西田宗千佳のイマトミライ

第276回

公開された「Nintendo Switch 2」動画から未来を予測する

Nintendo Switch 2の外観が発表に

1月16日、任天堂はかねてから「開発中である」としていたNintendo Switchの後継機「Nintendo Switch 2」のデザインを動画で公開した。また、4月2日には詳細を公開すること、その後に世界各地で体験会を開催することなども発表している。

発表が行なわれたといってもデザインの公開が中心であり、詳細なスペックは未公開だ。噂もあるが、筆者は確証のもてない噂をもとに記事を書くことはしない。ただ、明確に予測できることは複数ある。

そしてその予測は、コンソール(ゲーム専用機)の今を考える上で重要な要素といえるだろう。

今回はNintendo Switch 2(Switch 2)の存在から、コンソールの未来を考えてみたい。

コンソールの「世代変更」とは

Switch 2の特徴は明白である。それは、明確に「Nintendo Switchの後継機」と位置付けられていることだ。Switch発売からの期間(8年)を考えると次の世代といっていい存在だが、名称にしろデザインにしろ、明確に「Switchの特性を引き継いだ製品」と言える。

詳細が公開されていないのでSwitch 2に「見たこともないまったく新しい要素」が追加されている可能性は残っているが、おそらくは多くの特性がSwitchのそれを引き継いでいるものと思われる。

コンソールというビジネスモデルの特徴は、「世代が変わると機能が変わる」ことにある。ここでいう機能とは「性能」のことではない点に留意が必要だ。

特に任天堂はこの特性が強い。コントローラーを大幅に変え、遊び方にバリエーションを作っていくことでゲームの市場拡大を目指してきた。

こうした考え方は任天堂だけのものではない。ソニーやマイクロソフトは性能だけを変えてきたように語られやすいが、それは大きな誤解だ。どのプラットフォーマーも「ゲーマーにどのような環境を与えればゲームは進化するのか」という点を考えた上でコンソールを開発している。その中にいわゆるスペックも含まれるが、それぞれの特徴はスペックだけでは決まらない。

他方で、ゲームの作られ方が変化してきたことは、コンソールのありようにもずっと影響を与えてきた。

20年前、ゲームは「特定のプラットフォーム向けに独占提供される」ものが多かった。10年前でもまだ「独占作品の価値」は高かったように思う。

しかし今は、ゲーム開発のリスク低減とPCゲーム市場の拡大により、複数プラットフォーム向けに開発を進める、いわゆる「マルチプラットフォーム展開」があたりまえになって来ている。結果として、「特定のコンソールにしかない用途に向けた作り込み」は以前に比べ減ってきている。

その中でSwitchは、「テレビに接続して使う」ことと「持ち運んで自由な場所で使う」ことの双方をサポートしていること、価格が安く低年齢層に与えやすいことなどから、幅広く支持を得てきた。

Switch 2も、携帯モードとドックにつないで使う「TVモード」がある

一方で、性能面では他機種やPCに見劣りするため、マルチプラットフォーム展開をする上では配慮すべき点が多かったとも言える。

これらのことを考えると、任天堂の考えたことも想像はつく。

まず、性能面で他機種との差を小さくする必要があること。そして、他社と特性が異なり、そのこと自体が支持されているSwitchの特性を引き継ぎ、互換性も維持することだ。

「大幅な操作性面での差別化が隠されているわけではない」という前提に立てば、過去の「コンソールの世代変更」というよりも、Nintendo 3DSからNew 3DSへの進化や、PlayStation 5からPlayStation 5 Proへの進化に近いかもしれない。

そう考えると、「新世代」ではなく「新型」というべきかもしれない。

それは悪いことではなく、今のSwitchユーザーやコンソール市場が求めているものを素直に再現した進化モデル……と呼ぶべきだ。

性能は確実にアップ、だが「携帯モード」での消費電力が課題に

その上で、Switch 2がどんな製品になるかを予想してみたい。

性能は確実に上がるだろう。Switchは当時でも「性能抑えめ」ではあった。だが、前出のように性能面が課題ではあったので、一気にジャンプアップするのは間違いない。少なくともPlayStation 4クラスの性能がないと、「マルチプラットフォーム時の開発負荷を下げる」という目的は達成しづらい。

互換性維持が明言されていることを考えれば、プロセッサーはおそらくNVIDIA製だろう。ARM系プロセッサーは多数あり、コストを下げるだけ、消費電力を追求するだけなら他社を選ぶ選択肢はあるだろうが、「コンソールでの互換性」を重視した場合、継続性の高さがポイントになる。

Switch 2はSwitch用ゲームがそのまま遊べる

互換性維持をしやすくするには、CPU以上にGPUアーキテクチャの継続性が重要になる。

「互換性」というと、「いまはPCならずっと昔に買ったゲームも動く」「PCなら高性能なものから性能の低いものまでカバーできる」と考える人がいるだろう。たしかに現象面をみればその通りなのだが、それも「Windowsというプラットフォームが、互換性維持にひときわ気を遣っているから」という事情があってのことだ。

しかも、「動く」という言葉の示す範囲は広い。多少コマ落ちしようが、途中でゲームが落ちることがあろうが、PCなら「そういうこともある」という風に許容される部分がある。またその上で「満足に動くよう設定を変えていく」というリテラシーも期待できる。

一方で、コンソールはそうはいかない。誰もが同じように、複雑なことを考えなくても動くレベルであってはじめて「互換」とされる。今の時代には過保護なレベル……という見方もできるが、他方で「複雑なことは考えたくない」という人も多い。低年齢ユーザーの多い任天堂ならなおさらだろう。

だからSwitch 2は、Switchから強い継続性を持ちつつ、今の技術水準で作られたアーキテクチャということになり、必然的に「NVIDIA製で比較的新しい世代の技術」と考えるのが自然だ。少なくとも、コンソールプラットフォーマーとして品質管理や開発効率を考えれば、「プロセッサーのパートナーは変えない」という判断になるだろう。メモリー量も今のゲームにふさわしい水準ということになるだろうから、どんなに少なくても8GB。おそらくは12GBか16GBか……というところだが、コストとのバランスを考えると12GBというところではないだろうか。

一方、「携帯モード」があること、価格的に他社ほど高いゾーンを目指しづらいコトなどから、最新のPCや他社のコンソールほどの性能は想定しづらい。昨今はポータブルなゲーミングPCも出てきたが、あれらはなんだかんだいって10万円近い値付けだ。比較的生産量の多いSteam deckでも59,800円からと比較的高い。また、バッテリー動作時間も今のSwitchより大幅に短くなってしまう。

そこから考えると、「携帯モードでもポータブルなゲーミングPCほどの性能は出ない」可能性が高い。おそらく、据え置き利用の「TVモード」との性能差は上がる可能性が高い。だがこれは、ユーザーニーズや最適化がしやすい点を加味すれば、悪くないトレードオフだと考える。

これはあくまで予測だが、本体の上と下にUSB Type-C端子を用意したのは、「より柔軟に、電力供給を受けた状態で遊べる」ことを想定しているのではないか。そうすると、携帯モードでも「給電を受けている時」と「バッテリーで動作している時」で顕著な性能差があるのかもしれない。

Switch 2では上面にもUSB Type-C端子が。電源供給がより柔軟に行なえるようになったと考えられる

変化は「画面表示回り」にも

内蔵画面が大きくなっているのも、昨今のゲームを考えると納得できる。

マルチプラットフォーム展開するゲームが多くなって来ると、画面上のユーザーインターフェースをどう構築するかが課題になってくる。テレビやPCディスプレイを想定すれば、それなりに細かく情報量の多いステータス表示や操作ダッシュボードを想定できるが、小さい画面だと難しい。テレビ向けとUIを共通化するには、8インチくらいの画面が必要に鳴ってくる。

動画を見る限り、Switch 2のディスプレイサイズは7インチ後半から8インチくらいと思われる。これも、PCや他社コンソールとのマルチプラットフォーム対応にはプラスだ。もちろん任天堂自身も、ゲーム上の画面設計の柔軟性を高める上ではプラス、と判断しているだろう。

Switch 2の予告映像より。Switchのコントローラーと並んでいる様子を見れば、画面サイズは最低でも7インチ台後半。おそらくは8インチクラスだろう

さらに、機能面でもうひとつ「おそらく搭載しているだろう」と考えられるのが、「ゲーム画面の超解像」機能だ。

Switchの内蔵ディスプレイは1,280×720ドットで、テレビ接続時は1,920×1,080ドットだった。今のニーズを考えると、これも変更になっているだろう。内蔵ディスプレイで1,920×1080ドット、テレビ接続時に3,840×2,160ドット(いわゆる4K)になっている可能性が高い。

他方で、4K・60Hzをゲーム中に維持するのはいまだに大変である。コストや消費電力の問題からPS5世代と同クラスの性能ではない、と考えればさらに厳しいだろう。

しかし、今は2Kクラスの解像度をリアルタイムに4Kにするゲーム向けの技術が増えてきている。NVIDIAでいえば「DLSS」がそれだ。

この種の技術があったからといって、ネイティブな4K出力が不要というわけではない。ただ、ゲームにおいて「性能と消費電力のバランス」を考えると、積極的な高解像度化技術の採用はあり得るところである。携帯モードの2K向けにゲームを作り、テレビ向けには超解像+消費電力アップによる演算のリッチ化で4K主力とする……という構造はあり得るのではないだろうか。

ゲーム技術のトレンドでいえば、時間軸方向の解像度向上、すなわち「フレーム補間」もあり得る。しかし、フレーム補間は「性能が限られていて毎秒60フレームが維持しづらい」ようなシーンでは遅延が目立ちやすい。組み込まれていても不思議ではないが、筆者は「60Hzを軸に置く現在のコンソールには採用されないのではないか」と予測している。

一方で、Switch 2が「120Hz以上へ積極的に対応してくる」なら話は別だ。だがこれも、ユーザー層を考えると違うだろう……というのが筆者の予測だ。

価格は「Switchより値上がりする」だろうが……

最後に重要なのが「価格」だ。

これは残念ながら、Switchの「299ドル」「32,978円」(税込)よりは高くなるだろう。

半導体コストは下がらなくなっており、十分な性能の半導体を採用するとなると、Switch発売時よりも価格要件は厳しくなってくる。

また円安の影響も無視できないので、5万円近い値付けになる可能性は否定できない。

Switch以降では任天堂も「ゲームハードウェアは初期から黒字の値付け」が基本だ。昔はコンソール同士のシェア争いが注目されたが、今はPCやスマホ、タブレットなど、他の機器との「時間の奪い合い」の方が熾烈であり、赤字で売る意味あいも薄れている。

なお「コンソールは赤字で売ってソフトで儲ける」と考えている人がまだいるが、これは誤解だ。過去においても、コンソールをずっと赤字で売ってビジネスを維持できた試しはない。販売初期に赤字であってもその時期を速やかに脱するのがビジネスのキモだった。

過去は技術進化による半導体製造コストの低下によってコストが急激に下がり、そこから利益も出たし、値下げもできた。

しかし今は半導体製造技術が進化しても、コストはさほど下がらない。だから初期から「無理せず黒字が見込める価格」を付け、長く同じ価格で売る戦略が基本だ。詳しくは以前に本連載で書いた記事をお読みいただきたい。

互換性や特性が維持されているということは、「ビジネスの継続性が高い」ということでもある。ゲームメーカーはSwitch向けに作ったゲームをそのまま販売できるし、Switch 2向けにプロジェクトを変更するのも容易だ。

もはやコンソールも「過去と互換性がない」形では消費者に支持されないし、プラットフォーマー側も、世代変更期間の収益性悪化に耐えきれない。数年間の移行期間を経て、徐々に世代変更を完了させるビジネスモデルを採るのが基本路線となっており、今回は任天堂もそういう戦略に出たのだろう。

その後にSwitch 2の価格が改定されるか否かまでは読めないが、「価格が変えづらい背景がある」のは間違いない。

ここまでの話はみな予測だ。

互換性を維持していくモデルの課題は、「買い替えを促す要素をどこに置くか」という点にある。PlayStation 5の場合には「ロード時間とコントローラー」にあった。ただ一方で、移行サイクルは3年と長めに見積もられ、実際それよりも長くなっている。特に日本では、価格の問題から移行が遅れている。

Switch 2にはまだ我々の知らない大きな要素が隠れていて、それが「2への移行」を促す大きな要素になるのかもしれない。個人的にはそうなれば面白い、とも期待している。

一方で、OSを含めたソフト構造やストレージ速度、コントローラーの使い勝手向上等、地味な要素が移行のカギになることもあるだろう。特にソフト面は、ハードと違って発表まで中身が見えづらく、噂にもなりづらい。

4月の発表に向けては、「ソフトやネットワークサービスによる進化」にも注目しておいてほしい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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