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「完全メシ」の拡大・進化が止まらない 売れ筋はガッツリ系? カラムーチョ?

2022年5月30日の発売以来、ラインナップも販路も拡大している日清食品の「完全メシ」。厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準」で設定されている33種類の栄養素とおいしさのバランスを追求したブランドです。たんぱく質、脂質、炭水化物の三大栄養素のほか、ビタミンやミネラルがバランス良く整い、しかも味がおいしいので、毎日続けて食べられるのが魅力です。

発売から1年半以上が経った現在の状況や今後の展望、さらには売れ筋の商品まで、日清食品 常務取締役の藤野誠さんに話を聞きました。

日清食品 常務取締役 藤野誠さん

発売から1年半でラインナップも販路も拡大

「発売当初はカップ麺などの常温商品をECサイトのみで販売していましたが、約半年後には全国のスーパーなどでもお買い求めいただけるようになりました。また同じ時期に、『冷凍 完全メシ』をECサイトで発売しました」

2023年の春にはカップ麺などのラインナップを拡⼤したほか、ECサイトで販売する冷凍 完全メシも10品以上のメニューを取り揃えました。また、同9⽉には店頭販売用の冷凍 完全メシも発売しました。

「その他に進めているのが、健康経営を推進する企業に向けた社食事業です。社員食堂のメニューに完全メシを加えるお手伝いをしているほか、社員食堂がない企業には冷凍 完全メシの自動販売機の導入を提案しています」

日清食品の東京本社に置かれている冷凍 完全メシの自販機。パスタやご飯物など種類も豊富。隣には電子レンジが置かれているのですぐに調理して食べることができる

1900万食突破は想定内。まだ開拓すべきユーザー層がある

現在の累計販売食数を聞いてみると、「2023年12月現在で約1,900万食を突破しました」と藤野さん。この数字は想定内だったのでしょうか?

「結果としてはほぼ想定通りです。ただ一部の商品に関しては、やり方次第でもっと売上を伸ばすことができたのではないか、と時間が経って見えてきた部分もあります。当初想定したターゲットと実際の購買層に多少のズレがあったりもしたので、そうしたことも踏まえてプロモーションの方向性を変えたりすれば、もっと伸ばすことができると思っています」

そのひとつに挙げたのが冷凍 完全メシです。元々、完全メシは健康診断の数値が気になりはじめる30〜40代の男女をターゲットとしていましたが、最初に即席麺と即席ライスをメインに展開したこともあり、少し男性寄りのブランドイメージがついていました。しかし、ジャンルによって購買層は変わってくる、と藤野さんは続けます。

「冷凍 完全メシは⼥性のお客様の反応がとてもいいんです。それを受けて、2023年12⽉にパッケージデザインを⼀新しました。自宅の冷凍庫の中に並んでいるとちょっとかわいくて、選ぶのが楽しいと感じてもらえるよう、はっきりした色合いのデザインから、落ち着いたグレーを基調にして、商品ごとに異なる模様と色合いを組み合わせたデザインへと変更しました。ピザが新しくメニューに加わったんですが、レンジやトースターで焼くだけの簡単調理ですし、言われなければ色々な栄養素が入っているとわからないくらい味がいいんですよ」

左が旧パッケージ、右が新パッケージ。洗練されたおしゃれなデザインに変わった
「冷凍 完全メシDELI」シリーズの新商品で、藤野さんも今後の売上が期待できると語る「炭火焼風味 テリヤキチキンピザ」

ECサイトで販売する冷凍 完全メシは「冷凍 完全メシDELI」として生まれ変わり、現在では17種類をラインナップ。主に「定期コース」で購入されることを想定しているため、飽きずに毎日食べてもらえるようにバリエーションを増やしてきました。

「完全メシシリーズはリピート率が非常に高いのですが、理由はその『おいしさ』にあると思っています。栄養素には独特の苦みやエグみがあるため、こういった健康志向食品はどうしても味が落ちてしまい、通常のものとは違うという印象を持つ人がほとんどです。でも完全メシに関しては普段の食事と変わらないおいしさを実現していて、それが続けられる理由にもなっているのだと思います」

健康志向食品や機能性食品は、「体のことを考えてつくられているから味が物足りないのは仕方ない」と我慢しながら食べ続けている人も多いでしょう。でも完全メシは進んで食べたくなるほどおいしい。それが売上アップの大きな要因になっているようです。

購入者は完全メシをどのような食シーンで取り入れているの?

カップ麺から冷凍食品までバリエーションが豊富ですが、購入したお客様はどんな商品を、どんな食シーンで取り入れているのか聞いてみました。

「グラノーラやスムージーは、当初の想定通り、朝食に取り入れていただいている方が多いです。カップ麺やカップライスはランチで、冷凍食品は夕食で食べているといった声を多く聞きます。ただ冷凍 完全メシは昼食としての需要も高まっています。手軽に食べられるので在宅ワーク時のランチにも便利なようです」

スムージー、グラノーラ、トマトクリームポタージュは朝食での需要が高い
藤野さんのお気に入りは「バナナスムージー」で毎朝飲んでいるそうだ

日清食品としては、トレンドに敏感で常にアンテナを張っている「アーリーアダプター」だけでなく、より広く完全メシを認知してもらい、多くの方の食事に取り入れてもらいたいと考えています。

「一部のヘルシーコンシャス層に向けてではなく、老若男女問わず多くの方々に栄養バランスの整った食事を提供し、“Well-being”の向上に貢献したいというのが当社の目指すところですが、まだまだそこには届いていないのが現状です。スーパーやコンビニに完全メシが並び、多くの方々がいつでも手に取っていただけるようになることを⽬指して、商品ラインナップのさらなる拡充や、宣伝広告を通じた理解促進を図っていきたいと考えています」

小売店の冷凍食品コーナーでは「健康志向」を先取り

昨今、小売店等での冷凍食品コーナーの拡大がトレンドになっていますが、冷凍 完全メシを店頭販売するにあたっても追い風になると考えているのでしょうか?

「もちろん、冷凍食品売場の拡大によって売り方も工夫できますし、高価格帯の冷凍食品を扱う店舗が増えていることも追い風になると思います。加えて、冷凍食品では健康志向を謳った商品が少ないので、そこをいち早く開拓できるのではないかと考えています」

店頭販売用にはECとは異なるパッケージで展開している。左が「ボロネーゼスパゲティ」、右が「汁なし担々麺」(写真は3月1日リニューアル予定の新パッケージ)

冷凍食品でも糖質オフを謳った商品などがありますが、健康を意識した商品が販売され始めたのは比較的最近のこと。

「小売店向けの冷凍 完全メシは2023年9月から販売していますが、我々の想定よりも導入率が高く、健康志向に対するニーズはさらに高まっていくと思います。今後はECサイトで販売している冷凍 完全メシDELIのラインナップに加え、小売店向けのラインナップも増やしていきたいと思っています」

とうとうお菓子が登場! 「完全メシ カラムーチョ」の開発秘話

2023年10月、とうとうスナック菓子でも栄養とおいしさの完全なバランスを追求した完全メシが登場しました。コンビニ限定で先行発売されたのが、グループ会社である湖池屋の⼈気商品「カラムーチョ」を完全メシ化した「完全メシ カラムーチョ」です。

完全メシ カラムーチョ ホットチリ味

「完全メシの開発を始めた当初から、スナック菓子の完全メシ化を視野に入れていましたので、やっと発売できたというのが正直な感想です。ジャンクなイメージのあるスナック菓子が、栄養バランスが整っていて、しかもおいしいというギャップに価値がある。これなら罪悪感なく食べられますし、子どもたちが『お菓子ばっかり食べてちゃダメ!』と怒られることもなくなるのではないでしょうか」

油で揚げるとどうしても栄養バランスを整えるのが難しくなるため、湖池屋で試行錯誤した結果、通常のカラムーチョとは違う「ノンフライ製法」を採用することになった、と藤野さん。湖池屋の開発陣の苦労は、並大抵のものではなかったと話します。

「食事系の商品はご飯や麺に具材と、いろいろな要素があるので栄養素を入れることのできる部分が多く、味も普段の食事と変わらないように⼯夫しやすいのですが、完全メシ カラムーチョは使用する主な原材料がポテトなので、とても苦労されていました。たんぱく質を入れて、油を減らして……と栄養バランスに配慮しつつも、カラムーチョの特徴である“辛旨”なおいしさを表現するために、湖池屋では130回以上もの試作を繰り返したと聞いています」

栄養バランスが整っても、通常のカラムーチョと変わらないおいしさでなければ世に出すことはできません。

「おいしさを追求するには栄養素の苦みやエグみをマスキングする必要があります。味がシンプルなメニューほど、ビタミンやミネラルが持つ独特な味が出てしまうのですが、カレーや担々麺同様、濃厚な味わいのカラムーチョは比較的マスキングがしやすい商品でした。ただ、いろいろな栄養素を入れることで、サクサク感がなくなってしまったり、堅くなりすぎたりと、スナックとして理想的な食感を実現することが非常に難しかったそうです」

これを皮切りに、今後もお菓子シリーズの展開を考えているのでしょうか。

「おかげさまでカラムーチョは非常にご好評をいただいており、2月12日からはコンビニ以外にも販路を広げました。もちろん、お菓子のさらなる展開は考えていて、木村屋總本店さんと共同開発した『完全メシ あんぱん』のように、他社ともコラボレーションもできたらと思っています」

「カップヌードル」の完全メシ化は?

日清食品を代表するロングセラーである「カップヌードル」や「日清のどん兵衛」などはまだ完全メシになっていませんが、やはり開発する上での難しさがあるのでしょうか。

「カップヌードルやどん兵衛は、お客様が“いつもの味”をはっきりと記憶されていますので、味が少し違っただけでも、『これは●●ではない』となってしまいます。そのため、長年ご愛顧いただいているロングセラー商品ほど完全メシ化する苦労は多くなります。

また、減塩も難しいポイントです。栄養素には摂りすぎてはいけないものもありますので、完全メシの場合、33種類の栄養素を過不足のないように整えていて、塩分量は500kcalの商品で3g以下になるようにしています。通常のカップヌードルよりも塩分を控えた「カップヌードル ソルトオフ」を2019年に発売して以降も減塩技術を磨き続けていますので、これからも努力を続けていきたいと考えています」

完全メシの目指すところは、普段の食事と変わらないおいしさ、と話してくれた

そして、完全メシ化へのもうひとつの課題はスープがあること。スープを飲み切る方と残す方がいるので、栄養バランスの設計が難しいそう。

「健康志向の方はスープを残すことも多いので、技術の研究だけでなく、お客様とのコミュニケーションの取り方も考えなければいけません」

日清食品の商品はファンが多いだけに、完全メシになることを心待ちにしている人も多いでしょう。それだけに中途半端なものは出せない、と藤野さん。

「もちろん、人気のある商品を完全メシ化することができればより多くの方に喜んでいただけると考えていますので、今後にご期待いただければと思います」

どんな商品か正しく理解してもらい、より多くの人に広めることが課題

日清食品の売上における完全メシの現状についても聞いてみました。

「現在は、これまでになかった新しいカテゴリーの商品として成長段階にあると捉えています。初年度の売上は、目標としていた30億円を達成しましたが、これは『カレーメシ』など近年に立ち上げたブランドと比較しても、非常に早いスピードで成長していると言えます」

最近では他メーカーからも“完全栄養”を謳う商品が発売され、今後は市場の拡大も期待できます。

「“完全栄養食”の定義は各社によって異なっていて、統一されていないのが現状です。そのため、消費者にとっては理解しにくく、混乱を招く可能性もある。そのあたりがきちんと整備されれば市場はもっと大きくなっていくのではないでしょうか。2023年7月には、主要な栄養素がバランスよく適切に調整された食の普及を目指して『一般社団法人 日本最適化栄養食協会』が設立されました。当社をはじめ、協会の設立趣旨に賛同した大手小売企業、食・栄養に関する専門家が参画していて、完全メシシリーズも『最適化栄養食』として認証を受けています」

健康意識の高い若者は「最適化栄養食」というキーワードにも敏感

完全メシの今後の目標や展望についても聞いてみました。

「完全メシのブランド認知度はすでに50%を超えていますが、内容の理解はさほど進んでいないのが実情です。つまり、ブランドは知っているけれど、どういうものかはわかっていない方が多い。今、購入していただいているお客様は完全メシのメリットを理解していただき、その価値を実感していただけていると思いますが、私たちはもっと多くの方々に理解してもらうことを目指しています。33種類の栄養素のバランスが整っていることなど、商品の特徴をいかにアピールしていくかが今後の課題です」

完全メシの売上ランキングを教えてもらいました

常温商品と冷凍食品、それぞれの売上ベスト3を教えてもらいました。まだ食べたことがない人は、こちらを参考に試してみてはいかがでしょう。

常温部門

1位 完全メシ カレーメシ 欧風カレー(429円)

1位は予想通りのこの商品。お湯をかけるだけの簡単調理も人気の秘密。コリアンダー、カルダモンなどのスパイス、たまねぎの旨みと甘みがおいしさを底上げ。コク深い味わいで、唐辛子でピリッと仕上げた本格的な欧風カレーです。

2位 完全メシ 日清焼そばU.F.O. 濃い濃い汁なし担々麺(429円)

33種類もの栄養素のバランスが整っているということに驚くほど、ジャンクな味わいの担々麺。芝麻醤に花椒をきかせた特製だれの濃厚な味わいが特長で、山椒の爽やかな香りと唐辛子の辛さがクセになります。

3位 完全メシ キーマカレーメシ スパイシー(429円)

カレーメシがトップ3にダブル入賞。オニオンなどの野菜とチキンのうまみをベースに、クミン、コリアンダー、カルダモン、クローブなどのスパイスをきかせた香り高い大人のカレーです。

冷凍部門

1位 冷凍 完全メシDELI じっくり煮込んだ ボロネーゼ

意外にも1位はパスタ。男女共に支持される“麺メニュー”がトップの座に。じっくり煮込んだ牛肉と香味野菜のうまみをきかせた、コク深いソースが自慢です。

2位 冷凍 完全メシDELI やわらかロースかつ丼

完全メシの王道といえるガッツリな食べごたえと、栄養バランスのギャップが魅力のこちらは2位に。通常は1,000kcalほどあるかつ丼も、完全メシなら560kcalとヘルシー。ふんわりした卵とやわらか豚ロースが楽しめる、"甘辛" な味わいです。

3位 冷凍 完全メシDELI 濃厚 芝麻醤味の汁なし担々麺

常温部門でも人気だった汁なし担々麺が冷凍部門でもランクイン。コク深い芝麻醤にピリッと辛い花椒を加えた、クセになる味わいです。

なお、冷凍 完全メシDELIはオンラインストアでのセット販売のみです。

このほか、2023年9月に発売された「完全メシ 日清焼そばU.F.O. 濃い濃いお好みソース焼そば」もおすすめとのこと。

キャベツと豚を炒めた香り、マヨネーズの風味をきかせたソースに、鰹節とあおさをプラスして香り豊かに。ソースがよく絡むもっちりとした食感のノンフライめんを使った⼀品です。今回のベスト3には入りませんでしたが、それは発売されて間もないからだそう。

今後もまだまだいろいろなラインナップが出てきそうな完全メシ。食事系だけでなくお菓子のジャンルまで幅広く手掛けている日清食品だけに、さらなる展開を期待しましょう!

中野悦子