中小店舗のキャッシュレス対応
第4回
レジ待ち改善のため「Airレジ」2台体制に。トラブル回避にも効果
2019年8月2日 08:15
前回は、筆者の家族が経営する店「紀の善」で導入したモバイルPOSシステムで、キャッシュレス決済に対応したところまでを紹介しました。今回は、その後の設備改善やトラブルへの対応について紹介します。
レジ待ち改善とバックアップを想定しAirレジをもう1セット追加
紀の善では、2019年2月にリクルートライフスタイルが提供するモバイルPOS「Airレジ」を導入。3月にはキャッシュレス決済サービス「Airペイ」への対応を行ないました。途中、いくつかトラブルはありましたが、現在まで順調に運用できています。
そういった中、Airレジ導入を決めたときから考えていた、ある計画を実行することにしました。それは、Airレジのシステムを1セット追加して、レジを2つに増やすというものでした。
店では、基本的にはレジ1台でお客様の対応を行なっていますが、休日の日中などの混雑する時間帯では、イートインの会計のお客様とテイクアウトのお客様の双方がレジ前で行列となって、長時間お待たせしたしまう場合があります。これは、Airレジ導入前からの懸案でもありました。
しかし、レジがもう1台あれば、双方のお客様を並列にレジ対応できるようになるため、お待たせする時間を減らせるはずです。
また、Airレジをもう1セット追加する理由はもうひとつありました。それは、トラブル時のバックアップとして活用できる、というものです。AirレジなどのモバイルPOSシステム(mPOS)の多くが汎用機のタブレットを利用していますので、専用機に比べるとどうしてもトラブル発生の可能性が高くなります。そこで、Airレジをもう1セット用意しておけば、トラブル時のバックアップとしても活用できると考えました。
ただ、サブのレジとして、かつバックアップとして用意するということで、あまりコストはかけたくありません。そこで2セット目については、利用するタブレットとして最も安価な9.7インチディスプレイ搭載の「iPad Wi-Fiモデル」を選択しました。メインのセットで利用している12.9インチのiPad Proに比べると、画面が小さく操作性は劣ることになりますが、そこはサブということで妥協することにしました。
その他、セイコーインスツルのレシートプリンター「RP-D10」、手動開閉式のキャッシュドロアー、ソケットモバイルのバーコードリーダー「cx2895-1508-r-wht」も同時に購入しました。このうち、レシートプリンターは1セット目とは違う製品を選択しましたが、これもトラブル時のリスクヘッジを意識してのものです。
トータルの購入費用は、約11万円でした。ただ、こちらも軽減税率対策補助金の活用が可能ですので、iPad購入費の1/2、レシートプリンターとバーコードリーダー購入日の3/4が補助されることになります(キャッシュドロアーは対象外)ので、実質の導入コストは5万円弱でした。
また、キャッシュレス決済に対応した以上、こちらのセットでもAirペイが利用できなければ意味がありませんので、Airペイで利用する決済端末を追加発注しました。ただし、Airペイでは、1台目の決済端末は現在キャンペーン中のため0円で提供されますが、2台目以降は1台につき19,800円の料金がかかります。少々残念ではありますが、これは仕方のない部分でしょう。
ところで、運用開始にあたっては、Airレジでは登録アカウントでログインするだけで既存設定がそのまま反映され使用できるようになりますので、面倒な設定の手間がかかりません。そのため、このセットは発注から運用開始まで4日しかかかりませんでした。このように、手軽にレジを追加できるという点もmPOSの魅力と言えるでしょう。
実際に2セット目のAirレジを追加したのは3月末でしたが、それ以降は混雑時のレジ対応も2台のAirレジを使って比較的スムーズに行なえるようになりましたし、店員からも素早くレジ対応できるようになったと好評です。
iOSを起因としたレシートプリンターのトラブルが発生
2セット目のAirレジを導入して2台体勢での運用を開始してしばらくはトラブルなく運用できていましたが、4月上旬に大きなトラブルが発生しました。そのトラブルとは、レシートプリンターとの接続が頻繁に切れてしまい、レシートが印刷できないというものでした。
一度接続が切れると、プリンターの電源を落としたり、iPadを再起動するなどしない限り再接続できません。しかも、それが業務中に何度も発生してしまい、レジ業務に多大な支障を来したのです。
このトラブルが発生したのは、ある作業を行ってからでした。それは、iPad OSの「iOS 12.2」へのアップデートでした。iOS 12.2は3月25日より配信開始となりましたが、店でAirレジとして使っていた2台のiPadは、ちょうど店が忙しかったこともあって、4月上旬までアップデートを行わずに使っていました。春休みも終わって忙しさが一段落した4月上旬に、そろそろいいかとアップデートしたところ、レシートプリンターのトラブルが発生するようになったのです。
その時点でAirレジは2台導入していましたが、トラブルが発生したのは、先に導入していたiPad Proを利用したAirレジのみで、後から導入したiPadを利用したAirレジでは発生しませんでした。
トラブルが発生した時には店員も慌てたようでしたが、その時点で2台のAirレジを導入していたおかげで、なんとか大きな混乱なくレジ対応ができました。そういった意味で、2台のAirレジを導入した効果がさっそく発揮されたわけです。
なぜ、iPad Pro側のみトラブルが発生して、iPad側ではトラブルが発生しないのか、その時点では理由がわかりませんでした。ただ、双方の違いはiPadの種類の違いに加えて、レシートプリンターも違う製品を使っていましたので、こちらに何らかの問題があるのでは、と考えてレシートプリンターを入れ替えてみたところ、iPad Pro側で発生していた不具合は発生しなくなりました。
このことから、問題はレシートプリンターにあると判断し、iPad用に用意したレシートプリンターをiPad Pro側に接続し、しばらく運用することにしました。
そして数日経過したところで、リクルートライフスタイルからお知らせが届きました。その内容は、スター精密のレシートプリンター「TSP654IIBI-240F JP」でiOS 12.2に起因する接続トラブルが発生していること、この問題はiOS側での対応が行なわれない限り改善できそうにない、というものでした。
2台目のAirレジ導入時に、別のレシートプリンターを選択しておいて本当に良かったと思う反面、トラブルが長期間続くともう1台のAirレジが使えないわけで、それはそれで問題です。そこで、レシートプリンターの製造元であるスター精密のサポートに相談してみたところ、不具合が改善するまでの間、別のレシートプリンターを貸し出してくれるとのこと。さっそくそちらをお願いしました。
代替機として届いたのは、最新モデルの「mC-Print3」でした。こちらはiPadとLightningケーブルで接続して利用します。無線接続はトラブルの原因になる可能性があり、有線接続で利用できるのはかなり魅力です。また、それまで使っていたTSP654IIBI-240F JPよりもサイズがコンパクトで、レジまわりもすっきりしました。もちろん、トラブルも一切発生しませんでした。
その後、5月14日にiOS 12.3の配信が始まり、5月下旬にiOS 12.3においてトラブル解消が確認できた、という連絡がありました。本来ならここで、代替機を返送してTSP654IIBI-240F JPに戻すところですが、店員から、新しいレシートプリンターのほうが扱いやすいから、このまま使いたいと言われたのです。とはいえ、代替機のmC-Print3は、税抜き価格が49,800円と高価だったこともあって、入れ替えるのはコスト的にかなり厳しいのも事実でした。
そこで、再度スター精密のサポートに連絡して、mC-Print3をそのまま使う方法はないかと相談したところ、他の代替機利用者からも同様の声が多数届いているとのことで、通常よりも安価な負担でそのまま使えるようにします、との回答が届きました。安価とはいっても出費を伴うので痛いのは間違いありませんが、買い換えよりもかなり安価に購⼊できることや、有線接続の最新モデルで今後も安定して利⽤できそうということで、買い取ることにしたのでした。
今回のトラブルは、iPad OSに起因するものでしたので、リクルートライフスタイルやスター精密も想定外のトラブルだったはずです。とはいえ、iPadという汎用タブレットを利用する限り、今後もこういったトラブルが発生する可能性からは逃れられないでしょうし、これがmPOSの弱点と言えるかもしれません。
ただ、運用側が注意することでトラブルを避けることも可能です。今回のトラブルについても、無闇にOSをアップデートしなければ避けられたはずです。長年PCを使ってきた経験から「正常に動作しているなら無闇にアップデートすべきではない」という鉄則をわかっていながら、あまり確認もせずにOSをアップデートした筆者もうかつだったと言えます。
今後は、リクルートライフスタイルなどから正常動作のアナウンスがあるまでは無闇にOSアップデートは行わないように徹底しようと思います。合わせて、リクルートライフスタイルにも、今後iPadのOSアップデート時には動作情報を素早く届けていただけるようお願いしたいと思います。
決済端末をワイヤレス充電対応に
5月中旬頃にはトラブルもほぼ解消し、2台のAirレジを利用したレジ対応や、キャッシュレス決済対応もスムーズに行なえるようになっていました。そんな中、店員にAirレジの使い勝手についてヒアリングを行なってみたところ、キャッシュレス決済に関してあるクレームが上がりました。
Airペイで利用する決済端末は、バッテリー内蔵でケーブルを接続せずとも利用できるようになっています。しかし、バッテリー駆動の状態では、操作せずに数分経過するとスリープに移行して、iPadとの接続が切れてしまいます。その後に決済で使う場面になると、決済端末をスリープから復帰させてiPadと接続するまで数秒待つ必要があります。
レジが混雑している状態では、そのわずかな待ち時間でもお客様に不快な印象を与えることになってしまいます。
それに対し、USBケーブルを接続して常に給電しておけばスリープに移行しません。それなら、ケーブルを接続したまま運用すればいいと思ったのですが、残念ながらそれは不可能でした。実はこの決済端末は、USBケーブルを接続し給電している状態では正常に決済できないのです。実際に試してみましたが、確かにUSBケーブルを接続して給電している状態では、決済が正常に行なえませんでした。
そういったこともあって、店員には決済時にケーブルを抜いて決済を行ない、決済が終わったらスリープに移行しないようにケーブルを差し戻す、という作業をお願いしていました。
しかし、その決済時のケーブル着脱という一連の動作が、とにかく面倒だというのです。
そこで、この点を改善できないか考えてみた結果、ある方法を思いつきました。それは、スマートフォン向けに販売されている、USB接続のワイヤレス充電レシーバーを利用するというものでした。方法は簡単で、決済端末のUSB端子にワイヤレス充電レシーバーを取り付けるだけです。これで、いちいちケーブルを着脱することなく、ワイヤレス充電台に置くだけで給電が始まってスリープに落ちることがなくなり、決済で利用する場合も決済端末を持ち上げるだけですむと考えたわけです。
実際にワイヤレス充電レシーバーとワイヤレス充電台を用意して想定通りに動作するか検証してみたところ、充電台に置くと給電が始まってスリープに落ちることがなく、充電台から持ち上げると給電が止まり、全ての決済が正常に行なえることを確認しました。
唯一懸念だったのが、給電時の発熱でした。ワイヤレス充電は給電時に発熱を伴いますので、それが決済端末に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。ただ、数時間充電台に置いた状態で発熱の状況をチェックしてみたところ、ほとんど熱を感じませんでした。
これは、決済の時だけ充電台から外すという使い方なら、バッテリー消費もごくわずかで、大きな電力を必要とする場面がほとんどないからでしょう。また、利用したワイヤレス充電レシーバーは出力が最大5W(5V/1A)と、そもそも大出力ではないという点もいい方向に作用していると考えられます。
これなら大丈夫そうだと判断し、翌日から試験的に店頭に導入してみました。すると、決済時のケーブル着脱がなくなったことで、とても便利になったと店員には大好評。その後数日様子を見ましたが、決済や給電にまつわるトラブルは発生しませんでした。
この一連の対応ですが、もちろん自己責任で行なっています。念のためリクルートライフスタイルに確認してみたところ、想定している使い方ではないので「推奨できない」という回答を得ています。そのことからも、同様の対応はお勧めしません。ただ、それによって店員のストレスが減るのであれば、そちらを優先させるべきと考えて、店ではしばらくこのまま運用を続けるつもりです。
なお、リクルートライフスタイルから、USBケーブルを接続して給電している状態でも問題なく決済が可能となるファームウェアを用意していると伝えられています。ただ、この記事を執筆している7月末の時点では、まだそのファームウェアは届いていません。今後、ファームウェアアップデートによって今回の対応も不要になる可能性がありますので、そのあたりについての動向を追いつつ、新たな展開があればまた紹介したいと思います。
コード決済対応は次回に続く
今回は、本当なら前回予告していたように、コード決済の導入についても紹介する予定でした。実際に店では、6月中旬からコード決済を本格的に導入し運用しています。
ただ、ここまででかなり長くなってしまいましたので、コード決済の導入については次回に紹介したいと思います。あわせて、コード決済をはじめとしたキャッシュレス決済の利用動向などについても取り上げようと思います。