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空間コンテンツ制作の負担を解消する「XYN」 ソニーのXRが目指すもの
2025年1月11日 09:15
ソニーが2025年のCESで、新たな空間コンテンツ制作プラットフォームのブランド「XYN(ジン)」を発表した。3月下旬にPC用アプリ「XYN Motion Studio」を第1弾として提供開始する。
XYNを通して、ソニーが空間コンテンツ制作に携わるクリエイターに何を届けようとしているのか、XR事業部門の責任者であるソニー インキュベーションセンター 副センター長(XR事業)の鈴木敏之氏に聞いた。
ソニーの空間コンテンツ制作のソリューションをXYNの元に集める
映画やゲームに登場するオブジェクトや立体空間をUnreal Engineなどに代表されるゲームエンジンを使って描いたり、アニメに登場するキャラクターにリアルな動きを付与したり、様々な3DCG制作を手がけるクリエイターが存在する。
XYNはこれら空間コンテンツのクリエイターに対して、ソニーが培ってきたソフトウェアからハードウェアにまたがる多彩な技術と製品を使って利便性を提供するためのプラットフォームだ。
3月下旬にはモバイルモーションキャプチャー「mocopi(モコピ)」を活用するためのPC用アプリ「XYN Motion Studio」を第1弾のソリューションとして提供する。以降も空間コンテンツのビュワーとしての使用を想定したXRヘッドマウントディスプレイ「XYN Headset」や、現実のオブジェクトや空間をフォトリアルな3DCGアセットとして取り込むための「XYN空間キャプチャーソリューション」が順次展開される。
初期の柱となる3つのソリューションは、主に映像系の空間コンテンツ制作に関わるものだが、鈴木氏によると今回の発表に続く第2弾・第3弾の仕込みも既に始めているという。XYNのクリエイティブスイートの中から、クリエイターが作業に必要とするツールを都度選びながら使い倒せるイメージだ。
クオリティと効率のバランスをハイレベルに実現する
ソニーがXYNを起ち上げる大きな狙いは、同社のXR事業部門の中で個別に存在していたソリューションを束ねて、クリエイターが空間コンテンツを制作するために費やしている膨大な時間と費用や労力の削減を支援することだ。
2024年のCESでソニーはXRヘッドマウントディスプレイの初号機となる「SRH-S1」を発表した。本機はドイツのシーメンスが開発した立体プロダクトエンジニアリングのためのソフトウェア「Siemens NX」とタッグを組み、産業用の空間コンテンツ制作のためのソリューションとしてスタートを切っている。今年のCES 2025では、同社の新しいイマーシブ・エンジニアリング・ツールセットとして2月以降に出荷を本格的に始めることを伝えた。
ソニーのXYNはこちらのシーメンスとのコラボレーションとは“別モノ”であり、すべての企業や団体、個人のクリエイターに開かれたソリューションとして提供される。
他社の3DCG制作ツールに対するソニーのXYNの強みは「クオリティへのこだわり」だと鈴木氏は語る。とは言え、時間や制作費のコストを無尽蔵にかけることができれば、クオリティの良いものは作れる。「XYNの挑戦はクオリティと効率性のバランスを高次に実現すること」だと鈴木氏は続ける。
「100%の最高のクオリティに対して、速く・安くできて50%のものしかできなければクリエイターの要求を満たすツールにならない。XYNは80〜90%のクオリティを担保しながら、圧倒的にコストが下げられるというソリューションにしたい」(鈴木氏)
そのために「XYN空間キャプチャーソリューション」など、今回発表したツールに関しては既にソニーグループ内のクリエイターを巻き込んだ実証実験とヒアリングを重ねながらフィードバックを集めている。今後もこれを続けて、クリエイターが求めるこだわりの形と、時間や労力のコスト削減を含めた品質をさらにブラッシュアップする。
最先端の空間コンテンツ制作に最適化されたプラットフォーム
XYNは、昨今の空間コンテンツ制作のトレンドに最適化されたワークフローを提供することにも重きを置く。
それは例えば、最初に空間コンテンツの映像とサウンドをすべて作り込み、その後に「2Dの映画」を書き出したり、そこにインタラクティブな要素を加えてゲームをつくったり、あるいはアニメーションのテイストを加えて個別の作品に仕上げるようなイメージだ。
それぞれに必要な映像や音を自在に加えられるように、XYNのプラットフォームも発展させる。
クリエイターがXYNを活用するとどのようなものが作れるのか、あるいはワークフローを組むことができるのかなど、今後ソニーが「リファレンス」を用意する必要性についても鈴木氏に聞いた。
「例えばビンや缶のように表面に汚れがなくツルッとしたテクスチャーのオブジェクトは3DCG化しやすい。ところが使い込んだ手帳や鞄ようなオブジェクトをフォトリアルな3DCGに再現するためには、質感を出したりウェザリングを加えるために膨大な手間がかかる。例えばそれが『XYN空間キャプチャーソリューション』を使うと、ミラーレス一眼カメラで撮影した画像と独自の2D/3D変換アルゴリズムを用いて、現実の物体や空間からフォトリアルな3DCGアセットが素速くつくれることを見せるだけで、おそらく多くのクリエイターにとってXYNの魅力は『一目瞭然』。その類いのソフトウェアを既に使っていたり、現在イチから手書きで制作しているクリエイターに“ピン”ときてもらえれば私たちとしては本望だ」(鈴木氏)
XYNのトライアルサービスも用意されるようだ。例えばXYNヘッドセットについてもまだ買い切りになるのか、あるいはレンタルのようなサービスモデルになるのかは発表されていない。鈴木氏も「検討中」と答えている。
今後、ソニーは空間コンテンツクリエイターの輪を広げることにもさらに注力する。
例えばXRヘッドセットの初号機「SRH-S1」を発表後、シーメンスと一緒に実証実験的なサービスを展開する中で「シーメンスのクライアントである、重工業製品のデザインや設計にXRやデジタルツインの技術を活用しているクリエイターの方々と出会うことができた」(鈴木氏)という。
「ソニーが主戦場としてきたビジネスの範囲では出会うことができなかったクリエイターの方々に、今後もシーメンスのようなビジネスパートナーの活動に“コバンザメ”のようにぴたりとくっつきながら当社のXR事業を貪欲にご紹介したい。XYNでも同じことができる。これは大きなチャレンジになるだろう」。