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スキマバイトを創った「タイミー」上場 目指すは「圧倒的ナンバーワン」

タイミー 小川 嶺代表取締役

働きたい人と企業をマッチングする「スキマバイト」トップ企業のタイミー。スキマバイトの代名詞とも言える同社が、7月26日に東証グロース市場に上場する。

アルバイトやパートでもなく、応募に履歴書も要らない新たな「スキマバイト」(スポットワーク)という働き方を作り出したタイミーだが、2017年の創業から約7年で770万人が登録。日本の労働人口は6,500万人といわれているが、その9人に1人以上が使うサービスに成長した。

タイミーはなぜ新たな市場を作り出せたのか。そして上場後の展開をどう考えているのか。タイミー創業者で代表取締役の小川 嶺氏に聞いた。

3合目のタイミー

スキマバイト(スポットワーク)は、日付や時間を指定して、1日や短時間の仕事を探せるサービス。アルバイトやパートのような面接や履歴書などが不要で、働く場所を選んでマッチングが成立すれば、翌日でもすぐに働ける。

この市場を“創った”のはタイミーといえるが、パーソルによる「シェアフル」など競合サービスも存在しており、この春にはメルカリが「メルカリ ハロ」で参入。さらにリクルートも今秋に「タウンワークスキマ(仮称)」で参入を予定しているなど、異業種や大手の参入も相次いでいる。

タイミーによれば、スキマバイトサービスの市場規模は、主要3業種で約1.2兆円(物流業界2,000億円、飲食業界3,200億円、小売業界7,100億円)。全産業は約3.9兆円と推計している。タイミー自身の2023年10月期の売上高は161億円、流通総額は545億円で、売上高成長率は前年比160%以上と急成長を続けている。上場でこの成長を更に加速されていくとする。

小川社長に、「上場でタイミーは何合目ぐらいまで来たか」と尋ねると、「3合目ぐらいでしょうか」と答える。

「やりたいことを形にできた点では『3合目』。『こういうものが有るべき』ということを世の中に認知いただき、新しい市場を作って上場まで来た。この先は、競合が増えてきますが、市場を作った“後”で圧倒的ナンバーワンとして成長するのが『6~7合目』。その先のグローバル展開が頂点の10合目。今は7年目ですが、20年ぐらいでそこまで行きたいと思っています」

タイミーを開始した当初、ここまでの大きなビジネスになると思っていたのだろうか?

「いえ全然。市場規模が何兆円とか、人材派遣市場から取っていくとかは全く考えていませんでした。市場から“逆算”した発想ではなく、自分のバイト経験からも『世の中はこうなるべき』『こうなっていく』という確信はありました。働き方改革があり、中長期的には人手不足になっていくのは明らかで、そこにマッチした働き方が必要になる。そのイメージは創業時から強く思っていました」

創業初期は、「まずは個人店から使ってもらっていましたが、簡単ではなかった。ドタキャンや、いい人が取れないなどの声もありましたし、問題は山積みでした。小さな改善の積み重ねをやり続けてサービスを磨いてきました」という。

その中でも最初に手応えを感じたのは、2019年の夏頃。大手飲食店での導入が決まったことだ。

「その頃から求人媒体に出しても『人が集まらない』という状況が増えてきた。でも『タイミーだったら集まる』ので価値を感じているとの声が、中小だけでなく大手でも飲食業界を中心に増えてきました」

また、大企業が相手になるとビジネスも変わってくる。

「大企業との取引になると、要望も全く変わりますし、請求方法などの対応も変わります。業種や規模など、セグメントごとに要望は全然違います。個人店・中小・大企業などの規模の違い、飲食などの業界、その中でも居酒屋チェーンではこれが必要など。その細かなボックスの中で事例が生まれると、必ず再現性のある形が見つかります。それがしっかり見えてきたので、2019年11月にテレビCMを打ちました。常に“事例”をもとにサービスを広げてきました。業種・規模・エリアなど何十パターンものセグメントで全て事例を作っています。そこがタイミーが成長を続けてきた理由です」

当初、飲食業を中心に展開してきたタイミーだが、2020年からのコロナ禍では急減速。ただし、コロナ禍をきっかけに物流業界を強化するなど、状況に応じた経営を行なってきた。現在、業種別では、物流(44%)、飲食(26%)、小売(21%)の「3大産業」を軸として拡大を続けてきている。

タイミーの味方は「時代」 IPOで業種を広げる

タイミー以前にも、求人媒体・求人サービスは多数あった。その中でタイミーはなぜここまで成長してきたのだろうか? タイミーの新しさや強みはどこにあるのだろうか?

「時代の大きな変化があると思います。従来の求人媒体は、人手が余っていた市場で作られたサービスです。つまり、『応募してください。その中から私達が選びます』という企業目線で作られている。一方、タイミーは、人手不足の時代のサービスです。人手不足の時代は、働き手に寄り添うサービス、働き手が選ぶサービスが必要です。面接も履歴書もなく、すぐに働けてすぐにお金がもらえる。がんばった分だけ評価が高まってくる。サービスの思想が全く違いますし、ポジションも違うと思っています。すでに学生の時からタイミーでしか働いたことがない、という人も、相当いらっしゃいます。(Webの)検索ボリュームでもタイミーが他社の媒体を超えていますし、大きな変化が生まれていると思っています」

前述のように、これまでのタイミーは、物流・飲食・小売を中心に展開してきた。上場をきっかけとし、より多くの業界に対応していく。

今後、期待している業界としては、「ホテル業界はインバウンドが伸びていて、万博もあるので大きく伸びると思っています。あとは介護や保育などの専門領域も人手不足が顕著になっていきます。そこでもタイミーが力添えしていきたいと思っています」と語る。

ただし、参入できていない業界は多い。例えば、警備業、建設業、製造業などは大きなマーケットがある。しかし、業法(法律)や慣習などの面で、タイミーによるマッチングが難しい。

例えば建設業では、法律上タイミーでのマッチングは禁止されている。また、製造業でもマッチングしてすぐに仕事をはじめるのは難しい。観光では繁忙期は1カ月など長く働いてほしい的な要望が高いという。

「大きな市場があるので、そこに対してプロダクトを磨いていく。働くインフラとして、『自分が働きたい』と思った場所でワンクリックで働ける。それをあらゆる業種に広げていきたい」

「働ける場所」を増やすことで、「今の10倍ぐらいに市場規模は拡大する」と見込んでいる。

手数料30%は高くない タイミーが選ばれる理由

タイミーはマッチングに対して手数料が発生するビジネスモデルだ。働き手の報酬金額の30%を「サービス利用料」として都度徴収する。働き手に支払われる報酬が1,000円であれば、300円とシステム手数料を事業者から徴収する形となる。手数料としては高いようにも思えるが、タイミーからの見え方はどうだろうか?

「30%を何の費用と捉えるかだと思っています。タイミーではスカウトで引き抜きもOKですし、手数料は派遣会社より安い。タイミーでは実際に働いてもらって、『働きぶり』がわかるので、そこからスカウトできます。これは求人媒体ではできないこと。そうした本質的な価値を見て、クライアントさんが使い続けてくれると思っています」

また、ワーカーの正社員登用を支援する新規事業「タイミーキャリアプラス」も開始している。こちらも手応えを感じているとのことだ。

タイミーのワーカーを正社員登用すると、タイミー上の働き手が減ることになるが、「タイミーは1年間で数百万人登録者が増えていますので、タイミー側で直ぐに働く人がいなくなるという状況ではない。また、タイミーとしても働く可能性を広げていくことを支援したい。実は正社員になりたいと思っている人に対して、しっかり道を示すこと。タイミーでがんばった人を後押ししていくのも役割。大企業からもいい人が取れたといってもらえるし、求職者からも嬉しいという声をもらえる。三方よしだと思っています」。

タイミーキャリアプラス

競合は意識しない 「稼働率」という強み

一方、2024年に入ってからは、スキマバイトへの新規参入も増えている。春には「メルカリ ハロ」がスタートし、秋には求人媒体大手のリクルートの参入も予定されている。競合対策、そしてタイミーの強みはどこにあるのだろうか?

小川社長は、「強みは人が集まること」と断言する。

「企業は人手不足だからタイミーを使っています。安さではなく、『人が集まりますか?』という問いが一番大事です。タイミーの稼働率(募集に対して実際にワーカーが働いた割合)は88%です。他社は大手でも50~60%程度なので、タイミーはダントツです」

「仮にユーザーが500万人登録していても、稼働率が高くなるわけではありません。まずはエリア密集度を高める必要があります。要するに東京の案件数に対して、東京のワーカー数がバランスよく保たれる必要があります。タイミーは6年間、47都道府県で地道に在庫バランスを取りながら、マーケティングのチューニングを行なってきました。これの意味は、既存ワーカーの体験が毀損されず、リピーターの満足度が高まり、使い続けてくれるということ。ワーカーのみなさんが使い続けてくれるためには、在庫数(働く場所)の担保が必要です。それを担保せずにユーザーを増やすと、既存の人が働けなくなってしまう。それでは意味がないんです。ここがこの事業の難しいところで、タイミーがうまくやってきたところです」

エリア密集度の制御など、細かなオペレーションやノウハウこそがタイミーの強みであり、一朝一夕には、真似ができない部分だと小川社長は語る。

もう一つの理由が、「いい働き方をした人のマッチングの仕組み」だ。タイミーにはワーカーと求人側の相互評価の仕組みがあり、評価が貯まると「バッジ」を取得でき、高待遇が得られる。こうした相互評価の仕組みをしっかり機能させるためにも、「稼働率の高さ」が重要だという。

その上で重要になるのが、営業とサポート体制だ。タイミーでは従業員約1,000人のうち、600人が営業人員。全国で14拠点を持っており、どこの店であればタイミーが使えるかを細かく確認している。また、営業スタッフがタイミー導入と働き方の「マニュアル作成」まで担うこともある。こうした丁寧な開拓とコミュニケーションにより、加盟店を増やしている。

小川社長も「この営業体制をすぐ作れるかというと、なかなか難しいのではないでしょうか」と語り、現状タイミーにおいて競合参入の影響は「ない」という。

「マーケットもまだまだ大きくなりますし、競合を意識する段階ではない。自分たちの世界観とかやるべきことをやっていく」

また、タイミーの自信の裏には、新規事業者にとっての「参入障壁」もあるようだ。

例えば、1つの事業者で働いていいのは「月88,000円まで」という制限がある。タイミー以外のサービスを使って募集もかけられるが、1つの事業所が複数のスキマバイトサービスを使って、あるユーザーの合計が88,000円を超えた場合、事業者側には社会保険加入の義務が発生する。

事業者が複数サービスを使い、サービス間で働き手を“名寄せ“してこうした管理をするのは困難かつ面倒だ。そのため、新規参入が相次いでも「事業者が複数のスキマバイトを使い分ける」というケースは「それほど広がらないのではないか」と見ている。

これからのタイミー

上場後のタイミーが目指すのは、業界の拡大と「圧倒的ナンバーワン」だ。小川社長は、「参入できていない業界もあるが、そこに対してプロダクトを磨いて、業界を増やしていく。働くインフラとして、『自分が働きたい』と思った場所でワンクリックで働ける『大人版キッザニア』のようなものを目指したい」と語る。

加えて、新規事業も強化していく方針だ。上場申請書では、求人以外のデータを活用した新規事業についても言及している。

具体的には、ワーカーに対しては少額融資、決済、資産運用といったFintech領域のソリューション。クライアントに対しては人事領域のBPO(業務プロセス委託)、RPO(採用代行)といったHR Tech領域のソリューションを想定し、M&Aなども検討していくという。

小川社長は、「タイミーではマッチングしたユーザーへの賃金を立替えて支払います。その中で、返済能力がある人にはローンを提供するなど、関連する領域のサービスのライセンスを取ってやっていくイメージ」と説明。タイミーが持つデータやアセットを活用した新規事業に取り組む考えだ。

また、小川社長が強調したのは、この「立て替え払い」の重要性だ。事業者からの支払いの前に働き手に支払いを行なうため、大きな資金が必要となる。スタートアップなので借入は難しく、資本効率も悪いので「やらない」という意思決定もありえた。しかし、タイミーが実現したかったのは「働いたらすぐにお金をもらえる」世界。そのためには、立て替え払いの実現は必須だったという。

小川社長は、「立て替える場合、会社が大きくなると莫大な資金も必要となるが、『その頃には事業が成功しているはず』と突き進んだ」という。また、給与の立て替え払いも本来は禁止されており、法律では「給与は雇用者に直接払う」と定められている。ここでも、グレーゾーン解消制度を使って厚生労働省から適法であるとの回答を得た。これらもタイミーによる成果であり、例え法律上の課題があっても、「あるべき姿や思想をまっすぐ主張できるものであれば、理解されるはず」とも語る。

上場により、Fintechなどの新規事業の強化も予定しているが、軸足はあくまでタイミー本体の拡大だ。

「タイミーでは、強固なビジネスを作れたと思っています。タイミーを伸ばしていくなかで、そのアセットをうまく使って成長を加速していく」

臼田勤哉