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改良型「スターシップ」まもなく打上げ 飛行試験も"加速"

(Credit: SpaceX)

SpaceXの新型宇宙船、「Starship Super Heavy(スターシップ/スーパーヘビー)」の飛行試験が7回目を迎えようとしています。現地時間の1月15日16時(日本時間1月16日午前7時)からウインドウが始まります。上段スターシップは衛星のモックアップを10機搭載し、いよいよ衛星打上げロケットとしての機能実証に進む段階に入りました。2025年最初の試験ではスターシップが何を達成するのか、これまでの結果の振り返りとともに見ていきましょう。

スターシップ/スーパーヘビーは、完全再使用型の宇宙船とブースターの組み合わせで構成され、全長121m(124.4m、150mと段階的にアップグレード)、直径は9mで100~150トンのペイロードを搭載できる多目的宇宙輸送システムです。

2023年から2024年まで、SpaceXはテキサス州のメキシコ湾沿いにある自社の射場「Starbase(スターベース)」でスターシップ/スーパーヘビーの飛行試験を6回実施し、1段スーパーヘビーの地上帰還と再利用に向けた機体回収、2段スターシップの飛行能力の獲得などを進めてきました。

7回目の飛行試験では、スーパーヘビーの発射塔への帰還と機械式アームによる回収は引き続き実施し、スターシップの飛行能力、特に地上へ帰還する能力の向上を中心にさまざまな技術実証を行ないます。6回目の試験からは、帰還時に地球大気への再突入で発生する大きな熱から機体を守る技術の実証が始まっています。

スターシップは有人宇宙船(月面着陸機を含む)でもあり、衛星打ち上げロケットでもあるという多目的性を持っており、目的に合わせた能力を段階的に実証していく必要があります。

「ブロック2」スターシップの新たな機能

スターシップは、「ブロックアップグレード」という世界のロケットで採用される段階的な開発方式を取り入れています。7回目の試験で飛行するのは「ブロック2」最初の機体で、通算では33機目となります。

ブロック2以降のスターシップ機体は100トン以上のペイロードを搭載する能力を持ち、これまでよりも2mほど機体が長くなっています。大型化に加えて推進剤のラインの見直し、バルブの能力向上やアビオニクス(フライトを制御する電子機器)のシンプル化などによって推進剤の搭載能力は25%向上し、より長時間の飛行ミッションに対応できるようになりました。

アビオニクス部分では衛星通信網スターリンクとの通信機能、位置情報に係るGNSS機器、バックアップ通信装置などを統合した新たなフライトコンピューターに切り替えられ、新型バッテリーとも相まって飛行制御能力が向上しているといいます。

再利用型の宇宙船として何度も打上げと再突入を繰り返すことになるスターシップには、再突入時に機体に大きな熱が加わります。

これまでの例では、スペースシャトルのオービターが再突入の際に受けた熱は約1,600度でした。オービター表面の熱防護材料(TPS)は熱のために劣化し、ひび割れや剥離を引き起こしました。TPSが熱で損傷すると修理や交換の負担が大きくなり、飛行ごとにターンアラウンドの時間が長くなってしまいます。スターシップはこの課題に対応するため、6回目の飛行試験からTPSの性能に関する実証を始めています。

今回の試験では、熱の負荷を意図的に大きくするために熱防護タイルを意図的に取り外して性能の限界を試すだけでなく、素材の異なるタイルを試験的に貼って性能をチェックする実証にも取り組むといいます。

こうした異素材タイルの中には、「アクティブクーリング」の性能を持つものがあるといいます。アクティブクーリングの種類としてタイル表面の材料をガス化することで熱エネルギーを逃がす「アブレーション」素材などが考えられますが、詳細は明らかにされていないため、今後の成果発表が注目されます。

(Credit: SpaceX)

スターシップの機体前方には、「フラップ」と呼ばれる小さな翼が取り付けられており、着陸時の燃料消費を押さえる、将来の火星着陸などを可能にするといった機能があるとSpaceXは説明しています。

とはいえ、これまでの飛行試験ではインド洋への着陸際にフラップが大きく損傷したことがありました。今回の試験飛行では、フラップのサイズや取り付け位置を見直すことで、再突入時の熱の影響を小さくする改良も行なわれているといいます。また、意図的にフラップに負荷をかける飛行計画を取り入れ、性能の限界を試す目的があるようです。

スターシップの再突入に伴う機体の熱環境について、NASAはオーストラリアからGulfstream Vを飛ばし、空撮を行なう計画のようです。NASAにとっても長年の課題である再使用宇宙船の再突入性能について、SpaceXとの技術協力の関係性がうかがえます。

新たなスターシップ機体で、10機のスターリンク模擬衛星を放出する実証も行ないます。模擬衛星はスターリンク第3世代と同じ質量を持っており、放出の後にスターシップ機体と共にインド洋に落下する計画です。

スターシップによるスターリンク衛星打上げが可能になれば、光通信アンテナやスラスタを備えた第3世代の衛星が1回で60機放出できるようになり、スターリンクの打上げ能力が大幅に向上することになります。

スーパーヘビーブースターは、5回目の飛行試験で使用され、「メカジラ」発射棟のアームでキャッチされ回収された機体で、初のブースター再使用となります。

6回目の飛行試験でブースターのキャッチが行なわれなかった理由には、発射棟のアーム(チョップスティック)のセンサーの損傷があるといいます。こうした不具合への対策も行なわれたとのことです。スターシップの側にも将来の発射棟キャッチに向けたセンサーが追加され、距離の精度を向上させる実証を行ないます。

加速する飛行試験とスターシップの大型化

飛行試験の実施と並行して、SpaceXは年間の飛行試験回数を増やすための協議を連邦航空局(FAA)と進めています。

2022年に申請した際には、スターシップ/スーパーヘビーの打上げ回数は年間で最大5回でしたが、新たな申請では5倍の年間25回(うち22回は日中、3回は夜間)を目指します。1段スーパーヘビーはすべて着陸を行ないますが、22回の日中での帰還の場合は発射棟への帰還を試みるものの、夜間の着陸の場合は海上での回収または海中投棄となります。

2段スターシップの回収も行なう予定で、日中の場合は発射棟での回収、それができない場合にはインド洋への海中投棄となります。機体のアップグレード案によれば、スターシップは全長70m、スーパーヘビーは全長80mに大型化され、全体で150mの超大型システムになっていく予定です。

大型化に伴い、2025年中の稼働開始を目指す第2発射台が新設される計画です。FAA提出資料には現在の射点よりもやや内陸側に第2発射台の計画が示されています。

大型化するスターシップの機体と打上げ計画の増強、発射台の新設案。FAA提出「Revised Draft EA」資料より

FAAライセンスの見直しにより、SpaceXは打上げ許可を試験1回ごとに個別に取得するのではなく、数回まとめて取得する包括的な許可を得られるようになります。試験で発生した不具合の内容によっては申請と許可を必要としますが、打上げの許可のプロセスが早くなることで高頻度の試験が可能になってきます。

年間最大25回の打上げが実現すれば、スターシップの試験も毎月の日常の話題になってくるかもしれません。

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者。1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。X(@ayano_kova)