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クレカ上でQR表示や5つのボタン。Dynamicsの次世代クレジットカード

ソフトバンクとその子会社SB C&Sは、米Dynamicsの次世代クレジットカードを日本国内で取り扱うために協業している。1月初頭に米国ラスベガスで開催された家電関連見本市「CES 2019」でDynamicsが製品を出展しており、CEOのJeffrey Mullen氏がインタビューに応じた。

DynamicsのJeffrey Mullen CEO

Dynamicsの次世代クレジットカードは、通常のクレジットカードに対してさまざまな機能を追加したものだ。サイズや見た目はクレジットカードと同様だが、カードによって独自機能が搭載されている。

例えばすでに三井住友カードが今年からの採用を予定しているのがセキュリティ機能搭載カード。通常のクレジットカードとは異なり、本体のカード番号の一部が非表示化されており、その部分にディスプレイが装備されている。本体に5つのボタンを装備し、あらかじめ設定されたパスコードを入力すると、クレジットカード番号が表示される。

セキュリティ機能搭載カード。5つの数字ボタンを押してパスコードを入力する

これによって、パスコードを知らない人にはカード番号が見られることなく、もちろん利用時もパスコードを入力しないとレジ側のリーダーにもカード番号が通知されないため、カードの悪用が難しくなる。

カード番号を表示するディスプレイには、ワンタイムのセキュリティコードを表示することもできる。背面には磁気ストライプがあり、ICチップも搭載されているので、利用する際には通常のクレジットカードと同じように使える。

もう一つは複数の機能をまとめたカードだ。これは、ボタンを押すたびにクレジットカードとキャッシュカード、ポイントカードを切り替えたり、本体上のボタンを押せば、クレジットカードのリボ払いを設定する、といった機能を搭載する。支払時は店員に1回払いを指定するが、実際の支払いはボタンを押した回数でのリボ払いになる、というものだ。

複数機能搭載カード。こちらはクレジットカードと会員カードがセットになっている。カナダの銀行CIBCが発行し、ボタンを押すことでクレジットカードとドーナツチェーンのTim Hortonsの会員カードが使い分けられる
こちらはインドIndusind Bank発行のカード。クレジットカードとリワードカードがセットになっているほか、ボタンを押すごとに6回、12回、18回、24回のリボ払いが選択できる

すでにインドのIndusind Bankでの採用が決まっているとのことだ。こちらも今年の登場予定だという。

最後の一つが通信機能を内蔵した「Wallet Card」と呼ばれるカードだ。内部にeSIMを内蔵し、携帯電話ネットワークで通信を行なうことができる。通信機能によって実現するのがカードの書き換え機能だ。

Wallet Card。カード番号は券面になく、電子ペーパー上に表示される。複数のカードの切り替えも可能

この機能によって、Wallet Card上のクレジットカードを切り替えることで、複数のカードを利用することができる。スマートフォンでは、Apple Payのように複数のクレジットカードを保存して使い分けることができるが、これを物理的なカードとして実現するのがこのWallet Cardだ。

複数のカードを保持するためにカード券面には番号が表示されず、大きめの電子ペーパー上にカード番号などが表示される。磁気ストライプ、ICチップのいずれも書き換えられるので、通常通りカードとして利用することが可能。もちろん、非接触IC機能があれば、そちらも書き換えられる。

ネットワーク経由でカードの利用状況などを電子ペーパーに表示することもできる

ネットワーク経由でクレジットカード情報を書き込めるので、カードを契約した際にも即時発行が可能。いちいちクレジットカードが送付されるのを待たなくても、契約して即時使えるようになるのがメリットだ。

通信機能を搭載するため、電子ペーパー上にQRコードを表示することもできるので、QR決済サービスにも対応できる。通信機能を利用することで遠隔からカードにアクセスすることもできるため、店舗やカード会社からのメッセージやクーポンを表示するといった使い方も可能だ。

QRコードの表示も可能

それに加え、Wallet Cardを紛失した時に遠隔からアクセスすることで、カード情報を削除するといったこともできる。紛失時の安全性を向上できるのも大きなメリットの1つだ。

通信機能を使うが、消費電力は極めて少ないという。日本で回線はソフトバンクを使うということで、NB-IoTなりの低消費電力の通信を利用するとみられる。バッテリーは一般的なカードの有効期限である5年間を確保するが、「日常の決済操作で充電される」としている。通常、非接触決済で使われるカードの電力はリーダーとの通信時に給電されるが、恐らく同様の仕組みで充電をしているのだろう。

もともと、同社は10年前にカーネギーメロン大学で生まれた会社で、当初磁気ストライプの新たなデザインを設計して100万ドルの資金を調達し、カードに関する技術を追求してきた。

Mullen氏によれば、現在世界では200億のデビットとクレジットカードがあり、これは年5%増えているという。クレジットカード利用の30%は国外で利用されているそうで、さまざまな支払いが発生するため、セキュリティと利便性の両立が必要となる。そうした点を考慮しているのが、例えば今回のWallet Cardやパスコード対応カードだ。

そしてこうしたカードは、「銀行にも求められている」とMullen氏は話す。海外では、クレジットカードの発行は銀行が行うなのは普通だが、銀行側は利用者にもっとアプローチしていたいと考えているという。最も優れた銀行でも、その銀行のモバイルアプリを使っているのは60%にとどまるが、「Wallet Cardであればメッセージを送付することもできて、顧客との繋がりが作れる」と話す。

カード送付も銀行にとっては大きな課題であり、Wallet Cardはこうした課題解決にも繋がるとしている。

セキュリティに関しても、国際カードブランドであるMasterCardとVISAの認証を受けたシリコンチップを使用しており、普段はカード番号などがカード券面に表示されていないため、「覗き見やカメラによってカード番号が漏えいしない点もセキュアだ」とMullen氏。

しかも、盗難時にはネットワーク経由で即時書き換えが可能なので、すぐにカード交換もできるというのも大きなメリットと言えるだろう。

こうした機能は、iPhoneのApple Payでも実現可能な点が多い。それに対してMullen氏は、「日本では十数年のモバイル決済があるが、置き換わっていない。決済は携帯電話と分けていたい」という認識を示す。

また、Apple Payもおサイフケータイも非接触決済となり、そのためのインフラの更新が必要になる。それに対して、これまでのクレジットカードのインフラをそのまま利用できるWallet Cardのメリットをアピールする。

このWallet Cardは、まずはエミレーツ銀行で採用が決まっており、さらに第2四半期には「大きな市場」(Mullen氏)での採用も発表されるという。日本での登場も期待できるだろう。

エミレーツ銀行のカードでの採用が決まっている