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Web3とはなにか:NFTの自由と面白さ
2022年10月13日 08:20
注目を集める「Web3」。「ブロックチェーンを用いた新しいコンテンツやサービス」としての期待だけでなく、特に多くの話題を集めているのが「NFT」です。
スマニューラボの佐々木大輔氏、フリーランスライターの甲斐祐樹氏によるWeb3対談。前回はWebの歴史からWeb3のポイントをまとめましたが、第2回はNFTについて紐解いていきます(聞き手:宮本拓海、編集部)。
- 第1回:Web3とはなにか:Webの歴史と変わること変わらないこと
- 第2回:NFTの自由と面白さ
- 第3回:Web3のさまざまなサービス(NFT以外)
デジタルの世界で所有の証明「NFT」
ーーWeb3関連で特に話題になっているのが「NFT」だと思います。NFTとはどんなものなのでしょうか?
「Non-Fungible Token」の略で、日本語では「非代替性トークン」と呼ばれる。改ざんが事実上不可能なブロックチェーン上に記録することでコピーや複製といった代替ができず、NFTを付与することで、デジタルのデータに唯一無二の価値をもたせることができる
佐々木:NFTを知らない方からは誤解されることもあるのですが、まずNFTそのものは画像や動画のようなコンテンツではありません。NFTはブロックチェーンに書き込まれてあるトークンの規格で、トークンの所有者を示したり、トークンの数を確認したりする情報です。
NFTと言われてよく目にする画像は、そのNFTがブロックチェーンではない通常のサーバーに置いてあるデータを参照したものです。フルオンチェーンと呼ばれる、画像までブロックチェーンに書き込んだものも存在しますが、多くの場合はこの方式です。
所有者であることの証明を簡単に行なえたり、数の概念を持ち込めるのは、現実のモノであたりまえにできていることをデジタルの世界でもそれに近いことが行なえるようにしてくれるもの、ですかね。
今までにも、コンテンツのダウンロード販売だとか、アクセス権を付与されたストリーミングなど、さまざまな方法でサービスが提供されてきましたし、それに対してある程度の所有感もあるにはあったのですが、NFTは、それらに比べてかなり所有感が強いというか、現実生活でモノを手に入れるのと似たような感じがするのがおもしろいところですね。
甲斐:NFTは「非代替性トークン」という名前の通り、他と交換することができない唯一のもの、という特性があります。これこそが容易に複製できないブロックチェーン技術の賜物でもあるのですが、自分が購入したデジタルなコンテンツをずっと自分のものとして所有できるところがNFTの特徴だと思います。
暗号資産を使ってNFTコンテンツを購入
ーーNFTはどのように入手できるのでしょうか。
甲斐:NFTコンテンツの入手方法はNFTによってさまざまなので、ここでは「OpenSea」というサービスで売買されているNFTコンテンツを例に説明します。OpeanSeaはNFTを売り買いできるマーケットプレースで、楽天市場のようなサービスをイメージしてください。ユーザーが自分で物を売れるという点では、ハンドマーケットの「minne」を知っている人だとよりイメージに近いと思います。
OpenSeaで扱われているNFTコンテンツを購入するには、ブロックチェーン技術である暗号資産が必要です。暗号資産もいくつか種類があるのですが、第1章でも紹介したイーサリアムが主要な暗号資産として使われていますね。
イーサリアムは、取引所と呼ばれるサービスを使って購入できます。取引所もさまざまなサービスがあり、DMM ビットコインやGMOコイン、bitFlyer、Coincheckなどが有名でしょうか。
そして、イーサリアムを受け取るにはウォレットアプリと呼ばれるお財布の役割を果たすアプリが必要です。第1章でWeb3のユーザー数を調査する資料にも登場した「Metamask」というアプリが有名です。
まとめると、ウォレットアプリの準備をしてから、取引所で暗号資産を購入してウォレットアプリに保存し、その暗号資産を使ってマーケットプレイスで購入する、という流れです。ただし、NFTは種類によって無料で入手できるものもありますし、NFTコンテンツの提供方法もさまざまなので、これはあくまで個人が自由に売買できるNFTマーケットプレイスの一例、と理解してください。
所有する自由が自分の手にあることがNFTの魅力
ーー具体的にNFTを手にすることで、どんな面白さを感じたんですか?
佐々木:手に入れたものを売る自由が自分にある、というのがおもしろかったですね。そして、自由だけじゃなくて、現実にそのマーケットがあるというのがさらにおもしろい。これまでの電子コンテンツは、ダウンロードしたりアクセス権を購入したものは、自分で自由に販売をしたりできませんでしたが、NFTなら自由に扱うことができます。
たとえば友達が家に遊びに来たときに、この本を貸してよといわれたら自由に貸すことができますよね。でも電子書籍サービスは貸し借りができないから友達に買ってもらうしかない。
だけど自分で買ったNFTは本当に自分のものになるので、自由に売ったり貸したりできる。そんなデジタルデータっていままでなかったので、買った瞬間にコンテンツの見方がいままでとは全然違って見える。そこがシンプルに一番の大きな体験でした。
甲斐:先日、自分で昔買ったアプリをダウンロードしようとしたら、もうアプリストアでは提供されていなくて悲しい思いをしたんです。もちろん、最新のスマートフォンでは動かないという問題もあるのですが、自分でお金を出したはずのコンテンツが手元に残らないんだというのが悲しくて。デジタルの世界でも自分の物だとして所有権を持てるというのは、見た目にはわからないかもしれないけれど体験してみると確かに違う感覚はありますね。
6月に佐々木さんが販売を開始した、小説「僕らのネクロマンシー」のNFT版「A Wizard of Tono」も、貸し借りができる機能がついていたので、実際に購入した人がNFTの仕組みを使って貸し借りをする状況が起きていましたね。あれはすごく面白かったです。
佐々木大輔氏が執筆した小説「僕らのネクロマンシー」NFT版である「A Wizard of Tono」は、「Borrowable NFT」と名付けられた仕組みで電子書籍の貸し借りを実現。借り手が手続きを行うと24時間限定で電子書籍をダウンロードでき、期間が過ぎるとダウンロードできなくなる。貸出期間中、所有者は電子書籍をダウンロードできないが、本の所有者であることは常に表示されている
甲斐:NFTを使った貸し借りの仕組み自体はまだ発展途上なので、いろいろツッコミどころはあるなと思います。本を借りるのにガス代が発生したり、借りた本が完璧に保護されているわけではないので、コピーすることができてしまいますからね。
ただ、デジタルコンテンツの所有権を個人が持って自由に扱えるというのは本当に面白いことだなと思います。今後その仕組みを使った、新たなサービスが普及して、デジタル上でのコンテンツのやりとりが容易になっていくんじゃないかという未来を想像しています。
また、先程紹介した「A Wizard of Tono」は遠野の宿泊施設を安く利用できる特典がついていましたよね。クーポンのような考え方だと思うんですけど、それを特定のサービスに依存せず発行し、ブロックチェーン上でずっとそのコンテンツやユーティリティーを残していくのはすごくいいなと思いました。
A Wizard of Tonoを購入した人は、遠野の宿泊施設「Uレジデンス」の宿泊料金が30~40%割引になる特典が用意されている
大手プラットフォーマーが展開する「プライベートチェーンNFT」
ーーMMD研究所が行なった調査では、NFTを保有している理由が「ゲームに参加するため」という回答が一番多かったそうです。ゲームに必要なアイテムとして、NFTを利用している人も多いんですね。
佐々木:ブロックチェーンゲーム「STEPN」では、ゲームをはじめるために必須のデジタルスニーカーがNFTで作られていますね。同様に、ゲームに必須のアイテムとしてNFTに触れる人は多いんでしょうね。
移動に応じて報酬が得られる、「Move to Earn」と呼ばれるジャンルのゲーム。NFTで作られたデジタルスニーカーをゲーム内で購入すると、運動量に応じて独自の暗号資産を報酬として受け取ることができる。
佐々木:NFTというのは、紙とかWebと同じように、情報を載せるメディアのひとつだと思っています。WebでECサイトやSNSが作れるのと同じように、NFTでアートやゲーム、アプリのようなものを作ることもできます。
それが今後より定着していくと、NFTで作られているものをNFTだと認識せずに利用する人も増えるんじゃないでしょうか。Webも今では「これはWebの技術で作られている」と意識してソフトやアプリ、サービスを利用している人は少ないですよね。
ーーNFTについては、楽天やLINEなど、日本のプラットフォーマーが参入する動きが目立っています。そうした取り組みについてはどう思いますか?
・楽天NFT|NFTマーケットプレイス
https://nft.rakuten.co.jp/
・LINE NFT
https://nft.line.me/
甲斐:日本の大手プラットフォーマーは、「プライベートチェーン」と呼ばれるブロックチェーンの仕組みを採用していることが多いですね。プライベートチェーンではその名の通りプライベートな点にあって、そのプラットフォーマーが提供するサービスのユーザー同士でしか利用できない、という点にあります。
Q:楽天NFTの対応ブロックチェーンを教えて下さい
A:現在、楽天が管理する自社ブロックチェーンのみ対応しております
NFTは、自分が購入したコンテンツがずっと自分のものになり、自由に売買もできるという特徴を紹介しましたが、プライベートチェーンはこれが「プラットフォーマーのサービスの中のみ」という条件がつきます。なのであるプラットフォームで購入したNFTコンテンツを他のNFTコンテンツで売ることはできないし、もしプラットフォーマーがサービスを終了してしまったら、自分のものであるはずのNFTが無くなってしまうかもしれない、という可能性もゼロではありません。
佐々木:また、私のような個人は今の時点でプライベートチェーンのNFTを作ったり売ったりできません。これはパブリックチェーンとの大きな違いで、UGC(User Generated Contents = 企業ではなくユーザーが作るコンテンツ)の作り手としての自分にとっては、自分のコンテンツを自由にやりとりできるパブリックチェーンのほうが魅力的です。
甲斐:ただ、第1章でも触れたとおり、NFTをはじめとするブロックチェーンのやりとりはガス代などある程度の費用が発生してしまいますが、プライベートチェーンであれば同一プラットフォーマー内でのコストがかかりません。また、特定の企業がプラットフォームを提供することで、有名なIP(著作権コンテンツ)を持つコンテンツホルダーが自社のコンテンツを提供しやすいというビジネス的なメリットもあるでしょう。実際、多くのIPがプライベートチェーンのNFTにコンテンツを提供しています。
・『キャプテン翼』ボールはともだちNFT
https://tsubasa.nftplus.io/https://tsubasa.nftplus.io/
・パシフィック・リーグ エキサイティングモーメンツ
https://moments.pacificleague.com/
パブリックチェーンでのNFTコンテンツ入手は、取引所を介する必要があったり、英語でないと利用できなかったりとハードルが高いのも事実です。その点で、利用に制限はあるとはいえ、大手プラットフォーマーが提供する日本語で利用できるNFTというのもユーザーからするとメリットはあるかもしれません。すべてのユーザーが自分のコンテンツを売買したいわけではないかもしれませんしね。
佐々木:私としては、ユーザーの所有物になっているかどうか、ということでいう点がやはり気になりますね。特定のブロックチェーンから移動できないものは本当にユーザーのものになっていると言えるのか微妙なところがあります。でも、そんなに単純な話でもないのは、特定のプライベートチェーンの存在が大きくなったときに、それを使っている人が多かったら、そこから移動できないことは気にならなくなってくるんですよね。みんなそれで満足すると思います。現状のサービスのほとんどそうなっているわけですから。
甲斐:また、一部の大手プラットフォーマーはプライベートチェーンではあるものの、今後はパブリックチェーンとの連携も対応予定としています。基本的にはプライベートチェーンで利用して、売買したい、他のプラットフォームで使いたいという時は外部のプラットフォームを使う、というのも、利用の間口を広げるという点ではメリットはあるかもしれません。国内旅行だと自由だけど海外に行くときには入出国手続きが必要、みたいなものでしょうか。
Q:イーサリアムへの接続はできますか?
A:実装時期は未定ですが、開発自体は進行中です。
NFTの利用者数はまだ少なく、今は発展途上の段階です。ユーザーも企業も安心してNFTを利用するための場としてプライベートチェーンのNFTも意味はあるとは思いますし、今後はパブリックチェーンにも対応することでユーザーの選択肢が広がるといいですね。