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なぜヤクルト1000は睡眠に着目したのか。7月には増産も
2022年6月14日 08:20
ヤクルトの乳酸菌飲料「Yakult(ヤクルト)1000」と「Y1000」が空前の人気だ。創始業者である代田(しろた)稔氏が1930年に発見した「乳酸菌 シロタ株」が1mlあたり10億個含まれており、一時的な精神的ストレスがかかる状況での「ストレス緩和」「睡眠の質向上」「腸内環境改善」の機能を持つ機能性表示食品として販売されている。
現在、宅配専用商品のヤクルト1000と、店頭向け商品のY1000は一部で品薄状態となっている。
なぜ、ここまでの人気を獲得できたか、ヤクルト本社 業務部 企画調査課 係長 工藤 洋介氏に好調の背景と戦略を聞いた。
好調の理由について工藤氏は「1つめ『効果の体感』で、2つめはヤクルトレディを通じた地道な価値普及による『口コミの広がり』だと思っています」と語る。
「効果の体感については、お飲みいただいたお客様から『深く寝られるようになった』、『朝の目覚めが良くなった』など、眠りの深さやスッキリした目覚めに関する体感の声を多数いただいています」
ヤクルト1000はまず、ヤクルトレディから買える商品として、2019年10月に関東の1都6県で発売。その時点で口コミがSNSに多く投稿され、2021年4月に全国展開をスタートした直後には、宅配サービス受け付けWebサイト「ヤクルト届けてネット」でのヤクルト1000の新規注文受付を中止する状況になった。
店頭商品のY1000は2021年10月に全国販売。購入しやすくなったことでさらに売上を伸ばしたという。
なお、ヤクルト1000とY1000は販売チャネルのほかに容量にも違いがある。ヤクルト1000は容量100mlで価格は130円、Y1000は容量110mlで同150円。Y1000はコンビニなど店頭で並ぶことを踏まえ、視認性を上げるために背の高い容器を採用した。
容量に違いはあるが、どちらも乳酸菌 シロタ株の含有率は一緒で1mlあたり10億個。つまり、ヤクルト1000は1,000億個、Y1000は1,100億個の乳酸菌 シロタ株が入っていることになる。
「ヤクルト400」以来、20年ぶりのフラッグシップ製品
ヤクルトではこれまでにもさまざまな商品が展開されてきたが、ヤクルト1000が他と違うのは乳酸菌 シロタ株の密度が圧倒的に高いこと。1mlあたり10億個と高密度な点が、睡眠の質向上やストレス緩和という機能に関係しているという。
乳酸菌 シロタ株の密度が高いヤクルトを開発するのは簡単な道ではない。
ヤクルトは1935年に製造販売をスタートし、1981年に80mlで100億個の乳酸菌 シロタ株を含む「ヤクルト80」、1991年に80mlで300億個の「ヤクルト80Ace」、1999年に80mlで400億個の「ヤクルト400」を発売した。
その後も「ヤクルト400LT」や「ヤクルトカロリーハーフ」などを世に送り出すものの、ヤクルト1000ほどに乳酸菌 シロタ株が高密度に含まれる商品は発売されなかった。
普通のヤクルト5本ではなく「ヤクルト1000」1本
ヤクルト1000の開発に至った経緯について工藤氏は、「近年、研究の中で明らかになりつつあった『腸と脳の働き』に着目したことから始まりました」と語る。
「当社は医学博士で創始者でもある代田稔の『健康に関する社会課題を乳酸菌の力で解決する』というモットーを受け継いで、腸の研究や商品開発をずっと続けてきました。そこで腸と脳との密接な働きの研究を重ねていく中で、当社独自の乳酸菌シロタ株が『高菌数』で『高密度』であることによって神経系に作用することが明らかになったのです」(工藤氏)
そこで臨床試験を行なったところ、一時的に精神的ストレスがかかる状況でもストレス緩和や睡眠の質の向上につながる結果が得られたという。
「社会的には現代人の約半数がストレスを抱えているという調査結果もありますし、ストレスは睡眠の質を低下させる要因の1つとも知られています。ストレスも睡眠の質も、多くの方が抱えている健康課題であることが分かり、それをいち早く解決したいという思いで商品化しました」(工藤氏)
臨床試験で機能性を有する結果が出たものの、具体的なメカニズムはまだ研究途上とのことだ。
素人考えでは乳酸菌 シロタ株400億個の「ヤクルト400」を2.5本、もしくは200億個の「Newヤクルト」を5本飲めば同じ効果が得られるのではないかと考えてしまうが、「あくまで1mlに10億個入った、1,000億個のヤクルト1000でそういう結果が得られたということです」と工藤氏は語る。試験を行なっていないので、同じ効果が得られるかどうかは未知数とのことだ。
ヤクルト400の400億個(1mlあたり5億個)を超える高菌数の商品を実現するまでに、約20年の月日が経過した理由について工藤氏は次のように語る。
「菌数を増やして維持することが難しいことと、既にあるヤクルトの商品とは違う価値をお客さまに提供しなければならないという、2つのことに苦労しました」
ターゲットは働き盛りの30~50代ビジネスパーソン
ヤクルト1000のターゲット層について、工藤氏は「ヤクルト1000の機能が『ストレス緩和』や『睡眠の質向上』なので、まずは働き盛りの、特に30代から50代のビジネスパーソンをターゲット層に据えました」と語る。
「実際に男性、女性ともに30代から50代の年齢層の方を中心にご購入いただいています」
マーケティングについては「従来とは異なる新たなヤクルトだということを認知、理解していただくことが今回の狙いでした」と工藤氏は続ける。
「従来のヤクルトは子供向けや親しみやすい、伝統的、安心というイメージは持たれています。しかし今回は今までにない『ストレス緩和』や『睡眠の質向上』といった新たな機能が加わった、働き盛りの方向けの商品です。
そこで、特にテレビCMについては先進的、機能的、科学的、大人向けといったイメージを新しく持っていただくことが、1つの狙いとしてありました。その一環として著名なスペシャリストの方々をCMタレントに起用しました。
また、『ヤクルト』ではなく『Yakult』と、アルファベットの文字を使ったのも、今までにない新たなヤクルトだということを訴求するために使っています。味に関しても、従来のヤクルトよりも甘さをすっきりさせて飲みやすくしているんです」
店頭商品のY1000については、名前とデザインを変えた理由を工藤氏はこう説明する。
「ヤクルト1000を店頭向けに出すにあたって、やはり店頭向けの容器や容量を工夫して出す必要がありました。ほかの商品に見劣りしないように高さを合わせたり、お客さまにぱっと認識してもらえる『Y1000』という商品名にするなど、視認性を考慮しました。デザインについては、今までにない新しい商品だというのが一目で分かると多くのお客さまから感想をいただいています」
ヤクルトレディの販売チャネルは重要
ヤクルトというと、自転車や三輪スクーターなどで住宅地やオフィス街などを回って販売する「ヤクルトレディ」が有名だ。2022年3月期決算短信補足資料によると、乳製品の販売構成比(数量ベース)はヤクルトレディが50.4%、店頭・販売機が49.6%となっている。
インターネット注文サイトの「ヤクルト届けてネット」は2017年10月に首都圏エリアを中心にスタートし、2018年9月に全国展開したが、これらの商品を届けるのもヤクルトレディだ。1963年からスタートしたヤクルトレディの仕組みは、現在もヤクルト本社の屋台骨となっている。
ヤクルトレディから購入する顧客層については「基本的に週に1回7本バックでお届けするので、日中に自宅にいる方が多いです」と工藤氏は語る。
「ただ、ヤクルト届けてネットを始めたことで、家にいなくてもヤクルトを買える(保冷箱の設置による宅配が可能)ことや、クレジットカード決済もできるようになりました。
また、新規の申し込みはヤクルト1000の登場で増えてきたところもありますので、お客さまの裾野が広がってきたのは間違いないと思います」(工藤氏)
ヤクルトレディが宅配専用商品からヤクルト届けてネットでの販売まで届けるため、販売接点としてヤクルトレディの顧客対応力や商品説明力が重要になる。
「ヤクルト1000であれば『科学的に証明した確かな商品価値』を提供し、その価値をお客さまに理解・体感していただくことが重要になります。そこで新しい商品の場合、ヤクルトレディに対しては当社の開発研究部門の社員が講師となり、ヤクルトレディや販売会社に説明し、確かな知識を蓄えていただくという取り組みをしています。
また、お客さまにその価値を理解・体感していただく前に、ヤクルトレディにもしっかりと商品を体感していただくため、発売前に飲用体験などの取り組みもしています。実際に自分も飲んでみて、自分が体感した事例をお客さまにお伝えしながら販売していただいています。ヤクルトレディの地道な活動が、お客さまの体感や口コミの広がりを促しています」(工藤氏)
ヤクルト1000以外のオススメは?
ヤクルト届けてネットでの販売も伸びているとのことだが、ヤクルト1000以外に伸びている商品として工藤氏は「ヤクルト400W」を挙げた。
「ヤクルト400Wはお通じ改善の機能性表示食品で、普通のヤクルト400と同じくシロタ株が400億個入っているのに加えて、腸内でビフィズス菌を増やす働きがあるガラクトオリゴ糖が入っています。乳酸菌を摂るだけでなく、腸内でも増やす一石二鳥のヤクルトです」
ヤクルト1000やY1000がかなり注目されている状況だが、ほかにも推したい商品はあるのだろうか。
「全部と言いたいところですが、1つ挙げるとしたら『ジョア』です。ジョアは乳酸菌 シロタ株と不足しがちな栄養素が入ったドリンクヨーグルトです。2020年3月には、鉄分やビタミンなど、栄養成分を強化するリニューアルもしています。
『ヤクルト』や『ジョア』はドリンクタイプですが、食べるタイプでは『ソフール』もあります。お客さまのライフスタイルや志向に合わせて、毎日続けやすい形でお召し上がりいただけたら嬉しいですね」(工藤氏)
毎日飲むという意味では、ヤクルト1000やY1000はいつ頃飲むのがいいのだろうか。
「食品ですので、いつお飲みいただいても結構です。ヤクルト1000は毎日継続してお飲みいただきながら機能を体感していただきたいので、お客さまが続けやすいルーチン化しやすい時間帯でお飲みいただくのが一番だと思います」
7月を目処に「Y1000」の生産体制を増強
現在の課題や、今後の展望について工藤氏に聞いた。
「お客さまには不便な思いさせて誠に申し訳ないのですが、今はヤクルト1000とY1000共に品薄状況になっております。お客さまのライフスタイルに応じて宅配のヤクルト1000、店頭のY1000ともに供給をしっかり整えながら、1人でも多くの方にお届けし、続けて飲んでいただきたいというのが目下の課題であり、やらなければならない使命だと考えています」
6月10日現在、注文が殺到していることを受けて「ヤクルト届けてネット」は新規申し込みを一時休止している。ヤクルト1000の生産を増強するというニュースも出ていたが、「7月を目処にY1000の生産体制を増強する予定をしています」(広報)とのことだった。
「ヤクルト400」から「ヤクルト1000」まで20年の月日が経過したが、次はヤクルト2000という製品もあり得るのだろうか。
「含有数はわからないですが。お客さまのニーズはもちろん、私たちの研究の中で今までと違う健康価値が提供できそうなものをどういった形で出していくのか、引き続き研究開発していきたいと考えています」(工藤氏)