鈴木淳也のPay Attention
第16回
Amazon Payが切り開くキャッシュレスの次のフロンティア
2019年10月11日 08:15
昨今「キャッシュレス」の文脈でさまざまなスマートフォン決済サービスが取り上げられるなかで、モバイル決済といえば「リアル店舗でお買い物」という印象を抱いている人が少なからずいるかもしれない。前回も少し触れたが、日本のキャッシュレス決済比率を引き上げる目標において、各社は「中小の小売店を中心に、少額決済の分野」の攻略が鍵になっている。そして、もう1つ重要だといわれるのが「オンライン決済」の分野だ。
本稿の読者であれば、その多くはオンライン決済を経験したことがあるはずだ。通販からオンラインでのサービスやコンテンツの購入まで、クレジットカード情報を入力して決済を行なう。便利でシンプルな方法だ。ところが、実際にはオンラインでこうした商品やサービスを購入してもクレジットカードは使わず、コンビニでの支払いや振り込み、商品受け渡し時の代引きなどが利用されるケースが少なからず存在する。
テレビの通販番組やカタログ販売を利用する層は老若男女問わずいると思うが、リアル店舗での対面販売ではない場面で、“キャッシュレス”ではないシチュエーションが存在する。現在、○○Payを提供する事業者では次の目標としてオンライン決済の提供を掲げているが、キャッシュレス化の次なるフロンティアはここに存在すると筆者は考えている。実際、モバイル端末を通じてのオンライン決済が非常に普及している中国ではキャッシュレス化が一気に進んだし、欧米でもコスト削減や利便性向上を目標にオンライン決済を行なう場面は増えている。
こうした過程のなか、オンライン決済の分野で存在感を増しつつあるのが、いわゆる「ID決済」のサービスを提供する事業者だ。
世界的にはPayPalなどが有名だが、日本ではYahoo! Japanや楽天など、ポータルやモールを運営する企業が同種のサービスを提供し、広く利用されている。馴染みのアカウントでログインできるためECサイトごとにIDやパスワードを覚える必要がないほか、信頼できないサイトに決済情報も預ける必要がない。また住所情報やクレジットカード情報など基本項目はすでにID決済サービス側で入力されているため、ログイン即決済という手軽さが特徴といえる。
「Amazon Pay」もこうしたID決済の1つであり、ECではお馴染みの同社の決済サービスを外部のサイトに提供することで、利用者はAmazon IDでの決済が可能だ。2015年にサービスを提供開始して4年半近くが経過したが、今回はアマゾンジャパンのAmazon Pay事業本部本部長の井野川拓也氏にAmazon Payの最新機能と現状について話を聞いた。
“カゴ落ち”問題を防ぐID決済
ECサイトがID決済を導入するメリットの1つに、いわゆる「カゴ落ち」問題の解決がある。“カゴ落ち”とは、ユーザーをサイトに誘導することに成功してショッピングカートに商品を入れるところまで達しながら、実際に決済が行なわれる前に離脱されてしまう現象だ。理由はさまざまあるが「チェックアウトのための情報入力が面倒で離脱してしまう」「個人情報入力の段階に至ってサイトの信頼性が疑われる」「ログインのためのIDやパスワードを忘れた」あたりが主たる原因のようだ。
ECサイトとしてはDMなどを経由しての再訪のリピート率が上がることから会員登録を促すケースが多いが、筆者を含めこれを嫌うユーザーは少なからずいる。そのため、最近では「ゲスト購入」という必要最低限の情報入力のみでチェックアウトを可能にする登録フローを用意するケースが多い。
そこで登場するのが「ID決済」だ。よく使う馴染みのサイトであればIDとパスワードの問題も少なく、これが決済手段として提供されているサイトの信頼性向上にも役立つメリットがある。井野川氏によれば「あくまで体感」ということで念押しするものの、購入フローにおける3分の1から半分程度がゲスト購入とのことで、ここから発生する高い“カゴ落ち”率をAmazon Payで低減できるという。
Amazon Payでは、実際の決済に結びつくコンバージョン率は他のサービスと比較して1.5倍程度とのことで、それだけ普段Amazon.co.jpを利用するユーザーが多いことの証左にもなっている。
そして今回、10月8日から新たに導入されたのが「Web接客型Amazon Pay」だ。ID決済としてAmazon Payを選択しているサイト限定で先行導入がスタートしているが、このゲスト購入時のフローで「一定時間操作が止まる」「操作に“とまどい”が見られる」といった条件を満たしたとき、画面の隅などにAmazon Payでの決済を促すポップアップが出現する仕組みだ。前述のように「面倒になって途中退場する」という現象を防ぐための仕掛けで、PCブラウザ、モバイル、そしてチャット方式の対面EC向けのAPIが用意される。
コジマネットのケースでは、カート画面からゲスト購入のフローに突入するまでの間に2回もAmazon Payのバナーが出現するため「非常にしつこい」のではあるが、それだけカゴ落ちの可能性を軽減したいのだろう。逆にいうと、Web接客型Amazon Payとは「最後の最後にポップアップを出現させる」ためだけの仕組みではあるものの、それだけで3割弱程度のカゴ落ちが改善できたわけで、ECにおける勘所であることを示している。
Amazon ECではカバーできない分野を補完し、エコシステムを拡大
Amazon Payというと、最近の大きなトピックでは昨年2018年秋にスタートしたNIPPON Platform(旧NIPPON PAY)との提携で同子会社のNIPPON Tabletとともに広げた「2次元コードでのリアル店舗決済サービス」が印象に残っている方がいるかもしれない。井野川氏によれば、リアルとオンライン含めて加盟店は統一集計しており個別の詳細については出していないとのことながら、「ともに順調に伸びており、それに応じて決済金額も上昇を続けている」という。現在、NIPPON Tabletのタブレット設置店舗数は95,000を超えていることから、「その中の少なくない割合でAmazon Payが導入されている」と考えれば、他の○○Payに比べた派手さはないものの、それなりの数の店舗で導入されていると考えていいだろう。
井野川氏はAmazon Payについて「Amazonのモールのシステムに乗らない商品やサービスを網羅し、パートナーを支援しつつAmazonのエコシステムを拡大するもの」と説明していた。
ゆえにチケット予約やデリバリーなどECでも特殊な商品の取り扱いが多いAmazon Payではあるが、最近トピックとしてホットなのが「B2B」と「寄付」の分野だという。「寄付」は文字通りの団体への“寄付”のほか、最近では「ふるさとチョイス」を通じてのふるさと納税が多いという。
もう1つのB2Bについては、例えば「ホンポス」のような飲食店向けに什器を提供するECサイトの利用があるという。ホンポスの特徴の1つは中古品も扱っていることで、例えば通常のECであれば新品を探して注文をかけたりするところが、中古品を使って手早く安価に店舗展開を進めることも可能だ。
もう1つは「デジタルコンテンツ」の世界で、フジテレビの「FOD」などの利用もみられるという。事業者目線でAmazon Payのメリットを語る場合、「ドコモやauといった携帯電話事業者の決済サービスでは2年ごとといったサイクルでユーザーが別の事業者に移ってしまい、そのたびに決済情報がリセットされてしまうが、Amazon Payではそうした現象がなく、継続性がある」といった特徴があるようだ。
このほか、Alexaのスキルを使っての音声決済や、リアル店舗向けAmazon Payの役所での料金支払い活用など、新しい用途の模索も引き続き続けており、Amazonのエコシステム拡大戦略を支えている。