トピック

パナソニック白物家電の大転換 質も追う新ボリュームゾーン商品

パナソニック 品田正弘CEO

パナソニックで白物家電事業を担当するくらしアプライアンス社の2023年度の売上高は前年比1%減の8,887億円、調整後営業利益は33億円減の495億円と減収減益になり、利益計画では、公表値に対して100億円規模の大きな未達だ。また、2021年度に国内トップシェアだった冷蔵庫は、2023年度には2位に落ち、電子レンジも1位から2位に、炊飯器は2位から3位へと落ちた。

こうした厳しい状況を捉えて、パナソニックの品田正弘CEOは、「くらしアプライアンス社は、事業環境の悪化に加えて、競争力強化の取り組み不足や遅れが原因となっている」と指摘。また、パナソニック くらしアプライアンス社の堂埜茂社長は、「アフターコロナの需要変化を完全に読み違えた。また、商品競争力が明らかに劣後し、シェアがダウンした。国内白物家電事業は、建て直しが必須の状況にある」と強い危機感を示す。

ドラム式洗濯乾燥機はトップシェアを維持。実需連動SCMで先行した

「価格競争力」というパナソニック白物家電の課題

パナソニックにとって、国内白物家電事業の巻き返しは、最優先課題だ。2024年度は、国内白物家電を「競争力強化途上の事業」に位置づけ、テコ入れを図ることになる。

巻き返しの鍵になるのが、3つの取り組みとなる。

ひとつめは、グローバル標準コストの導入による価格競争力の強化である。

グローバル標準コストでは、中国大手メーカーの商品を徹底的にベンチマークし、これらメーカーの部品や材料を採用することや、可能な限りその部品やモジュールをラインアップ間で共用化するといった取り組みを進めることになる。

ここ数年、中国市場で実践してきた手法であり、「日本の過去の常識を排除して、原価構築の新たな考え方を徹底的に導入した。その結果、中国国内において、中国メーカーと価格で伍して戦えるような体質に変革することができた」と、堂埜社長は語る。

2023年11月まで、パナソニック中国・北東アジア社の社長を務め、グローバル標準コストの導入をリードしてきた堂埜氏を、新たにくらしアプライアンス社の社長に据えたのも、国内白物家電事業にこの仕組みを持ち込むのが狙いだ。

堂埜社長も、「グローバル標準コストの導入を高速実現するために、私が中国から呼ばれたと思っている。この施策は、日本市場においても聖域なく導入していく」と強い意思をみせる。

グローバル標準コストは、設計段階から取り入れる仕組みのため、2024年度下期に投入する商品から採用されることになりそうだが、2024年度だけで129億円のコスト削減効果を見込んでいる。

たとえば、5ドア冷蔵庫では、グローバル標準部材の採用とともに、機能の特化や自社品質基準の改定により、冷却システムの仕様見直および多重安全設計の最適化を実現。グローバル最安サプライヤーを活用した部品調達により、現行モデルに比べて、原価を20%削減できると見ている。

冷蔵庫はシェアを2位に落とした。5月に発売したプレミアムモデルのCVタイプで巻き返しの狼煙をあげる

「グローバル標準コストの仕組みは、2027年度までにすべてのカテゴリーに取り入れ、これができない商品はディスコンする。まずは中国勢との価格競争から逃げない体質にすることを最優先に取り組む」と語る。

ここでいう中国勢とは、シャープや東芝ライフスタイルといった中国系資本の国内ブランドや、中国のODMをフル活用している日本の中堅メーカー、流通各社のプライベートブランド品などが含まれる。

プレミアムシフト→「ボリュームゾーン再考」へ

2つめは、ボリュームゾーンの強化である。

これはグローバル標準コストの取り組みとも連動するものともいえ、これまで「プレミアムシフト」を前面に打ち出していたパナソニックの国内白物家電事業にとって、大きな方向転換となる。

パナソニックの品田CEOは、「これまで手薄だったボリュームゾーンを強化し、価格競争力を強化したモデルの展開や、流通向けプライベートブランド商品の提供を行なう」と語る。パナソニックが国内白物家電事業において、ボリュームゾーン戦略を明確に打ち出すのは例がない。

ただ、パナソニックが打ち出すボリュームゾーン商品は、単に低価格であるというわけではない。

「顧客にとって不要な機能を大胆に取り除くことで、コストダウンにつなげるとともに、顧客にとってわかりやすく、使いやすい商品に生まれ変える。価格差や機能差の明確化を図るとともに、必要な商品仕様を研ぎ澄ました引き算の商品企画を実現する」というのが、パナソニックが掲げるボリュームゾーン商品の定義になりそうだ。

なかには、中国やアジアで展開しているミッドレンジクラスの商品を、日本市場向けのボリュームゾーン商品として適用するケースもあるという。

さらに、欠品なく届けるSCMの仕組みや、全国の拠点を通じた顧客サポートも活用。これもボリュームゾーン商品での差別化になるとする。流通向けプライベートブランドの展開でも、同様にパナソニックのサポート拠点で対応することも想定している。

中国の景気低迷によって、中国家電メーカーは海外戦略を加速しており、日本の家電市場もその対象になろうとしている。これらの対抗策として、そしてシェア拡大の一手として、ボリュームゾーン戦略は重要な意味を持ちそうだ。

「指定価格制度」の成功とその後の課題

3つめが、新販売スキームの拡大である。

これは、「指定価格制度」と呼ばれるパナソニックが先行した取り組みであり、2023年度実績では販売金額で38%を占め、2024年度は41%にまで高める考えだ。

新販売スキームの拡大は、プレミアムゾーンの強化と捉えることができる。

パナソニックの品田CEOは、「2022年度までは、メーカーが価格を設定することに賛否があったが、2023年度はほぼすべての流通、チャネルにおいて、理解が得られ、高い評価を得ている。腹落ちが得られた1年であった」と振り返る。その背景には、販売店の粗利が増えたほか、在庫負担がなくなりキャッシュフローの改善につながるなど、販売店がメリットを実感できたことが大きいという。パナソニックにとっても、限界利益率が10数%高まり、在庫処分費用も削減。2年間の利益効果は100億円規模に達したという。

実際、ヘアドライヤーナノケアでは、約5万円という価格設定にも関わらず、約1年半に渡って価格は1円も下落せずに推移。それに対して、新販売スキームに該当しないヘアドライヤーでは40%も値下がりしており、大きな差が生まれている。

「まったく値下がりをしなかったのは、ヘアドライヤーナノケア、パームインシェーバー、食洗機の3つのカテゴリーであり、全体の15%程度になる」という。

1人暮らし向けの食洗機のSOLOTA。ヒット商品になっている
ヘアドライヤーナノケア。新販売スキームの成功事例のひとつ
パームインシェーバーも価格改定はしなかった。累計販売台数は10万台を突破

だが、言い換えれば、残りの85%の商品では、一度設定した指定価格を値下げしているということになる。

「新販売スキームは、他社に負けない商品力が前提となり、効果が発揮されるも施策である」と、品田CEOが語るように、商品力がないものは、むしろ苦戦するケースもある。

たとえば、電子レンジは、約13万円の価格設定で、多機能な商品を投入したものの、需要につながらず、なかには発売1カ月後に指定価格の設定を下げざるを得ない商品もあったという。

品田CEOは、「新販売スキームは、商品力を持たない商品をふるいにかける狙いもあった。ふるいにかけて、お客様に支持される商品を、すべての事業体が作れるようにしたい」と語る。

今後は、より競争力を高めるために、プレミアムモデルとなる新販売スキーム対象商品にも、グローバル標準コストの仕組みを採用することになる。

パナソニックの家電は立て直せるか

パナソニックでは、この3つの取り組み以外にも、2024年度の施策として, 「実需連動SCMプロセスの拡大」や「顧客接点強化によるビジネスモデルの転換」、Z世代と元気なシニア層を対象にした「D2C(Direct to Consumer)による物販構成比の拡大」、生成AIなどを用いた顧客分析による「ロイヤルカスタマーの醸成」などにも取り組む。

2024年度は、中期計画の最終年度にあたる。この1年の巻き返しが、次期中期計画の成長戦略につながる。

大河原 克行

35年以上に渡り、ITおよびエレクトロニクス産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ウェブ媒体やビジネス誌などで活躍中。PC WatchやクラウドWatch(以上、インプレス)、ASCII.jp (角川アスキー総合研究所)、マイナビニュース(マイナビ)、ITmedia PC USERなどで連載記事を執筆。著書に、「イラストでわかる最新IT用語集 厳選50」(日経BP社)、「究め極めた省・小・精が未来を拓く エプソンブランド40年のあゆみ」(ダイヤモンド社)など