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東京BRTは都心~臨海地域の移動手段として有効か? プレ運行(二次)開始
2023年4月4日 08:20
4月1日、東京BRTがプレ運行(二次)を開始した。東京BRTは東京臨海部を走るバスだが、これまでの路線バスとは異なった特徴を有する。では「BRT」とは何なのか? 東京ではどのような役割を果たすことになるのか? 実際に利用してみた上で考察した。
東京BRTが「定時性」「速達性」を実現できる理由
BRTとは、バス・ラピッド・トランジット(bus rapid transit)の略称で、日本では一般的にバス高速輸送システムと訳される。しかし、実のところ「BRT」には明確な定義がない。そのため、各地のBRTもそれぞれ異なったシステムで運行されている。バスを単なる移動手段としか見ていない利用者にとって、BRTと通常の路線バスの違いはよくわからないというのが本音だろう。
通常の路線バスとBRTの違いを挙げるとすれば、「定時性」「速達性」「輸送力」の3つになる。
日本各地では利用者が少なく赤字路線だったり、災害で線路が損壊してしまったりした鉄道路線をBRTとして再生するケースがいくつかある。それら鉄道路線の代替として登場した各地のBRTは、鉄道の線路をバス専用道へと転換した。そうしたBRTは専用道を走るので、渋滞に巻き込まれることがない。これが定時性の確保や速達性の向上に寄与している。時間通りに着くことや所要時間の短縮は、公共交通機関にとって大きな武器になる。
しかし、東京BRTの運行ルートにバス専用道はない。それなのに、どうやって定時性を確保し、速達性を高めているのか? 東京BRTは公共交通優先システム(PTPS)を導入することで定時性の確保や速達性を高めることを目指している。
PTPSを簡単に説明すれば、車両が信号に接近すると青信号の時間を延長してBRTの運行を阻害しないシステムのこと。PTPSが導入されることで、東京BRTは赤信号に停められなくなり、目的地へ時間通りに到着できる。
プレ運行(一次)の開始は2020年10月で、走行ルートは虎ノ門ヒルズ~新橋~晴海BRTターミナル新橋~晴海BRTターミナル。プレ運行(二次)では、新橋~国際展示場・東京テレポートの「幹線ルート」、虎ノ門ヒルズ・新橋~豊洲・ミチノテラス豊洲(豊洲市場前)の「晴海・豊洲ルート」、新橋~勝どきBRTの「勝どきルート」を運行する。
4月1日からプレ運行(二次)へと切り替わった東京BRTだが、その道のりは決して順調ではなかった。プレ運行(一次)の開始は、2020年5月を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により同年10月に延期された。
そして、このほどプレ運行(二次)が始まったが、これも予定通りに事が進んだわけではない。コロナ禍で東京五輪の開催が1年延期した影響で、選手村跡地の開発計画にも狂いが生じ、これが東京BRTにも大きな影響を及ぼしたからだ。
東京五輪では、中央区晴海エリアに選手村を開村。選手村は五輪閉幕後にHARUMI FLAGと呼ばれる新たな街区へと生まれ変わる予定だった。
五輪の開催が延期されたことを受け、選手村跡地の開発も先延ばしにされた。開発が先延ばしになったため、選手村跡地に誕生する新たな街区の誕生も先延ばしになった。街区が誕生しなければ、当然ながら需要が生まれない。また、停留所工事の入札が不調に終わったこともプレ運行(二次)の開始時期を遅らせる要因になった。
難産の末、ようやく東京BRTのプレ運行(二次)が始まったわけだが、一次と二次の違いは何だろうか? 大きな違いは、なによりも運行ルートが1路線から3路線に増えたことだろう。
東京BRTは路線バスよりも“速い”
筆者は(一次)の際に一日乗車券で東京BRTを乗り潰したが、そのときはお世辞にも利用しやすい移動手段とは思えなかった。
東京臨海部は高層マンションや複合商業施設が多く建ち並び、人口や来街者が急増している。これまで東京都心部と臨海部を結ぶ移動手段は、都営バスや東京臨海高速鉄道(りんかい線)、東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)が主力を担ってきた。
これらの公共交通機関は高まる需要に追いついていないこと、東京都心部と臨海部を結んでいるのが都バスだけだったことなどの理由から新たな公共交通機関の整備が喫緊の課題になっていた。
だからこそ、東京BRTには大きな期待が寄せられていたわけだが、プレ運行(一次)は運行ルートが短く、しかもその範囲は都バスがカバーしていた。これなら、わざわざBRTを運行する必要はない。都バスの路線を新増設するだけで対応が可能だろう。
こうした状況だったこともあり、プレ運行(一次)は周辺の開発が進むまでデモンストレーション的に運行しているという雰囲気が漂っていた。ただ、プレ運行(一次)はあくまでも本格運行までの準備段階。その後に路線を拡充することは事前アナウンスされていた。なぜなら、東京臨海部の開発は著しく、早晩に新たな公共交通機関の整備が必要になることが予見されていたからだ。実際、小池百合子都知事は2022年11月に東京駅と東京ビッグサイトを結ぶ新たな地下鉄の計画を発表している。
東京BRTは急増する人口・来街者に対応するべく計画された公共交通機関で、京成バスが出資した新会社「東京BRT」が運行している。
東京BRTは定時性・速達性を高める工夫により、プレ運行時に時速15km、本格運行時に時速20kmの表定速度を実現させることを目標に掲げている。表定速度とは、停留所での停車時間を含んだ平均時速のこと。参考までに通常の路線バスの表定速度は時速10km前後といわれているので、東京BRTの速さがわかるだろう。
また、プレ運行(二次)から新橋-勝どきBRT間のルートが環状2号線本線トンネル経由に変更された。このルート変更によって、新橋-勝どきBRT間の所要時間は約2分短縮された。
東京BRTの輸送力に関しては都バスと同等と言ったところだが、東京BRTには通常のバスを2台分つなげた連接バスも運行している。連接バスは通常のバスの約2倍の輸送力を有しているので、連接バスに限定すれば大量輸送が可能になったといえるだろう。
現在、東京BRTが運行している車両のすべてが連接バスではなく、路線バスと同タイプの車両も走っている。今後は、需要増に合わせて連接バスが増えていく可能性は高い。
先述したように、東京BRTのプレ運行(一次)は、新橋を中心に西は虎ノ門ヒルズと晴海BRTターミナルを結ぶ1路線だけだった。プレ運行(二次)からは、幹線ルート、勝どきルート、晴海・豊洲ルートの3路線になった。
そしてプレ運行(一次)は全停留所に停車していたが、プレ運行(二次)からは降車ボタンの使用が始まる。つまり、下車したい乗客は降車ボタン押して合図をする必要がある。降車ボタンが押されず、停留所に乗客がいない場合はそのまま停留所を通過してしまうので注意が必要になる。
沿線住民には浸透しつつある
プレ運行(二次)初日となった4月1日、筆者は500円のIC一日乗車券を購入して東京BRTに乗りまくってみた。東京BRT一乗車の運賃は大人220円だから、3乗車で元が取れる計算だ。
本来、新橋はサラリーマンの街とも言われるほど、あちこちにオフィスワーカーが闊歩している。プレ運行(二次)初日は土曜日だったこともありオフィスワーカーらしき乗客は見当たらなかった。
その一方で、東京BRTが走る豊洲・晴海一帯はタワマンが多く建っている。その居住者と思しき家族連れが乗り込んでくる姿を何回も目撃した。すでに、沿線住民には東京BRTが浸透しつつあることを感じさせた。
プレ運行(二次)から新たに東京BRTの停留所が設置された国際展示場は、言うまでもなく東京ビッグサイトの目の前にある。これまで東京ビッグサイトへ足を運ぶ人たちは、ゆりかもめやりんかい線、都営バスを使っていたが、今後は東京BRTという選択肢も加わる。
東京BRTは、2024年春から本格運行へと切り替わる予定とされている。本格運行時には、現行3路線から新橋-晴海5丁目を走る4番目の路線が新設される。晴海5丁目は、HARUMI FLAGがある街区だから、まさに東京BRT五輪後の東京の都市開発がリンクしていることが窺える。
各地で導入が進められるBRTは鉄道路線を代替するという役割を課されているが、東京BRTにそうした役割は課されていない。東京BRTは単なる移動手段なのではなく、東京都は都市インフラの一部と位置付けている。つまり、東京BRTと臨海部の開発はセットと捉えるのが妥当だろう。
プレ運行(二次)が始まり、来春に本格運行へと移行する未来図が見えてきた。ようやく東京BRTへの期待が高まりつつある。