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「丸亀VSはなまる」2強から丸亀が突き放せたワケ 資さんも参戦

1兆円規模とも言われるそば・うどん業界の中で、国内の「うどんチェーン」市場で丸亀製麺(トリドールHD傘下)が勢力を広げ、2強の一角であった「はなまるうどん」(吉野家HD傘下)を引き離し、独走態勢に入った。

100店以上のうどんチェーン店はほかにも「杵屋」「山田うどん」「ウエスト」などがあるものの、これらの店舗は対人で接客・配膳・片付けを行なう「フルサービス業態」を取っており、単価もそれなりに高い。一方で、丸亀・はなまる2社は作業を客側が自発的に動くセルフ業態「セルフうどん」だ。

丸亀製麺のかけ+かき揚げ
はなまるうどんのかけ+れんこん天

現時点で、後者の「セルフうどん」2社が店舗数、売上規模ともにフルサービス勢を先行。さらにここ数年で、丸亀製麺がはなまるうどんを一挙に引き離した。「セルフうどん浸透」という第一段階、「丸亀製麺の伸長」という第二段階が、うどん業界の構図を激変させてしまったのだ。

丸亀製麺、はなまるうどんの2社の店舗数・売上・利益は以下の通り。

  • 丸亀製麺:840店/1,148.5億円/183.5億円('24年3月期)
  • はまなるうどん:418店/292.3億円/17.2億円('24年2月期)

セルフうどん2社の1号店出店は、丸亀、はなまる共に2000年のこと。それ以前の「セルフうどん」は、讃岐うどんの本場・香川県以外では、いまひとつマイナーだったはずだ。なぜ、そこから四半世紀で「セルフうどん」業態が全国を席巻し、丸亀製麺が頭一つ抜けることができたのか。まずは「セルフうどんって何?」「その業態は儲かるの?」といった疑問を解説していこう。

セルフうどんは優秀なビジネスモデル

「セルフうどん」元祖は諸説あるものの、香川県では1968年開店の「竹清(ちくせい)」などから、都市部を中心に広く普及したとされる。

セルフうどんの店「竹清(ちくせい)」

ただ、県内に多くある業務用の製麺所(給食などへの卸がメイン)では「客が自分でうどん・天ぷらを取って、その辺の軒先で食べて帰る」というスタイルが早くから存在し、「その辺の軒先」が飲食店・セルフうどん店に発展したり、その辺の軒先のままであったり……。セルフうどんは、製麺所併設の店舗で自然と根付いていたシステムを、飲食店として分かりやすいフォーマットに変えたもの、といえるだろう。

業態としての「セルフうどん」のメリットは、「営業上の効率が良い」のひとことに尽きる。店側のおもな動きは「並べた天ぷらの補充」「会計」、うどんを茹でたり天ぷらを揚げたりと、まとめてできる作業が多い「調理」のみ。人件費も最小限で済む。あとは来店客が自発的に動いて、食べたらすぐ店を出てくれる。

高回転で多量の来客をさばけば、かけうどん1杯100円台、天ぷら1個60円(当時。それ以下もあった)でも利益は出る。ファストフードの基本である「うまい・早い・安い」「薄利多売」を絵に描いたような業態でもあり、飲食店のビジネスモデルとして、極めて優秀だ。

ただ、香川県内で「セルフうどん」多店舗展開を考えるような経営者は、あまりいなかった。店舗の多くが「家族経営」「製麺所や自宅と併設」といった条件で経費が安く済む個人店であり、競争してまで外部から参入するメリットがなかったのだ。

かつ、香川県民は朝・昼以外にあまりうどんを食べないため、多くが「早朝開店、昼過ぎ閉店」。夜営業で単価を上げることもできない。当時のセルフうどんは「家族を養うには十分、外部からの参入や多店舗展開には不向き」だったのだ。

そこに、地元のタウン誌連載が起点となった「第二次さぬきうどんブーム」が巻き起こる。ブームによる需要拡大もあって、「一日中営業するセルフうどんの店」として香川県に「はなまるうどん」が出店。一方の「丸亀製麺」は、父親が香川県出身だった縁でこういった業態を知り、ほぼ同時期に兵庫県加古川市に出店した。なお2社とも祖業はアパレル業(はなまるうどん)、焼鳥店(丸亀製麺)と、他業種・他業態からの新規参入組だ。

同じ業態なのに「丸亀」が「はなまる」を突き放した理由

セルフうどん業態で先行した丸亀製麺、はなまるうどんの味は甲乙つけがたい。なぜこの2社に、経営面で差がついたのだろうか?

丸亀製麺の店舗
はなまるうどんの店舗

理由の1つとして、丸亀製麺の「かけうどん+α」からの脱却がある。高単価獲得のきっかけは「肉盛りうどん」だ。

丸亀製麺の天ぷら

丸亀・はなまるの2社で、鮮明に違いが出ているのは「単価の差」だ。2強の平均客単価を見ると、丸亀製麺が570円、はなまるうどんが400~500円程度。2社の間には、「500円の壁」があるといっていいだろう。

単価が大きく伸びない要因は、従来のセルフうどん店の営業形態そのものにある。もっとも多い注文のスタイルは「うどん+α(天ぷら・おでん・おにぎり・稲荷寿司など)」。しかし、ベースとなるかけうどんは200~300円台、+αも100円台とあって、そこまで高単価には結びつかない。

かつては丸亀製麺も、「かけうどん小」ベースで客単価は500円少々にとどまっていた。しかし、2014年8月にフェア商品として投入した「肉盛りうどん」が転機になった。

従来の肉うどんの2倍の牛肉煮込みを別皿に、“肉”“盛り”に相応しい量を盛り付けた商品は原価が高く、どう経営努力しても「590円」。これまで400円少々であったフェアメニューの価格帯を大きく上回る「肉盛りうどん」投入に、トリドールは、「ここが勝負!」とばかりに初めてテレビCMを打つなど、これまでとは桁違いの販促策をとったという。

結果、売上は前年度比で売上115%を獲得、稀に見る増収・増益を勝ち取った。プレミア感があるフェアメニューの成功は「脱・かけうどん+α=単価アップ」の潮目であり、その後「利益率16%」(2024年3月期)という、驚異の高収益体制の構築に繋がっている。

一方ではなまるうどんは、あくまでも「かけ」「きつね」といった低・中価格帯の商品がベースとなっており、新商品の訴求や、高単価商品への誘導が丸亀製麺ほど定着していない。結果、2社の収益や成長性に差がついていると言えるだろう。

「セルフうどん」を“突き詰めた”丸亀製麺

丸亀・はなまるは「セルフうどん」の存在を、当たり前となるまでに全国に広めたからこそ、業界の2強となり得た。

丸亀製麺のセルフ台。ここでネギや天かすを取る

先がけて「セルフうどん」を導入していた香川県では、「客がプロ」とも言われるほど常連客の手際が良く、最後尾が見えないほどの行列でも、そこまで待たされない。うどんに限らず、セルフ業態は「顧客の理解」が最重要であり、丸亀・はなまる2社は「店内のシステムを理解してササッと動く顧客を育てた」からこそ、薄利多売で実販・利益を確保できたのだ。

丸亀製麺はさらに、この状態から「店を出るまで100歩歩くとして、70歩にすれば回転率を上げられる。その30歩をどのように減らすか」(「丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?」小野正誉著より)という、「セルフうどん」業態としての効率を突き詰める作業を行なったという。

国内の売上No.1店舗である羽田空港店などの繁盛店を中心に、「ネギ・天かすの置き台を複数設置」「お盆の下げ場の場所変更」など、混み合った店内で来客の動線を交錯させない工夫を積み重ねてきた。丸亀製麺が売上・実販と回転率を両立できた要因は、「セルフうどん」導入に加えて、オペレーションを突き詰めたことにあるだろう。

うどんブームを起源とした「製麺所のワクワク感」演出

丸亀製麺は来客が通る動線の近くに製麺機やうどんの茹で釜を置き、天ぷらも見えるところで揚げる。店によっては業務用のうどん粉(1袋25kg)が積み上げられ、まるで「ここ入っていいの?」という製麺所の奥の部分に足を踏み入れるようなドキドキ感がある。

丸亀製麺の創業者・粟田貴也氏(トリドールホールディングス代表取締役社長)は父が香川県出身であり、同氏の著書「感動体験で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦」では、製麺所でシンプルなうどんを食べて満足した体験を「これはどういうことなのだろう?」と考えを巡らせ、「製麺所の風情があるセルフうどん」として丸亀製麺を創業したと述べている。

丸亀製麺はシンプルなセルフうどん業態の効率だけでなく「製麺所のワクワク感」という演出(体験価値)を掛け合わせた。この施策が、「高単価商品を注文し、夕方にも夜にも来てくれる」というファン層の形成に繋がり、「単価が取れない」「昼営業以外に弱い」というセルフうどんの弱点をカバーできたといえるだろう。

丸亀製麺の店内に飾られている「讃岐富士」(飯野山)

実は丸亀・はなまるがチェーン展開を始める以前にも、香川県内の複数の実業家が「セルフうどん」全国展開を考えていたようだ。当時、筆者の父親(当時は香川県在住・実業家)が事業展開の可能性を県出身のコンサルタントに質問したところ、「同じことを言うてくる経営者は沢山おるがのぉ、土地が高くて長時間営業が必要な東京でセルフうどんは絶対に無理!」と、速攻で答えが返ってきたという。

同様のビジネスを考える経営者もいた中で、丸亀・はなまる2社の成功の要因は「セルフうどん・チェーン店化のファーストペンギン(先駆者)となった」こと。丸亀製麺はそれを「全国に通用し、ファンを獲得できるシステムにカスタマイズできた」からこそ、出店を加速できるだけの勢いを得たのではないか。

丸亀・はなまるの次は? 北九州発「資さん」は第三極になり得るか?

「セルフうどん」業態を普及させた丸亀製麺・はなまるうどん2社は、うどん店の業界地図を一変させた。しかし、後に続く「香の川製麺」「つるまる饂飩」などは100店舗に届かず、追走の気配はない。

丸亀製麺の麺は、店内で粉と水から作っているという
はなまるうどんの麺は、自社工場から直送しているという

そもそも、うどんという食べ物自体がメインになりづらく、競合相手は「うどん店」というより「和食店全般」だ。「こがね製麺」「こだわり麺や」など地元発のチェーン店や、さまざまな個人店が地域に根を張る香川県以外で、セルフうどんチェーンで成長の余地があるのは、丸亀・はなまる2社に絞られたと言っていいだろう。

その一方で、伸び悩むフルサービス業態にも新星が現れた。北九州市発祥のソウルフードとして知られる「資(すけ)さんうどん」が急激に勢力を広げ、間もなく関東進出を果たす。

資さんうどん大阪1号店(今福鶴見店)
北九州市発祥の「資さんうどん」。看板メニューは「ごぼ天うどん」

同チェーンを運営する「株式会社資さん」は、ローカルチェーンとしては破格の「240億円」という買収価格で、外食大手「すかいらーく」傘下入り。12月には千葉県八千代市へ出店し、東京・両国への出店も予定している。

店舗数としてはまだ70店少々ではあるものの、各地の新規出店・催事出店のたびに記録的な行列を記録するなど、SNSでの拡散力はすでに全国級だ。今後はすかいらーくの物件とインフラを活かし、各地への出店攻勢を早々に強めるだろう。

ただ、セルフうどん形態の丸亀・はなまると違って、フルサービスの資さんうどんは800円以上の定番メニューやセット・丼物にも強みがあり、キラーメニューの「ごぼ天うどん」以外でもしっかり売上を獲れる。丸亀・はなまるはあくまで「うどん屋さん」、資さんうどんは「うどんが美味しい和食ファミレス」といった立ち位置であり、そこまで食い合うこともなさそうだ。

とはいえ、ここまで「うどん店」に注目が集まることはなかった。丸亀製麺がこのまま独走するのか、はなまるうどん・資さんうどんが追走するのか。もしくは「うどん店」以外の飲食業態からライバルが現れるのか。今後の動きに注目したい。

宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。