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モバイル版Epic Games Store開始 アップル・グーグルの“外”「ストア」の価値

8月16日、Epic Gamesは、新しいスマートフォン向けの「Epic Games Store」を開始すると発表した。AndroidとiOSの両方に対応するが、Android向けは日本を含む全世界でスタートし、iOS向けはEU圏でのみ展開される。

Epic GamesのTim Sweeney CEOらはオンラインで取材に答え、ストア構築の意味や方向性などを語った。

DMA法に対応 日本でも2025年ストア開設

まず前提となる条件を解説しておこう。

EU圏ではデジタル市場法(DMA)規制対応のため、スマートフォンにおいて、OSプラットフォーマー以外が提供する「サードパーティストア」を許容する必要がある。

Androidにはすでにその仕組みがあるが、iOSについては、EU圏での利用に限定し、新しい仕組みが導入され、すでにいくつかの代替ストアがスタートした。今回のEpic Games Storeについても、このフレームワークを使って提供される。

今回のストアでは、Epic Gamesの「Fortnite」のほか、「Rocket League Sideswipe」と「Fall Guys」が提供される。どれもPCや家庭用ゲーム機では人気のタイトルだが、モバイル向けに今回、新しい要素を加えた形で提供が開始される。

Fortnite
Fall Guys
Rocket League Sideswipe

Fortniteは過去にAppStoreやGoogle Play Storeでも配信されていた。Epic Gamesが課金などの自由度強化を求め、「プラットフォーマーの課金ルールに基づかない」実装を進めた結果、アップル・Googleから配信が停止され、訴訟にもなっている。

だがEUでのDMA法の成立により、ルールに基づいて代替ストア構築が可能となったので、その枠組みの中でFortniteなどの配信がスタートするわけだ。

まずはこの3本からのスタートとなるが、Epic Gamesとしては、今後年末に向けて、他のサードパーティー製ゲームの配信ができるようにしていく予定だという。

また、Epic Gamesがサービスを提供するゲームは、他の事業者の代替ストアでも配信される。

今回は、いち早くEU圏で代替ストアを開始している「Altstore」と「Aptoide」にもEpic Gamesのゲームアプリ配信を始めるという。

Epic GamesのSweeney(スウィーニー) CEOは今回の件について次のようにコメントした。

Sweeney CEO(以下敬称略):現在はEUでアップルに代替ストア公開の許可を求めていて、今日、Fortnite(フォートナイト)がヨーロッパのiOSに登場します。

私たちは、来年日本で、新しい法律が発効し、アップルがiOS上の競合ストアを許可することを余儀なくされるようになり、日本でフォートナイトをiOSに導入することを楽しみにしています。願わくば、これらのエコシステムが開放されるにつれて、時間の経過とともに世界中にフォートナイトが戻ってくることを願っています。

Epic Games Tim Sweeney CEO

「日本での展開」というのは、6月に成立した「スマホソフトウェア競争促進法」を受けてのもの。2025年末までに施行される予定であり、Sweeney CEOのいうとおり、来年の今頃にはスタート時期が見えている公算が高い。

この流れに乗って日本での代替ストア展開を考えているのはEpic Gamesだけではない。エミュレーションソフトウエア「Delta」の開発者であり、「Altstore」の共同設立者であるRiley Testut氏は、代替ストアを運営する目的について次のように述べる。

Altstore

Testut:目的は、Altstoreを1990年代のシェアウェアのメンタリティの現代版をもたらすことです。私たちは、すぐに世界中のどこからでもアプリを入手し、公開できるようにしたいと思っています。

Altstoreのもう1人の共同設立社であるShane Gill氏は「Patreonの扱いも1つの課題だった」と主張する。Patreonは開発者とユーザーをつないで直接支払いをするプラットフォームであり、少額支払いの自由度を高めるものだ。

Gill:私たちはすべてのクリエイターが「自分たちの作ったものを扱い続ける」ために、何%もの手数料を取ることはありません。独立した開発者や小規模な人々を支援することが私たちの目標であり、そのためにPatreonを提供してきました。なぜなら、彼らの懸念は長い間アップルによって無視されてきたからです。

Aproide CEOのPaulo Trezentos氏は、ここまでに日本にも働きかけを行なっていた、と説明する。

Aproide

Trezentos:日本は主要なマーケットの1つなので、こちらからも政府に色々な働きかけをしました。そこでは、法律に関わる文書のドラフト作成支援も行なっています。

日本もEUに倣い、アップルがiOSをより多くのデベロッパーにオープンにしていくことを期待できると思いますし、我々もその大きな波に乗っていきたいと考えています。

我々も、日本でパートナーと共に日本にローカライズされたストアをスタートする予定です。

「たくさんの店があるのが自然」 インストールプロセスに不満も

ではEpic Gamesはどのくらいの規模を目標としているのか? 同社のバイスプレジデントで、Epic Games Storeを担当するSteve Allison氏は「かなり野心的な目標を立てている」と話す。

Allison:PC市場参入から6年で、私たちは7,500万の月間アクティブユーザーとほぼ10億ドルの収益を得ています。

金曜日には、ここヨーロッパでAndroidとiOSでのストアを開始し、PC・Mac・Android・iOSを横断する初のマルチプラットフォームストアとなります。PCのプレイヤーはAndroidにシームレスに移行して、PCでライブラリを見たり、買い物をしたり、Androidでの購入に使用できる特典を獲得したりできるのです。

私たちは年末までにAndroidとiOSで1億の新規インストールを達成することを目標としています。

こうしたストアの展開には課題もある。

大きな問題は、「アプリストアを切り替えてくれる、併用してくれる人が実際にどれだけいるのか」という点だ。

Epic Gamesら3社もここを問題視する。だがそれは「市場がない」という話ではなく、「まだアップルやGoogleの提供する仕組みがアンフェアだからだ」と彼らは指摘する。

Sweeney:アプリストアをダウンロードすれば使えるようになるわけですが、これは通常のアプリダウンロードよりもずっと手間がかかります。Androidでは12ものステップが必要です。iOSはさらにひどく、15ものステップが必要です。その間には、不必要に怖がらせ、インストールを思いとどまらせるようなスクリーンも出ます。こうした仕組みは変更せねばなりません。

EPIC Game Storeのインストール方法(iOS)

Testut:アップルはユーザーインターフェースの専門家だと思っています。だからもっと使いやすくシンプルな方法があると思うのですが、今はそうなっていませんね。

筆者は安全性の観点から、一定の警告は必要だろうと考える。だが、ストア自体も審査が行なわれる以上、段階は減らしていいはずだ。確かにここではもう少し「公正な競争」は必要だろう。

一方で別の視点もある。代替ストア同士の競争だ。Epic Gamesは他の代替ストアにゲームを提供する。すなわち、競合とも共存する形になるわけだ。市場開拓の面で、これはどのような意味をもつのだろうか。

Sweeney:Epicは多くのビジネスを展開しています。私たちはゲーム開発者です。Unreal Engine Technologyを作ったり、Epic Game Storeのような、他の開発者向けのサービスを作ったりしています。

ゲーム開発者としては、世界中のできるだけ多くのユーザーにリーチしたいと思っています。ユーザーにリーチするのに役立ち、開発者に素晴らしい条件を提供してくれるストアであれば、喜んで協力します。

だから私たちは、ストアの競争に非常に興奮しています。

現実の世界では、通りを歩いているとたくさんの店があり、通りにはたくさんの店があります。どの店も違うものを売っています。価値観も違いますし、メリットも違います。

Testut:たしかに、ユーザーはデフォルトのストアに慣れていますから、切り替えたいと思わせるにはかなりの時間がかかります。

私たち全員が協力することで、「私たちは消費者のために利益を得ようとしているという同じ側にいて、アップルやGoogleは必ずしもその側にいるわけではない」という強いメッセージを送ることができます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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