鈴木淳也のPay Attention
第164回
米ホリデーシーズン商戦はリアル回帰したのか
2022年12月27日 08:20
今回は前回から2年ぶりとなる米国ホリデーシーズン商戦の分析だ。2020年はコロナ禍もありオンラインショッピングへのシフトが顕著だったが、その後の推移はどうなっただろうか。2021年あたりからみられ始めたリアル店舗での客足回復と合わせて確認したい。
2022年のホリデーシーズン商戦はどうだったのか
まずは恒例となったAdobe Analyticsによる分析レポートの話題だ。Adobe Analyticsはオンライン商取引データを集計するクラウドサービスで、これを用いた価格変動や購買トレンドなどの分析を行なっている。ホリデーシーズン商戦の分析レポートもその一環であり、感謝祭(11月第4木曜日、2022年は11月24日)からサイバーマンデー(翌週月曜日、今年は11月28日)までの5日間の、いわゆる「サイバーウィーク」のトレンドをカバーする。
同レポートによれば、今年のサイバーウィークのオンライン消費額は113億ドルで昨年同期比で4%増、eコマースとしては過去最高の金額を達成しているという。ポイントとしては下記の5つのトピックが取り上げられており、高インフレと不景気の足音が近付くなかでの買い控えへの警戒や、買い物スタイルの変化など、過去数年みられていた傾向が顕著になった様子がうかがえる。
- 過去最大規模の商品の値下げ率を記録し、Adobeが調査するすべてのカテゴリで値引きが行なわれている
- スマートフォンによるオンライン販売率が55%に達し、モバイルショッピング割合が過去最高に
- BNPL(Buy Now, Pay Later)が引き続き伸びており、直前の週と比較してBNPL利用率が85%増、売上は86%増になっている
- (ネットで注文し、駐車場などで商品を受け取る)カーブサイドピックアップ/Curbside Pickupの利用が減少しており、サイバーウィーク期間中のリアル店舗での買い物率が増加
- 小売の主要マーケティングチャネルとして売上に最も貢献したのは検索連動型広告(オンライン売上の28%)で、SNS経由での流入は全体の5%未満に留まるものの、シェア自体は前年同期比で27%と増加傾向にある
サイバーウィーク突入前の値下げについてはAdobe自身が別のレポートを出しており、11月のオンラインの前年同期比での値下げ幅が1.9%だったことを報告している。直前の月、つまり商戦突入前の10月からの下落幅は3.2%と大きく、商戦期に向けた小売側の対策ということが分かる。
問題はこのシーズン中の売上が本当に好調だったのかという部分だが、プラスとマイナスの両方の結果が混在している。例えばCNBCは「11月の小売売上は0.6%下落しており、消費者のインフレーションに対するプレッシャーを反映している」と報じている。これは米商務省(United States Department of Commerce)傘下の国勢調査局(Census Bureau)が12月15日(現地時間)に発表した内容を受けてのもので、小売と食品のカテゴリでの売上が“前月比”で0.6%下落していることが分かる。一方で、昨年2021年11月の昨年同月比では逆に6.5%の上昇となっており、全体でみれば売上が回復傾向にある。またWall Street Journalが指摘しているが、国勢調査局のデータはインフレによる価格上昇分を含んでいない。今年11月の消費者物価指数は前月比で0.5%下落しており、つまりインフレ分を考慮すれば前月比においても小売の売上はさほど落ちておらず、むしろ10月から“フラット”な状態にある。前述の値下げ傾向の話と合わせれば、「消費者の購買意欲は2022年の後半時期を通して変わらず、昨年比では伸びている」と考えるのが正しいだろう。
リアル店舗回帰説は本当?
一部小売店では2022年を通して売上が落ちており、当初の見通しを下方修正してホリデーシーズン商戦後半戦に臨むところもあるようだが、全米小売協会(NRF:National Retail Federation)では前年比で6-8%程度の同シーズンの売上増を見込んでいる。NRFプレジデント兼CEOのMatthew Shay氏は伝統的なリアル店舗での客足回帰とともに、「Super Saturday」での記録的な人出が期待できると後半戦での健闘についてコメントしている。
なお「Super Saturday」だが、クリスマス前の最後の週末のことを指しており、2022年でいえば12月17日の週末に該当する。ホリデーシーズン商戦の最初の熱狂が収まった後、ある意味で“残りもの”のセールスに向けて客足が伸びる現象を指して使われる業界用語だ。
ホリデーシーズン突入直前のNRFのアンケートを基にした調査報告によれば、オンラインでのショッピングは引き続き有力候補ではあるものの、その他のカテゴリの小売店についても前年比で利用意向が伸びており、これがリアル店舗回帰の予想につながっているとみられる。またSuper Saturdayについてもオンラインとリアル店舗でのセールを上手く利用したいという消費者は、過去5年間でも最高水準にあり、インフレで厳しい環境下ながらも消費回帰の傾向があると考えているようだ。
実際の客足のデータを基にみていく。Digital Commerce 360のレポートにもあるが、実店舗の入店分析ソリューションを展開する「Placer.ai」集計データによれば、コロナ禍突入前の2019年比で1-2割の減、同じコロナ禍の前年比でも数%程度の減少がみられ、全体に客足が減少していることが実データから見てとれる。
Placer.aiではブラックフライデーの客足(Foot Traffic)とSuper Saturdayの客足の両方の分析レポートを掲出しているが、特にSuper Saturdayについて、昨年比でディスカウントストアの客足が伸びているにもかかわらず、その他のカテゴリ、特に百貨店と家電量販店については9-16%と大きな落ち込みを見せており、「より安いものを求める」という店舗利用傾向が分かる。Placer.aiの結論としては、ブラックフライデーとSuper Saturdayともに多くの買い物客を惹きつける期間ではあるものの、その勢いは落ちているという分析だ。
インフレと財布の引き締めは無視できない要素に
諸処のデータを突き合わせれば、米国のホリデーシーズン商戦における売上は昨年比で伸びているものの、インフレ分を考慮すればほぼフラット。オンライン利用の傾向はより強まっており、リアル店舗の客足はコロナ前から比較すると大幅減、昨年比では微減というのが全体の俯瞰だ。12月時点での最終的な小売店でのデータが上がってきていないため、予測に基づく部分はあるものの、Placer.aiなどリアルタイムで把握できるデータの補完もあり、ほぼこの傾向に違いはないと考える。
興味深いのは、NRFが出していた世帯収入別の「ホリデーシーズン商戦に使う予算」のグラフだ。年間収入7万5,000ドル(約1,000万円)を境に、減少と増加で明暗がくっきり分かれている。つまり世帯収入が低いほど財布の紐が固くなり、支出を抑える傾向が出ている。世帯収入が高い層が伸びているのは、「より散財したい」というよりも「インフレもあり予算を増やさざるを得ない」という側面が大きいと予想する。つまり、インフレの影響がかなり大きいことが分かる。FRBではインフレが緩和したことを受けて金利政策の修正を行なっていることが伝えられているが、それでもなお2023年に到来するといわれる不況を見越して人々の行動は引き締めに向かっており、小売業界にとっては引き続き厳しい時期が続きそうだ。