小寺信良のくらしDX
第25回
血圧が測れるスマートウォッチ「HUAWEI WATCH D2」がすごかった
2025年3月29日 09:15
スマートウォッチが登場した当初は、スマホを取り出さなくても情報にアクセスできる端末としての役割が注目された。しかし世の中の情報量が激増した時代に、ただアクセス頻度が増すだけでは対応できない。より表示面積が重視される傾向が強まったことから小型スマホは市場から姿を消し、スマートウォッチはデジタル・フィットネスの方向へ大きくシフトすることとなった。
ランニングやウォーキングなどの運動データとバイタルデータをリンクさせることで、自分の健康管理に役立てようというわけだ。特に米国では医療費が高額なため、医者にかからなくても済むよう自身で健康をコントロールするという傾向が強い。さらには保険会社がスマートウォッチを配布したり、取得したバイタルデータに応じて保険料を算出するといった、より具体的に人生のコストに関わってくるような使われ方もされるようになっている。
スマートウォッチから得られるデータが社会的に重視されるようになれば、何も運動する人だけが使えば良いというものでもなくなる。むしろ健康に問題が出始める50代以上や、成人病も含め特定の疾患を持つ人のデータも必要だ。心拍数、血中酸素濃度、睡眠記録といったデータは以前から取れていたが、昨今は心電図が取れるというのがトレンドになってきている。
そうしたバイタルデータの中でもっとも取得しにくいのが、血圧だ。血圧は腕や手首など測定部位を圧迫して測定する必要があるため、腕にセンサーをくっつけただけでは測れない。そのため、特別な仕組みが必要になる。
筆者も母の遺伝か高血圧症であり、50代の頃から通院と投薬治療を続けているところだ。上腕にカフを巻くタイプの血圧計は、手首に巻くものよりも正確だと言われているが、腕まくりできないような服を着ていると、測定のためにいちいち脱がなければならない。寒い朝などは血管が収縮するので、余計に血圧が上がる。正確に測ろうとして逆の結果が出てしまうと、これは一体何のためにやってるんだけと自問自答したくなる。
もうちょっと簡単に血圧が測れないものか?
こうしたニーズに早くから取り組んできたのが、多数の血圧計を製品化しているオムロン ヘルスケアだ。スマートウォッチ型血圧計「HeartGuide HCR-6900T-M」を2018年に米国で発売、日本でも2019年に発売し、ヒット商品となった。
ただ価格が発売当時で8万円ぐらい、現在は直販価格で94,800円と、ちょっと手が出ない。しかもスマートウォッチのような生き馬の目を抜くITウェアラブルデバイスで6年前の商品を今買うというのも、なかなか勇気がいる。
そんなおり、今年2月にファーウェイが血圧測定可能なスマートウォッチ「HUAWEI WATCH D2」を一般発売した。昨年12月からGREEN FOUNDINGでクラウドファンディングが行なわれており、総支援額1億6,000万円を達成した製品だ。日本の管理医療機器認証を取得しており、機能的にも期待できる。公式サイト価格は60,280円。一方ネット通販では最安で5万円半ばといったところだ。
今回はこれをおよそ1カ月お借りして、一般の血圧計と比較しながら使ってみた。
簡単かつ正確に測れる
HUAWEI WATCH D2にはブラックとライトゴールドの2色があり、今回はブラックをお借りしている。見た目は全く普通の角形スマートウォッチで、側面のリューズ型ダイヤルとボタンが1つずつあるところも、全く普通である。
違いはバンド部にある。バンドの内側に手首を圧迫すためのカフが仕込まれているのだ。普段はぺったんこでバンドに張り付いているので、見た目からはわからない。スマートウォッチ本体内にマイクロポンプが仕込まれており、血圧測定時にはこれでカフに空気を送り込み、手首を圧迫して、圧力センサーで血圧を測定するという仕組みだ。
カフは、手首のサイズに合わせて長短2サイズが付属している。まずは手首の太さがどれぐらいなのか、付属のペーパー製メジャーを使って測る必要がある。多くのスマートウォッチでは装着してみて適当に穴を決めるみたいなことになっているが、血圧測定ではバンドがピッタリのところで固定しないと、正確に測定できない。
1度説明書も読まずに適当に装着して血圧測定したところ、本物の血圧計に対して10mmHgぐらい高い値が出た。血圧計というのもなかなか何が正確なのかわからないところがあって、家で測ると高いが病院で測ると低い、あるいはその逆のことがよく起こる。ただ10mmHgという誤差は大きすぎるのではないかと改めて説明書を読んでみると、ベルトはかなり正確なサイズで、割とピッタリめに固定する必要があることがわかった。腕時計を緩めにはめるのがクセの人は、要注意である。
それ以降、本物の血圧計と比較しても、せいぜい差があっても2〜3mmHgぐらいで、ほとんど同じ値が出るようになった。これなら実用に耐える。
実際の測定は簡単で、上記の血圧測定用アプリを起動するだけである。するとほぼ無音でカフに空気が送り込まれ、手首を圧迫する。測定中はウォッチを装着した手を胸のあたりに上げておく必要がある。心臓と同じ高さに置くわけである。またこの時、バンドが衣服や身体に触れないよう、浮かせておく必要がある。
また自動血圧測定機能もある。これは寝ている時間帯とアクティブな時間帯で、定期的に血圧測定を実行する機能だ。一見手放しで勝手に測定してくれる印象があるが、実施には昼間の時間帯には上記の手順のように手を胸の位置に上げて固定しなければならない。さらにきちんとしたデータを得るには、昼間の時間帯に20回以上測定しなければならない。
これは現実問題としてなかなかハードルが高い。例えばアクティブな時間帯が15時間だとすると、20回測定するには45分ごとに測らなければならない。45分ごとに突然スタジアムで国歌斉唱を聴くサッカー選手みたいなポーズでじっとしてろというのは、一般の社会人には無理がある。
一応トライしてみたが、どうしても仕事のキリが悪いとか今手が離せないとかでスキップしてしまい、十分なデータが得られなかった。また寝ている間の測定も、バンドをした左手が寝返りの際に身体の下になったなどの理由で、計測できない回もあった。なかなか自動で測るというのは難しいものである。
スマートウォッチ業界でHUAWEI一歩リードか
そのほか主体的に計測できるバイタルデータとしては、心電図がある。これはアプリを起動したあと、ウォッチ横のボタンに指を当てて計測するというものだ。すべての心臓発作の兆候を検出できるわけではないという注意書きが表示されるが、それでも脈不整などの兆候がないかがわかるだけでも、安心できる。
主体的に測定しなくても自動的に測定されているものとしては、血中酸素濃度、皮膚温度、睡眠モニタリングなどがある。加えてワークアウト中のデータや、1日の運動量の評価などもある。
メッセンジャーアプリとの連携、タイマー、アラームなど、一般にスマートウォッチに求められる機能のほとんどは抜かりなく搭載されており、血圧だけに特化したモデルというわけではない。従来のスマートウォッチに血圧測定機能が載った、という扱いだ。
バッテリーは、これだけ様々なデータを自動で取りつつ、1週間から10日前後は使える。うっかり充電が必要なことを忘れるレベルだ。
現在スマートウォッチ市場は、ハイブランドとしてApple WatchやGoogle Pixel Watch、スポーツウォッチとしてガーミンの存在が際立っている。中国企業としてはファーウェイ、シャオミ、Amazfitなどがしのぎを削り、低価格商品では1万円以下のものまであるといった状況だ。
オムロンの「HeartGuide」が高いのは、まあガチだからしょうがないといった認識だったが、ここにきてHUAWEI WATCH D2が登場し、価格をApple Watch程度に抑えたところで、一歩抜きんでた格好となった。今のところ日本で発売されている血圧測定が可能なスマートウォッチは、オムロンとファーウェイのこれしかない。
そもそも日本の管理医療機器認証を取得するには、かなり厳格で煩雑な手続きが必要だ。申請しても実際承認されるまで半年から1年以上かかるため、かなり前もって入念に準備しなければ製品化できない。果たしてこれに追従する他社が出てくるのかわからないが、日本に研究開発拠点がない国外メーカーにはなかなかハードルが高いだろう。
筆者のように持病として高血圧症を抱える人間としては、血圧測定機能がグッと身近になったことで、より測定頻度が上がったことはメリットが大きい。これまでは時々測るのを忘れると、そのまま3日4日忘れ続けることも多々あった。
欲を言えば、血圧測定と薬の服用アラートが連動するようになってくれていると薬の飲み忘れも減るのだが、そこは今のところ自分で頑張るしかない。