西田宗千佳のイマトミライ
第273回
「AQUOS R9 pro」から考える「カメラ特化スマホ」のあり方
2024年12月23日 08:20
シャープから、「AQUOS R9 pro」の評価機材貸し出しを受けた。国内メーカーとしては年内最後の「スマホの大玉」といっていい。今回はこの製品をさわりながら、スマホのカメラの今とこれからを考えてみよう。
なお、掲載した撮影サンプルは若干のトリミングはしているものの、それ以外の色調補正を含めた加工は行なっていない。
カメラ特化だから感じる「特別な味わい」
AQUOSのフラッグシップである「Rシリーズ」には2つの方向性がある。比較的ストレートなハイエンドに近いものと、カメラに特化した「pro」だ。
今年、シャープはスタンダードな「R9」だけを先に出し、R9 proは12月に発売した。事情はいろいろありそうだが、シャープとして「じっくりと作って売りたかった」のは事実だろう。
シャープは1インチのイメージセンサーを使い、ライカとの協業によるチューニングを施した製品を何世代か作ってきた。
今回は望遠・超広角のイメージセンサーを加えたことで、望遠・広角「でない」シーン、すなわち標準域での味わいがより増した印象が強い。
自然なボケ味の良さは特に感じやすい。
以下の2組の写真は、どちらも最初がAQUOS R9 pro、次がiPhone 16 Pro Maxで撮影した写真である。ボケ感やそれに伴うやわらかさなど、「R9 proらしさ」を感じる部分がある。
では、すべての面でR9 proの圧勝かというとそうでもない。
光の状況が微妙な夕方の風景を写した場合、空の様子の再現度はiPhoneの方が上だ。
また、いわゆる「ポートレートモード」の出来もiPhoneの方がいい。スタバのロゴはちゃんと丸く切れる。物体輪郭の認識精度がかなり違う印象を受ける。
この点を考えても、いわゆる「コンピュテーショナルフォトグラフィ」の完成度は、iPhoneの方が上であるように思える。
以下の写真も、置かれたライトの光源のイメージは、iPhoneの方が好ましく思える。
ただ、iPhoneの写真のクセがプラスに働かない場合も多い。
以下の写真を見て、R9 proの写真を「暗い」とみるか「背景を含めて味わいがある」と見るかは、主観によるだろう。iPhoneの方が風景はちゃんと写っている、と言えるが、内容的にはイマイチだ。
前掲の「おでん」ちょうちんの写真も、私の好みはR9 proで撮影した方である。
R9 proには若干シャッターラグが気になるシーンがあるし、その結果としてブレた写真に仕上がることも多い。暗いシーンや光の表現が微妙なシーンでは、「見た目にわかりやすい写真を確実に残してくれる」iPhoneの方が信頼できるし、日常的に「サッと撮って残していく」のも、iPhoneの方がいい。
だが、R9 proは撮影後にハッとするような写真になることがある。特に、標準域で被写界深度を活かしたアングルで撮る場合、よい個性の写真になる印象が強い。
その上、使い勝手の面でマイナスがかなり目立たなくなっているので、R9 proは本当に良い進化をしたな、と思う。特に指紋センサーの快適さは、他機種しか使ったことがない人もぜひ体験してほしいと思う。
中国メーカーが進める「カメラメーカー協業」
スマートフォンの差別化要因がカメラになって久しい。スマホの進化点の中でもわかりやすい要素であり、誰もが日常的に使っている。
とはいえ、ここまで進化すると、「カメラがどう進化したのか」を多くの人に理解してもらうのも難しくなった。
だからこそ、カメラメーカーとの協業をアピールする流れが目立つ。
シャープとシャオミはライカと組んでいるし、OPPO(オウガ・ジャパン)はハッセルブラッドと組んでいる。
昔なら「ブランドを借りただけでしょう?」と冷ややかに見るところだが、今は違っている。
画質はセンサーとレンズで決まる部分が大きいが、それだけでなく処理も重要だ。別の言い方をすれば、「このシーンで、この部分の色はどう表現すべきなのか」という部分には、長年カメラを作ってきたメーカが得意とする「積み重ね」が生きている。
そこでのコラボレーションが、カメラの付加価値として大きな意味を持つ時代になってきている。
どのカメラでも慎重に撮影時に設定を変え、RAWデータから画質をいじっていけば個性の差は縮まる。だが、「撮ってすぐに1つの結果が得られる」のはスマホの良さであり、その面では、スマホのカメラこそ「カメラとしての個性が生きやすい」というのが筆者の考えだ。
過去にもカメラメーカーがスマホメーカーと手を組むことはあったが、現在に比べ「関与度」「本気度」は薄かった。
また、コアなカメラメーカー(要は日本の大手)はカメラ自体の開発競争が大変であり、スマホに価値を流出させたくない……と思っているのかもしれない。
スマホも作っているソニーがもう少し「ガチな連携」を見せてくれれば、とも思うが、少なくとも2024年は、まだその流れが見えない。2021年発売の「Xperia Pro-I」路線で、もう一声使いやすくて撮りやすい、今の価値観にあった製品が出てくるのを期待したくなる。
結果としてだが、現状こうした路線は中国系メーカーの領域になっている。シャープは日本でスマホを開発しているが、アジアでのビジネスを拡大しているという点で見れば、中国メーカーを意識した部分もあるのだろう。
カメラとして個性を持つスマホ、というのは面白いと思う。
ただ課題は、「スマホを複数台買う人は少ない」という点だ。2台持ちは増えてきているとはいえ多数派ではないし、ハイエンドスマホを複数台買うのは「スマホが好きな、特殊な人」ではある。
やはりたくさん売れるのは「メインスマホとして使いやすい機種」。だからシャープも、価格をおさえてマスに売れる「R9」にまず注力し、その先で差別化要因・特定顧客向けとして「R9 pro」を作ったということなのだろう。
個人的には、「カメラとして購入されるスマホ」があっていいと思う。
カメラをスマホの技術で作る流れもあったが、それは結局成功しなかった。しかし、オープンマーケット(いわゆるSIMフリー)版製品が売りやすくなった今、カメラをスマホにするのではなく「スマホをカメラにする」製品の存在価値はある。
ただ実際のところ「スマホとして売るから確保できる台数が背景にある」から、高性能なカメラとして使えるスマホができる、というジレンマにある。カメラとしての市場では数量を確保できず、これは当面解消できそうにない。
スマホのリソースを活かしつつ「カメラとして売れる」ものを作るには、数を活かして展開するいくつかの中国メーカーと、「販売数は少なくとも、作る意味がある」と覚悟を決めているシャープくらいのものだろう。
2025年以降、この辺のエコシステムはどうなっていくのだろうか。
シャッターなのか「コントロール」なのか
最後に1つ、カメラ重視スマホに関する要素技術の話をしたい。
カメラを重視するスマホには「シャッターボタン」的なものが搭載されるようになった。
またiPhoneにも「カメラコントロール」という新UIが搭載されている。
シャッターとして考えた場合には、R9 proのシャッターボタンの方が良いと思う。
一方、日々使っていて思うが、カメラコントロールはやはり「シャッターボタンではない」。サッとシャッターを切るなら、もっと右側に配置してくれたほうがいい。
ただ面白いことに、自分の使い方を振り返ると、シャッターを切ることにも使うのだが、「ズームの操作」に使うことが圧倒的に増えた印象が強い。
スマホは複数のセンサーを組み合わせて「ズーム的な挙動」を実現している。そのため、特定のところ以外では「デジタル補完」でズーム的挙動にしている、というのが正しい。それもあってか、動的・連続的にズームを使う人は意外と少ない印象だ。画質的にもその方がいい。
しかし、カメラコントロールでズーム操作ができるようになってみると、1倍・2倍などで止めない「連続的ズーム操作」が使いやすく、ひんぱんに使うようになっている。これは自分でも意外な変化だった。
R9 proなどの他の機種でも、音量ボタンの操作でズームができるものは多い。とはいえ、持ちやすさなどを考えると「思わず使ってしまう」ところまではいかないものだ。
「シャッターの瞬間」のUXに集中するメーカーが多いのに対し、アップルはズームなどの「コントロール」に軸を置いた。だからシャッターではなく「カメラコントロール」なのだ、と改めて納得している。
ただし、そういう方向性だとすれば、ズームでのデジタル補完技術はさらに磨く必要がある。iPhoneのデジタルズームは「低品質ではないが、業界トップの品質とは言い難い」と感じている。
そういう部分も含め、「カメラとは違う価値観でUXを磨く」のもまた、1つの進化かと思う。