西田宗千佳のイマトミライ

第268回

ゲーム軸で変わるディスプレイの常識 TVS REGZAがゲーミング参入

11月7日、TVS REGZAがゲーム用ディスプレイ市場への参入を発表した。今回は、テレビメーカーがなぜゲーミングモニターを作るのか、という話をまとめてみたい。

そこには、ゲーム市場の事情だけでなく、現在の家庭向け映像機器の市場状況も絡んでくるからだ。おそらくみなさんが「なんとなく考えているテレビとゲームの関係」からはけっこう大きな変化が起きている世界なのだ。

ディスプレイにおけるゲーム対応とは

REGZAが市場投入するのは2つの機種だ。

1つはHD(1,920×1,080ドット)で23.8型のモデル「RM-G245N」。もうひとつは27型・WQHD(2.560×1,440ドット)で27型「RM-G276N」である。

RM-G245N
RM-G276N

一般的なPCディスプレイやテレビと違うところは、フレームレートがそれぞれ180Hz(23.9型)・240Hz(27型)と、かなり高くなっていることだ。

映像だけならば60Hzまでで十分だし、PC作業についても同様。だが、ゲームについては高フレームレートを求めるユーザーが増えている。

60分の1秒=約0.017秒にあたる。これでも十分に短い時間だ。その3分の1から4分の1の時間となると、本当に一瞬のことではある。

実際のところ、人間の目は仮に60分の1秒であっても、「完璧かつ正確に、視界の全領域で把握しているわけではない」というのが実情のようだ。

だが、ずっと細かな時間単位でも「変化があること自体」はちゃんと認識している。だから、フレームレートが高いほど人間は映像をなめらかなものだと感じやすいし、ゲームの内容によっては、それがより正確な操作に結びつく。

ゲームを遊ぶ上でフレームレートが高いことは確かに有利な話であり、FPSなどの「競技性が高いゲーム」の場合、特に大きな価値を持つ。

TVS REGZAが発売するゲーム向けディスプレイの概要

昨今のゲーミングPC向けディスプレイでは一般的なトレンドであり、さらに、「暗所を見やすくする」「ディスプレイ中央にエイミングを補助するクロスヘアを表示する」といった機能がつくようになった。REGZAの製品も、そうしたトレンドに乗った製品として作られている。

27型の背面

サイズよりもフレームレート

フレームレートに加えて重要なのは、解像度が「4Kではない」という点だ。

現状テレビでは、リビング向け製品の多くが4Kかつ大型のものになっている。以下はJEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)が毎月出している「民生用電子機器国内出荷統計」から、薄型テレビの情報を抜き出し、2010年から2024年9月までまとめたグラフだ。オレンジが29型以下の小型テレビ、ブルーがそれ以上のリビング向け大型テレビであり、グリーンが50型以上である。

JEITAの統計資料より筆者作成。テレビについては「50型・4K」製品が中心の市場になった

テレビの出荷台数自体は年間500万台規模で安定しており、2020年以降は半数を50型以上が占めるようになっている。

本連載では何度か触れてきたが、日本のテレビは「家庭のリビングに一台、安定的に大きいサイズのものが売れる」市場だ。そしてこのサイズとなると、ある種必然的に4Kになる。リビング向けで2Kのものは、相当な価格重視モデルだけになったと考えていい。

では、サイズの小さなテレビはどうか?

JEITAの統計に出てくる「テレビメーカー」のものの数は減っている。実際、過去のように「一部屋に一台」という時代ではない。

とはいえ、PCやゲーム機を楽しむために、一定の画面サイズを持つ「ディスプレイ」は必要。そこで、PCディスプレイ自体の市場は堅調に推移している。

PCディスプレイもサイズが大型化しており、モバイル用のものを除くと、20型以下はほとんどない。24型・27型というのはメジャーなサイズだ。

テレビでもフレームレート重視 PS5 Proからも見える変化

フレームレートはあらゆるゲームで重要だ。

PCの場合には、性能が高ければ高い解像度とフレームレートの両立はできる。だが、20万円を超えるコストをかけるのでなければ、ハイエンドなゲームで「4K・60Hzを常に維持する」のは難しい。

PS5世代の場合、2Kなら60Hzの維持は問題ない。4Kも、レイトレーシングなどを使わなければ60Hzを維持できる。だが、レイトレーシングを組み合わせるとゲーム側で解像度を下げるなどの設定変更が必要になる。

先日発売された「PlayStation 5 Pro」の場合、パフォーマンスが底上げされた結果、レイトレーシングを使いつつ60Hzの維持も可能になってきた。4K・120Hzに対応するゲームも増えていくだろう。PS5 Proは4K・60Hz以上が使える「最新のテレビ」の機能に最適化されたゲーム機、と言える。

4Kという解像度は当面、マス向けとしては最大クラスのものだろう。そこに高フレームレートで表示できる高性能PCやPS5 Proがあれば最高のグラフィックスでゲームを楽しめる。

だが、フレームレートとの組み合わせを考えると、「あえて解像度を落とす」という発想もアリではある。

小型のディスプレイは視聴距離がテレビより近く、27型でも4Kを見分けることはできる。作業のために情報量重視の観点でも、4Kの方がいいのは事実だ。

だが、4Kでなければいけない理由もない。

ゲームが中心であるなら、前述のようにフレームレート優先、という発想もある。

フレームレートと解像度を同時に維持するには、より高い性能のPCが必要になってくる。そこで解像度よりもフレームレートを重視したディスプレイがゲーム向けに売れる……という流れなのだ。

ゲームというと、日本で一定の年齢を重ねた人は「テレビでやるもの」「家庭用ゲーム機が中心」と思うかもしれない。まあ、スマホは別として。家庭用ゲーム機とPCでは、まだ全体では家庭用ゲームの市場の方が大きい。とはいえ、コアなゲーマーであればPCを持っていることも増えた。

それだけでなく、現在は家庭用ゲーム機であっても「テレビにつながっている」とは限らない状況だ。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントによれば、PlayStation 5の半分は「4Kディスプレイにつながっているわけではない」という。

リビングでなく個室でゲームをプレイする場合、大型の4Kテレビを置けないこともある。そうなると、4Kに対応しているPS5であっても「すべてが大型テレビにつながっている」とはいえないわけだ。

PS5もXbox Series S/Xも、4KやHDだけでなくWQHDにも対応している。フレームレートも60Hzだけでなく、120Hzにも対応している。だから、ゲーム向けのPCディスプレイに接続し、解像度よりもフレームレートを優先してプレイしている人はいるだろう。

現実問題として、単に安価なPC用ディスプレイを使っていて、60Hzまでの表示であることが多いかもしれないが……。

「テレビゲーム機」がもはやテレビにつながっているとは限らないし、ゲーム機でなくPCでゲームをしている人も多い。

そう考えると

  • ディスプレイの価格
  • ディスプレイの解像度
  • つなぐ機器の性能
  • プレイするゲームの性質

の掛け算が発生しているのがわかる。

テレビの最高解像度×60Hzだった時代はシンプルだったわけだが、いまはそうとも限らず、結果として「ゲーム用PCディスプレイ」という製品ジャンルが成立するようになっている……ということなのだ。

ただ、フレームレートが高い製品が増えているものの、高いフレームレートで遊ぶ人が多い、というわけではない。高いフレームレートで「遊びたい」とは思っているだろうが。

例えばテレビの場合、今年の最新モデルでは4K144Hz対応が増えた。しかしこれはニーズ反映というより、「ディスプレイパネルメーカー側にその準備ができた」ために、1つのウリとしてニーズを先回りして搭載……というのが実情であるという。

どちらにしろ、解像度だけでなくフレームレートがディスプレイにとって重要であり、そのニーズを引っ張るのはゲームなのは間違いない。それが、ゲーム用PCディスプレイとテレビの両方でわかりやすく見えてきているという話なのだろう。

テレビメーカーが「PCディスプレイ」を手がけなかった理由

過去から「小さい個人用のディスプレイ市場をどうするのか」という話はあった。

そこにはテレビメーカーではなく、PCメーカーやゲーミングPCメーカーが支持されている。

例外はサムスンやLGだが、彼らはもともとPCディスプレイメーカーとしても定評があり、その流れでゲーミングディスプレイも手がけている……という部分はある。

なぜ家電メーカーがPCディスプレイをあまりやってこなかったのか?

シンプルにいえば「販路が違った」からだ。

家電とPC周辺機器は、扱う部署も流通も異なる。家電量販店ならどちらも扱っているが、納入のルールも販売の流儀も違う。広告宣伝が絡むコミッションなども違う。

従来は、そうした不整合を超えて、家電メーカーがPCディスプレイを扱うと判断するほどたくさん売れるわけでもなく、単価が安いために利益も大きくはならなかった。

といったわけで、PCディスプレイ的な製品はあくまで「PCの世界」の領分だったわけだ。

だが、小型テレビの市場が小さくなり、個人市場向けの製品をどうするか……という話になると、PCディスプレイを念頭に入れる必要も出てくる。

現在はEC/オンラインでの販売も増え、販路としての不整合を気にする部分も減ってはきている、という話もあるだろう。

とはいえ、テレビ系メーカーでこのジャンルに入ってきたのは、ソニーとTVS REGZAくらい。そして、この両社では位置付けも全く違う。

ソニーはワールドワイドでのビジネスを考え、テレビなどとは独立した部隊が「INZONE」シリーズを手がけている。相互に技術共有はあるようだが、事業は別。日本だけでなく海外でのビジネス拡大が重要で、幅広く見た上での展開と言える。

TVS REGZAはテレビから「映像ソリューションのトータルメーカーを目指し、幅を広げる」とコメントしている。一方で市場はまず日本であり、ソニーのようなグローバルモデルとは違う。

REGZAはゲーム用ディスプレイを皮切りに映像ソリューションのトータルメーカーを目指す

ゲームの世界で支持されるには「ゲーマーの支持」が必須

しかし、家電メーカーだからといって、そのブランドはPCの世界では通じない。

ゲーミングPC関連は、プロゲーマーやゲーム配信者などの「ゲームをプロとしてプレイする」人々の支持が重要だ。単にマーケティングでなんとかできるものではなく、「ゲームをプレイする時に優位性が高い」ことをちゃんと実証し、彼らから厚い支持を得てはじめて、ブランドとしての認知と理解を得られる構造だ。

ソニーは2022年に発売した第一弾製品で手痛い教訓を得た。製品の完成度の面で、ゲームファンから良い反応を得られなかったのだ。

そこで、今年発売した新製品では、徹底したリファインと「プロプレイヤーとの連携開発」が行なわれた。プロモーションでもそのことが全面に押し出されている。

ソニー・INZONEのディスプレイ製品サイト。共同開発のeスポーツチーム「FNATIC」との関係を全面に押し出している

REGZAについても、そうした信頼を地道に積み上げる必要がある。

「ゲームをするテレビ」として、REZGAは長年にわたって「ゲームならREGZA」というブランド認知を高めてきた。「テレビにゲーム機をつないだ時に発生する遅延」が認識されるようになってから、地道に改善を続けてきた結果の認知だ。

では、ゲーム用ディスプレイではどう認知を高めていくのか?

ちょっとマニアックな話だが、製品そのものだけでなく、そうした戦略もまた見どころといえそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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