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技適未取得のWi-Fi機器が180日使える。実験等の特例制度に申請
2019年11月28日 08:10
11月20日から「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」がスタートした。国内で利用する市販の無線機器にはほぼ必須となる「技適(技術基準適合証明等)」がない機器でも、一定の条件下であれば、届け出を出せば180日間だけ利用が可能になる。
具体的には海外の珍しいIoT機器を国内に持ち込んだとしても、これまでは国内の認証制度をパスした証の「技適マーク」がなければ全く電波を出すことができなかった。この届出を出すことで実験利用が可能になる。
電波を出すためには技適マークが必要だが、実験用に特例を設けた
本来、電波を出すためには法令に基づいて無線局としての許可が必要となる。その方法も周波数帯や出力によって異なるが、携帯電話やWi-Fi機器などについては技適マークが付いている機器であれば、個別に無線局としての許可を得ることなく、そのまま利用できるという制度になっている。
しかし、機器を設計して試験をするために電波を出すことも技適マークがなければできないことになり、電波を外に漏らさない「電波暗室」などを使わなければ機器開発ができない。
また、海外から機器を輸入する場合でも、検討段階で試用できなければ、それが有効な機器なのかどうかも分からない。非常にお金のかかる技適マークを取得してから、試用を開始して検討するというのは現実的でない。まさに「鶏と卵」という問題だ。
そんな問題に対応する制度が「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」となる。届け出なので、直接手続きすれば即日利用もできそう。海外で登場した機器をいち早く国内で試用できるほか、製品の開発のための実験がしやすくなるなどの効果が期待される。
実験・試験・調査のための制度
届け出をすれば技適マークなしの機器で合法的に電波を出すことができる制度だが、これはあくまで実験・試験・調査のための制度で、技適マークなしの機器を開放する制度ではないことはよく理解しておきたい。
「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」の受け付けのWebページには「実験・試験・調査を行なう専門家が、自己責任で無線機器を使用するための手続です」と書いてある。
この制度で利用できる期間も180日間と定められているほか、実験が終わったら廃止届も出さないといけないなど非常に厳格。最初に届け出を出すときも住所氏名はもちろん、使う機器の情報を記載する必要がある。
Wi-FiとBluetooth、Zigbee、LPWA、xXGP、ミリ波レーダーなどが対象
では、どんな機器がこの制度の対象かというと、すべての無線機器が対象というわけではない。FCC IDやCEマークなど電波に関する外国の認証があり、Wi-FiとBluetoothは周波数帯と送信電力が200mW以下と決められているほか、ZigBee、LPWA、ミリ波レーダーなどは総務省告知によって決められた仕様に合致している必要がある。
FCC IDやCEマークの有無の確認は簡単だが、問題は送信電力。これはメーカーの仕様書などから読み取るしかなく、場合によっては中のモジュールを調べて最大出力を調べる必要がある。これらは自己申告だが、利用者の良心に基づいた制度であることを理解してほしい。ルールに沿うことは絶対だ。
また、機器メーカーでの実験を想定した届出方法だが、特定の無線従事者免許を持った人が技術基準に適合していることを確認して工事設計書などを一緒に提出すれば、FCC IDやCEマークがなくてもかまわない。
提出できる免許の種類は無線従事者の上級免許が多く含まれ、第一級陸上無線技術士のような取得難易度の高いものもあるが、趣味で取得する第一級アマチュア無線技士まで含まれている。FCC IDやCEマークのない機器で実験してみたい場合で無線従事者免許を持っているなら一度確認してみるといいだろう。
スマートフォンは一応使えるが、だいぶ利用が制限される
この制度を利用して、日本にはない海外のめずらしいスマートフォンを実験的に試用してみたいと考えている人もいるかもしれないが、かなり制限がある。
スマートフォンの場合、この制度で使えるのはWi-FiとBluetoothに限られ、LTEや3Gの利用は対象外だからだ。では、モバイルルータと併用すればいいのでは、と思うかもしれないが、この制度では設置場所の住所や移動範囲も届け出の際に明記する必要がある。あちこちに持ち歩いて使ってみることには向いていない。
設置場所や移動範囲を事前に申告しておくのは、もし、技術基準を逸脱して電波障害などがあった場合に、誰がどのような機器で電波を出しているのかをすぐに把握するため。好き勝手に移動して実験していたのでは、問題が起こった場合に対処できない。
これを制限と感じるかもしれないが、あくまで実験のための制度なのだから当然と言える。本来は電波障害などを起こさないために技術基準適合証明があるが、その証明を受けていない機器を使うため、電波を止めさせるための情報を総務省が持つのはよく考えれば当たり前だ。
実際に無線LANでそのような問題が起こるとは考えにくいが、よほどのことがあれば、届出書の情報に基づいて連絡をしたり実地調査をする場合があるとしている。
届け出の第一歩は総務省のWebサイトから
届け出のやり方は、まず、総務省の「電波利用ホームページ」にある「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」から説明を読んで手続きを行なう。
そこにはFCC IDやCEマークなどの確認や、無線の規格、周波数帯の確認が書いてあり、合致しているかは自身で判断する。細かいことは総務省告示によるが、その告知へのリンクもそこに置いてあるため、このWebページから判断できるようになっている。
そして、実験等の目的を申告しなければならないほか、「同じ目的・規格では再度の届出ができません」と書いてある。これは台数を増やすことも同様で、後から同じ機器の台数を増やすことはできず、最初から必要な台数を申告するように求めている。
届け出のやり方だが、Webページの「届出書の作成に進む」というところから確認メールを送信する。Webブラウザのメールクライアントを呼び出し、定められた件名や宛先で空メールを送るようになっているが、Webメールやメールクライアントの設定がない場合に備えて、手動で記載して送信する方法も書かれている。ここはPCではなく、スマートフォンから送るようにすると便利かもしれない。
確認メールに対してしばらくすると自動的に返信があり、そこに届出書を作成するためのURLが書かれているので、アクセスして記載を進める。
記載はそれほど難しくはないが、使用する機器のメーカーや型式、シリアル番号などがはっきりしていなければならず、設置場所や移動範囲なども明確にしておく必要がある。
現在は紙に印刷して届け出をする
Webサイト上で届出書を作成したら、印刷して自署または捺印して提出する。現在のところ紙で提出する必要があるが、2020年春頃にWeb届出システムを運用する予定としているため、今後方法が変更になる可能性がある。
提出先は住所地の都道府県を管轄する総合通信局。全国で11に分かれていて、首都圏の1都7県は東京にある関東総合通信局に提出、近畿の2府4県なら近畿総合通信局が提出先になる。各県の分け方はアマチュア無線のコールサインの地域区分と同じ。以前、携帯電話会社が各地域で分かれていたが、その地域会社の区分ともほぼ同じになっている。
提出は郵送と直接持参する方法があるが、東京の場合、総務省だが霞が関の本省ではなく、九段南の九段第3合同庁舎になるので、郵送にしても持参するにしても間違わないようにしたい。
IoT機器で届け出をやってみた
筆者も中国から取り寄せたIoT機器であるスマートスイッチがあり、これを実験で使えるようにするため届け出をしてみた。
届け出をした機器は中国のITEAD INTELLIGENT SYSTEMSのスマートスイッチ「SONOFF BASIC R3」。国内では出回っていないが、アプリのeWeLinkは日本語化がなされており、国内でよく出回っているTuyaの技術を使ったスマートスイットとは違うアプリの使い勝手を試してみたかった。
最初にSONOFF BASIC R3にCEマークがあることを確認し、シリアル番号があることを確認する。問題は電波の出力でメーカーのWebサイトには記載がない。内蔵のWi-FiモジュールのESP8285のスペックシートから最大で約100mWであることを確認し、出力も範囲内とわかった。
ここまで済めば、あとは届出書に必要な記載を落とし込むだけ。届出書はすぐに作成でき、印刷まで完了した。このとき、届け出の方法が印刷するボタンの下に表示してある。入力した住所から提出先の総合通信局とその届出部署が書いてあり、所在地のリンクもある。ページを閉じてしまうと見られないので、忘れずに控えておきたい。
印刷した届出書には署名または押印を行なうと、あとは提出するのみで、普通は郵送すればよい。ちなみに届け出の際の手数料は無料だ。
関東総合通信局へ早速持参
届出書が完成したら、早速郵送といきたいところだが、なるべく早く使いたかったので関東総合通信局へ出向いて提出してきた。
関東総合通信局の行き方は、地下鉄の九段下の駅から歩いてすぐ。九段第3合同庁舎は千代田区役所も入っているため、区役所を探して行けばよく、入口も同じだ。ちなみに九段第3合同庁舎には“マトリ”と呼ばれる厚生労働省の麻薬取締部も入っている。
提出先は関東総合通信局の無線通信部 電波利用企画課なので、受け付けで行き先を告げてエレベータで上がって該当の部署を訪ね、係員に提出して完了した。
提出自体は非常にあっけないもので、さっと書類を確認して受け取って終わり。この制度が開始されて間もないので何人か届出者がいると思っていたが、自分以外は誰もいなかった。
提出はこれで完了だが、届出の受理のメールが届出書に記載したメールアドレスにやってくるまでは試用はお預けだ。
すぐに届出の受け付けメールが飛んできた
提出後、多少は時間がかかると思っていたが、九段第3合同庁舎を出て地下鉄の駅までゆっくり歩いている間に受付のメールが届いた。使い始めの手続きはこれで完了。180日間は合法的に使えることになる。
メールには届出番号などが書いてあるほか、廃止届を出すためのURLも記載してある。廃止届は180日以内に利用を終了させて届出をするようにとメールに記載してあり、これは忘れずにしたい。
以上、届出を実際にやってみたが、思ったよりは簡単に手続きが済んでしまった印象だ。この制度の利用はあくまで実験などのためだが、試用してみたい機器があれば、届出をしておきたい。