西田宗千佳のイマトミライ
第265回
アマプラも「広告入り」に 映像配信でなぜ「広告つきプラン」が広がるのか
2024年10月21日 08:20
10月16日、Amazonは、同社の映像配信サービス「Amazon Prime Video」にて、2025年より「制限付きで広告表示を導入する」と発表した。
映像配信のビジネスが定着に向かう今、大手は有料プランの中でも「広告導入」を進めるのが既定路線となってきた。
これはどういう現象なのだろうか。有料なのに広告、という点に納得がいかない人もいるだろう。
今回はあらためて、「映像配信に広告が入る事情」を考えてみよう。
世界中で拡大する「広告+有料」映像配信
Amazonは来年より日本でも広告表示を導入するが、アメリカでは今年の1月に導入済みだ。
アメリカのAmazon Prime会費は年間139ドル。このプランだと現在は広告が表示されるようになっている。表示を求めない人は月に3ドルの追加料金が必要になっている。
アメリカだけでなく、カナダやヨーロッパ諸国、メキシコ・オーストラリアなどでも導入されており、日本でも広告導入は不可避と考えられていた。
実のところ現状すでに、海外(特にアメリカ)においては有料配信でも広告付きのプランが一般的になっている。
日本では広告モデルが導入されていないDisney+だが、アメリカでは広告付きプランが基本。同じグループで提供するHulu(日本のHuluとは異なる)やESPN+とセットにした広告入りのバンドルモデルは月額14.99ドルであるのに対し、広告なしだと月額24.99ドルとかなり高くなる。
そして現在、広告モデルの導入でもっとも成功しているのがNetflixだ。
Netflixは10月18日に2024年第3四半期の決算を発表しているが、ユーザー数は2億8,272万人と、前年同期比で15%増加となっている。
牽引しているのは広告ありのプラン。広告ありプランのユーザーは第2四半期に比べ35%と大幅に増加している。以下は筆者が決算資料から集計した会員数変化のグラフだが、赤線で示した広告つきプラン導入タイミング以降の変化が著しい。
同社は日本でも、昨年秋より広告のないプランのうち「ベーシック」プランの新規加入を廃止している。現在は「広告つきスタンダード(月額890円)」と、同様の内容で広告がない「スタンダード(月額1,590円)」、4K・HDR画質での視聴ができる「プレミアム(月額2,290円)」の3プランであり、広告なしでの視聴は高くつくものになってきた。
ABEMAも「広告つき有料」追加 日本も「広告あり配信」定着へ
日本は海外に比べると、有料配信への広告導入の比率は少ない。とはいえ、最大手のAmazon Prime Videoが来年に導入し、シェア2位のNetflixも広告つきが基本となっている今、「映像配信は広告つき」が主軸となるのは間違いない。
ABEMAも10月11日から、「広告つきABEMAプレミアム」を月額580円で提供している。既存の「ABEMAプレミアム」は11月26日から月額960円から1,080円に値上げされるので、同社も「会員拡大の切り札として広告つきプランを」と考えているのだろう。
そもそも日本の場合、コンテンツとしては強い力を持つ「TVer」が広告モデルであり、ある意味で競合である「YouTube」も、ご存じのように広告モデルが主体だ。
そう考えると、有料配信での広告モデル拡大はこれからだが、映像配信自体での広告活用は定着している……ともいえる。
映像配信の「フェーズ変化」が広告導入を促す
こう思う人もいるだろう。
「毎月料金を支払っているのに広告が入るのは納得いかない」
「広告が入らないことが有料配信の良さと喧伝されていたのでは」
それもよくわかる。
一方で、映像配信の普及とともに、利用者拡大に必要なものが変わってきたのもまた事実なのだ。
「広告を入れて安くする」というのは、実のところ放送・ケーブルテレビ時代からある古典的な発想だ。広告プラン自体は米Huluが初期から導入しており、アイデアとしては普遍的なものだった。
しかしユーザー数が少ない頃は、コンテンツの価値や利便性などに対し、積極的に対価を払う人がサービスに加入していく。「ケーブルテレビや地上波とは、いかに違う存在なのか」がなによりも重要だったわけだ。
一方でユーザー数が一定を超えると、「映像作品にそこまで思い入れがない」人をどうやってサービスに引き入れるのか、という点が重要になってくる。成長にはユーザー数拡大と安定が必要。そうなると、低価格なプランが必須になっていく。
Netflixの変化は、その観点で分析すると非常にわかりやすい。
初期に同社は、「オリジナル作品はすべて一気に公開」「スポーツなどのライブ配信はしない」「没入感を削ぐ広告は導入しない」としていた。
だが現在は、「毎週1話ずつ公開の作品もある」「アメリカではスポーツのライブ配信を予定」「広告入りのプランを用意」と、大きくやり方が変わっている。
過去の主張が間違っていたのではない。プレミアムなプランや力の入れたオリジナル作品では過去の方針を維持しつつも、「もっと多くのユーザーが受け入れやすいモデル」へと変化することでユーザー数拡大を実現しているわけだ。
日本ではAmazon Prime Videoが圧倒的なシェアを維持しているが、世界的にはNetflixの影響が大きい。
放送との差別化で広告を入れなかったNetflixが方針転換し、それが想像以上にうまくいっていることは、各社の広告モデル戦略に大きな影響を与えているだろう。
ネトフリすら「広告での利益貢献」は来年以降 広告量と収益のジレンマ
広告の導入は、もちろん「収益」を目指したものではある。
現状、コンテンツ調達費用やシステム運用コストの拡大が利用料に与えるインパクトを減らしたい……という意図が大きいものの、ユーザー数が増えれば当然、広告料収入は経営に影響してくる。
ただ、映像配信にはテレビなどの広告とは異なる要素がある。
それは「顧客のプロファイルに応じて運用的に配信する」ということだ。
主な映像配信は当然ながら、顧客のデータを野放図に広告主に売るようなことはしていない。とはいえ、一般的なネット広告と同様、顧客属性との連動をどう考えるか、という話は出てくる。
運用型広告と映像配信の関係はさらに大きなものになり、ユーザー数に応じた収益拡大につながるだろう。
ただ、Netflixですら「広告費の利益貢献は2025年度から」としており、相当な数にならないとインパクトを持ちづらいことも感じられる。
大量にCMを入れれば収益は得やすいが、利用者の利便性は落ちる。
Netflixは広告挿入量をかなり抑えてサービスを展開しているし、Amazonも広告導入に関するプレスリリースの中で、「従来のTVや他の動画配信サービスよりも、広告の表示回数を有意に減らすことを目指しています」としている。
魅力的ではあるが抑制的に扱わねばならないところに難しさがある、といえそうだ。この辺もまた、各事業者が「広告プランを主軸とし、多くのユーザーを集める」理由でもあるのだろう。