西田宗千佳のイマトミライ

第261回

MacでiPhone操作 製品/OS連係強化するアップル EUの影響

iPhone 16シリーズ。今年も4モデルが発売された

アップルは9月20日に新製品である「iPhone 16シリーズ」と「Apple Watch Series 10」、「AirPods 4」を発売した。すでに手にした方々も多いのではないだろうか。

レビューで触れた限りでは、製品の完成度は相変わらず高い。とはいえ、スマートフォンとしてのiPhoneが今年も売れ、高いシェアを維持するかはまだわからない。例年に比べて予約数が振るわない、との話もある。

一方で、アップルの強みを感じるのは、商品としてはiPhoneで独立しておらず、Apple WatchやAirPodsと連係し、複合的に収益を得られることだ。

今年は特に、MacとiPhoneの連携も強化された。

ただ、EUはそこにも待ったをかけようとしている。

今回はそうした「連係」について少し考えてみよう。

新iOS・macOS最大の魅力は「iPhoneミラーリング」

前出のように、今年の新OSによって、iPhoneとMacの連携はさらに強化される。それが「iPhoneミラーリング」だ。

この機能は、同じAppleアカウントで動くiPhone(つまり持ち主のもの)とMacを連携し、Macの側にiPhoneの画面を表示し、操作するものだ。

「iPhoneミラーリング」を使っているmacOS Sequoia。壁紙は新しく追加された「Macintosh」

上の画面が筆者の手元で行なった「iPhoneミラーリング」である。正直かなり便利だ。

操作はもちろんマウス(もしくはタッチパッド)になるのでiPhoneそのものとは違うのだが、ほとんどのアプリは問題なく動作する。

アプリの通知やメッセージを確認したりするのに向いているが、Macのキーボードから文字入力してメッセージに返事を書けるのも楽だ。ただ、iPhone側では英数とかなの切り替えがなぜかできないのだが……。

この種の「スマホの画面をPCに出して連携する」使い方は、なにもアップル独自のものではない。別途ソフトを入れて実現する例もあるし、Windows 11でも「スマートフォン連携」機能を使うと、サムスンのGalaxyシリーズなどでは連携が可能になる。これはこれで同様に便利だと思う。

Windows 11の「スマートフォン連携」機能で、Galaxy Z Fold 6内のアプリをWindowsから利用

ただし、「スマートフォン連携」機能でのスマホアプリ表示は、主にサムスンのGalaxyやOPPOの一部機種、ASUSのROG Phone 8シリーズなど、利用できる機種が限定されている。

また、iPhoneミラーリングは「iPhoneがロックされていること」が使用条件だが、Windowsのスマートフォン連携は「スマホのロックが解除されていること」が条件となる。

前者は充電中にロックしたまま使うことを想定しており、画面を横にして時計などを表示する「スタンバイ」機能を利用中でも、Macの中のiPhoneは問題なく使える。

アップルのiPhoneミラーリングの場合、iPhone側がロックされ横向きの「スタンバイ」状態でもMac内ではそのまま利用可能
Windows 11の機能では、スマホ側はロックを外しておく必要がある

後者はスマホのロックを外し、自分がPCで作業をしている近くで使うことを前提としているのだろう。

このような違いがあるのは、OS自体を1つの同じIDで管理していて全てをよく知っている「自社製品同士」なのか、「色々なメーカーの製品を連携させるもの」なのか、という特質の違いからきているのだろう。

アップル製品同士をつなぐ「連係」の強み

「一社で閉じるのか」「複数のメーカーに対応するのか」というのは、アップルと他社を分ける最大の違いと言っていい。

以前よりMacとiPhone、iPadなどの間では「連係(Continuity)」という機能が使えた。現在はVision Proも仲間に加わった。文字通り複数のデバイスを「連係」するものだ。

例えばMacである文字列をコピーすると、同じAppleアカウントで動作している、自分のiPhoneやiPadでも、その内容を「ペースト」できる。別の端末で見ていたウェブも引き継いで読める。

Macと近くにあるiPadと連係させ、MacのキーボードとマウスをiPadから使うこともできる。

Vision ProではMacの画面を仮想空間内で使うことができるが、その際には、MacのキーボードとマウスでVision Pro自体の操作も可能になる。

同様に、AirPodsも連係対象だ。同じAppleアカウントのアップル製品同士では、つけっぱなしのままでも、つながる機器が勝手に移動する。

例えばAirPodsをつけてMacで音楽を聴いたあと、そのままiPhoneに移動して音を流すと、AirPodsの接続先は自動的にiPhoneに切り替わる。

MacにAirPodsをつないでいても、iPhoneで音楽再生をすると自動的に切り替わる

もちろん、これらの連係は、通信状態などの状況で失敗することもあるし、意図せず連係「してしまう」こともある。だが、大半のシーンにおいては動作し、便利に感じるものだ。筆者はイヤフォンとしてAirPods Proを使うことが多いが、それは音質だけの評価ではなく、アップル製品同士での連携を重視して、という部分が大きい。

他社はアップルほど「すべてのジャンル」を網羅していない

筆者はなにも「アップル製品は素晴らしい」という話をしたいわけではない。便利だとは思うが、結果的にアップル製品同士を使うしかない、アップル製品に浸るほど価値が高まるという、明確な「制約」もある。

もっと多くの製品から選びたいと思う人もいるだろうし、コスト的にもっと安価なものを選びたい場合もあるだろう。多様な製品から選べることは、連係と同じくらい重要なことだ。

ただ、他社は連係しようにも「アップルほど幅広い製品群を持っているわけではない」という点も考える必要はある。

Googleは自社ハードウェアを強化しており、スマホからイヤフォン、テレビにつないで使うストリーマー(Google TV Streamer)まで範囲を拡大している。

8月に行なわれた「Made by Google」イベントでの写真。Googleも自社ハードを増やし、連携を強化している

だがGoogleが持っているのはPCではなく「Chromebook」なので、PCとまったく同じ使い勝手というわけには行かない。

マイクロソフトはSurfaceを持っているが、スマホ事業はうまくいかなかったし、ヘッドフォンも人気商品にはなっていない。

アップルに対抗できるのはサムスンだ。

日本ではPCを販売していないが、世界市場ではPC・スマホ・イヤフォン・スマートウォッチと幅広い製品群をもち、Galaxyブランド内で連係している。

サムスンのウェブより。アップル同様に多彩な製品群を用意している。ただ日本ではPC事業が抜けている

ただ、個人的な印象としてアップル製品ほど連係機能の使い勝手は高くないし、前出のように日本市場ではPCを出していないので、肝心のパートが抜けている。

仮にiPhoneに尖った魅力が薄くとも、Macを使っていればスマホのファーストチョイスはiPhoneになるし、タブレットはiPadになる。スマートウォッチもApple Watchを選ぶことになるだろう。

逆に、健康維持や緊急通報などの機能からApple Watchを魅力と感じれば、スマホはiPhoneに限定される。

今後は搭載される「AI機能」も重要になる。

プライバシーの観点からデータそのものは連係しないが、Apple IntelligenceはMac向けもiPad向けもiPhone向けも、「同じ機能であるApple Intelligence」が提供される。

PCとスマホとタブレットで使えるAI機能が違うのはマイナス要因だ。GoogleはGeminiを広げようとするが、マイクロソフトはPC以外には「クラウド経由の機能」としてAIを供給することになり、そこに弱みが出てくる。デバイスを持たないOpenAIなどにとってはさらに大きなハンディだ。

OpenAIやGoogle・マイクロソフトには、クラウドAIの賢さや企業・業務向けサービスの存在、クラウドインフラとしてのAIの提供など、アップルにはない事業領域がある。だから各社を単純に比較するのは間違いでもある。

だがこと個人向けに関しては、「さまざまなデバイスで複合的に個人へアプローチする」というアップルの戦略が大きな差別化要因となるのも間違いない。

EUの「アップル自社連係への待った」はどう影響するのか

そこで「待った」をかけたのがEUだ。

欧州委員会はデジタル市場法(DMA)に基づき、AppleのiOSとiPadOSの外部デバイス接続について、他のプラットフォームに対しても「無料で効果的な相互運用性を提供しなければならない」とし、調査開始した。

欧州委員会が求めているのは、

・Apple WatchやAirPods、Vision Proなどがアップル製品と接続した時でないとすべての機能が使えないことを是正すること

・他社が、Apple WatchやAirPodsと「同じ機能や接続性」を求めた場合、相互運用可能とすること

などである。これらの手法について透明性を担保できるかどうかを、今後6カ月以内に調査し、アップルへ伝えるという。

アップルとしては、サードパーティストアの公開以上に飲めない話かもしれない。

オープンという意味ではあるべき姿だと筆者は思う。だが、同じことをアップルだけに求めるのもまた間違いではないか。前出の例で言えば、Googleやサムスンはどうなるのだろう? シェアが低いから問題とされないなら、それはそれで筋が違うようにも思う。

アップルを含め各社が「自社製品同士の連係」を強化するのは、国際規格づくりではスピードが間に合わず、競争力のある製品が作れず、差別化も難しいからだ。

国際規格は重要な話なのだが、規格だけではできない部分を自社製品同士で補い、製品の差別化が行なわれているのが現状であり、その速度感が製品作りのサイクルと合わなくなっている部分もあるだろう。

欧州委員会の主張は、アップル以外にどう影響し、受け止められるだろうか。

筆者としてはそこにも興味がある。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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