鈴木淳也のPay Attention
第86回
LINE×ヤフー経営統合時代の「○○Pay」の選び方
2021年3月5日 15:22
LINEとヤフー(Zホールディングス)の経営統合完了が3月1日に発表され、それにともない決済・金融分野においては「PayPayとLINE Payのコード決済統合」がアナウンスされた。
LINE PayがPayPayのQRコード読み取り(MPM)に対応するため、「実質的にLINE PayがPayPayに吸収されて消滅するのでは?」という声もあったが、Zホールディングス(ZHD)では「あくまで国内コード決済の統合」と明言している。別誌の記事でも触れたが、LINEアプリ(LINE Payアプリ)上にPayPay加盟店での決済が可能になる機能をアドオンし、LINEウォレットの機能は引き続きそのまま使えるというスタンスだ。
「とりあえずLINE Payが(すぐには)消滅することはない」というのがZHDの見解だが、一部には「信用できない」という声もある。Origami Payがメルペイに吸収された際には、合併発表から半年ほどでサービス停止や移行が実現されている。
ただ、LINE Payの場合はアクティブ率はともかくユーザー数の面でPayPayのそれを上回っているのと、請求書払いやクレジットカード関連のサービスなど提供している機能が多く、すぐにすべてを移行することが難しい。
筆者の推測だが、仮に完全統合を目指していても最低で2-3年の時間は要すると思われ、「ならば手早く対応できるコード決済部分の統合のみを先に進めてしまおう」という形で、LINE PayにPayPay決済機能を載せてしまう方向で進んだのだと考える。イメージでいえば、マクドナルドやセブンイレブンのアプリでPayPay決済が可能になったものを想像してもらえればいい。
2社統合後の○○Payはどうなるのか
今回の統合による市場への影響だが、QRコードやバーコードによる「コード決済」の市場でのPayPayの地位が盤石になった一方で、あまり大勢に変化はないとも考えている。少し古いデータになるが、経済産業省が2020年6月に発表した2019年の日本国内のキャッシュレス決済比率は26.8%で、前年比で2.7ポイントの伸びとなっている。
同年におけるコード決済(QRコード)の比率は0.31%となっているが、2020年を通じて取材した複数の事業者の生データを基にする限り「コード決済比率はキャッシュレス決済全体の1割に満たない水準」となっている。仮に2020年のキャッシュレス決済比率が(経済産業省の示す指針で)30%程度だとすれば、その1割は全体でいう3%。おそらく、多くて2%台というのが筆者の予想だ。
また、同じく複数業者や関係者の話を聞く限り、PayPayのコード決済におけるシェアは50-60%で業界トップ、次いで15-20%程度の水準でd払い、3位はキャンペーンなどの有無にもかかわるが10-15%程度の同率でLINE Payとau PAYが並ぶ。[このあたりの数字は以前にも連載で触れたが、現時点でのPayPayのコード決済におけるシェアはLINE Payとの合算で7割前後というのが妥当なところだろう。それでも現金を含む決済全体おけるシェアは1-2%程度なので、「PayPayが業界を支配する」という水準には遠く及ばない。
「クレジットカードの方が決済単価が高いのだから、他の電子マネーやコード決済より“金額シェア”が高くて当たり前」という意見も見かけるが、筆者が見ている生データはスーパーマーケットや飲食店など「決済単価は高くても数千円程度」の業態であり、決済回数だけを見てもクレジットカードのそれには遠く及んでいない。
一方で、350万以上という加盟店数はPayPayの最終目標とする「(日本すべてを網羅する)550万」に近いポジションに達しており、おそらくクレジットカードの加盟店数をも上回るのではないかと考える。つまり、ポテンシャルこそあるものの、まだその地盤を活かせていないというのがPayPayの現状だ。
「伸び悩み現象」も見えつつあり、例えばキャッシュレス推進協議会が昨年12月に公開したデータによれば、現在もなおコード決済の利用、チャージ金額、アクティブユーザー数は伸び続けているものの、春以降の伸びの鈍化が顕著だ。
新型コロナウイルスの影響があるとはいえ、月間アクティブユーザー数(MAU)3,000万人の壁が見えている。この種のサービスで放っておいても利用が進む“普及した”と呼べる分岐点は「3割」程度のシェアにあると考えているが、人口比から考えればあと一歩の段階で踏みとどまっている。その意味でコード決済は「本格普及に向けたスタート地点に立った」段階であり、「QRコードやバーコードを利用した支払い」だけにとどまらない、より複合的で便利なサービスの提供が求められていると考える。
“決済”の“その先”を見据えた動きを
筆者の見解では、コード決済そのものは普及の岐路に達している。大手チェーンを中心に多くの店舗で導入が進み、中小規模の商店でもJPQRであったり、Airペイのような仕組みであったりと、仲介サービスやゲートウェイを介しての一括対応が可能になった。
PayPayは、人海戦術で個別の加盟店開拓を行なっているが、その同社でさえそろそろ加盟店網開拓にストップがかかる時期ではないかと考える。PayPayは今年9月時点で「(QRコード導入時の)決済手数料0%」キャンペーンが終了するが、その後についてはまだアナウンスされていない。いずれにせよ他の競合サービスがPayPayほどの加盟店を獲得できるとは思えず、早からず頭打ちのタイミングはやってくる。ゆえに、この上でいかにサービスを組み立てていくかが各社の正念場となる。
1つは増え続ける残高の使い道だ。
コード決済サービスを提供する各社は資金移動業の登録を行なっており、金融庁のガイドラインに沿ってサービスを展開している。Kyashの例が典型だが、これまでグレーゾーンで“見逃されていた”預かり金(つまりチャージ残高)の扱いについて、より用途を明確にして管理すべきという厳格さが求められるようになりつつある。
つまり銀行業のように預かり金を運用するような行為は許されず、あくまで「送金」「支払い」といった用途に限って利用する必要がある。
一方で、「給与デジタル払い」の導入により、銀行口座との接続やATM入金、カード入金以外の入金手段が新たに増え、先のキャッシュレス推進協議会のデータにもあるようにチャージ残高が増え続ける傾向は今後もさらに強くなる。
ゆえに、「請求書払い」「公共料金支払い」「サブスクリプションや定期購読などの支払い」への対応といった形で“残高”を活用する先を次々と拡充することで、サービスをよりいっそう活用してもらえるようになる。ZHDがLINE Payをそう簡単に畳めない理由の1つに、こうした付加サービスの存在がある。その意味で、コード決済の台頭により真っ先に「収納代行」の市場が食われることを予想し、サービス開始時点で収納代行の機能をアプリに取り込んだファミペイは先見の明があると思っている。
つまり、これからの「○○Pay」のサービスは「自分に必要な付加機能がいかに実装されているか」が選択基準の1つになる。
PayPayはことあるごとに「コード決済にこだわりはない」と明言しているが、“PayPay”という金融や決済に関連した機能を持つアプリがあり、これを活用することでさまざまなビジネスを展開していくのが同社の収益モデルだ。
「スーパーアプリ」のようなキーワードもあるが、いかに自身の生活の中でアプリとリアルとの設定を多く持てるかというのが鍵となっている。逆にいえば、単純な決済機能のみを提供するアプリは存続が難しくなる。クレジットカードの世界においては、長らく「手数料」と「ポイント」の2つがビジネスモデルの要だった。逆にいえば、それ以外にできることがないからでもあるが、モバイルアプリはさまざまな機能の実装が可能であり、活用場面を自在に増やすことができる。コード決済サービスの数々がクレジットカードの延長である限りは、おそらくブレイクスルーは訪れない。
正味なところ、ポイント還元が主体となっている現在の決済市場は非常に不健全な状態にあると筆者は考えている。ポイントの配布には原資が必要であり、その原資は従来であれば決済手数料から捻出されている。ポイント経済圏とはそういうものなのかもしれないが、これのみを主体としたサービスは早晩衰退するというのが筆者の考えだ。本来キャンペーンは利用者の定着や“気付き”のような認知向上につなげるのが狙いのはずで、これがサービスの利用促進につながらなければ意味は薄い。
現在残っている主要な事業者は、PayPayとLINE Payを除けば、楽天ペイは楽天カード、d払いとau PAYはキャリア決済、メルペイはメリカリの残高といった形で、すでに存在するサービスの出金先であり、元来のサービス利用の促進という役割が強い。各種のポイント還元も元来の事業を主体とした経済圏にユーザーを取り込むのが狙いだが、決済のその先を見据えない限り、市場のさらなる拡大は難しいだろう。