トピック
PayPayと日本キャッシュレスの5年 6000万人が使う“インフラ”に
2023年11月14日 08:20
2023年10月5日、PayPayは5周年を迎えた。いまやユーザー数が6,000万人を超え、日本の人口の約2人に1人、日本のスマホユーザーの約3分の2が利用する巨大なサービスになった。日本における全てのキャッシュレス決済の中で、約6回に1回はPayPayが利用され、「決済を担う社会インフラ」に近づいているPayPayだが、5年少し前には存在すらしていなかったわけだ。
なぜ、PayPayは決済の社会インフラになれたのか、そのために必要だったことは? この5年間で日本のキャッシュレスの景色も大きく変わったが、PayPayはその中でどのように振り待ってきたのだろうか? PayPayを牽引してきた馬場一副社長に聞いた
(聞き手:鈴木淳也、臼田勤哉 取材日は11月6日)
Impress Watchは、2023年9月にリニューアル5周年を迎えました。「くらしを変えるテクノロジー」をテーマに、新サービスやビジネスの取材を重ねてきましたが、大きく進歩した分野もあれば、デジタル化に課題が残されているものもあります。本企画では、日本のネットサービスやデジタル化を牽引してきたキーパーソンに話を聞いていきます。
2018年10月:「PayPay」提供開始
2018年12月:100億円キャンペーン第1回
2019年4月:個人間送金(送る・受け取る)機能を提供開始
2019年9月:「請求書払い」を提供開始
2019年10月:キャッシュレス・ 消費者還元事業を実施
2020年4月:「PayPayギフトカード」を提供開始
2020年7月:マイナポイント事業の 申込登録の受け付けを開始
2020年11月:「PayPayクーポン」を提供開始
2021年2月:「セブン‐イレブンアプリ」に「PayPay」を搭載
2021年8月:PayPay加盟店において 「LINE Pay」の支払いが可能に
2021年10月:加盟店への手数料を有料化
2021年12月:「PayPayスタンプカード」を提供開始
2021年12月:「PayPay ほけん」を提供開始
2022年2月:「クレジット(旧あと払い)」を提供開始
2022年8月:「PayPay資産運用」を提供開始
2022年10月:PayPayカード株式会社を子会社化
2022年10月:インドに海外開発拠点を設立
2023年3月:「LYPマイレージ」を提供開始
2023年6月:本人確認(eKYC)済みユーザーが2,000万を突破
2023年8月:手数料無料で残高のチャージができる 金融機関が1,000社を突破
2023年7月:インターネットにつながっていなくても 決済できる機能を提供開始
2023年10月:登録ユーザー6,000万人突破
「100億円キャンペーン」の狙い 「財布を無くす」ためのコード決済
--PayPayのスタートと同時期にリニューアルしたImpress Watchで、最初に「大ヒット」した記事がPayPayの100億円キャンペーンでした。この5年間の日本のキャッシュレスを見てきましたが、5年間で6,000万人が使う「社会インフラ」になったというのは、ほかにほとんど類を見ないことだと思います。なぜ、PayPayがここまで大きくなれたのでしょうか?
馬場:先日(10月4日)、金融庁から経済安全保障のインフラとして指定する予定と公表されました。銀行や、ソフトバンクなどの通信インフラとあわせて、「止まっては困るもの」として指定されたことになります。確かに、社会インフラに近いものになったのかもしれません。
つまり、計画的なメンテナンス以外では止めてはいけないし、遅くなってもダメ。ユーザーの安全への配慮という点でも、5年前にPayPayを始めたときよりもはっきり厳しくなりましたね。
--スタートした5年前に思い描いていた姿と、今のPayPayの姿と比べてみて思ったよりうまくいったなというところと、難しかった部分はどこでしょうか。
馬場:うまくいったことは、やはりこれだけ早くユーザーさんと加盟店の数が増えたことですね。ここまでいくとは思っていませんでした。いまは1人が1日2回ぐらい使ってくれています。高い頻度で使われるアプリになるには、もっと時間かかると思っていました。「なりたい」とは当初から思ってましたが。
株主のソフトバンクグループやソフトバンク、当時のヤフーに計画を出していましたが、最初の頃は毎月のように計画変更していました。当初の計画に対して、3倍以上のペースじゃないかな。
--PayPayのどのあたりが成功のポイントだったのでしょう?
馬場:PayPayは新しいインフラ、新しいプラットフォームを「ソフトバンクの中に作らないとやばいぞ」という危機感から始まっています。このPayPayを「やるぞ」となったのが、ちょうど6年前です。
その頃から、ソフトバンクは「電話代下げろ」と言われていました。他の会社に比べてスマートフォンユーザーが多いので、伸びしろが少なく、これから営業利益が下がっていくという状況が見えていた。ヤフーもスマホの時代になって、「ヤフーに来て検索・天気を見る。だから広告も出してもらえる」という成功の継続が難しくなっていた。スマホ時代は、アプリに直接アクセスするから、ヤフーのようなポータルに人が来なくなるのでは? という危機感もありました。
だからこそ新しいプラットフォームが必要だった。その中で、世界中を見たら「決済」が生活に根ざしていて、1日に何回も使ってくれるので、新しいビジネスができるんじゃないかと。そこでPaytmやAlipayを見て、決済をやろうと言い出したのが6年前ぐらいです。
その危機感がまず大事。「もうあとがないぞ」っていう感じでしたから。
そして、2018年10月5日に立ち上げて、12月4日に「100億円キャンペーン」をやりました。
あれで世の中が「なんだこいつら?」ってびっくりしてくれて、ワイドショーなどにも取り上げられて、「名乗りをあげられたかな」と思いました。我々は「1カ月ぐらいで100億円を使おう」と思っていたのに、1週間から10日で無くなってしまった(9日間で終了)。
100億円は凄い反響でしたが、それでもまだ一部の人にしか認知されていなかった。だからもう1回、2月に100億円キャンペーンをやって、結局200億円やりました。結果、認知もそこそこ取れました。
その後、開始から1年ぐらいの2019年11月に2,000万ユーザーになった。やはり、いろいろキャンペーンをやったからだと思います。200億円かけて2,000万人だから、「1人1,000円」ですね。
--生々しいですね(笑)
馬場:1人1,000円の獲得コストって安いはずです。ゲームにしても、最初にポイントをあげたりとか広告宣伝費を使ったり、アプリをインストールしてもらうのに費用かけていますし。VisaやMastercardなど世界中で展開しているブランドも相当コストをかけているはずです。カードに入会すると6,000円、8,000円とかやっていますよね? それを考えると安くできたと思います。
もちろん200億なので総額は高いですが、一人当たりで考えるとすごくコストパフォーマンスはよかった。
--PayPayをスタートする時に「100億円キャンペーンをやろう」ということは、決まっていましたか?
馬場:はい。LINE Payとd払いとか、なんとかペイはすでにありましたよね。その上Suicaもある。人々が決済手段に困っていたわけではなかった。「使ってない」人はいたけれど、なくて困る人もいなかった。そこに名乗りを上げるのだから、ゆっくりやるより、素早くやったほうがいい。だから準備はしていました。
基本的にソフトバンクのやり方を真似しています。ソフトバンクが通信網を整備するときも、じっくり通信アンテナを建てていたらお客さんは獲得できなかった。やはり一気に通信網を作って、いい状態にしてからお客さんを獲得しないとダメ。それを真似したようなところはあります。
多分「10年で200億使う」とかだったら誰も知らずに終わっていたと思います。同じ200億でも「3カ月」。だから効果があった。
PayPayの目標は、「お財布をなくそう」でした。
お財布をなくすためには、全てのお店でキャッシュレスにならないといけない。でも、コンビニやドラッグストアは、以前からクレジットカードやSuica/PASMOは使えていました。ですが、町の小さなお店お寿司屋さん、居酒屋さんはキャッシュレスになっていなかった。そういうところがキャッシュレスにならないと、お財布はなくならない。
「じゃあ、どういう手段でキャッシュレスするのか」を、いろいろ考えました。例えば、機械をばらまこうとかね。昔、(Yahoo! BBが)モデムをばらまいたみたいに、カードの決済ができる端末を撒こうという案もあったし、クレジットカードを我々が出していくとかも検討しました。当時はYahoo! JAPANカードもありましたし。ただ、加盟店側の普及を考えると、「シール1枚」で決済に対応できるコード決済はやっぱり重要です。だから、「シール式でいこう」と。それが、キャッシュレスの世界を作れる一番簡単な方法だろうと。
--端末を撒くより、ユーザーに200億円使ったほうが早いと。ただ、当時も「QR/コード決済の導入は、技術的な後退だ」といった意見はありましたよね。
馬場:ありましたね。ただ、5年、10年後もひたすらコード決済をやっているというイメージではなかった。いつかは、顔認証とか、生体認証とかに取って代わるだろうなとは思っています。
いまは現金とPayPayしか使えない、QRコードのシールだけ貼ってるお店も、キャッシュレスに慣れてきました。すると、端末がほしいという例も増えています。でしたら、カードに対応したり、あるいは顔認証や生体認証を置きましょう、と徐々になっていくはずです。そうなれば、我々もスマホをポケットに入れとくだけで、決済できるようなものを作れると思います。
現状、PayPay=コード決済というイメージは強いとは思います。ただ、PayPayカードが子会社になったので、「タッチ決済がいい」となれば、「PayPayカードいかがでしょう? 」とおすすめできる。使い勝手はよくなってきたと思いますし、決済の“手段”は増やしていきたい。
あとは「サービス」を同一にしていきたいですね。例えばいま、PayPayカードでは(抽選でポイント還元する)「PayPayジャンボ」に参加できないとか。自治体のキャンペーンもPayPayのコード決済だけですが、これもPayPayカードも対応できるようにしたい。カードだろうがアプリのQRだろうが、ユーザーさんが同じ体験をできるようにしたい。ただ、カード決済するとオーソリが走って云々……とか。これが結構難しいんです(笑)。
金融のスーパーアプリPayPay
--ソフトバンクグループの中で、最近は「金融」の軸がPayPayになってきました。当初はあまり強く推していなかったと記憶していますが、金融の軸にしていくという方針にいつから変わってきたのでしょう?
馬場:方針が変わったというよりはスピード良く立ち上がったから、5年後、10年後やろうと思ったことが早まったと思います。200億円のキャンペーンなどで、PayPayの名前が売れたこともあり、結果、証券や銀行も全部PayPayの名称にしましたからね。
立ち上げた段階で、PayPayに集約していくという話はなかったです。僕たち(PayPay)からすると、名前を変えただけで、お客さん来るわけではないよ、という感じもありましたが(笑)。
--PayPayブランドにして以降、カードの取扱高や銀行口座数も増えて、連携効果はでているそうですが、「誘導効果」はどうでしょうか? いわゆる「スーパーアプリ」を目指すという話もありましたが。
馬場:(中国の)AlipayとかWeChat Payとか、いわゆる「スーパーアプリ」は、様々な生活のシーンで使えるミニアプリが入っていますよね。PayPayはそこまではすぐにはいけない。いまのPayPayは「決済アプリ」。お金にまつわることから始めないと、あまりにも飛躍がすぎるかなと思っています。
加盟店さんからは、「PayPayのアプリでバイトの募集できないか?」なんてことも言われますけれど。あるのかもしれませんが、バイト先を見つけるのに「PayPayを開こう」とは、なかなか思わないですよね? そのための認知を取ろうとすると、また200億円かかる(笑)。それはできないから、まずは金融の集合体のアプリを目指す。PayPayの残高が確認できて、PayPayカードの支払金額が見えて、PayPay銀行の残高と引き落とし予定日が見えるとか、PayPay証券の投資推移が一覧できるとか。
あとは、デジタル給与払いでPayPay残高に入ってきたら、10万円のうち1万円はPayPay証券にすぐに移せるとか、PayPayの残高から銀行引き落とし前に3万円を指一本で移せるとか。そういうことが簡単にできるようになるのが、最初の金融アプリの姿かなと思っています。
--そうなったとき、100万円で足りるのでしょうか? (注:PayPay等の資金移動業者の残高上限は100万円と定められている)
馬場:足りない(笑)。ただ、(給与デジタル払いは)政府も初めてのことなので、こうしたほうがいい、ということはたくさん出てくるはずで、僕たちの意見も聞いてくれる体制にあると思っています。だから、とにかく始めてみるのがいいかなと思います。
--スーパーアプリ化については、現状は金融系はソフトバンクグループのサービスに限定されています。これを他のグループやサードパーティに広げていく方針はありますか? どのようなビジョンを持っていますか。
馬場:僕たちはオープンなつもりでいます。「いつでもどうぞ。どこの会社でもユーザビリティが良く、経済的にもお互いWin-Winであればいつでも入れます」。なんですが、やっぱりあれはソフトバンクのサービスでしょうって、多分みんな思ってるでしょうね。
あとはむやみにアプリを増やせない。限られた画面に、お客さんに合わせて気持ちよく出せたら本当はいいのですが、なかなか良い方法がわからない。それはすごい課題だと思います。
今のPayPayアプリも、3段でアプリが表示されて、一番下の段の[お気に入り]に好きなアプリを入れられるぐらいです。トップページにアプリが出ないと、皆が気付かない。お客さんが本当に使いたいものがあったとしても、気づかずに使われない。これはもったいないですよね。かといってプッシュで、あれができます、これができますとか、毎日、毎日何通もメールが来ても困る。
--LINE Payとの統合っていうのは今どういう扱いになっていますか?
馬場:他にまだいっぱいやることがあるので。LINE Payを一緒にしよう、とか言っていましたけど、あまり進んでないです。「個店のQRコードをLINE Payで読んで決済できる」まではやっていますが。
話はしているのですが、LINE Payと共通化してなにか意味あるか? という話になっています。セブン-イレブンでもローソンでもファミリーマートでもLINE Payは使えます。LINE Payが使えないところはあるので、そこでPayPayが使えればユーザーのためにもなる。
けれど、LINE Payが使えない大型チェーン店を探す方が難しいぐらいなんで、あまりユーザーさんは困ってはないと思います。LINE Payの残高があるなら、LINE Payを使っていただければ。PayPayでやるべきことに、今は力入れていますね。
--例えば、いまPayPayで今一番力を入れていることってどこですか?
馬場:いまのサービスのブラッシュアップ。あと、デジタル給与払いの受け入れの開発とか、その辺に力を割いています。まだまだ使いづらい部分が結構ある。「ポイントが見えない」とか、普通のユーザーさんにとってわからない部分を直していかないと。
不正利用対策に自信
--PayPayは順調に拡大してきたとは思いますが、一方、例えば不正利用の問題だったり、いくつかのトラブルもありました。この5年で、これは困ったとか予想もしなかったといったことはどんなことがありましたか?
馬場:最初の100億円キャンペーンの時は不正が凄かった。保険もかけていたので、保険で賄ったのでそんなに負担は無かったのですが、それきり保険会社は来なくなりました(笑)。
でも、あの時のいろんな事象を体験し、研究し、どこを抑えたらどういう不正がなくなるのか。そこはかなりわかってきました。加盟店の監視もしましたし、ユーザーさんの使い方も24時間見てるし。フィッシングサイトがPayPayの名前を使っていないかパトロールしたりとか。本当にずーっとやっています。
加盟店とユーザーが結託した不正とかも、24時間監視して、加盟店にすぐに連絡してみたいなことは、24時間365日ずっとやっています。日々、手口変わっているので、日々の手口を見極めています。我々は、第1線、第2線、第3線と呼んでいますが、3つのラインで対策して、第1線の監視は24時間365日で、そこで今までに見たことない手口が出てきたら、次の線で相談して、新しい手段で止めにいく。正しく動作しているかは、第3線の内部監査室で確認しています。
--そうした監視体制ができたのはいつからですか?
こじんまり始めたのは、その100億・200億円キャンペーンの頃からありましたが、いまは完全に組織として出来上がっています。第1線の監視だけでも、10席で3~4交代とかで人数もかけています。詳しい体制ややり方は明かせないのですが。
クレジットカードとPayPayの比較では、不正対策に大きな差があります。不正利用被害額においては、クレジットカードの何百分の1まで低くなっています。
--不正が低く抑えられてる理由については、どのように分析されていますか?
馬場:分析は常にしています。ただ、手口とかは言えないです。大手銀行レベルと同等のセキュリティと外部機関からも認められています。ホワイトハッカーからアタックさせて、侵入テストとかもしてもらっています。
--このセキュリティは、PayPayカードとも共有されていますか?
はい。子会社になったPayPayカードとPayPay証券も、これまでレベルがそれぞれ違いましたが、一緒にしていきます。
デジタル給与払いはソフトバンクが切り開く
--デジタル給与払いにも力を入れるという話がありましたが、現状はどうなっていますか。
認可が降りて、いいタイミングで開始できれば、とは思っています。システムは準備中ですが、それが揃えば順次導入する段階までいけます。あとは、どこの会社が使ってくれるかですね。
--ニーズや業界の盛り上がりはどうでしょう?
「デジタル給与払いを使いたい」っていう会社はあります。ただ、こちらから「無料じゃないですよ。銀行振込と同じぐらい手数料欲しい」というと、「えー」とは言われますね(笑)。
--銀行より安くなるなら使いたいということでしょうか?
馬場:ええ。あと会社によっては、銀行口座と別の銀行口座や別のPayPay口座を2つ登録できないという例は多い。従業員さんも、最初からPayPayに100%入金することはまずないですよね。例えば給料が10万円であれば、8万円は今までの銀行、2万円はPayPayとか。その時に分割して振り込みできない、という会社は多いようです。システム改修にコストかかったりとか、給与関連の部署の手間とかを現実的に考えた時にちょっと萎えてる感じがします。
まだ全然揃っていない。でもやらないと始まらない。
とりあえずソフトバンクグループとソフトバンクはやってくれます。だから、自分たちで事例を作って、どういうところで苦労するか、自分たちで体験する。それを始めてから、ユーザー会社さんに行った方がいいかなと思っています。
あとPayPayでも、先程触れた(資金移動業者に課される)100万円を用意するのが非常に厳しいです。小さい(資本力のない)会社は、無理だと思いますよ。なかなか厳しい道だなと思います。
キャッシュレス政策の大きな後押し
--この5年間の歴史を振り返ると、「キャッシュレス消費者還元事業」や「マイナポイント」などキャッシュレスを後押しする政策もありました。それらの政府の後押しの効果はどう感じていましたが?
馬場:これは凄かったです。我々の最初の計画には一切なかったですからね。
キャッシュレス還元と、マイナポイント、自治体のポイントの3つですね。これは、ものすごい追い風でした。これがなかったら今のようには普及はしなかったと思います。
最初のキャッシュレス還元は、特に加盟店営業に役に立ちました。加盟店が増えると、ユーザーさんもあのお店で使えるんだったら、私もキャッシュレスを使ってみたいとなる。ただ、よく使い方がわからない。アプリをインストールした後、残高をどうやって入れたらいいのかわからない。お店の人や近所の友達、使っている家族とか、そういう人から教えてもらいながら、使い出したっていう感じですよね。
2019年10月から2020年6月まで開催。事業対象のお店で「キャッシュレス」で支払うと、最大5%ポイント還元が行なわれる。ユーザーへのポイント還元の他、店舗へのキャッシュレス導入支援も行なわれた
そういう姿を見て、今度は「お友達紹介キャンペーン」をやりました。新しく始める人に教えてあげたら、教えてあげた人と教えてもらった人にそれぞれ500円ずつとか。そういう空中戦みたいなやつも成功しましたね。
--マイナポイントはどうでしょう? 2023年4月の段階でPayPayでマイナポイントを登録した人が2,000万人と発表していましたが。
馬場:これも大勢のユーザーさんに使ってもらえました。我々は、マイナポータルのアプリから登録するより、PayPayのアプリから登録することをめちゃめちゃ簡単にしました。そこは凄く効果が大きかったと思います。多くの事業者は、マイナポータルのアプリを使う形でしたが、PayPayから設定するほうがカンタンだった。
4月時点では2,000万人でしたが、9月の最後にはまた伸びましたね。最後の駆け込みで。
こういうキャンペーンの設計も、我々にやらせてほしいですよね。期間を2年と決めたら「最初に登録してくれたら2万円で、半年ごとに5,000円減らしていく」とかしたほうがみんな早く登録してくれると思います。キャンペーンものは私達に相談してほしい(笑)。
--自治体のポイントはどうでしたか? 「あなたのまちを応援プロジェクト」として積極的にやっていますが。
馬場:本来は不幸な話で。コロナで経済全体が落ち込んで、収入も落ち込んだ。だから、何とかして国のお金で経済を立て直そうという予算があった。それを活用する際に、いろいろな自治体さんが、PayPayに相談しに来てくれました。
相談に来てくれるのは、PayPayの営業所が全国にあるから。そして、自治体さんともお付き合いをしてきたからなんですね。その相談窓口から「PayPayでやってみようか」という自治体が多かったと思います。これはコロナがきっかけではありましたね。
--自治体ポイントがPayPayで行なわれると、その地域のPayPay浸透率は相当変わりますか?
変わります。いま、PayPayで全国キャンペーンをやっても6,000万のユーザーがいるので、大きなことはできない。(抽選の)「PayPayジャンボ」しかできません。そうしないとみんなにお金を配ることになってしまうので。だから、ユーザーさんから見たらしょぼいキャンペーンに見えてしまう。
ところが、自治体のポイントは、原資が税金で、5%から30%還元というところもある。それはすごい効果があります。生活必需品をスーパーで買うとか、ガソリン入れるとかいう時にはもうすごい効果です。
--PayPayは、抜きん出て多くの自治体とコラボできていますが。
馬場:PayPayは、市役所や役場と話ができるし、商工会議所とか商店街とも話ができる。使い方の教室をやるとか、インストールを手伝うとか、加盟店側の「PayPay for Business」の使い方や申し込みを市役所でやるといったことも、すぐ対応できたのが大きかったなと思います。
やっぱり営業所は大事です。地元の小さいお店に入れていくことを目的にして、「財布をなくそう」という目標でやっていたので、地元の商店街とか地元のその商工会議所の名士の人とか仲良くなっていた。そこをやらないと、キャッシュレスを広げるのは難しいだろうと思ってました。
(政策的な後押しという点で)3つとも本当にびっくりしましたね。「ガソリンスタンドでガソリンがない」なんて話も聞きましたからね(笑)。5年を振り返ると、これらは、完全に想定外のプラスの部分でした。
マーケティングツールとしてのPayPay
--あと販促側で、クーポンやスタンプとかいろんな施策ありますけども、この辺りの手ごたえはどうですか?
科学的にやっています。加盟店さんと僕たちの営業との間でクーポンを出した時にどれだけ真水(実数)で増えたか。お客さんの売上が増えたのか、粗利が増えたか。しっかり科学的に見て、少ししか増えなければ「手数料はいりません」、増えた場合は、粗利の増えた分の半分をPayPayにくださいとやっています。
きちんと分析して、これはいけるね、もう1回やっても再現性あるよね、というものを繰り返し実行しています。ユーザー企業さん視点でも、いいにしろ悪いにしろ、フェアで効果がはっきりわかるものにしています。
--(加盟店向けサービスの)「PayPay for Business」はどうですか?
大きいサービスで言うと、クーポンとスタンプカードとチラシを出していますが、チラシは強化したい。今は紙のチラシをそのままベタッと貼っているだけです。そうじゃなくて、一つ一つのSKU(商品:在庫上の最小単位)ごとにクーポンがあったりとか、お客さんに合わせた商品が並んでいるみたいなチラシにしたい。それは今、研究開発中です。
あと現状、加盟店さんや小売側の原資で販促を打っています。SKUクーポンができると、今度はメーカーさんの原資で販促を打てるようになります。例えば、「新商品のコーヒーが出たので、コーヒーを売りたい」という場合、このコーヒーだけにクーポンがついていて、どこのコンビニで買ってもその商品を買ったと分かれば、50円のクーポンが出る。あるいは、100円のコーヒーを買ったら100円戻すといった、サンプリングも効率的にできるようにもなります。
それで、新商品で試してみて美味しいなと思ったら、次は普通に買ってもらうという販促ができると思います。
夢を叶えるPayPay
--日本のキャッシュレスという視点で見た時に、足りない部分はどこにあるでしょうか?
諸外国に比べたらまだまだだと思います。若い人が、割とキャッシュレスを使っていないですね。高校生。大学生とかをコンビニで見ても、割と現金で払っている方が多い。まだ、親世代がまだキャッシュレスじゃないのか、送金が現金の方が便利なのか、お小遣い渡すのに便利とか、そういう状態でしょうか。
お小遣いとか仕送りとかも含めて、元からデジタル化すれば、支出もデジタル化するのかなと思っています。若年層の利用は増やしたいので、実験をいろいろ仕込んでいるところです。
--これからの5年、10年でPayPayが伸ばしていくところはどのあたりでしょうか
決済は好調で、いろんなキャンペーンも入れていきます。決済の回数とか決済金額は伸びていくと見ています。サボらなければ、驕らなければイケるはず。
次は金融と加盟店向けのビジネス。ここはしっかり課題として捉えて、伸ばす方法をいろいろ考えないといけない。ユーザーさんにアプリを使ってもらうという点でいくと、金融はものすごく期待がもてるし、努力する必要があると思っています。
あとは若い人に使ってもらいたい。自分の将来に夢を叶えるためにPayPay証券とかPayPay銀行でちゃんと資産を貯めてもらいたい。今すぐ英語を勉強して、いい学校に行く、いい留学先、いい会社を見つけるために、「5年お金貯めてからやろう」よりは、PayPay銀行の安いローンを借りて英語の勉強をするとか留学した方がいいと思います。そういう将来の夢を叶えるための、いろんな金融のサービスを、このアプリの中でできたら、5年後10年後も大きく成長できると思っています。
2024年1月には、新NISAが始まります。課税しない期間が無期限になります。20歳の人が始めたら、60年間税金がかからない。60歳で始めるのとは、同じ配当をもらっても得する金額が全然違います。若い人には早く始めてほしいですね。
--新NISAも、PayPayに大きく関わってくる?
はい。そう思っていますし、お客さんも喜ぶと思います。5年、10年先の夢をちゃんと叶えられる金融。そういうサービスを打ち出していきたいと思っています。