文具知新

ノートとペンのセット持ち歩き問題  コクヨ「ペノット」&ゼブラ「ピタン」で解決

電話機の特許は、グラハム・ベルとトーマス・エジソンが1カ月違いで提出していた、というのはよく知られた話です。それだけではなく、実はエリシャ・グレイもベルと同日に特許を提出していたとか、いや「発明」という意味ではアントニオ・メウッチの方が先だったとか、状況はなかなか複雑です。

この電話機の例に限らず、同じ時代を生きる人は同じような困りごとを抱えており、かつ同じレベルの技術や知識を共有しています。つまり、困りごとを解決する発明も同じようなものが、同じようなタイミングで発生するというのは、実はそれほど珍しいことではありません。

文具界でもこの同時多発現象はたびたび観測されますが、今回は「ノート1冊とペン1本をどうやって持ち運ぶか問題」にスポットを当ててみたいと思います。この問いへのアンサーとなる製品は、まさにベルとエジソンの切磋琢磨のように、2023年7月にコクヨから、そして同年8月にゼブラからと、わずか1カ月違いで発売されました。

今どきは、ノートとペンさえあればいい

共通の背景としてあるのは、今どきのビジネスパーソンの文具事情です。最近では、ほとんどの仕事がパソコンとスマホさえあれば完結します。書類も多くがデジタル化されているため、文具をあれこれと持ち運ぶ必要はないという人が増えています。

とはいえ、ちょっと考えをまとめたい時とか、打ち合わせ中にメモをとりたいとか、スケジュールとタスクの管理はやっぱり紙の方が直感的でわかりやすいとか、そうした理由からノートを1冊と、そこに書き込むためのペン1本だけは手放せないという方は少なくありません。

しかし、ここに問題が。ノートには普通、ペンホルダーがついていません。かといって、先ほども書いた通り、ノートとペン以外の文具は持ち運ぶ必要がないため、ペン1本のためにわざわざペンケースを用意するのも面倒です。

ノート1冊とペン1本、どうやって持ち運ぶ?

そこで何とか一緒に持ち運ぼうと、ノートの表紙にペンのクリップを引っ掛けてみたりするわけですが、これが何とも収まりの悪いこと。バッグから出し入れする時に引っかかってあらぬ方向へ飛んでいったり、パソコン等と重ねて持つとゴロゴロしたり。

じゃあ、とノートから外してバッグに直接入れると今度は行方不明になりますし、服のポケットにさすと着替えるたびに移動させる手間が発生します。「あ! ペンが無い! 昨日のジャケットにさしっぱなしだった!」なんてこともしばしば。また、女性の服ではそもそもペンをさせるようなポケットが無いことも多いのです。

なかなかちょうどいい持ち運び方が見つかりません

この「ノート1冊とペン1本の持ち運び問題」という現代のビジネスパーソンが抱える共通の課題に、それぞれの得意分野から異なるアプローチをしてみせたのがコクヨとゼブラだったのです。

ノートから解決したコクヨ

まずコクヨは、キャンパスノートでも知られる通り紙製品に強みのあるメーカーらしく、ノート方向から解決を試みました。それが、今回紹介する「ペノット」(726円~)。手にあたっても気になりにくいやわらかリングでおなじみの、ソフトリングノートのシリーズに連なる製品です。

ソフトリングノート「ペノット」スリムB6サイズ(726円)。ペンは別売

このノートのポイントとなるのは、裏表紙に取り付けられたゴムバンドと、表紙の切り欠きです。ノートの小口にペンをセットして、ペンを抱え込むようにゴムバンドを伸ばし、表紙の切り欠きに引っかけて留めれば、ノートとペンを一体化した状態で持ち運べるという仕掛けです。

ペンは上下2カ所でしっかりホールドされる

よくあるペンホルダーと違うのは、上下2カ所でしっかりとペンを保持してくれること。ペンがぶらぶらしないため、バッグから出し入れする時などにペンが引っかかりにくいのです。さらにこの方式のメリットとして、太いペンにも細いペンにも幅広く対応できる点が挙げられます。特に、普通のペンホルダーには入らないことも多い、太めの多色ペン等もホールドできるのは嬉しいポイントではないでしょうか。

3色ボールペンなどの太めのペンにも対応

また、シンプルなゴムバンドなので、開いた時には筆記のジャマにもなりません。ゴムバンドを引っかけやすく抜けにくい表紙の切り欠きの形状も含めて、細部まで工夫が詰まっています。

もちろん、ノートとしての使い勝手にも抜かりはありません。コクヨ製だけあって、中紙の書き心地はどのような筆記具とも好相性が約束されています。大きさは、スリムA5とスリムB6の2種類。筆記スペースは充分に確保しながらも、在宅ワークやカフェなどの限られたスペースでも広げやすく、また手に持って立ったまま書くのにもちょうどいいという絶妙な形状とサイズ感です。

罫線は5mm方眼なので、横向きにしても使えます。これが、キーボードの手前に置くノートとしてまさにジャストフィット! 現代のビジネスパーソンが「とりあえずの1冊」として持っておくのに、間違いのない一品です。

スリムB6サイズ。キーボードの手前の限られたスペースにもジャストフィット

ペンから解決したゼブラ

ノート方向から解決策を出したコクヨに対し、ペン方向からのアプローチを見せたのがゼブラの「ピタン」(1,320円)です。この製品のユニークな点は、ペンとそれを置くための専用ペンホルダーがセットになっている、ふたつでひとつである、というところです。

「ピタン」(1,320円)。右からペン本体、専用ホルダー、クリップでノートを傷めないための保護シート

専用ペンホルダーにはクリップがついていて、これでノートの表紙をはさんでセットします。クリップは厚さ0.3mm~1.0mmの厚みの紙に対応しているので、一般的なノートであればほぼ問題ありません。表紙が厚すぎてはさめない場合は、表紙と中紙の間にある遊び紙に取り付けることも可能です。

好きなノートにセットして使用する

ペンは、専用ペンホルダーに内蔵されているマグネットの磁力でピタッとくっつく仕組みです。このまま持ち運んだりバッグに入れたりして大丈夫かな? と少し不安になる見た目ではありますが、意外にもちょっと振り回しただけでは落ちないくらいしっかりホールドしてくれます。

ペンは振っても落ちないほどしっかりホールドされている

クリップの部分は薄く、幅も狭いので、筆記時に手に当たる感触もほとんどありません。専用ホルダーは上下左右どちらの向きでも使用できるので、利き手側にあるのが気になる人は反対側の表紙に取り付けたり、ノートの上下・短辺方向にセットしたりすることも可能です。なお、短辺方向に取り付ける場合は、B6の短辺でペンの長さがギリギリです(ノックについているヒモはちょっとはみ出す)ので、その点だけ注意してください。A5サイズ以上のノートであれば短辺でもはみ出さず余裕があります。

B6サイズの手帳の短辺に取り付けたところ

インクはサラサシリーズにも使用されているゼブラお得意のゲルインクで、書き味も滑らか。購入時点でセットされているインクは黒ですが、他にも赤・青・緑のインクがあり、好みや用途によって入れ替えることもできます。

ノート以外にも、手帳や参考書等の本、表紙が薄手であればファイルにも取り付けられるため、ひとつ持っていると何かと便利に使えます。今回のテーマからはやや外れてしまいますが、個人的には壁掛けカレンダーとセットで使うペンとしてかなり愛用しています。

壁掛けカレンダーへの書き込み用のペンとしても便利

正解はひとつ、とは限らない

このように、同じ問いであってもそれに対する「正しい答え」は必ずしもひとつとは限らないのが面白いところです。「ノート1冊とペン1本をスマートに持ち運びたい」という課題に対し、紙製品に強いコクヨはノートから、筆記具に強いゼブラはペンからと、それぞれが得意な方向から解決を試みたこの2製品はまさにそのことを象徴していると感じ、今回は並べてご紹介してみました。

どちらの製品も、ノートの小口の延長にペンがピッタリと収まりますので、表紙がフラットな状態となり、パソコン等ほかの荷物と重ねてもゴロつくことなくスッキリ持ち運べます。好きなペンを使いたい! という方はコクヨのペノットを、好きなノートを使いたい! という方はゼブラのピタンを、好みに合わせてお選びください。

え? 好きなノートで好きなペンを使いたい、ですって? それについては、それこそひとつやふたつどころではない選択肢がありますので、機会があれば改めて。後付け式のペンホルダー、何らかの方法で表紙に取り付けるタイプのペンケース、何ならペンをノートじゃなくて自分の身につけちゃうネックストラップ、究極にして最終の手段である自作、などなど。正解はひとつではないどころか、沼が大変なことになっているのです……。

ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。