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マイナンバーカードと顔情報で転売ヤーは排除できるか? ハロプロで実証
2025年3月31日 08:00
デジタル庁はマイナンバーカードの利活用を推進しており、民間企業と連携した取り組みを続けている。エンターテインメント分野など様々な領域で複数の事例を積み重ねており、新たにチケット不正転売対策に向けて、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)などのコンサートにおける取り組みを実施した。
今回の取り組みでは、チケット購入に際してマイナンバーカードによる本人確認を実施して、複数アカウントを使ったチケットの大量購入を防止し、転売チケットによる入場を拒否することで、対策を行なうというもの。いわゆる「転売ヤー」対策を目指したものだ。
「Hello! Project ひなフェス 2025」では、デジタル副大臣の穂坂泰氏が視察に訪れ、スムーズな入場の様子に、今後の利活用拡大に向けての期待を表明していた。
ゴルフ場やライブコンサートなどでマイナンバーカードが活用
これまでデジタル庁では、エンタメ分野においてイベント時の年齢確認、本人確認、入山届のデジタル化など、様々な実証実験を行なってきた。
例えばゴルフ場におけるチェックインの実証では、受付でマイナンバーカードを使って顔認証を行ない、受付用紙への手書き入力を不要とする記入レスチェックインを実施。全国4カ所で今年1月末までの実証だったが、メリットがあったことから4カ所のゴルフ場では利用を継続。さらに全国2,000のゴルフコースへの拡大を目指しているという。
チケットの不正転売対策では、2024年の東京ガールズコレクションにおいてチケット販売にマイナンバーカードを用いた実証を行なった。その際には、購入時にマイナンバーカードのICチップから個人情報を取得し、登録した情報と照合して個人を認証。発券したQRコードチケットを入場口で提示してリーダーで読み取ったうえで、マイナンバーカードの顔写真と本人の顔を目視で確認する、というもの。
この時は別途マイナンバーカードを読み取るためのアプリが必要で、入場時は簡便な仕組みにするために目視確認にしたということだった。TGC 2024は18,000人規模のイベントで、大規模興行での不正転売防止などの効果を測定した。
マイナンバーカードを使う場合、確実に個人を識別できる点がメリットで、複数アカウントでの購入を排除することができる。1つのマイナンバーカードの情報に対しては1アカウントしか紐付けられないため、複数アカウントを作成して購入することができない。
今回の取り組みでは、芸能プロダクションのアップフロントプロモーションと連携。「モーニング娘。’25 小田さくらバースデーイベント ~さくらのしらべ 14~」(3月21日)と「Hello! Project ひなフェス 2025」(3月29日、3月30日)においてマイナンバーカードを使った不正転売対策の実証が行なわれた。
いずれのイベントでも、マイナンバーカード先行抽選申し込み枠を設け、デジタルトレーディングカードを特典として用意した。小田さくらさんのイベントでは2,000人、ひなフェスでは22,000人(計4公演の合計)のイベントだった。
マイナンバーカードと連携したのは、小田さくらさんのイベントで約28%、ひなフェスでは約13%だった。つまりそれぞれ約560人、約2,860人ということだろう。
マイナンバーカードと顔情報で転売ヤー排除
この2つのイベントは、playgroundが運営するチケット発券サービスMOALAを活用。MOALAではこれまでも、チケット購入時に顔情報を登録して入場時にQRコードと顔を同時に提示してタブレットのカメラで読み込んで認証する「BioQR」を提供し、興行主が選択すれば利用できるようにしていた。
今回はこれにマイナンバーカードとの連携機能を追加してチケットを販売した。小田さくらさんのイベントでは電子チケットのみでマイナンバーカードとの組み合わせと通常の販売を比較。ひなフェス 2025では、紙チケットでの販売も行ない、通常のもぎりによる入場との比較も行なわれた。
チケット購入では、まずブラウザから顔写真を撮影して登録。さらにマイナンバーカードを読み取るためにデジタル庁の「デジタル認証アプリ」を利用し、マイナンバーカードの電子証明書の有効性確認を実施して、顔情報と紐付けてアカウントに登録する。
この時、デジタル認証アプリの機能の1つである氏名、住所などの基本4情報は取得しない。あくまで「1つのマイナンバーカードの電子証明書情報とアカウントを紐付ける」という手法を採用した。この方法だと、「アカウント作成時に入力した本人情報が正しいかどうか」のチェックは行なわれないが、同じマイナンバーカードは1枚しか存在しないため、複数のアカウントに1つのマイナンバーカードを紐付けるといった、複数アカウントを作成してのチケット購入を排除できる。
デジタル認証アプリのインストールは必要となるが、いったんインストールしておけば複数のサービスで今後マイナンバーカードの認証に使えるようになるため、この仕組みが普及すれば、「外部アプリのインストールが必要でチケット購入時の離脱が増える」という課題を避けられる可能性はある。
チケットはQRコードの形で発券されるので、入場時にタブレットに向けてQRコードと顔を向けると認証が行なわれる。実際の入場では、スマートフォン画面の明るさや提示する角度によって時間がかかる人もいたが、うまくスムーズに認証できている人も多く、大きな問題も発生していないようだった。
300枚の不正転売を確認、マイナンバーカード活用で0件に?
チケットの不正転売は、エンタメ業界では長らく問題視されてきた。アップフロントの代表取締役である西口猛氏によれば、今回のひなフェスでは約300枚の不正転売を確認しているそうで、最も高いものでは7万円という金額だったという。もともと9,600円のイベントのため、7倍の金額となっていた。
西口氏は不正転売について、「一番みたい人が適切な価格で観られないというのが最大の問題」と強調する。
そうしたなかで、これまでも業界ではチケット不正転売について取り組みを続けており、電子チケット化することで対策を強化したが、すると「公演時に複数のスマートフォンを持った人が現れ、保険証などと交換でスマートフォンを手渡し、入場させる」(playground代表取締役・伊藤圭史氏)という行為が横行したという。
さらに、本人確認として顔認証を採用する例も増えてきたが、「顔認証なら通過できるかもしれないとワンチャンチャレンジする人が出てくる」(伊藤氏)という。これが通過できるかどうかはともかくとして、「変顔をするなどして」複数の顔を登録しようという人がいるのだそうだ。
これに対して、マイナンバーカードで認証を行なうことで、複数アカウントの作成自体を排除し、多数のチケット購入ができないようにした。ひなフェス自体はマイナンバーカードを使わない紙チケットでの販売もあったため不正転売が発生したが、マイナンバーカードを使った電子チケットでは、初日の第1回目公演において不正と判断された例はゼロだったという。
なお、メイクや髪型の違いなどで一定の割合で顔認証がうまくいかない場合(もしくは不正転売の場合)も発生するが、第1回目公演では0.3%ほどの再確認が発生。いずれも別途本人確認などを行ない入場できたそうだ。一般的なイベントにおいて、0.3%という数字は低めだそうで、マイナンバーカードを使うという点で抑止力が働いたのではないかと伊藤氏は推測する。
開発に関して伊藤氏は、デジタル認証アプリ側で用意されたAPIが洗練されており、接続が非常にシンプルだったと指摘。開発はスムーズで障害も発生しなかったという。開発期間は3カ月というが、実際の開発作業は1カ月程度で、同種の開発では最速クラスのスピードだった、という。
伊藤氏は、東京ドームのような大規模な会場で数万人単位のイベントを行なう際に、チケットの不正転売を防ごうと身分証明書の確認をしようとすると「100人以上のスタッフが追加で必要になる」という。人件費の問題だけでなく入場の混雑によって開演時間にも影響が出てしまいかねない。
顔認証入場の場合、身分証明書の確認が不要になるため、紙チケットよりも早く入場できると伊藤氏は説明。マイナンバーカードと組み合わせることで、複数アカウントでの大量購入を排除して、入場もスムーズにできるとメリットをアピールしている。
一方、こうした転売対策を導入することで、体調不良や予定変更でチケットをムダにしてしまい、会場でも空席を作ってしまうという課題も発生する。アップフロントの西口氏は、現状同社のリセールサイトはないものの、今回の取り組みを1つの契機として、公式のリセールに向けた取り組みも視野に入れているという。
伊藤氏はマイナンバーカードを使った不正転売対策に前向きな評価をしつつ、不正転売対策を強化しすぎると購入に手間がかかり、「購入のやり方」を学習する必要があるなど、偶然興味を持って直前にチケットを購入したいと思ってもできない、という新規ファンの獲得にハードルがある点も課題だと指摘。
こうした点については、例えば今後マイナンバーカードのスマートフォン搭載によって、手軽に本人確認が利用できるようになれば、ユーザー登録しなくても転売対策をしつつチケット販売ができる可能性もある。
視察した穂坂副大臣は、「みんなが平等の機会を得ながら、大好きなアーティストを応援していく。純粋に楽しめるような環境作りをしっかりと後ろで支えていきたい」と話していたが、興行チケットの適切な流通に対して、マイナンバーカードがどのように貢献できるか、スマートフォン搭載を含めて今後の取り組みがさらに重要になるだろう。