鈴木淳也のPay Attention

第170回

PayPayとLINE Payはいつ統合されるのか

2月3日に行なわれたソフトバンク2023年3月期 第3四半期 決算説明会での一幕。ヤフー、LINE、そしてZホールディングスの合併について言及するソフトバンク代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏

2月2日、Zホールディングスならびに傘下のLINEとヤフーの3社が2023年度中をめどに合併することが発表された。

2021年に経営統合が完了した3社だが、持ち株会社を親とするピラミッド構造での複雑な組織を形成した背景の1つにはヤフー側の事情がある。もともと米国Yahoo!からのライセンスを受けて“国内限定”で事業を行なっていたヤフージャパンは、そのライセンス縛りを抜け出すためにZホールディングスを設立。ヤフー自身はその子会社となる形で既存事業を継続し、Zホールディングスは海外進出を含めたより広い分野でのビジネス展開を見込んでいた。

だが韓国NAVER子会社のLINEとの合併の話が持ち上がり、Zホールディングスの最大株主となるAホールディングスの株式をソフトバンクとNAVERで50:50で持ち合う共同経営体制となった。

構造自体は複雑な経営統合体制だったが狙いはシンプルで、LINEならびにヤフー両社の持つリソースを効率化しつつ、より攻めの戦略投資を行なうことにある。つまり重なっている事業はある程度整理しつつ、経営資源をより当該の事業に集中できるようにすることが目標になる。

ただ、経営統合から2年弱が経過してもいまだ外部から見て効果が出ているとはいえない状況なのも確かで、重複があると思われる事業も継続され、最大の強化ポイントであったEC事業も楽天をはじめとするライバルらを抜き去るような状況にはない。経営統合から一歩踏み込んで「合併」を選択し、これまでヤフー側のトップである川邊健太郎氏とLINE側のトップである出澤剛氏の共同CEO体制だったものを、出澤氏が単独のCEOとなることで指揮系統を一本化。意思決定速度を上げることで、こうした問題を解決していきたいというのが合併の狙いとなる。

同件について、合併会見の翌日に決算説明会で壇上に立ったソフトバンク代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は「2年間何をしていたのか。(実質的な3社株主として)非常にヤキモキしていた」と率直な感想を述べている。

3社の合併効果に期待を寄せる反面、2年間での進展の遅さに対する苦言も述べる宮川氏

指揮系統が一本化したことで意思決定が早くなることに期待を寄せるコメントも出しているが、実際に今回の合併によって両社の事業はどう変わるのか。特に本連載で主なカバー範囲となる「PayPay」と「LINE Pay」の今後について考えてみたい。

PayPayとLINE Payの統合は一筋縄ではいかない

まずはPayPayだ。2018年にスタートした同社だが、サービスのベースはインドで展開されている決済サービスの「Paytm(ペイティーエム)」であり、最初期からサービスの開発メンバーとしてPaytmのスタッフががっちりと噛んでいる。

PayPayは日本、インドのバンガロール、カナダのトロントの3拠点の時差を利用して24時間体制で開発が行なわれているが、このインドの開発拠点が他ならぬPaytmのメンバーと重複する形で構成されている。PayPayはリリース時に「Alipayユーザーの決済を日本で受けられる」ことをセールスポイントで展開されたこともあり、中国のAlibaba Groupが展開しているサービスと勘違いしている人が多いが、むしろ中身はインド色が圧倒的に濃い。

このPaytmのつながりも、ソフトバンクのVision Fund(SVF)の投資先の1つだったことからくるもので、PayPayの設立にはこれらが密接に絡んでいる。

面倒なのはその資本構成だ。PayPayはソフトバンクとZホールディングスが25%ずつ、SVF2(つまりソフトバンク“グループ”)が50%を出資する形で設立された。新株予約権の存在によりPaytmが株式転換を行なう可能性があるものの、それでもSVF2を除いたソフトバンクとZホールディングスのグループ内2社だけで66%の株式を握れる体制となっており、これは「Bホールディングス」を介した持ち株体制でも変化ない。

ただ重要なのは、PayPayは「PayPayカード」も含めてZホールディングスの直下のサービスではなく、あくまでソフトバンクのグループ全体での持ち株事業という点にある。PayPay自身が株式上場を計画していることもあり、今回の3社合併が「PayPayに直接的な影響を及ぼしにくい」というのが実情とみられる。

3社合併の構造図。図版ではPayPayはZホールディングス直下の事業に見えるが、実際にはソフトバンクとの共同持株体制にある
2022年9月末以前のPayPayの株主構成図
Bホールディングスを設立した同年10月以降の株主構成図

2月7日にはPayPayの登録ユーザーが5,500万を突破したことを発表しており、加盟店数も2022年末時点で398万に到達している。特にユーザー数や加盟店数の伸びに比して、決済回数の伸びの方が著しく、それだけ利用機会が増えていることを意味する。これだけを見れば「(勢いのある)PayPayをそのまま残すのがいいんじゃない?」という意見も当然出てくる。

PayPayの経営指標推移

だがLINE Pay側もそれなりにユーザーを抱えており、現在具体的なアクティブユーザー数は不明なものの、LINE自体は9,000万人超のアクティブユーザーがおり、おそらくそのうちの3割程度、少なくとも2,500-3,000万人程度はLINE Payを有効化しているユーザーとみられる。

もちろん、これらはPayPayとの重複があるうえ、現在ではLINE PayでPayPay加盟店を利用するのが基本形態となっているため、「LINE Payで支払う」という意識を持っている人は少ないかもしれない。ただPayPayのポイントプログラムとは独立して存在するLINEポイントの存在や、Visa LINE Payカード、LINEポケットマネーといった独自のサービスもあり、これらをそのままPayPayへ強制移行させても、すべてのユーザーがついてくるとは限らない。

現状で両者が併存して生じるコスト的な不利益はそこまで大きくなく、むしろ至急の課題である「LINEとヤフーの広告事業の再編」を優先する可能性が高いというのが筆者の考えだ。

海外事業とLINE Bank

LINE Payに関してもう2つほど難しい事情がある。1つは、LINE Payのサービスが「LINE」というチャットの双方向通信プラットフォームに密接に結びついている点だ。

PayPay for Businessという加盟店向けのPayPayアプリを利用した販促プラットフォームが存在するが、これとは別にLINEビジネスアカウントというB2C向けの双方向プラットフォームが存在しており、こちらはLINEアプリと結びついている。2022年末に「LINE・Yahoo! JAPAN・PayPayマイレージ」という名前的に身もフタもない新サービスが発表(仮称))されているが、こうした仕組みの存在がすでに3つのプラットフォームの完全融合が難しいことの証左になっている。

PayPay、Yahoo!、LINEの3つのプラットフォームを組み合わせた加盟店向け販促プログラム

もう1つ、これがおそらく最も重要だが、海外事業の存在だ。LINEが台湾とタイでも利用されているが、LINE Payの強みの1つとして、これら国においても日本のLINE Payを持ち込んでそのまま利用できるメリットがある。

もともと海外展開を早期に視野に入れていたLINEならではの施策なのだが、この点は冒頭でも説明した政治的事情で海外展開が行なえず、国内事業中心となったヤフーとは対照的だ。

これを反映した訳ではないと思うが、PayPay自体が日本国内専用のサービスであり、この点はLINE Payと異なる。「決済は地域の独自性が強く、PayPayが国外進出してもパイがない」という事情もあると思うが、これはLINE Payの統合を阻む理由の1つになる。

ではなぜ、LINE Payは海外進出余地があったかという点だが、「駐在員など現地邦人がそれなりにいる地域」というのは1つのヒントになるかもしれない。

3社が抱える持分法適用会社の状況。海外の(LINEの)銀行事業が含まれている

そして、名前はずっと挙がっているものの姿をなかなか見せない「LINE Bank」の存在だ。みずほ銀行との共同事業であるこの会社だが、当初2022年度早期の設立を進めていたものの、現在では「2022年度内(2023年3月期)」となっており、出澤氏が「中身のブラッシュアップを続けており、さらに遅れる可能性もある」と言及している。

「このまま立ち消えになるのでは?」という声もある同事業だが、みずほ銀行がすでに深く噛んでいること、「みんなの銀行」などに代表される若年層をターゲットにしたオンライン銀行窓口を同行が持っておらず、その役割を担わせるための中核事業と位置付けている点が、現在もなお推進の原動力になっていると考える。

実際、LINEのユーザーそのものはすべての年齢層にわたって広く利用されており、これを軸とした金融サービスは将来の有望顧客をつなぎ止めるための戦略商品となり得る。また、LINEアプリを窓口としたときの新銀行サービスは、その受け皿としてLINE Payが仲介することとなり、よりPayPayとの融合を遠ざける。

現在、PayPayとLINEという別々のアプリとして存在する2つのサービスだが、もし2つの決済サービスが融合するのであれば、この方向性の違う2つのアプリが統合することが大前提になるのではないかと考える。

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)