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コミュニティがあるから活きる 「YouTubeショッピング」が注目される理由
2025年2月20日 08:20
YouTubeショッピングは、YouTubeパートナープログラム(YPP)に参加し、グーグルが定めた要件を満たすクリエイターや企業が自身のチャンネルで商品を販売できるストア機能だ。米国で先行ローンチしたサービスが、2022年7月から日本でも本格的に提供を開始している。
グーグルでYouTubeを担当する良川朝美氏に聞くと、いまYouTubeショッピングを活用して、チャンネルのファンである視聴者と強い信頼関係性を結ぶクリエイターが大きく成長しているようだ。動画主体のプラットフォームであるYouTubeの多彩な機能を活かせるYouTubeショッピングが、これからEC市場の潮流に大きな影響を及ぼす可能性を考察する。
YouTubeの動画とショッピングを同時に楽しむ体験
YouTubeショッピングを利用するクリエイターは、自ら開設するチャンネルにストアの商品をリンクさせて宣伝・販売できる。日本では2025年1月現在、YouTubeの外部プラットフォームであるShopify、またはBASEで開いたストアとのリンクに対応する。ストアとの接続が完了すると、クリエイターはYouTubeアナリティクスからショッピングの売上げ、あるいはタグ付けされた商品ごとのパフォーマンス等が調べられる。
商品はYouTubeチャンネルの動画説明欄、コンテンツ下の商品セクションなどに並べることができる。さらに特筆すべきなのは、クリエイターが制作した動画・ショート動画、そしてライブ配信の中にもタグが埋め込めることだ。視聴者から見ればクリエイターが紹介するアイテムが気になったら動画内のタグからストアに飛んで、すぐさま買えるユーザー体験になる。
視聴者が動画を見ながらショッピングも同時に楽しめるように、YouTubeアプリのユーザーインターフェースがよく練られている。登録者数が1,300万人を超える人気のチャンネル「きまぐれクック Kimagure Cook」が、公式ECサイトの「かねこ道具店」で扱う自社開発の商品「きまぐれ包丁」を紹介する動画を例に、YouTubeショッピングの動線を紹介する。
例えばモバイル版アプリで動画内のタグをタップすると、ストアの画面がブラウザアプリで開く。この時に再生中の動画は端末の画面上でピクチャー・イン・ピクチャー表示になるので、視聴を妨げることなくストアが利用できることが大事なポイントだ。
有料版YouTubeプレミアムに実装されているフォアグラウンド再生の機能に近い使い勝手だ。YouTubeショッピングのこの機能は無料版のYouTubeユーザーにも開放されている。
テレビ版のYouTubeアプリでは、商品情報を選択するとQRコードがテレビの画面に表示される。これをスマホのカメラで読み取るとモバイル版のYouTubeアプリでストアが開き、テレビで動画を見ながらスマホでショッピングの続きができる。
ユーザーの約6割が「YouTubeを商品購入の頼りにしている」
筆者はまず、このスマホによる動画再生を妨げることなくシームレスにショッピングが楽しめるスタイルが画期的だと感じた。
テキストを中心とする静的な情報をECサイト上で集めながら、”慎重に吟味して欲しいものを買う”という方も少なくないと思う。だが、クリエイターが情熱を込めて制作したYouTube動画に“背中を押されて買う”体験も高揚感が高い。
一見するとテレビショッピングの体験にも似ているように見えるが、YouTubeのコンテンツであれば観たい時に視聴できる。見方によっては、自分のペースで気になったものだけを“慎重に吟味して買う”ショッピングのカタチであるとも言える。
2024年までにYPPに参加するクリエイターの数はグローバルで300万人を突破したという。日本国内でも登録者数10万人を超えるチャンネルが11,000件、100万人を超えるチャンネルは750件からさらに伸びている。
良川氏によると、グーグルが調査会社のカンターに依頼して2024年3月下旬に実施したユーザーアンケートから「日本の視聴者のうち61%がYouTubeは何を購入するかを決めるのに『役立つ』サービスだと回答している。これは競合平均の49%よりも高い数値」であることがわかったという。YouTubeがユーザーの消費行動にも大きな影響を与える動画プラットフォームになったことを示唆する調査結果だ。
スマホやPCで動画を再生しながらスムーズにショッピングが楽しめるECサイトは今後も増え続けるだろう。だが、ライバルに対するYouTubeの圧倒的な強みは、人気クリエイターによるコンテンツが多方面に渡って充実する動画プラットフォームであることだ。視聴者がショッピングも楽しめるチャンネルも同様に充実しつつある。グーグルはYouTubeショッピングを米国、日本のほかにも韓国、インドネシア、インドなど世界の一部の国と地域で展開している。「ネットショッピングもYouTubeで楽しむ」ライフスタイルは、これから世界に勢いよく広がるかもしれない。
YouTubeのミッションはクリエイター・ファースト
YouTubeは「あらゆるユーザーに表現の場所を提供する」というミッションを掲げながら、これまでに様々なサービスを充実させてきた。クリエイターが自身のチャンネルで商品を販売できるYouTubeショッピングも同じミッションの一環において生まれている。
「YouTubeショッピングは広告収入、スーパーチャット、メンバーシップに続くクリエイターの収益をサポートするツールの一つ。良質なコンテンツを発信するクリエイターの活躍をサポートすることが、YouTubeの成長にも欠かせない」と良川氏は語る。
YouTubeには、クリエイターとそのファンとの「つながり」に立脚したコミュニティが無数に生まれている。良川氏によると「YouTubeショッピングで成功する秘訣」はクリエイター、またはコンテンツのタイプによって様々だが、総じて視聴者であるファンとの「つながり」を上手に深めているチャンネルが、ショッピングにおいても良い評判を獲得しているようだ。
一例として「カワニシカバンの休日」を挙げたい。香川県にあるショップ、カワニシカバンの代表取締役である川西あつし氏がYouTubeチャンネルを立ち上げて、自社だけでなく他社のプロダクトを多数動画レビューとして発信している。「川西氏のものづくりに対するリスペクトに触れた視聴者が、「この人がつくる商品ならば間違いない」と信頼を寄せてYouTubeショッピングで多くの商品を買い求めている。
YouTubeがクリエイターに提供する動画ツールも、通常の長尺動画とショート動画、そしてライブ配信を適材適所に使い分けることができると、ショッピングの成果にも反映される傾向にあるようだ。良川氏はYouTubeショッピングに限らず、「YouTubeの動画ツールの特性を踏まえて、適切なタイミングと内容のメッセージを視聴者に伝えることがファンとの“つながり”を深めることにもつながる」と話している。
これまでに動画の制作や配信を手がけた心得はない人からも、これからYouTubeのクリエイターとしてコミュニティをつくりたいという声も高まっている。YouTubeは外部の各サービスプロバイダーと連携して、YouTubeショッピングを含む活用方法を伝える勉強会も定期的に実施している。
アメリカではYouTubeのクリエイターが、他のクリエイターがYouTubeショッピングを活用して販売する商品を、自身のコンテンツ内にタグ付けして宣伝できる「YouTubeショッピング アフィリエイトプログラム」も提供されている。
良川氏は、今後日本でもYouTubeクリエイターに様々なツールを提供したいと抱負を語った。ますます充実するYouTubeショッピングの機能に要注目だ。