

アクティブ型の代表には、衛星のアンテナからマイクロ波を発射してその反射を受信する「合成開口レーダー(SAR)」衛星があります。

光学衛星は主に可視光と赤外線で地表を観測するため、観測データは写真のように画像化することができます。歴史的には、衛星から地表を画像で観測する技術は1960年代に米国で発展した偵察衛星(スパイ衛星)で発達しました。

米国のキーホール偵察衛星計画では、カメラで撮影したデータをフィルムに記録し、衛星からフィルムを地表に投げ下ろして航空機で回収するという非常に高コストで大掛かりな方法をとっていました。

キーホール計画の衛星が画像を電波で送信するようになったのは1976年以降ですが、先駆けること4年前の1972年7月23日、NASAと米国地質調査所(USGS)の共同開発による「地球資源技術衛星(ERTS)」、後に改称されて「LANDSAT(ランドサット)」となった光学地球観測衛星を打ち上げていました。

LANDSAT1号は撮像データを電波で送信する機能を備えた気象衛星「ニンバス」を元に開発され、世界で初めて民生用の光学衛星がリアルタイムで撮像データを地上に送ることができるようになったのです。

LANDSAT1号は打ち上げからまもなく、アラスカで発生した300km2以上という広大な森林火災を宇宙から観測し、広域かつリアルタイムに地上の変化をとらえられるという力を発揮します。人が現地に近づく必要がなく、安全という点でも衛星の優位性が明らかになりました。

LANDSAT1号と開発中のLANDSAT2号(Credit: NASA)
1972年7月27日にLANDSAT1号が観測したアラスカの森林火災。赤外線のデータを可視化した疑似カラー画像(Credit: Michelle A. Bouchard, based on Landsat 1 data from the USGS)

LANDSAT衛星は「マルチスペクトルスキャナ(MSS)」という観測センサーを備え、可視光から近赤外まで4つの波長帯を地上分解能80mで観測することができました。

地上分解能(Ground Sampling Distance:GSD)とは、画像データ上で隣り合う2つのピクセルの中心間の距離が、地上で何メートルに相当するかを示す衛星画像の解像度の指標です。GSDが1mならば1つのピクセルは地上の1m四方のエリアに相当します。

GSD 80mでは1ピクセルが1ヘクタールよりも少し細かい程度ですから、スパイ衛星のように他国の軍事施設を調査するといった用途には向きません。ですが、広域の地図作成や森林、砂漠など土地の変化、農地の状態などを観測するには力を発揮します。

農業で使えるように可視光で色を判別する精度を高くしたこと、衛星を次々と更新して継続的に観測したことなど、科学的な用途で高い性能を持つLANDSATのデータは光学地球観測衛星という唯一無二の価値を築いていきました。

当時は東西冷戦の最中で、衛星観測によって宇宙から自国の事情を明らかにされたくないという国は多くありました。国連での議論の中では分解能を50m以上にするといった案が提出されますがまとまりませんでした。

ようやく1986年に国連総会で「リモートセンシング原則」が決議されます。これは、「天然資源管理」「土地利用および環境保護の向上」を衛星による「リモートセンシング活動」と定義し、この目的のための活動をより自由なものとする一方で、災害時には撮影された国(災害が発生した国)は、自国の衛星でなくてもリモートセンシングによる観測データにアクセスしやすくするというルールが定められました。

衛星リモートセンシングと偵察衛星の活動がはっきり切り分けられて活動しやすくなった反面、レーガン政権時代の1984年に米国はランドサット商業化法という法律で衛星画像をビジネス化しようとします。

LANDSATが他にない存在であることを反映して、1982年まではデジタル化データ1画像あたり200ドルという価格だった画像の価格は次第に引き上げられ、1990年代後半には一時2,500ドルに達します。

衛星画像が高額で使いにくくなるタイミングで登場したのが、フランス宇宙機関(CNES)が開発した分解能10mの商用光学地球観測衛星「SPOT」でした。分解能が10mになると、道路や建物などの人工物がわかりやすくなり、農地もヘクタールではなく1アールの単位で認識できるようになります。

SPOTの画像はより手ごろで使いやすく、農業などの分野でユーザーを獲得していきました。1986年に打ち上げられたSPOT1号は、チェルノブイリ原子力発電所の事故を宇宙から観測し、高分解能の画像で防災にも貢献します。火災の被害推定や農業などに力を発揮するSPOT衛星は7号までシリーズ化され、うち1機は現在も運用が続いています。

LANDSAT、SPOTといった宇宙機関の衛星が道を切り開いた後に、米国は衛星リモートセンシングに関する規制を緩和し、民間企業がより偵察衛星に近い高分解能の技術を衛星に取り入れ、解像度1m級の光学衛星画像を販売することができるようになりました。

そして登場したのが、商用衛星で初めて分解能0.82m、つまり1mを実現したSpaceimaging(スペースイメージング)の高解像度(HR)地球観測衛星「IKONOS(イコノス)」です。続いて2001年にはDigitalGlobe(デジタルグローブ)のHR衛星「QuickBird-2(クイックバード2)」が打ち上げられ、分解能0.6mの画像が利用できるようになります。

QuickBird-2の画像は2005年にリリースされたGoogle Earthに取り入れられ、大都市を中心に商用の高解像度衛星画像をGoogle マップと重ねて誰でも利用できるようになっていきます。

SPOT衛星を製造したフランスのEADS Astrium(エイダス・アストリウム、現在はエアバス・ディフェンス・アンド・スペース)も分解能0.5mの「Pleiades(プレアデス)」衛星を2011年、2012年に相次いで打ち上げ、それまで一部の限られた人しか見たことがなかった高分解能の衛星画像がより身近になっていきました。

分解能が1m以下になると、乗用車とバスといった車種の違いや都市の中での建物の配置などが識別できるようになり、航空写真に近い存在になっていきます。また高分解能と衛星から赤外線の波長を観測できる能力を活かして収穫間近の水田で稲のタンパク質量を推定し、コメの美味しさを最大化する「精密農業」といった用途も可能になっていきます。

そして2014年、米国は商用衛星画像の分解能制限を0.25mまでさらに緩和します。このころスペースイメージングは合併の後にデジタルグローブに統合され、複数のHR衛星を運用する企業となっていました。

デジタルグローブは規制緩和を受けて解像度0.31mという超高分解能(VHR)衛星の先駆けとなる「WorldView-3(ワールドビュー3)」衛星を打ち上げます。デジタルグローブは現在はMaxar(マクサー)に名称を変えてWorldView-3を運用しており、Google マップの高精細な衛星画像でだれでも利用できるだけでなく、民間企業が地球上のさまざまな活動を分析できるデータにもなりました。

2022年2月のロシアによるウクライナへの侵攻前、WorldView-3などの画像から、ロシアが侵攻の準備を整えている様子を米国のシンクタンクが分析しています。

安全保障だけでなく科学分野では、超高分解能を活かしてアフリカゾウや南極大陸のペンギンのコロニーなど、大型の動物の個体調査にも使用されています。

同じころ、分解能は中程度の3mであるものの、常時200機以上の超小型衛星を軌道上に配置してほぼ毎日観測するPlanet Labsの「Dove(ダヴ)」衛星コンステレーションが登場し、高頻度撮像という新しい価値を生み出しています。

民間企業が提供する衛星画像が超高分解能という価値を獲得していったのに対して、LANDSATは2008年に全てのデータのオープン&フリー化に踏み切ります。

この時点でLANDSAT1号打ち上げから36年、2025年現在では9機のシリーズ衛星が50年以上にわたって観測してきた変化する地球のデータは、連続性というかけがえのない価値を持っています。また衛星データ解析技術の基盤を作ったのもLANDSATでした。

そして欧州宇宙機関(ESA)は、オープン&フリーの衛星データ公開プログラム「Copernicus(コペルニクス)」計画の衛星をスタートし、2015年にエアバス・ディフェンス・アンド・スペースが開発した分解能10mの「Sentinel-2(センチネル2)」を打ち上げます。

センチネル2は世界を5日ごとに観測し、データはコペルニクス計画のWebプラットフォームを通じて自由にダウンロード、解析することができるようになっています。

2020年3月の時点で、LANDSAT衛星シリーズ全体のダウンロード数は1億シーン、センチネル2のデータのダウンロード量は83PBと利用は大きく拡大し、宇宙機関が提供するオープンデータを研究開発や教育に活用し、商用画像でビジネスという枠組みができてきました。

日本の衛星地球観測と光学衛星の苦闘

日本では、JAXA統合前の宇宙開発事業団(NASDA)時代にLANDSAT衛星のデータを受信、利用する目的で埼玉県に「地球観測センター」が整備され、衛星リモートセンシングの研究開発が始まりました。

国産地球観測衛星として1992年に地球資源衛星「ふよう1号(JERS-1)」、1996年に地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり(ADEOS)」、2002年に環境観測技術衛星「みどりII(ADEOS-II)」などを打ち上げます。

しかしADEOS、ADEOS-IIと連続して軌道上で機能を喪失し、開発の苦闘が続きました。2003年に日本の航空宇宙3機関を統合してJAXAが発足し、2006年にADEOSで開発した光学センサー「AVNIR(アブニール)」を高度化して搭載した新たな陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」を打ち上げます。

ALOSは分解能2.5mの光学観測センサー「AVNIR-2」に加え、アクティブ型センサーの合成開口レーダー「PALSAR」を兼ね備え、高度な地図作成のための国土観測を目標とした衛星でした。

森林観測や防災といった衛星リモートセンシングの利用を拡大する目的もあり、2011年には東日本大震災の被災地域を観測した後の5月に5年間の活動を終えて運用を終了しました。

その後、2014年には先進レーダ衛星「だいち2号(ALOS-2)」が打ち上げられますが、これはALOSからSARの機能を受け継いだ衛星で、光学観測の機能は持っていません。ALOS-2以降はSARと光学の衛星を交互に開発する方向性となり、当初は2018年ごろの打ち上げを目指していたのが先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」でした。

ALOSの運用終了後、早期に光学地球観測衛星の再開を希望する研究開発コミュニティの声がありながら、高分解能の商用光学衛星が海外で次々とビジネスを開始している中で、その機能は「海外衛星により提供可能である」と優先順位を大きく下げられてしまいます。いったんは計画中止の危機もあったALOS-3ですが、当時開発中だった新たな基幹ロケット「H3」に搭載することで打ち上げ機会を得ることになりました。

打ち上げ前の「だいち3号(ALOS-3)」(Credit: JAXA)
分解能向上による地上の見え方の違い(『先進光学衛星「だいち3号」報道関係者向け説明会資料』より)

ALOS-3は分解能だけみればスペースイメージングのIKONOSと同じ0.8mですが、災害観測に活躍したALOSの力を受け継ぎ、広域を一度に観測できる70kmもの「観測幅(Swath、スワス)」を持っていました。

観測幅とは、衛星の進行方向(南北)に対して東西方向に観測できる範囲のことです。一般に高分解能の衛星ほど観測幅は狭くなる傾向にあります。IKONOSの観測幅は11.3kmで、広域を観測しようとすると、何周回もする必要があるのです。

ALOS-3は広い観測幅に加えて、可視光の「青」「緑」「赤」の3つの波長に加えて、青よりも波長の短い「コースタル」、植物の健康状態を分析できる「レッドエッジ」「近赤外」という6つの波長に対応し、日本の電子国土基本図を衛星画像で更新できる能力と森林の病害や沿岸部の浅瀬の生態まで、地球の今を知る多様な能力を持っていました。

ALOS-3の多様な観測性能(『先進光学衛星「だいち3号」報道関係者向け説明会資料』より)

日本の光学衛星の技術の粋を集めたALOS-3ですが、H3ロケットの開発遅れで2020年度の打ち上げ予定は2023年初頭まで伸びることになります。そしてついに打ち上げられた2023年3月7日、H3ロケット試験機1号機は2段エンジンの不具合から打ち上げを中断し、ALOS-3の機体ごと海に落下しました。

ALOS運用終了から12年、JAXAの光学衛星に大きな空白が生じてしまったのです。ALOS-3のプロジェクトに民間企業として地上システムの開発で参加していたパスコは、システムの根幹である衛星を失って約17億円の特別損失を計上するという影響もありました。

ALOS-3喪失から光学衛星復活へ

ALOS-3喪失の痛手は大きかったのですが、光学衛星の再始動を急がなくてはなりません。ALOS-3喪失の翌月2023年4月にはJAXAが中心となった衛星地球観測コンソーシアムの場でALOS-3後継機(「次期光学ミッション」)の議論が始まっていました。

このとき、(1)「ALOS-3と同等の衛星を新たに2機製造する」、(2)「民間企業が小型光学衛星を8機開発し段階的に打ち上げ、JAXA開発のLiDAR衛星と組み合わせて高頻度観測を行なう」、(3)「小型・中型光学衛星14機以上とLiDAR衛星を組み合わせる」という3案が提出されます。2番目の民間開発による小型光学衛星の案を提出したのは、NTTデータ、リモート・センシング技術センター、アクセルスペース、パスコのグループでした。

(1)のALOS-3R案は、ミッションの直接的な継承ではあるものの、同じ衛星を製造するとはいっても時間がかかり、打ち上げは2027年度末という見込みでした。一方で(2)(3)案は小型衛星の開発スピードを活かして最短で2026年度からの打ち上げを提案していました。

分解能は0.4mに向上させ、観測幅の狭さは複数の衛星で高頻度に観測することで補います。スピード開発と、大型の衛星よりも機能をアップグレードしやすいといった点が評価されます。

SPOT、Pleiadesを開発したフランスで、宇宙機関CNESとエアバス共同の小型光学衛星コンステレーション計画が進んでいる「CO3D」計画など先行する例を踏まえ、次期光学ミッションの議論は小型衛星のプランに傾いていきました。

並行して、H3ロケットの打ち上げ再開に向けた対策案の中で、H3試験機2号機には主衛星(元の計画では「だいち4号(ALOS-4)」)を搭載せず、余剰の搭載能力を活かして相乗り小型副衛星を募集することが決まります。

まだ打ち上げ成功の実績のないH3ロケットに衛星を搭載するわけですから失敗のリスクはありますが、打ち上げ費用が無償になるというメリットもあります。そこに手を上げたのがキヤノン電子でした。

募集期間はわずか1週間ほど、2023年後半には衛星をロケット側に引き渡すという、相当にスピードを求められた計画でした。キヤノン電子は独自に開発してきた光学地球観測衛星「CE-SAT-IE」をH3ロケットに搭載し、2024年2月に打ち上げに成功します。

H3ロケット試験機2号機に搭載され、打上げに成功したキヤノン電子のCE-SAT-IE(Credit: JAXA)
CE-SAT-IEの主光学系(キヤノン製フルサイズミラーレスカメラEOS R5と口径40cmの望遠鏡)が撮影した初画像となったラスベガスの街並み(Credit: キヤノン電子)

CE-SAT-IEが初画像を公開した2024年3月、内閣府と文部科学省、総務省、経済産業省による「宇宙戦略基金」第1期の議論が始まっていきます。文部科学省分の技術開発テーマ「高分解能・高頻度な光学衛星観測システム」こそが「次期光学ミッション」と呼ばれたALOS-3代替ミッションの計画でした。

ALOS-3は地図整備や防災・減災を目標として、公共の用途で開発された衛星です。これを民間主体で新たに小型衛星のコンステレーションとして再生するには、ALOS-3と同等の性能を持ち、かつ公的利用へ対応を求められます。

また3D地図やスマート農林業など民間のビジネスにも利用できる衛星となる必要があります。性能面ではALOS-3を超え、2,500分の1地図の更新が可能となる0.4mの分解能と、災害時に広域を観測できる50kmの観測幅が求められました。

宇宙戦略基金の支援額は280億円で、採択から5年間で衛星コンステレーションを段階的に開発し、「ステージゲート」と呼ばれる中間審査が設けられています。計画ではステージゲート審査は3年目にあたる2027年前半で、「軌道上で実証ができているか」、つまり打ち上げが始まっている必要があります。

2024年夏から始まった宇宙戦略基金の募集に応募し、11月末に採択されたのは次期光学ミッション(2)案のチームにいたNTTデータが新たに設立した衛星観測サービス専門企業の「Marble Visions」でした。

ALOS-3喪失を受けての緊急提案から約1年半、NTTデータが日本の光学衛星を牽引する存在として浮上してきたのです。NTTデータは初代ALOSと関わりが深く、2014年からALOSの観測データをベースに作り上げた全世界の3D地図「AW3D」を展開しています。

現在はMaxarを始め世界の光学衛星のデータを元に世界では2.5m、日本では0.5mの精度の地図を提供しています。しかし各国の衛星は必ずしも地図作りに向いているとはいえず、3D化に向いたアングルを変えて撮像する能力を求めていました。自社で衛星を設計、保有することで3D地図に向いた撮影が可能になります。ビジネス面でのニーズをすでに持っていたといえます。

見えてきたMarble Visionsの光学衛星構想

Marble Visions/NTTデータは衛星データを利用する、いわば解析側の企業です。宇宙戦略基金の採択事業者として2027年前半に間に合うように2年程度で衛星を製造するとなれば、国内の光学衛星開発経験を持つ企業をパートナーに迎えることは予測されるものでした。

そして、2025年2月25日に発表になったのは、Marble Visionsにキヤノン電子、パスコも資本参加するかたちで次期光学ミッション実現に向けた衛星開発を始めるという新体制でした。

もう1社のパートナー企業、パスコは航空測量の専門企業として地図の知見を持つだけでなく、Maxarやエアバスなど海外企業の衛星データを販売してきたこの分野では経験豊富な企業です。また、衛星システムの補完と拡張という立場で、事業には民間光学衛星の先駆けであるアクセルスペースも参加することになっています。

Marble Visions参加の3社は、NTTデータがプロダクト開発とサービス提供、キヤノン電子は衛星製造、パスコは衛星運用サービス提供という役割分担で事業をスタートします。2027年度上期には衛星の1・2号機の打上げを開始し、2027年度下期に3~6号機、2028年度には7・8号機を打上げ、全8機の体制でサービスを展開する計画です。

AW3D開発者でもあるMarble Visionsの筒井健CTOによれば、キヤノン電子のCE-SATシリーズの経験を活かし、キヤノン製カメラをセンサーに利用した衛星になるといいます。

Marble Visionsの筒井健CTO(撮影:秋山文野)

一般的に光学衛星のセンサーは受光面積を大きくして光を取り入れやすくするため、比較的画素ピッチの大きなCCDやCMOSを採用しています。画素ピッチが小さいデジタルカメラのセンサーを衛星に使用する場合、分解能を向上させやすいのですが、その反面、光を多く取り入れるには不利です。

衛星はカメラ撮影のように照明を追加して明るくするということはできない上に、秒速7km近い高速で飛行しながら撮影するため、露光時間は110μ秒(0.00011秒)程度しかありません。高品質の画像を得るには、光を多く取り入れるための工夫が必要になります。

キヤノン電子のCE-SATシリーズは、飛行しながら地上の1点をポインティングし続け、露光時間を伸ばす機能を持っています。このためにキヤノン電子は衛星のセンサーや光学系だけでなく、姿勢制御機器を自社で開発しました。

強力な姿勢制御機能のおかげで、まるで流し撮りのように(動いているのは被写体ではなく衛星自身ですが)地上の目標を見つめながら観測することができるのです。高い姿勢制御と、短い時間で衛星をスピード開発する能力は、Marble Visionsがキヤノン電子をパートナーに迎えた決め手になったといいます。

光学系の強力な機能に対して、センサーが対応する波長という点では、RGB+NIR(近赤外)の4バンドになる方針とのこと。ALOS-3が持っていた6バンドには及びませんが、世界の多くの光学衛星は4バンドですので、手堅い選択といえるでしょう。

現在のCE-SATシリーズは分解能0.8mで衛星のサイズは高さ1m程度ですが、分解能を向上させると望遠鏡部分を伸展させて焦点距離を向上させる必要があります。より大型化し、電力消費も大きくなるため太陽電池パドルを取り付ける方式を検討しているといいます。

ALOSの運用終了からおよそ14年。長いブランクではありますが、日本が求める光学衛星の計画がようやく再開しようとしています。衛星が登場するまであと2年を要しますが、さまざまなシーンで活躍する衛星データが地上に届く日を多くの人々が一日千秋の思いで待ち望んでいます。

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者。1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。X(@ayano_kova)