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空前の「ミロ」ブーム。大人にヒットの理由をネスレに聞いた

緑色のパッケージとサッカー少年のトレードマークでおなじみのネスレの大麦飲料「ミロ」。子どもの頃に飲んでいたという人、あるいは子どものために今も購入しているという人も多いのではないでしょうか。

そんな子どもの飲み物というイメージがあったミロが今、大人から人気を集めているそう。“ミロ活”なる言葉まで生み出されたミロブームのきっかけはなんだったのでしょうか。ネスレ日本 飲料事業本部 Ready to Drinks & MILO ビジネス部の中濱 航太氏に話を聞きました。

ネスレ日本 飲料事業本部 Ready to Drinks & MILO ビジネス部の中濱 航太氏

中濱氏によると、ミロが話題になったきっかけは、2020年7月につぶやかれた1つのツイートとのこと。鉄分不足に悩む女性が栄養機能に注目し、「ミロで手軽に鉄分補給ができる」というもの。それを機にミロが爆発的に売れ始めました。

ミロが日本で発売され始めたのは、今から約50年前の1973年のこと。今や誰もが知っているロングセラー商品です。それが今回、改めて注目され、当初は社内でも「地道に販売を続けていてよかった」と喜んだそう。

しかしその喜びは途中から、危機感に変わりました。需要が供給をはるかに上回り、店頭からミロが消え始めたのです。そして2020年9月末より、ミロは主力製品である「ネスレ ミロ オリジナル」の一時販売休止を余儀なくされました。

「とにかく供給が追いつかず、ミロを待つお客様に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。急いで増産したかったのですが、われわれネスレの本社はスイスにあり、ミロは全世界で販売されています。中には、国民的飲料といわれるほど日常的に飲んでいる国もあるため、いきなり輸入量を増やすのは難しい。時間をかけて増産体制を整えてもらいました」。

その後「ネスレ ミロ オリジナル」は2020年11月に出荷を再開したものの、12月には日本で販売するミロ全製品の販売を休止。そして2021年3月1日に販売再開に至りました。

2020年12月当時のプレスリリース。3製品を販売休止に

鉄の推奨量と実際の摂取量に大きな差

そもそもミロとは、大麦の発芽のための成長力を取り込んだ大麦飲料。活動のエネルギー源となるブドウ糖のほか、鉄、カルシウム、そしてビタミンDをはじめ6つの栄養素が含まれた栄養機能食品です。

今回のツイートで、改めてこの“鉄”が注目され、「ミロで手軽に鉄分補給ができるとは」という驚きとともに、鉄不足に悩む女性の支持を集めたそうです。

「ネスレミロ オリジナル」の主な栄養成分(1杯分・15g+牛乳150ml)
鉄……3.2mg
カルシウム……395mg
ビタミンD……2.6μg

「成人女性に推奨される1日の鉄は、10.5mgとされています(※)。国民健康・栄養調査(2019年)によると、実際の摂取量の平均は6.5mgと、4mgほど足りません。その点、ミロ1杯分に含まれる鉄が3.2mgですので、不足分を補うにもちょうどいい量。そこに注目いただけたのではと思っています」(中濱氏) ※「日本人の食事摂取基準(2020年版)18~49歳」女性(月経あり)の場合。

厚生労働省によると、鉄不足だと赤血球の中のヘモグロビンが減って赤血球の数が減るため、酸素の供給が十分にできない「鉄欠乏性貧血」になるとのこと。主な症状は、集中力の低下や頭痛、食欲不振で、筋力低下や疲労感を引き起こすこともあるそうです。

「鉄不足は自覚症状が出にくいため、健康診断で初めてご自分が鉄不足だと知る人も多いようです。薬やサプリメントを飲むほどではないけれど、食事の改善など何か対策をしたいという潜在ニーズがあったのだと考えています」

鉄について(厚生労働省 e-ヘルスネット)

子供の頃に飲んでいた“親しみやすさ”

空前のミロブームのきっかけが前述のツイートであったにせよ、なぜ大人が躊躇なくミロに飛びついたのでしょうか。中濱氏は、「子どもの頃に飲んでいた、店頭でいつも見かけるといった親しみやすさ、牛乳に混ぜるだけという取り入れやすさが理由にあると思います」と分析します。

実際、このミロブームが起こる前から、子どものために購入したミロを親も一緒に飲む“親子飲用”の需要があることは、ネスレ日本側も確認していたそうです。それが前述のツイートをきっかけに、販売を再開した2021年3月以降の売り上げは2019年同期比の約3.5倍に(2021年3~8月と、2019年同期の売上比較より ※金額ベース)。特に子ども(0-18歳)のいない世帯の購入率は、約5倍になったというデータも印象的です。

「ミロはこれまで、成長期のお子さんのための飲み物として訴求してきましたが、栄養表示を見ていただくと分かるように、大人にも必要な栄養素が多く含まれています」と中濱氏は語ります。

ミロに含まれているカルシウム、鉄、ビタミンDは、子供だけでなく大人にも必要な栄養素

大人からの反響にこたえる製品として、ネスレ日本は2021年10月に甘さをひかえめにした「ネスレ ミロ オトナの甘さ」を発売。糖質量が「ネスレ ミロ オリジナル」は9.8gであるのに対し、「ネスレ ミロ オトナの甘さ」は砂糖の一部を食物繊維に置き換えることで7.9gにしています(1杯分・15gあたり)。

ところで、この「ネスレ ミロ オトナの甘さ」は日本独自の製品なのでしょうか。

「ミロはグローバルな製品ですが、各国の嗜好やニーズに合わせて配合を少しずつ変えています。すでに砂糖の配合量を減らした『MILO Less sugar』という製品はありますが、『ネスレ ミロ オトナの甘さ』は味わいや栄養成分はもちろんのこと、“オトナの甘さ”というネーミングやパッケージも日本向けに独自に開発した製品です」(中濱氏)

2021年10月に甘さと糖質を控えた「ネスレ ミロ オトナの甘さ」を発売

主なターゲットが大人であることから、パッケージにもトレードマークであるスポーツをする子供(日本の場合はサッカー少年)の姿がありません。これには当初、ネスレ本社も戸惑いをみせたそう。

しかし、日本での状況をスイス本社に伝えることにより、現在のパッケージデザインを開発、結果的に「ミロは子どもだけの飲み物」というイメージが払拭され、大人も手に取りやすくなりました。このオトナの甘さは、購入層の68%が子ども(0-18歳)のいない世帯というのも新しい傾向です。

「ネスレ ミロ オリジナル」(左)と、「ネスレ ミロ オトナの甘さ」(右)のパッケージ
ミロの購入者属性割合

一過性のブームに終わらせないネスレの戦略

改めてミロの栄養素が注目された今、ネスレもさまざまな認知度アップ戦略を展開しています。たとえば2022年3月には、ミロとマグカップがセット購入できるだけでなく、自身の鉄不足チェック判定が行なえる自動販売機「ミロ 鉄分お助け自販機」を「ネスカフェ原宿」に設置。

さらに2022年8月には個室型ワークブース「テレキューブ」とコラボレーションし、自身の鉄摂取量を数値で把握できる「ミロ 鉄分お助け テレキューブ」を、東京・丸の内で展開しました。いずれも期間限定で実施終了していますが、“鉄”摂取量チェックは現在もWebで行なえます。

「ミロのPR活動はこれまでも様々な形で行なってきましたが、ミロの魅力が広まった今を契機と捉えています。一過性のブームに終わらないよう、継続的なPR活動を行なっていきたいですね」(中濱氏)

“鉄”摂取量チェック

ミロとマグカップがセット購入できる自動販売機「ミロ 鉄分お助け自販機」
ミロのロゴを配したマグカップ
個室型ワークブース「テレキューブ」とコラボレーションした「ミロ 鉄分お助け テレキューブ」

一方SNS上でも“ミロ活”が活況で、愛飲者によるオリジナルレシピも多数発信されています。メーカーでは牛乳に混ぜて飲むことを推奨していますが、「いろいろなアレンジができるのも、粉末のミロならではの特徴。好きな方法で摂取してもらうのが一番です」と話します。

ネスレ日本もホームページで、ミロを使ったオリジナルレシピを多数展開。飲料のほか、「かぼちゃの“ミロ”ティラミス」「“ミロ”クリーム&バナナパンケーキ」などスイーツレシピも掲載されています。中濱氏のイチオシは、「“ミロ”オレンジジュース」だという。

「意外に思われるかもしれませんが、フルーティーな甘酸っぱさとミロのココア風味のコクがマッチするんですよ」

作り方は簡単で、オレンジジュース50mlとガムシロップ適量を混ぜ、氷を入れた後にミロの液体(ミロ大さじ2杯・牛乳100ml)を注ぐだけ。ゆっくり注ぐと、きれいな二層に分かれるそうです。

“ミロ”オレンジジュース(レシピ詳細)

秋冬はビタミンDに注目

ミロの栄養素について、これからの時期に同社が注目してほしいのが“ビタミンD”。ビタミンDは腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助けるなどの重要な働きがあるそうです。魚やきのこなどの食材から摂れるほか、紫外線に当たることで皮膚でも生成されます。

しかし秋冬は紫外線が弱まり、日照時間も短くなるため、皮膚で生成されるビタミンD量の不足が懸念されるのだそう。実際、日本人が1日に必要とされるビタミンDの目安量は8.5μg(2020年版・日本人の食事摂取基準による)であるのに対し、全世代で不足している可能性があるとのこと。

1日に必要とされるビタミンDの目安量と、実際の平均摂取量の比較

「ミロに含まれる栄養素は、健康に欠かせないものばかりです。今回は鉄に注目されましたが、骨や歯の形成に必要なカルシウムも、その形状を助けるビタミンDも、男女問わず全世帯に必要な栄養素。これからも、必要な人に必要な情報が届くよう、コミュニケーションを続けていきたいと考えています」(中濱氏)