西田宗千佳のイマトミライ
第277回
MAGA化するGAFA 第二次トランプ政権でテック業界になにが起きるのか
2025年1月27日 08:20
ドナルド・トランプ氏が第47代米国合衆国大統領に就任し、「第二次トランプ政権」がスタートした。
派手な言動で注目を集め、就任直後から大統領令を連発しているが、その様子はこれまでの大統領には見られなかったものだ。それはもちろん、良い意味ばかりではない。
第一次トランプ政権以上に大胆な発言が目立ち、危機感を感じる人も多いのではないだろうか。
筆者はトランプ氏の政治姿勢を支持していないが、アメリカ国民ではないし、アメリカ国内政策や国際政治の専門家でもないからその是非を詳細に解説することはできない。
だが、テクノロジーやそれに紐付く経済についてはある程度語れる。
今回はテック業界を軸に、第二次トランプ政権の狙いと「起きるであろうこと」を少し考えてみたい。
「MAGA化するGAFA」は正しい見方か
1月20日に開かれた大統領就任式を見ていると、面白いことに気付いた。同じアングルの中にテック業界のトップがおさまるタイミングが多かったからだ。
最大の支持者であるイーロン・マスク氏はもちろんだが、Googleのスンダー・ピチャイCEOにAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏、Metaのマーク・ザッカーバーグCEOにアップルのティム・クックCEOと、ビッグテックのトップがずらりと並んでいた。
各社トップは就任に際してSNSなどで祝辞を述べており、基本的には歓迎姿勢を見せている。
特にMetaは、その前にアメリカでファクトチェックを廃止しており、「トランプ氏への迎合」とも批判される。
トランプ氏は政策スローガンとして「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国にする)」を掲げている。特に第二期政権では、頭文字をとった「MAGA」という言い方をすることが増えている。
ビッグテックはGoogle・アップル・Facebook(現Meta)・Amazonの頭文字をとって「GAFA」と呼ばれることもあるが、現状はさしずめ「MAGA化するGAFA」というところだろうか。
とはいえ、言っておいてなんなのだが、この表現は言葉遊びに近いところもある。
自らの国の大統領に敬意を払うのはある意味あたりまえのこと。また、企業である以上、今後のビジネス展開に影響するなら、政策の変化を考慮するのも当然と言える。
一方で、ある意味「このタイミングに合わせた」部分はあるのだろう。
Metaがファクトチェックを廃止したのは、その実効性とコストのバランスに苦しんでいたためでもある。ファクトチェックにはコストがかかるが、現在はポストされる情報の増加により、完全に後手に回っており、間違いが拡散することを止められていない。また、コンテンツフィルタリング自体が間違いを産むこともある。
その中では、ユーザー同士でコントロールする、いわゆるコミュニティノート方式の方が速度感的に向く。Metaとしても方針転換は考えており、トランプ政権誕生時がちょうど良いタイミングだ、と考えたのかもしれない。
とはいえ、この方針が世界中のものであるなら話は簡単なのだが、ファクトチェック廃止が「アメリカ国内のみ」である点が気になる。アメリカだけなら、社内事情ではなく追従だと言われても仕方ないところがある。
トランプ支持の背後にある「テック業界の反バイデン政策」
トランプ大統領は、就任前から積極的に「Make America Great Again」軸で意見を発している。その中には、少数派への配慮や地球温暖化への懸念、他国の独立性などについて、かなり疑問のある内容も含まれている。
大統領令を連発する裏には、議会で民主党と共和党が拮抗しており、ストレートには法案が通らないとみられる……という事情がある。また一方で、憲法と大統領令がぶつかる場合には司法側から待ったがかかり、法廷での判断を経て実行されるか否かが決定される。
そのため、大統領令が出たからといって実現するとは限らず、トランプ氏が発言したからといってその通りになるというわけでもない……というのが政治的な見方であるようだ。
とはいえ、支持を得て大統領になった人物の発言なので、軽く見ることはできないし、他国からの見方が変わる可能性はある。トランプ氏はそのことをどこまで真剣に考えているのだろうか。
例えばDEI(多様性・公平性・包括性)政策。トランプ氏はバイデン政権が打ち出したDEI政策を「行き過ぎ」と批判しており、そのことが選挙戦でのアピール軸でもあった。
そのため、当選後には複数の企業がDEI重視の姿勢が行き過ぎであったとして減速する姿勢を見せている。テック大手では、Amazon・Google・マイクロソフト・Metaがこの流れに同調した。
一方でアップルはこの方針に乗らず、反対の姿勢を示している。
今回の大統領選挙では、これまでであれば民主党に賛同したような人々が共和党に票を投じ、トランプ氏勝利に結びついたところがある。その1つがDEI政策に対する行き過ぎという「反感批判」である。
そしてテック関連で大きな影響を与えたのが、M&Aを含めたビッグテック規制とAI関連規制についての厳格化方針だ。どちらもテクノロジー企業から見ると歓迎しづらいことではある。
テック業界は伝統的に民主党支持が多いのだが、「賛同できない言動も多いが、今回はトランプ氏を支持する」という人々が少なくなかった。トランプ政権に対するテック業界の反応が否定的なものではないのは、そうした空気感を反映したものでもあるだろう。
特にAI関連規制については、明確に緩和の方向へ進んでいる。これは今後のAI開発とサービス展開に大きな影響を与える。アメリカのテック企業は基本的に、緩和をありがたく思っていることだろう。
AIを国際的なビジネスにしていくにはお互いのルールを理解しておく必要があるし、できればルールは近い方がいい。
ヨーロッパは厳格化に舵を切っている。バイデン政権下ではアメリカも厳格化するか……と見られていたが、ここに来て風向きは完全に変わった。日本としても、この変化には機敏に対応する必要がある。
「Stargate Project」にも関わる「アメリカ国内投資拡大」
もう1つ、テック業界にとって大きな要素となるのが「アメリカ国内投資への集中」だ。
「Make America Great Again」の本質は、アメリカ国内中心の体制への回帰と言える。
日本から見れば、アメリカはずっと「十分にグレート」に見える。特にテック業界はそうだ。多くのサービスやテクノロジーがアメリカ企業から産まれ、人材もお金もアメリカ企業に集中している。
ただ、これは1つの本質として、「アメリカ国内から見れば、アメリカが弱っているように見えた」ということもあるだろう。
カルフォルニアやワシントン、ニューヨークなどの企業が集中する地域は活況であるものの、ソフト・サービスに関わらない地域はその恩恵にあずかれない。いわゆる「分断」の原因の1つであり、第一次トランプ政権発足の理由はまさにここにあった。
アメリカ製品の製造をアメリカ国内に戻し、アメリカを差別化できる産業を振興するというのがトランプ大統領の政策の軸にある。「Make America Great Again」も、誰もが恩恵を得られる形での産業振興がベースにあり、その流れとして「国内生産回帰」と「国内産業推進」がある。
トランプ大統領就任会見があった翌日、「Stargate Project」が発表された。
OpenAIやソフトバンクグループ、Oracle、MGXが初期出資者となり、アメリカ国内に今後4年間で5,000億ドル(約77兆円)を投資してAIインフラを構築する。
あくまで出資主体は民間であり、参画企業は今後巨額の資金調達を経て、Stargate Projectへの投資を進めることになる。政府が巨額出資をするわけではないが、発表はホワイトハウスで行なわれ、トランプ大統領も演説しているところから、強い後押しを受けた計画であるのは間違いない。
インフラ構築はテキサス州から行なわれるが、これも考えてみれば「過去にITで大きな利益を得ているわけではない」場所からのスタートとなる。
テクノロジーを支えるデータセンターや半導体工場などの需要は拡大しており、それをどこに作るかは大きな課題だ。その地域にとっては巨大な投資であり、雇用を生み出すソースともなる。
日本でも半導体投資に絡み、熊本や北海道で似たことが起きているが、トランプ大統領が進める「Make America Great Again」にとっては重要な要素だ。
半導体やスマホ生産のアメリカ回帰も考えられているが、そのことが市場にどのような影響を与えるのかも考えておく必要はあるだろう。
中国との間での対立、というより「分断」はより進む可能性が高い。
一方で、中国はデバイス製造の面でもAI開発の面でも積極投資し、先進的なものを多数作っている。そこに政治的な影響が紛れ込まないか、という危惧もあるが、同時に「分断がイノベーションにどのような影響を与えるのか」も気になっている。
たぶん、物事は良い方向だけには進まないだろう。