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ゴアテックスの「洗い方」 脱水は省略OK
2024年12月14日 09:15
アウトドアウェアなどで使われる“生地”の「GORE-TEX」(ゴアテックス)。ウェアのメーカーやGORE-TEX ブランドは、GORE-TEX ウェアが「家庭で洗濯できる」「長持ちさせられる」という啓発活動を続けている。
一方、多くのユーザーはGORE-TEX ウェアを「洗わなくていいもの」、古くからのユーザーは「洗ってはいけない」などと認識していることが判明しており、「家庭で洗える」という事実がそもそも知られていない実態がある。
先日、そうした状況を報告したトークイベントの弊誌レポート記事「ゴアテックスは『洗って』」において、「洗える」ことや、「洗ったほうが長持ちする」というメーカーの見解を紹介したところ、多くの反響を集めた。
そこで今回、日本ゴアに追加取材を行ない、ゴアテックス ウェアを家庭で洗濯する際のポイントや注意点についてまとめた。
GORE-TEXとは
「GORE-TEX」(ゴアテックス)は、1976年に米国で初めて発売され、まもなく50周年を迎えるアウトドアウェアの“生地”のブランド。創業者ビル・ゴア氏の息子、ボブ・ゴア氏が、フッ素樹脂を伸ばして加工する技術を発見したことが始まりで、これを「GORE-TEX メンブレン」として服の生地に応用する(一般的には表生地と裏地の間に挟む)ことで、防水・透湿・防風を同時に実現、アウトドアウェアに革新を起こした。現在では生地表面の耐久撥水(DWR)加工とセットにし、「GORE-TEX ウェア」としてブランド化され展開されている。
高性能アウトドアウェアの代名詞にもなっている理由は、各ウェアメーカーの最終製品に対し、GORE-TEX ウェアとしての基準を満たしているかどうか、ゴア側で厳しいテストを課していることが挙げられる。これには雨などを想定する防水テストだけでなく、生地の引裂強度、摩擦強度などに対する試験も含まれるほか、プロ向けなどより高いカテゴリーの製品には横殴りの雨などで防水性をチェックするストームテストも実施され、これらをパスした製品だけが「GORE-TEX」採用を名乗れる。テストはラボの中だけでなく、登山家によるフィールドテストなども実施される。
こうした試験の徹底により、最終製品でも高い品質をキープしていることが、高性能アウトドアウェアの代名詞として支持される理由になっている。
なお、GORE-TEX ウェアを新品で買うと四角い大きなタグが付いているが、ここには「GUARANTEED TO KEEP YOU DRY」と書かれている。これはキャッチコピーではなく、部分的製品保証の対象になることを示すもの。防水、防風、透湿性に関して、満足できない場合は修理や交換、返金に応じるという内容で、品質への自信の表れになっている(耐久撥水加工は永続的に効果を維持することが難しいため保証対象外)。
脱水は省略してOK ゴアテックスの洗い方
GORE-TEX ウェアに代表される高性能なアウトドアウェアは、製品に貼り付けられている洗濯の取扱表示タグの内容と、日本の洗濯機メーカーの対応状況にズレがあり、家庭でケアを試みるユーザーが混乱する要因の一つになっている。
ウェアの取扱表示タグでは、「手洗い」の指定のほかに、洗濯機での洗濯が可能と表示する製品もある。先のイベントでも明かされていたように、ウェアメーカーは独自に、製品開発時に洗濯機での洗濯テストを実施している。ゴア側でも生地自体に数百時間におよぶ洗濯テストを実施し、耐久性のチェックを行なっている。
一方、日本の洗濯機メーカーは、防水性ウェアの洗濯を非対応としていることがほとんど。これは、脱水時に水が抜けにくいことによる異常振動や、それによる転倒事故の可能性などが主な理由。
この“すれ違い”に対する答えは、洗濯機メーカーの保証の観点では自己責任の範疇になるが、洗濯機で「洗濯~すすぎ」まで(自己責任で)行ないつつ、「脱水」はしない、という洗い方になる。
問題になることが多い脱水の工程は、そもそも防水性の生地のアウトドアウェアでは必要性が薄い。日本ゴアが店頭で配布する冊子でも、脱水は(1分以内など)短時間にとどめるか、洗濯機による脱水は省略してもOKと案内されており、水を切る程度で十分という。
また、ほかの洗濯物と一緒に洗っても問題ないが、その際は脱水工程の前に防水性ウェアだけを取り出すなどする。単独で洗濯する場合なら、洗濯コースのカスタマイズ機能などで、洗濯とすすぎのみで終了する内容にする。洗剤や汚れが残らないよう、すすぎは通常の2倍を目安にすることが推奨されている。
生地のからみを防ぐ観点で、ウェアを洗濯ネットに入れるのは推奨される。洗剤は一般的な液体の中性洗剤のみを使用し、柔軟剤は非推奨。粉の洗剤は溶け残りなどの可能性があるため非推奨となる。
乾燥工程は、陰干しのほか、一部製品は取扱表示タグに従い乾燥機での乾燥にも対応する。
先のイベントでも紹介されているように、水の弾きが悪くなるなど、表面の耐久撥水加工の効果が落ちてきたと感じたら、乾燥機で20分程度温風乾燥にかけるか、当て布をしてアイロンをかけることで、撥水機能を回復できる。耐久撥水加工は簡単には剥がれないため、カジュアルな利用ならこうした洗濯や熱で回復できるケースが多い。
洗濯機で洗濯すると、縫い目の防水性を確保するために貼られているシームテープが剥がれてしまうというケースもあるが、日本ゴアによれば、これはシームテープに使われる接着剤に皮脂などの汚れが浸透するといった、長期間汚れにさらされたケースが多いという。襟元や手首など肌が直接触れる部分は特にこの傾向が出やすいとのこと。数年間洗っていないといった製品は、手洗いであってもシームテープが剥がれてしまうケースがあるとしており、新しいうちからこまめなケアが重要としている。
なお、汚れの蓄積により洗濯でシームテープが剥がれるコンディションのウェアは、仮に洗濯せず本格的なアウトドアアクティビティに用いると、十分な性能を発揮できず、命に関わる危険性につながることも予想されるため、致命的な劣化のチェックとして洗濯が機能した、という考え方もできるという。
2025年に転換期を迎えるGORE-TEX、カギはこまめなケア
GORE-TEX ウェアは、カジュアルなウェアを含む「GORE-TEX プロダクト」、トレッキングや登山に対応する「GORE-TEX Performance プロダクト」、アイスクライミングなどを含む極限環境に対応する「GORE-TEX PRO プロダクト」の3つのラインナップで展開されている(防水性を謳わず、防風性を打ち出している「WINDSTOPPER プロダクト」もある)。
GORE-TEX メンブレンの素材は近年までePTFEが使われてきたが、PFASフリー化の流れを受け、延伸ポリエチレン(ePE)へ素材の変更を決断。すでに2022年から一部ウェアで導入されており、2025年の秋冬からは、最も高性能な「GORE-TEX PRO プロダクト」もePEに切り替わることで、全面的な移行が完了する形。
またこれに先駆けて、同じくフッ素樹脂加工だった生地表面の耐久撥水(DWR)加工は、PFASフリー化を実現する原料に変更され、2018年から順次導入されている。これらは商品説明のほか、商品タグの表記でも確認できる。
GORE-TEX メンブレンについては、素材がePEに切り替わることで、軽くてしなやかになるなど、従来よりメリットがある。一方、耐久撥水加工については、従来のフッ素系より劣る部分がある。
具体的には、PFASフリー化された耐久撥水加工では「撥油性」が劣る点が挙げられるという。皮脂など油に由来する汚れが残りやすくなるため、撥水のメカニズムである「撥水基」が寝てしまい、結果として「撥水性を維持できる期間」が従来よりも短くなる。
先のイベントでも案内されているように、撥水性が落ちた状態は透湿性に大きな影響を及ぼし、ウェア自体の性能低下につながる。本格的なアウトドアアクティビティでは命に関わる危険性もあるほか、今後本格的に切り替わる「GORE-TEX PRO プロダクト」は極限環境での使用も想定した製品群となり、本来の性能を保つことはより重要になる。
先のイベントでトップブランドが合同で訴えた背景には、こうしたこまめなケアが今後より一層重要になるという点も影響している。
アウトドアウェアのメーカーやそのユーザーの間でも関心が高まる「サステナビリティ」の観点でも、ひとつのウェアを長持ちさせて長く使うことが、環境負荷が低くサステナビリティに貢献できると紹介されている。汚れで致命的な劣化が発生して買い替えなくてもいいように、普通の衣服同様のこまめなケアを心がけたい。