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とがった謎家電を連発する「ライソン」のモノづくりは何が違う?
2022年10月12日 08:20
カップ焼きそば専用ホットプレート「焼きペヤングメーカー」や「たべっ子どうぶつカステラメーカー」など、とがった家電製品を数多く世に送り出すことで、新興家電メーカーのライソンが話題をさらっている。
同社ではどのようなモノづくりをしているのか。ライソン商品部広報の三上紅美子氏に聞いた。
クレーンゲームの景品企画が家電メーカーに
2018年8月に設立されたライソンは、同年11月にクラウドファンディングサービスの「Readyfor」に焼きそば専用のホットプレート「焼きペヤングメーカー」の購入募集を開始し、その先鋭的なコンセプトでSNSなどで大きな話題となった。
設立からすぐに話題をさらったと思われるかもしれないが、元々は親会社であるピーナッツクラブで「D-STYLIST」というブランドを掲げて、ポップコーンメーカーやわたあめメーカーなどを製造販売していた。
「ピーナッツクラブは、ゲームセンターなどに設置されているクレーンゲームの景品の企画と販売をする会社です。その中にある、第二営業部がライソンの前身です。当初は中国の工場や見本市などで見つけてきたものを仕入れて販売するというのが中心でした」(三上氏)
当時、クレーンゲームの景品は上代(メーカー希望小売価格)が800円までに制限されていた。
「ゲームセンターなどを歩いているお客さんに「『これ何? ほしい』と思ってもらうために色々と知恵を絞り、こんな製品があったらクレーンゲームをやってもらえるじゃないかと自分たちで考えて、ユニークなアイテムを作るようになりました。大きなたこ焼きが作れるメガたこ焼き器などがそうですね」(三上氏)という。
「景品を企画する中で、クレーンゲーム用に機能を削るやり方もあるのですが、私たちのアイデアをプラスしてホームセンターや家電量販店で扱ってもらえる商品にすれば、3,000円や4,000円で販売できる。そこに新しいビジネスチャンスを見つけて、オリジナルの家電ブランドを展開し、直接お客様にアイデア商品をお届けする事業を展開するためにライソンが誕生しました」
当初は営業担当者が商品企画
現在は大手メーカーから転職した社員も複数いるが、ピーナッツクラブから分社化する前は「商品企画はすべて社内で、しかも営業担当者がしていました」と三上氏は語る。
任天堂のゲーム機「ファミリーコンピュータ」の互換機「プレイコンピューター レトロ」(2019年11月発売)のデザインなどは、営業担当者が表計算ソフトの「Excel」を使って行なったというのだから驚きだ。
「今でこそAdobe Illustratorや3D CADが使える設計担当者も入っていますが、当時はいませんでした。しかし工場の担当者にイメージを言葉で伝えるだけでは、試作ができてみたら全然違うということにもなりかねません。そこで営業担当者が“思い出のファミコン”をイメージしながらExcelで一生懸命絵を描いたと聞いています」
大手メーカーから数人、ライソンに加わったのも大きな強みになった。
「当初は営業と海外交易して卸すバイヤーしかいませんでしたが、本格的に家電などを手がける上で、カスタマーセンターに来る問い合わせなどにしっかり回答するためには、社内に家電業界の知識と経験がある人が必要になります。そこでライソンになる直前に元大手メーカーから何人か、中途採用や定年退職後の採用で仲間に加わってもらい、品質管理部門などができていきました」
大手メーカー出身の社員は特許関係の調査や、ユーザーからの問い合わせ対応、不具合発生時の原因調査・改善などさまざまな業務を担当しているという。
「品質管理部門の担当者は以前中国の工場を行き来していましたが、現在はオンラインと電話でコミュニケーションを取りながら業務を進めています。設計通りに製造されているかチェックしながら商品の検品やテストをしたり、修正や改良依頼の指示書を送り、工場でブラッシュアップしてもらうなど、結構根気のいる仕事です。英語が堪能な担当者もいますが、中国の工場の担当者と中国語で折衝できるのも強みになっています」
「たべっ子どうぶつ」や「格之進」とコラボ
2022年7月には、お菓子メーカーのギンビスとのコラボによって生まれた「たべっ子どうぶつカステラメーカー」を発売し、SNSなどで話題になった。ライソンのグループ会社に、クレーンゲーム用のお菓子を企画・販売するヨシナという会社があり、ヨシナがギンビスと長年の取引があることから生まれたコラボ企画だった。
「ギンビスさんが新しい世代のファンを獲得するために、グッズやコラボレーション展開に力を入れている中で、ヨシナとギンビスさんとの間で『家電を作ってみたらどうか』という話が出たそうです。そこで、グループで家電を作っているライソンとプロジェクトがスタートすることになりました」(三上氏)
そこで誕生したのが、ホットサンドメーカーをベースにたべっ子どうぶつのデザインが描かれた「ベビーカステラ」を作るというアイデアだった。
「ライソンは商品を見つけて“プラスアルファ”するというか、何かと何かを組み合わせて作ることが得意なんです。そこでゼロから作るのではなく、ライソンの強みや得意なものの中から商品提案をしました。最終的にはサイズが『ベビー』ではなくなったため『カステラメーカー』となりましたが(笑)」
アイデアがまとまってプレートのデザインも固まったものの、たべっ子どうぶつのパッケージと同じピンクの色を再現するのが難しく、「何テイクも繰り返してやっとできあがりました」という。
イメージを形にするという意味では、2020年12月に発売した「せんべろメーカー」にも苦労したと三上氏は語る。
「せんべろメーカーは、おでんや焼き鳥を温められて熱燗もできるというコンセプトの商品なんですが、その世界観のために“とっくり”と“おちょこ”を付けています。
これらはすべて中国の同じ工場で作っているのですが、『冬に日本酒を温めて飲む』という日本の文化がまず分からない。それを伝えつつ参考になる写真なども送ったのですが、出てきたのがひょうたんのようなものでした。
日本で日本人に売るものとして、カルチャー的に違和感があるものを出すわけにはいかないので、何度もやり取りをしました。そういう部分で根気よくコミュニケーションを取るのが、海外の工場で作るときの肝で、大変なところですね」
2022年7月には、ハンバーグ店「格之進」ブランドを岩手県と東京都で展開する門崎とのコラボ製品「ハンバーグ焼き器」をクラウドファンディングサービス「Makuake」で先行販売した。
これはライソンがピーナッツクラブ時代に製造販売していた「メガたこ焼き器」をベースに、ハンバーグをおいしく焼けるようにしたものだ。
「門崎代表取締役の千葉祐士さんが事務局長を務める『肉肉学会』で『ハンバーグの究極の焼き方』を議論されており、そこで生まれたのが『球体のまま焼く』という理論でした。それを実現するために、直径8.5cmのたこ焼きを2つ作れる『メガたこ焼き器』に着目されたのです。それで焼いてみたら理想の球面焼きができたということで、ハンバーグ用に理想の球体焼きが実現できる家電を作れないかとお話をいただいたのが最初です」(三上氏)
メガたこ焼き器はプレートが着脱できない設計だったが、ハンバーグ焼き器は着脱できるようにしている。
「たこ焼き器では油が飛ぶことはあまりないのですが、お肉を焼くと油が出てきます。また、球体焼きといっても一気に全面を焼くことができないのため、蒸し焼きにする必要があります。そこでフタを付けました」
「アイデアボックス」を利用して、社員の“夢”や“妄想”を現実に
現在は商品企画専門のチームがいて、戦略的に数多くのアイデア商品を生み出しているが、社員のアイデアを実現する昔ながらのやり方も残している。
「社内のイントラネットではSalesforceを使って情報共有できるようにしているのですが、そこに社内の誰もがアイデアを出せる『アイデアボックス』を設けています。社員から出てくるアイデアの中で面白いものや実現可能なものを試してみるパターンは今でもやっています」(三上氏)
2019年7月に発売した「D-STYLIST ジャンボわたあめ屋さん」なども社員から生まれたアイデアだという。
「数年前に大阪のアメ村や東京の原宿などで大きなレインボーわたあめが流行したことがありましたが、あれを家で作れたら楽しいよねという発想から生まれたのが『ジャンボわたあめ屋さん』です。『せんべろメーカー』も、コロナ禍で自宅で飲みたいけど、自分で料理はしたくないという発想から生まれました」
元々は既存の商品をベースにアイデアを掛け合わせることで新たなコンセプトを生み出すのが得意なライソンだが、「『超蜜やきいもトースター』は蜜がたくさん出る焼き芋を再現できる家電を作りたいという発想から、ゼロベースで作ったものです」と三上氏は語る。
「東京・西大井の人気店『超蜜やきいもpukupuku』さんに、企業秘密の熱の通し方を教えていただきながら、それを実現するためにどのような仕組みが必要かを考えて0から作り上げたのが超蜜やきいもトースターです」
超蜜やきいもトースターは独特な設計を採用したことで大量生産がなかなかできず、発売当初はしばらく品切れになるほどの人気になったとのことだ。
「超蜜やきいもトースターは調理時間を2時間に収めていますが、焼き芋屋さんは3時間ほどかけて焼いているという話も聞きます。今後はより時間をかけて焼くモードも入れるかどうか、焼き芋屋さんの意見を聞きながらさらに味を追求したアップデート版も検討しているところです」
“一点突破”の商品を試してもらうためのサブスクサービス
商品によっては、通販サイト「LITHON STORE」で同社の製品を月額料金で利用できるサブスクサービスも用意。比較的低価格な商品を取りそろえる中で、どちらかというと高額商品に向くサブスクサービスをスタートした経緯について三上氏は次のように語る。
「私たちは『一点突破でライソン発の世界初を作る』というビジョンを掲げて商品を作っており、何か1つの特徴や機能を尖らせる代わりに、何かを削ぐというものづくりをしています。その1つがコーヒー豆を焙煎する『ホームロースター』です。サブスクサービスはこれを発売した時にスタートしました」
最近は低価格な焙煎機も出ているが、当時は業務用、もしくは家庭用でも10万円程度と、手軽に買えるものではなかった。
「その世界を知っている人ならホームロースターの22,000円という価格は『めちゃくちゃ安い』となるのですが、そこまでコーヒーマニアではない人には『すごく気にはなるけど、コーヒーを入れられるわけじゃないんですよね?』と言われてしまいました。
確かに豆を挽けるわけでも、ドリップできるわけでもないので、焙煎しかできない商品を買うことをためらわれている人のために、お試し感覚で使っていただく仕組みを作ろうと考えてサブスクサービスを作ったのです」
現在は、ホームロースターシリーズの初代モデル「RT-01」と第2世代モデル「RT-02」は生産終了になっており、サブスクサービスを利用できる商品はラインアップしていないが、「2023年に向けて新型モデルを出す計画になっています」と三上氏は語る。
サブスクサービスは、ユーザーから生の声をもらえるというプラスの面もあるという。
「ホームロースターは最初にクラウドファンディングに出したのですが、サブスクサービスやクラウドファンディングでお客様とつながることで、『1回でもう少し多くの豆を焙煎できるとうれしい』といった利用者の方の声をいただけるようになりました。
それまでホームセンターや家電量販店のバイヤーからの意見は聞けたものの、ユーザーの生の声はクレームや問い合わせ電話、Amazonや楽天市場などの口コミを見るしかありませんでした。今は発売する前のお客様の声や反応を知るためにクラウドファンディングなどを活用しています。
お買い求めいただいたお客様とつながり続けられるので、お客様の声をいただく機会がすごく増えて、営業活動や商品企画に積極的に反映しています」(三上氏)
現在はサブスクサービスで利用できる商品を「準備中です」(三上氏)とのことだ。
「価格」だけでなく「サイズ感」も重要
ライソンの商品で筆者がユニークだと感じたのが、超小型コンベクション(熱風循環)オーブンの「揚げ直し名人」だ。いわゆる「ノンフライヤー」なのだが、庫内容量1.2Lで定格消費電力700Wと、ノンフライヤーとしてはちょっと物足りなさを感じるのだが、そこは「総菜を“揚げ直す”」というコンセプトが肝になっている。
「これも社員の妄想というか夢から出てきました。コロナ禍で料理を家で作る機会が一気に増えた頃に、企画者が『あと一品の揚げ物が欲しいという時に、1から作るのは大変だ』と言ったのです。
買ってきた揚げ物や冷凍食品でいいけど、電子レンジで温めるとべしゃっとしてしまう。揚げたてのように熱々サクサクにする家電を作れないかというアイデアが最初にあり、それを実現するための家電を検討した結果、ノンフライヤーだったのです」(三上氏)
通常のノンフライ調理をするのであれば、1.2Lの容量も700Wの消費電力も物足りないのだが、既に揚げてある総菜を温め直すのであれば事足りる。逆にコンパクト(幅253×奥行き207×高さ216mm)なのでファミリー層はもちろん、ワンルームの一人暮らしでも置きやすい。
「ライソンでは、商品を企画する際に『値段』はもちろん、『サイズ感』もかなり検討しています。企画会議や商品開発時にサンプルを作ったりすると、本社が大阪なので『高いなぁ!』というセリフはすぐに出てくるのですが、もう1つ『でかいなぁ!』というセリフも出てきます。
私たちの家電は機能を絞っていたり何かに特化していたりするので、それが『でかい!』となってしまうと、なかなかお客様に寄り添えません。機能も削るのですが、置きやすいサイズとか空間になじむデザインなども意識してものづくりをしています」
確かに「せんべろメーカー」も「おひとりフライヤー 0.6L」も、どれも実際の商品を見てみると驚くほどコンパクトに仕上がっている。それぞれ機能だけでなく、サイズも徹底的にそぎ落とした印象だ。
ライソンではラインアップしていないが、IHクッキングヒーターなどではサイズがコンパクトになると消費電力が小さくなり、機能も少なくなって卓上調理の楽しさも減ってしまう……といったことになりがちだ。しかし揚げ直し名人のようにコンセプトに芯が通っていると“どっちつかず”になることがない。
せんべろメーカーと同様、あえて悪口を言うならば「既存製品の焼き直し」だ。しかし既存製品をベースにしながらも、芯の通ったコンセプトを付けて製品を組み上げることで、全く違うものに仕上がる。これがまさに“ライソンマジック”の神髄なのだろう。
ライソンの製品を見ると、ワクワクさせるようなものが多いように感じる。これからもとがったものづくりをして、消費者をワクワクさせてほしいものだ。