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キャッシュレス推進の鍵となる「個人間送金」。Pay系サービスの対応に違い
2019年5月7日 08:15
QRコードや二次元バーコードを使ったコード決済サービスが急増中だ。「Pay」の名がつくことが多いため「Pay系サービス」と一括りにしてしまうが、各社が使える店舗の開拓や、“還元”キャンペーンなどで、ユーザー獲得や流通金額の拡大にしのぎを削っている。
そうしたPay系サービスにおいて、まだあまり日の目を見ていないものの、今後期待したい機能が、「個人間送金」。日本ではあまり注目されていないが、キャッシュレスには欠かせないサービスなのだ。
「送金」の背景。結構違う、Pay系の送金機能
個人間送金は、文字通り個人同士で金銭を送ること。現金を直接受け渡しする以外だと、銀行口座を使った送金が一般的だ。ただ、この送金には一定の手数料がかかるため、普段から常用するという人は少ないだろう。
日本では、銀行法上「為替取引」は銀行が行なうものとされている。つまり、銀行などの金融機関以外がお金を送ったり受け取ったりすることができなかった。これでは銀行以外がFinTechのような新しいが事業できないため、関連する銀行法の改正と資金決済法の制定・改正が行なわれた。
改正銀行法では電子決済代行業が、資金決済法では前払式支払手段発行業と資金移動業がそれぞれ設けられた。全て、所定の届け出が必要となっており、既存のPay系サービスは、おおむねこのどれかにあてはまっている。
それぞれ仕組みが異なっており、電子決済代行業は、銀行口座から別の口座への振込などを、預金者の代わりに銀行に対して伝達することができる。Pay系では、LINE PayやOrigamiなどがこの電子決済代行業の登録をしている。
前払式支払手段発行業は、商品券やカタログギフト、プリペイドカード、オンラインでも使えるプリペイドカードなどの発行を行なう業者だ。いわゆるカード型の電子マネーはこちらに位置づけられるので、Suicaや楽天Edy、WebMoney(とそれに関連するau WALLETチャージカードなど)、Kyashなどはこれに当たる。
ちなみに、有効期限が6カ月に満たないものは法の対象外なので、iTunesカードなどはこれに該当していない。
資金移動業は、昨今のPay系サービスの中心だ。100万円までの少額取引に限定されるが、銀行法上の為替取引と同等の取引が可能になる。Pay系サービスはだいたいこれに登録しているといっていいだろう(銀行が提供するPay系サービスを除く)。
この資金移動業への登録で重要なのは、「為替取引ができる」という点だ。口座から現金を電子マネーとしてチャージし、チャージした電子マネーを口座に現金として出金できるのは、資金移動業者として登録されているからだ。
楽天、NTTドコモ、PayPal、LINE Pay、ヤフー、pring、WebMoney、メルペイなど、関連企業の多くがこれに登録されている。これにともなって、各サービスでは個人間送金が可能になっている。
中国Pay系の起爆剤となった個人間送金
個人間送金サービスは、中国のPay系サービスであるAlipay、WeChat Pay普及のきっかけになったとされている。中国の正月である春節では、日本のようなお年玉の文化があり、これを現金ではなくWeChat Payで送るキャンペーンを実施し、さらにライドシェアサービスのDiDiとのキャンペーンを組み合わせて、送金と利用という2つのきっかけを作ったのだ。
これがヒットして、スマートフォンの普及と合わせて現在の中国でのキャッシュレス決済拡大に繋がった。Alipay、WeChat Payは多くの人が使っていたサービスで、たいていの人がすでにアプリをインストールしていたのも、普及を後押ししただろう。
中国では、「うまくタイミングがハマった」こともあって、個人間送金が起爆剤の一つとして機能した。中国以外でも、デビットカードが主流の欧州の国では個人間の送金を直接銀行に送れるため、よく使われる機能だ。発展途上国ではSMSを使った送金というのも一般的ではある。米国では、例えばApple PayやGoogle Payにも個人間送金機能がある。
日本の事情とこれから
それに対して、個人同士で現金をやりとりするシーンが多いのが日本だ。お年玉やお小遣いのような例はもとより、ランチや飲み会での割り勘で集金する場合にも現金がよく使われる。
これまでも、個人間送金サービスがなかったわけではないが、銀行振込は送金手数料が必要だし、送金の無料サービスがあっても、出金で手数料が必要だった。こうした場合、どちらかが損をすることになってしまう。
サービスが乱立しているのも問題だろう。「誰でも使っているサービス」というのが一定していないので、送金先がバラバラになってしまう。こうなると、受け取り側がやはり不利になる。
とはいえ、以前とは事情が異なるのは、Pay系サービスのブームによって実店舗などで決済として使える例が増えている点。利用可能店舗が増えているので、個人間送金で受け取った電子マネーを現金化しなくても、色々な場所で使えるようになった。
個人間送金をサポートしているサービスは多いが、銀行口座への出金をサポートしていないサービスもある。そうしたサービスでも、支払いに使える場所が増えれば、現金に近い扱いと言えるだろう。そうした割り切り方もできる。
送金機能に当初から力を入れていたLINE Payは、銀行からチャージした残高を友人に送ったり、受け取ったりといった個人間送金が可能で銀行からの引き出しが可能(手数料は必要)。同様に個人間送金を主力としたpringも銀行口座からチャージして送金、出金が可能。個人間送金に力を入れているKyashは、クレジットカード経由のチャージが基本で残高出金はできないが、物理カードを用意して利用可能店舗を増やすことで、送金された残高を使いやすくしている。
PayPayも残高の送金(PayPayライト)は可能で、送られた残高を自由に店舗で利用できる。ただし、現時点では銀行口座からの引き出しには対応しない。楽天Payも新たに楽天キャッシュとして残高の送金に対応しているが、残高のチャージには「楽天カード」が必要で出金には非対応(2019年3月18日より前にチャージされた分の楽天キャッシュ出金は可能だが、3月18日以降分は出金できなくなった)。
両サービスは出金にも今後対応予定となっているが、現時点ではサービスによって対応状況がかなり異なっている。
それでも、最終的には、どのPay系サービスを使っても、無料で銀行口座へ出金できれば、ひとまとめにできて問題はなくなる。このあたりは、Pay系サービス単独で改善できるわけではないので、業界全体として対策を考える必要がある。
こういう意味で本来期待される銀行系のサービスでは、あまり個人間送金に触れられていないのが実情だ。その中ではみずほ銀行系のJ-Coin Payが、個人間送金が可能な上に出金手数料は不要で一歩リードしている。
銀行Pay、Bank Payという複数の銀行が参画するサービスでは個人間送金の詳細が明らかになっていないが、いずれもデビットカードと同様の仕組みなので、送金側は自分の銀行口座からリアルタイムに現金を送金し、受け取った側は自分の銀行口座に出金できるような設計が考えられる。ここで出金手数料が不要になれば大きな前進となる。
もう一つ期待したいのが「+メッセージ」だ。これは携帯3社が提供するメッセージサービスだが、現時点ではこの3社のユーザーであれば電話番号だけでメッセージがやりとりできる。
単なるメッセージサービスとは異なり、テキストだけでなく写真なども送れるが、機能拡張によって、例えば銀行が口座と接続したサービスの提供も可能になる見込みだ。これが実現すると、「電話番号だけで銀行口座から相手の銀行口座に直接送金する」といったことが可能になるかもしれない。
現在でも、じぶん銀行のように自行口座同士であれば、電話番号だけで送金できるサービスはある。+メッセージが、銀行をまたがって送金できるようになり、仮に送金・出金手数料が無料であれば、個人間送金としては決定版になるかもしれない。
中国のAlipay、WeChat Payで屋台のような小規模個人店でも使えるのは、個人間送金の仕組みを使っているからだ。口座への出金手数料がかからなければ、個人商店にとっても即時の現金収入が得られることになり、利用価値は高い。
個人間送金は、キャッシュレスをさらに推進するために重要な機能になる。今後、業界全体として取り組みが進んでいくことを期待したい。