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スマホ時代の「新聞」を使い倒す(1)。「日経電子版」はスキのない王者
2019年3月25日 08:00
Impress Watch読者の皆さんは、「新聞」とどう付き合っておられるだろうか? 通勤時に駅の売店で買い、電車の中で読む。あるいは定期購読していて、家に配達されてくる新聞を朝食時に読む。あるいは全く読まず、Webニュースにだけ目を通すとか、色々なスタイルがあるかとは思う。
かつて「メディアの王」だった新聞だが、その勢いは年々衰えている。日本新聞協会によれば、国内の新聞発行部数は2000年に約5,370万部だったが、2018年には3,990万部にまで下落している(参考)。「電車の中で新聞を読んでいる人が減った」と感じるのも、ある意味当然だ。
もちろん、この背景にはインターネット、そしてモバイルの台頭が影響しているだろう。わざわざ紙の新聞を買わなくても、今やスマホ1台あれば、それ相応の記事がタダ同然で読めてしまう。それにギュウギュウ詰めの満員電車の中では、新聞をめくるより、むしろスマホのWebニュースに目を通す方がよほど楽だ。
そんな状況ではあるが、ここにきて新聞を巡る興味深い動きがあった。国内最大の発行部数を誇る読売新聞が2月、オンラインサービスを大改訂し、新たに「読売新聞オンライン」を立ち上げたのだ。
これまでも日本経済新聞や朝日新聞などが「新聞の電子化・有料化」を目指して取り組みを続けてきたが、最大手ながらデジタル化には慎重だった読売新聞が新戦略を打ち出したことで、環境が大きく変わっていくと考えられる。
一方、新聞業界以外に目をやると、映像・音楽のサブスクリプションサービスを筆頭に「課金型」のビジネスモデルに注目が集まってきた感もある。月額制で配達網まで持っている新聞はサブスクサービスの元祖とも考えられるが、ネットにおいては、これまで「無料」と思われてきた。今後のネット新聞は今後どうなるのか? 有料版の価値とはなにか? 全3回に渡って、各紙の電子版サービスを比較・検証していく。
なお、各紙の報道方針や論調には触れず、アプリやサービスの使用感のみを紹介する。
主要3紙の料金・機能を比較
本連載では、日本経済新聞・読売新聞・朝日新聞の3紙を取り上げる。まずは料金プラン、サービス内容を一覧表にまとめた。
各サービスの詳細は連載で順に解説していくが、その前提として、「スマホでの閲覧」「通勤電車内や外出先での利用」を中心に、優劣をみていくこととした。筆者の実感としても、また各種統計などを見ても、インターネットの主役の座はPCからスマホへ移ったことは明らかだし、ましてやニュースのように「読む」コンテンツは、移動中の隙間時間と相性がいい。スマホを抜きに語る訳にはいかないだろう。
なお、機能の評価や画面写真の撮影には、特記なき限りiPhone 7(au版をSIMロック解除し、楽天モバイル回線にて接続)を用いている。PCやタブレットでの使用感については、稿を改めてお伝えしたい。
【日本経済新聞 電子版】
https://www.nikkei.com/
第1回目で取り上げるのは日本経済新聞だ。同紙が電子版サービスを開始したのは2010年3月23日。今から約9年前のことだった。そして同年10月にはスマホ対応を発表している。
日経の公称では、有料会員数は2018年6月の時点で60万人。読売は電子版サービスを始めたばかりだし、朝日らがあまり積極的に有料会員数を公表していないことを鑑みれば、日経電子版が国内ナンバー1の「新聞電子版サービス」とみて間違いない。
料金は上述の表の通り、電子版は月額4,200円。紙版も同時に購読する場合は月額5,900円。家族・夫婦で回し読みをするならともかく、独居者が1人で読むとなると、さすがに躊躇する金額ではある。
購読にあたっては、原則として「日経ID」を用いる。このIDは、日経グループの各種Webサイトの利用、主催イベントへの参加申し込みの際にも使われるもの。
初回の申し込みはPCはもちろん、スマホからも行なえる。初月は無料となるお試し制度があるが、クレジットカードの登録は必須。
アプリならフリック操作で記事をどんどん閲覧
日経電子版をスマホで閲覧する場合には、ぜひ専用アプリを使いたい。日経の名を冠したアプリは今のところ2種類あるが、基軸となるのは「日経電子版アプリ」(iOS/Android対応)のほうだ。
使い方はシンプルで、Webブラウザーで「nikkei.com」を閲覧するのと大差ない。メイン画面には、新着記事が分刻みで更新されていく。アイキャッチとなる写真もふんだんに使われている。
ただ1点異なるのは、画面の左右フリックで次々とページを遷移させていけるところ。記事の個別表示中に左右フリックすると、なんらかの記事の見出しをクリックしなくても、別記事の詳細画面へと遷移する。電子書籍アプリのページ送りをする感覚に近い。
左右フリックは、記事一覧画面でも機能する。例えば「経済・政治」の記事一覧を表示しているときに左クリックすると「ビジネス」、さらには「マーケット」といった具合にジャンルを切り替えていける。とにかく沢山の記事見出しに目を通したいユーザーにとって、重宝する部分だ。
朝刊・夕刊をWebのフォーマットで読める
アプリを立ち上げれば、その時点で最新のニュースを読める訳だが、朝刊・夕刊に載った記事だけをまとめて一気読みしたいケースもあるだろう。その要望に応える形で、日経電子版アプリには「朝刊・夕刊」のメニューがしっかり用意されている。
このメニューを開くと、指定した日にちの朝刊・夕刊記事を“Webのフォーマット”で読める。新聞本紙のスキャン画像をドラッグ&ドラッグでスクロールするのではなく、あくまでWebサイトのように、並んだ記事一覧の中から目的のものをタップして、詳細を読む。ただし、一覧に並ぶ記事は固定されていて、速報記事などは入り込まない。記事の並びも基本的には「新聞本紙のページ単位」だ。
新聞の電子版サービスというと、いわゆる「紙面ビューアー」機能を連想する方が多いと思う。縦書きの新聞本紙を見た目そのままデジタル表示し、タッチ操作でスクロールさせたり、ピンチイン&ピンチアウトで拡大して読むという方法で、確かに視覚的なインパクトは大きい。
ただ、PC/タブレットと比べると、スマホはやはり画面が小さい。相対的に一覧性も低いため、紙面ビューアー機能が真に使いやすいかというと、やや疑問が沸く。紙面の内容をWebのフォーマットに落とし込む手法のほうが、ユーザーが毎日のように利用するサービスとしてベターかと思う。
「朝刊・夕刊」メニューのおかげで、お気に入りの連載記事なども簡単に見つけられる。筆者の場合だと、金曜夕刊に載る映画評がそれ。わざわざ映画名などでフリーワード検索しなくとも、メニューをタップしていくだけで目的の記事に辿り着ける。
気になるキーワードを継続チェックするのに便利な「Myニュース」
新聞電子版サービスの多くは、記事保存、キーワード登録などの機能をごく標準的に搭載している。日経の場合は「Myニュース」と呼ばれるメニューに集約されている。
日経電子版アプリで記事を表示すると、画面右上にクリップのアイコンがあり、これをタップすると記事が保存される。保存期間は、著作権などの都合で一律に設定されてはいないが、数日で消えるようなケースは限定的だろう。時間がないので後で読みたい時など、気軽に使っていきたい。
また、仕事などの関係で特定テーマの記事を集中的に調べたい時には、「フォロー」機能もあわせて使うといいだろう。企業名、業界名、連載名はもちろん、任意のキーワードを登録(フォロー)しておくと、その条件に引っかかった記事が専用のタイムラインに集約されていく。
フォロー項目を増やしすぎると、タイムラインがすぐ見づらくなってしまうが、それでも便利なことに変わりはない。また、見つけた記事はすぐクリップしておく。“新聞の切り抜き”のためにハサミや糊、バインダーを買う機会は、確実に減るだろう。
ローカル記事の扱い
大抵の新聞は、「ローカル面」が1~2ページ用意され、発行地域によって差し替えられる。東京で買った日経であれば「首都圏東京」、北海道で買えば「北海道経済」が印刷されていて、逆に言えば、別地域のローカル面を読むには、該当地域に行って買うしかない。それで不便はないとは思うが、とはいえ、生まれ故郷を離れて暮らしていたり、単身赴任中の方は、別地域のローカル面を読みたいこともあるだろう。
日経電子版アプリの「朝刊・夕刊」メニューでは、ローカル面の扱いが「首都圏東京」で固定されていて、ここからは他の地域のローカル面を読むことはできない。
ただし、「首都圏東京」以外のローカル面記事も、記事データベースには収録されている。キーワードで検索すればヒットするし、ニュースジャンルの「地域」からも読むことができる。
工夫盛り沢山の「紙面ビューアー」アプリ
このローカル面も含めて、紙面としての新聞を徹底的に味わい尽くしたいなら、そこはやはり紙面ビューアーの出番となる。日経の場合は「日本経済新聞 紙面ビューアー」という別アプリを用意されているので、これをダウンロードしよう。
紙面ビューアーアプリでは、朝刊、夕刊、週末の別刷り版を本来のレイアウトのまま、閲覧できる。またバックナンバーとして直近30日分を用意。設定メニューからは、ローカル面を全22種類から選択できる。よって、紙面ビューアーさえ使えば、全国のローカル面を居住地に関係なく閲覧できる。ただし、テレビ・ラジオ面(番組表)などは、原則として東京版のままとなっている。
紙面ビューアーでは当然、紙の新聞がほぼそのまま再現されている。1ページ丸々使った全面広告も表示されるので、Webフォーマットとはまた違った新聞体験が楽しめる。
日経の紙面ビューアーアプリは、操作性の面ではかなり洗練されている部類だ。任意の記事をダブルタップすると、まずそのレイアウト部分にズームインする。これでもスマホ画面ではやや文字が小さいが、メニュー画面のアイコンをクリックすると、Webページとほぼ同様の横書き記事画面へ遷移してくれる。
ここでは図版も表示されるし、紙面ではモノクロだった写真がカラーになるケースもある。また記事は通常のテキスト扱いなので、コピー(&ペースト)も可能だ。
記事ズームイン状態で、画面下部のメニューから上カーソル・下カーソルを選ぶと、記事の送り・戻しができる。つまり、ピンチイン・ピンチアウトによるズーム操作をせずに、紙面レイアウトのまま記事を読んでいける。アニメーション効果もしっかりあるので、ページをまたいだり、ページのどこをクロースアップしているかも分かりやすい。
まとめ:主要機能を網羅、「ウェブ」も「紙面」も手抜きなし
このほか、ニュースのプッシュ通知機能も搭載している。無料ニュースアプリでもごく当たり前に同様の機能を備えるようになり、もはや珍しい機能ではない。ただ、それでも経済に強い新聞社のサービスとあって、通知の傾向はやや独特だと感じる。少なくとも最初のうちは、通知機能をオンにしておくといいだろう。
さて今回は日経の電子版サービスを見てきた訳だが、「全方位でそつなくまとまっているな」というのが率直な感想だ。2つのアプリともしっかり作り込まれていて、ブラウザーだけでは難しい体験がきちんと盛り込まれている。
また、紙面ビューアーで「本来の紙面」を見せつつも、とはいえスマホの小画面で記事を読むユーザーへの配慮も滲む。アプリ内の「朝刊・夕刊」メニューは、まさに中間の“現実解”と言えよう。紙の新聞歴が長い人も、ウェブのインターフェイスが好きだという人でも、安心して使えるだろう。あえて難点をあげるなら、価格だろうか……。
第2回目となる次回は、読売新聞を取り上げる。先行する日経や朝日とどのように差別しているのか? 詳しく見ていこう。
第1回:日本経済新聞電子版
第2回:読売新聞オンライン
第3回:朝日新聞デジタル