西田宗千佳のイマトミライ

第273回

「AQUOS R9 pro」から考える「カメラ特化スマホ」のあり方

シャープのAQUOS R9 pro

シャープから、「AQUOS R9 pro」の評価機材貸し出しを受けた。国内メーカーとしては年内最後の「スマホの大玉」といっていい。今回はこの製品をさわりながら、スマホのカメラの今とこれからを考えてみよう。

なお、掲載した撮影サンプルは若干のトリミングはしているものの、それ以外の色調補正を含めた加工は行なっていない。

比較にはiPhone 16 Pro Maxを用意

カメラ特化だから感じる「特別な味わい」

AQUOSのフラッグシップである「Rシリーズ」には2つの方向性がある。比較的ストレートなハイエンドに近いものと、カメラに特化した「pro」だ。

今年、シャープはスタンダードな「R9」だけを先に出し、R9 proは12月に発売した。事情はいろいろありそうだが、シャープとして「じっくりと作って売りたかった」のは事実だろう。

シャープは1インチのイメージセンサーを使い、ライカとの協業によるチューニングを施した製品を何世代か作ってきた。

今回は望遠・超広角のイメージセンサーを加えたことで、望遠・広角「でない」シーン、すなわち標準域での味わいがより増した印象が強い。

自然なボケ味の良さは特に感じやすい。

以下の2組の写真は、どちらも最初がAQUOS R9 pro、次がiPhone 16 Pro Maxで撮影した写真である。ボケ感やそれに伴うやわらかさなど、「R9 proらしさ」を感じる部分がある。

R9 proで撮影。ポートレートモードは使っていないが自然なボケ味
iPhone 16 Pro Maxで撮影。全体に明るいが、皿の端から奥へのボケ味や色合いはR9 proの方が好みだ
R9 proで撮影。手前から奥へ自然な印象であり、奥のライトのボケ感もいい
iPhone 16 Pro Maxで撮影。全体に明るく見やすい写真ではあるのだが、「味わい」は弱い

では、すべての面でR9 proの圧勝かというとそうでもない。

光の状況が微妙な夕方の風景を写した場合、空の様子の再現度はiPhoneの方が上だ。

R9 proで撮影。空の明るい部分が少し白側に飛んでしまっている
iPhone 16 Pro Maxで撮影。R9 proのものに比べ、空の表現は多彩だ

また、いわゆる「ポートレートモード」の出来もiPhoneの方がいい。スタバのロゴはちゃんと丸く切れる。物体輪郭の認識精度がかなり違う印象を受ける。

R9 proで撮影。背景がちゃんとボケているように見えて、支柱のすき間とそうでない部分のボケ方に差があって不自然
iPhone 16 Pro Maxで撮影。支柱の間までしっかりと自然なボケ方が維持され、違和感をおぼえない
R9 proで撮影。ポートレートモードを使ったためか、ライトの輪郭がかなり不自然
iPhone 16 Pro Maxで撮影。こちらは不自然なところがなく、背景だけがボケている

この点を考えても、いわゆる「コンピュテーショナルフォトグラフィ」の完成度は、iPhoneの方が上であるように思える。

以下の写真も、置かれたライトの光源のイメージは、iPhoneの方が好ましく思える。

R9 proで撮影。置かれたライトの表現がiPhoneのものとはかなり違う
iPhone 16 Pro Maxで撮影。あざといといえばあざといのだが雰囲気はこちらの方が良い

ただ、iPhoneの写真のクセがプラスに働かない場合も多い。

以下の写真を見て、R9 proの写真を「暗い」とみるか「背景を含めて味わいがある」と見るかは、主観によるだろう。iPhoneの方が風景はちゃんと写っている、と言えるが、内容的にはイマイチだ。

R9 proで撮影。iPhoneに比べて暗く写っているが、背景の印象的な描写を含め、これはこれでとても好ましい
iPhone 16 Pro Maxで撮影。明るく見やすい写真ではあるが、味わいはかなり弱い

前掲の「おでん」ちょうちんの写真も、私の好みはR9 proで撮影した方である。

R9 proには若干シャッターラグが気になるシーンがあるし、その結果としてブレた写真に仕上がることも多い。暗いシーンや光の表現が微妙なシーンでは、「見た目にわかりやすい写真を確実に残してくれる」iPhoneの方が信頼できるし、日常的に「サッと撮って残していく」のも、iPhoneの方がいい。

だが、R9 proは撮影後にハッとするような写真になることがある。特に、標準域で被写界深度を活かしたアングルで撮る場合、よい個性の写真になる印象が強い。

その上、使い勝手の面でマイナスがかなり目立たなくなっているので、R9 proは本当に良い進化をしたな、と思う。特に指紋センサーの快適さは、他機種しか使ったことがない人もぜひ体験してほしいと思う。

中国メーカーが進める「カメラメーカー協業」

スマートフォンの差別化要因がカメラになって久しい。スマホの進化点の中でもわかりやすい要素であり、誰もが日常的に使っている。

とはいえ、ここまで進化すると、「カメラがどう進化したのか」を多くの人に理解してもらうのも難しくなった。

だからこそ、カメラメーカーとの協業をアピールする流れが目立つ。

シャープとシャオミはライカと組んでいるし、OPPO(オウガ・ジャパン)はハッセルブラッドと組んでいる。

Xiaomi 14T Pro
OPPO Find X8

昔なら「ブランドを借りただけでしょう?」と冷ややかに見るところだが、今は違っている。

画質はセンサーとレンズで決まる部分が大きいが、それだけでなく処理も重要だ。別の言い方をすれば、「このシーンで、この部分の色はどう表現すべきなのか」という部分には、長年カメラを作ってきたメーカが得意とする「積み重ね」が生きている。

そこでのコラボレーションが、カメラの付加価値として大きな意味を持つ時代になってきている。

どのカメラでも慎重に撮影時に設定を変え、RAWデータから画質をいじっていけば個性の差は縮まる。だが、「撮ってすぐに1つの結果が得られる」のはスマホの良さであり、その面では、スマホのカメラこそ「カメラとしての個性が生きやすい」というのが筆者の考えだ。

過去にもカメラメーカーがスマホメーカーと手を組むことはあったが、現在に比べ「関与度」「本気度」は薄かった。

また、コアなカメラメーカー(要は日本の大手)はカメラ自体の開発競争が大変であり、スマホに価値を流出させたくない……と思っているのかもしれない。

スマホも作っているソニーがもう少し「ガチな連携」を見せてくれれば、とも思うが、少なくとも2024年は、まだその流れが見えない。2021年発売の「Xperia Pro-I」路線で、もう一声使いやすくて撮りやすい、今の価値観にあった製品が出てくるのを期待したくなる。

結果としてだが、現状こうした路線は中国系メーカーの領域になっている。シャープは日本でスマホを開発しているが、アジアでのビジネスを拡大しているという点で見れば、中国メーカーを意識した部分もあるのだろう。

カメラとして個性を持つスマホ、というのは面白いと思う。

ただ課題は、「スマホを複数台買う人は少ない」という点だ。2台持ちは増えてきているとはいえ多数派ではないし、ハイエンドスマホを複数台買うのは「スマホが好きな、特殊な人」ではある。

やはりたくさん売れるのは「メインスマホとして使いやすい機種」。だからシャープも、価格をおさえてマスに売れる「R9」にまず注力し、その先で差別化要因・特定顧客向けとして「R9 pro」を作ったということなのだろう。

個人的には、「カメラとして購入されるスマホ」があっていいと思う。

カメラをスマホの技術で作る流れもあったが、それは結局成功しなかった。しかし、オープンマーケット(いわゆるSIMフリー)版製品が売りやすくなった今、カメラをスマホにするのではなく「スマホをカメラにする」製品の存在価値はある。

ただ実際のところ「スマホとして売るから確保できる台数が背景にある」から、高性能なカメラとして使えるスマホができる、というジレンマにある。カメラとしての市場では数量を確保できず、これは当面解消できそうにない。

スマホのリソースを活かしつつ「カメラとして売れる」ものを作るには、数を活かして展開するいくつかの中国メーカーと、「販売数は少なくとも、作る意味がある」と覚悟を決めているシャープくらいのものだろう。

2025年以降、この辺のエコシステムはどうなっていくのだろうか。

シャッターなのか「コントロール」なのか

最後に1つ、カメラ重視スマホに関する要素技術の話をしたい。

カメラを重視するスマホには「シャッターボタン」的なものが搭載されるようになった。

R9 proには「シャッターボタン」を搭載

またiPhoneにも「カメラコントロール」という新UIが搭載されている。

iPhone 16 Pro Maxの「カメラコントロール」

シャッターとして考えた場合には、R9 proのシャッターボタンの方が良いと思う。

一方、日々使っていて思うが、カメラコントロールはやはり「シャッターボタンではない」。サッとシャッターを切るなら、もっと右側に配置してくれたほうがいい。

ただ面白いことに、自分の使い方を振り返ると、シャッターを切ることにも使うのだが、「ズームの操作」に使うことが圧倒的に増えた印象が強い。

スマホは複数のセンサーを組み合わせて「ズーム的な挙動」を実現している。そのため、特定のところ以外では「デジタル補完」でズーム的挙動にしている、というのが正しい。それもあってか、動的・連続的にズームを使う人は意外と少ない印象だ。画質的にもその方がいい。

しかし、カメラコントロールでズーム操作ができるようになってみると、1倍・2倍などで止めない「連続的ズーム操作」が使いやすく、ひんぱんに使うようになっている。これは自分でも意外な変化だった。

R9 proなどの他の機種でも、音量ボタンの操作でズームができるものは多い。とはいえ、持ちやすさなどを考えると「思わず使ってしまう」ところまではいかないものだ。

「シャッターの瞬間」のUXに集中するメーカーが多いのに対し、アップルはズームなどの「コントロール」に軸を置いた。だからシャッターではなく「カメラコントロール」なのだ、と改めて納得している。

ただし、そういう方向性だとすれば、ズームでのデジタル補完技術はさらに磨く必要がある。iPhoneのデジタルズームは「低品質ではないが、業界トップの品質とは言い難い」と感じている。

そういう部分も含め、「カメラとは違う価値観でUXを磨く」のもまた、1つの進化かと思う。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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