鈴木淳也のPay Attention

第222回

コンビニビジネスの現状をテック視点で考える

2025年春のKDDI本社移転に合わせ、「REAL×TECH LAWSON」の1号店を高輪ゲートウェイにオープン。その構想を語るローソン代表取締役社長の竹増貞信氏

先日、三菱商事、ローソン、KDDIの3社が合同で説明会を開催し、「REAL×TECH LAWSON」の実験店舗を含む未来のコンビニ構想を発表した。

最新技術と地域密着を組み合わせた将来のコンビニの在り方と生き残りに向けた施策が紹介されたが、昨今のコンビニ(CVS)事情について少しデータを追いかけてみたい。

日本の「コンビニ」の現状 その可能性

日本国内のコンビニが飽和状態にあると言われるが、店舗数推移から見れば一目瞭然だ。下記は日本フランチャイズチェーン協会が公開しているデータを基に筆者が作成したグラフだが、バブル期に突入した1980年後半以降から総じてコンビニの数は急増し、2000年代の停滞期を経て2010年代には再び増加に転じ、実質的に2018年をピークに店舗数は減少に向かっている。

日本国内のコンビニ(CVS)店舗数の推移

時代背景を考えれば、最初の上昇カーブはコンビニという業態が認知されてフランチャイズの増加による全国展開が加速した時期であり、2010年代は地方への進出や都市部での積極出店による増加によるものだと思われる。現在も新規出店は増えているものの、一方で世代交代やさまざまな理由により閉業する店舗も少なくなく、トータルでみれば減少傾向にあるという流れだ。

日本の人口のピークは2004年2008年の2つの説があるのだが、確実なのは2000年代をピークに減少しているということ。コンビニそのものは小売業であるため、人が買い物をしなければ成り立たない。

ゆえに人口減少は、イコールでコンビニの生き残る余地を減らしていくことになる。

ただ、店舗数が減少する一方で、売上は増加している。下記は経済産業省の資料を基に作成したグラフだが、コロナ禍に突入した2000年に売上は大きく落ち込むものの、2022年にはコロナ禍突入前の水準に回復し、2023年にはさらに売上を伸ばしている。インバウンドや天候を含むさまざまな要因があるが、1つにはコンビニが商品ラインナップを見直し、キャンペーンを含むさまざまな販売施策を駆使することで店舗あたりの売上を増加させている。

国内コンビニの売上推移。経済産業省のデータを基に作成(縦軸の単位は100万円)
同様の売上推移の日本フランチャイズチェーン協会によるグラフ。経産省のデータは「全店」側を集計したもの

コンビニの売上を見るうえで重要なファクターが来店頻度や客単価だ。日本フランチャイズチェーン協会のデータだが、2023年は前年同月比で客単価の上昇よりも来店客数の貢献度が高いようにみられる。客単価はキャンペーンなどを組み合わせてより多くの商品を同時に購入してもらうことでも上昇するが、同時に昨今のコスト高を反映して商品価格そのものが上昇することでも上がる。だが来店頻度はシンプルにコンビニでの購入機会が増えたことを意味しており、可能性としては「客のリピート率が上がっている」と考えられる。つまり、売上回復の秘訣の1つは「来店頻度」の上昇にある。

2023年の月別のコンビニ業績の推移。客単価以上に来店数が寄与している傾向がみられる

その点で、ローソンを含む3社合同の説明会での発表内容で興味深かったのが、来店するたびにKDDIの通信サービスであるpovoのデータ通信容量が加算される「povo Data Oasis」の存在だ。買い物をしなくてもローソンに来店するだけでデータ通信容量が増えるので、それだけで来店機会の増加につながる。買い物をしてくれるのがベストだが、それがなくても来店頻度の向上が購買機会の拡大につながるわけで、非常に上手い施策だと筆者は考える。

ローソンに来店するたびにデータ通信容量が増える「povo Data Oasis」

また、発表会では石川の能登半島地震でコンビニが防災拠点としての役割を果たした話や、今後の動きとして沖縄でのオンデマンドなモビリティサービスの停留所としてのコンビニ、さらに日立との産業連携拠点の話などにも触れていた。来店頻度の観点からいえば、これらは「さまざまなサービスや施設を用意しておくことで来店理由を増やす」ことにつながるため、povo Data Oasisと同じ思想の上に成り立っているものだと思われる。

ローソンが目指すさまざまなサービスの拠点としてのコンビニ

テクノロジーはコンビニのコスト問題を解決できるのか

「REAL×TECH LAWSON」と銘打っただけあり、今回のローソンの取り組みは、各種テクノロジーでコンビニにまつわるさまざまな問題を解決していくことを目標の1つとしている。

2030年度までにデジタルやロボティクスの技術を駆使し、店舗オペレーションを30%削減していくと同社では述べている。「REAL×TECH LAWSON」と名付けられた店舗の1号店は高輪ゲートウェイに2025年春オープンするが、ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏によれば、これは同店舗を横展開していくものではなく、ここで検証された技術を逐次取り出して、既存のフランチャイズを含む各店舗に順次展開していくことを目指すという。

ローソンは2030年度までにテクノロジーを駆使して店舗オペレーション30%削減を目指す

ただ、「REAL×TECH LAWSON」で技術例として挙げられていたロボットアームによる自動品出しシステムはすでに東京の竹芝ポートシティにある店舗で運用が行なわれているし、手持ちのスマートフォンにアプリを入れて客自らが商品バーコードを読んで会計を行なえる「スマホレジ」はすでに全国100店舗ほどで展開が進んで数年が経過している(今回発表したスマホレジは新たな仕組みとして導入)。

竹増氏によれば「スマホレジはアルコールを含む扱えない商品がまだまだあるなど使い勝手の面で改善の余地があり、品出しロボットについてはスムーズさの面でまだまだ課題がある」と述べ、一気に横展開を行なうには課題がいろいろと残っていることを認めている。

ただ、全国的にコンビニ店舗が減少傾向にあるなか、来店頻度やマーケティングの工夫で増やせる売上にも限界があり、コスト削減や効率化による利益率の上昇が必要なため、「2030年度までに店舗オペレーションを30%削減」というキャッチは、今後6年をかけて実際に取り組まなければいけない問題を提示したスローガン的なものと言える。

自動品出しロボットとスマホレジのデモの様子

説明会の中でもたびたび触れられていたが、日本のコンビニビジネスは世界でも希有なレベルで地域やニーズへの最適化が行なわれている。

コンビニは売れる商品を確実に必要分だけ揃えつつ、さらに商品点数の多さが売上にそのまま直結する。季節商品などニーズは細かく変化するため、前述の来店頻度を高めるためにも、こまめに商品を入れ替える必要がある。以前にローソンに無人レジシステムを提供していた富士通が、元の技術を開発した米国企業のZippinに対して日本のコンビニ特有のニーズとして機能対応でリクエストしていたのが「週単位での商品入れ替え」だった。これらを細かく管理する流通システムと、実際に品出しを行なう人員があってこそ成り立つビジネスというわけだ。

ファミリーマートと提携しているTOUCH TO GO(TTG)がレジを無人化する一方で、残りの品出しを含むオペレーションに人員を割り当てているのも、「どこを効率化すれば人件費と売上の整合性が取れるのか」を検討した結果にある。人件費は店舗運営の固定費となるため、一定の日商を確保できない店舗はそれ以上の人員を配置できない。昨今、コンビニが減少しているのは後継者のいないオーナーの廃業のみならず、店舗を維持できるだけの人件費に見合う日商が得られないエリアが増えつつあることも理由の1つにあるだろう。

TTGのシステムもそうだが、テクノロジーで人件費ぶんの固定費をカバーすることで日商が少ないエリアでも店舗の維持が可能になり、営業エリアを縮小せずに済む。スマホレジやセルフレジの導入はピーク時に合わせて人員を多く配置せずともよくなり、またレジに張り付く人員を別の作業にまわすことが可能になる。ロボットアームは品出し作業の一部を肩代わりする。コスト削減でうたわれている部分の多くは、おそらく今後さらに上昇する人件費をいかにテクノロジーで相殺するかにある。

店舗が地域密着であるべき理由

コンビニの将来を語るうえでもう1つ重要な要素が、地域密着であるという点だ。「ハッピー ローソン・タウン」構想と銘打たれているが、少子高齢化や介護問題、地方創生などの問題をコンビニを中心に解決していこうという考えだ。

先ほどの来店頻度の話にもつながるが、店舗を維持するには買い物をしてもらう、あるいは店舗を通してサービスを利用してもらう必要がある。店舗を通して一定の人流が地域内に存在し、それを活性化させることが重要になる。

「ハッピー ローソン・タウン」構想のイメージ

これは住居エリアの話だが、同様の話題は日中人口が増えるオフィス街でも同様だろう。米国の話になるが、先日米Amazonが週5日出社の事実上の原則化を求めて話題となった。

いろいろな分析があるが、1つにはAmazonが本拠地としている米ワシントン州シアトルなどから、在宅勤務によりオフィス周辺の小売店や飲食店の売上が落ちて地域経済を維持できなくなりつつあるため、誘致効果を期待したAmazonへの減税措置を見直すという話があり、実利面からAmazonの経営サイドが強制出社に舵を切ったというものだ。

この説の正しさはわからない面もあるが、同様の問題は米カリフォルニア州サンノゼに新キャンパスをオープンしたばかりのGoogleも抱えており、その一貫として社員への強制出社を促す施策を出したという話も聞いている。

実際、在宅勤務が広がりすぎることで地域経済が壊滅的打撃を受けるという事象を先日体験してきた。

米カリフォルニア州サンフランシスコは街の中心部にテック系企業やVisaを含む金融系企業が集積していることで知られる。これら企業の多くはかなりフレキシブルな出社ポリシーを敷いており、週の2-3日程度出社すれば問題ないというケースも少なくない。以前であれば出勤時間帯は同市のオフィス街は通勤客で溢れていたのだが、現在平日にこのエリアを訪れてもほとんど人影はない。飲食店や小売店も多くは閉店しており、シャッター街となっていたりする。観光地にはそれなりに人がいるのに、オフィス街や住宅街の人影はまばらという奇妙な状況だ。

当然、このような場所ではコンビニの営業も難しい。盗難問題もあったが、それ以上に人流が減少した影響が大きく、セブン-イレブンのようなコンビニやWalgreensのようなドラッグストアは、同エリアでの軒並み店舗数が減少している。

鳴り物入りで参入したAmazonの無人レジ店舗「Amazon Go」も2023年に全店撤退が発表され、今年2024年にはエリア内のフルフィルメントセンター(FC)の2つが拠点を閉じている。Amazon Goの店舗数自体、ピーク時から3分の2程度の規模となっており、現在全米で21店舗が営業している状態だ。

理由としては、いくらテクノロジーを導入してもそれに見合った日商が得られず、店舗維持コストを賄えない点が大きい。テクノロジーがある程度の問題を解決するとしても、結局は人流と人件費が店舗の運命を左右することには変わりなく、この絶妙なバランスを維持することで成り立っているのが日本のコンビニビジネスの特徴といえる。

サンフランシスコ市内のAmazon Goはすべて撤退済み
先日訪れたAmazon Goの跡地
同じ場所での以前のAmazon Goの姿

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)