西田宗千佳のイマトミライ

第209回

ドコモ・au・ワイモバイル、3社の新料金と秋のスマホ前哨戦

先週は、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク(ワイモバイル)が、相次いで携帯電話料金に係る施策を発表した。

3社の策はそれぞれ異なるが、どれも目的は同じ。「安定顧客の確保」だ。ただ、そのために選んだ策の違いには、それぞれの企業の方向性が色濃く反映されているように思える。

今回は各社の施策を説明しつつ、狙いの違いを考えてみよう。

毎年スマホを買い替える人を狙う「いつでもカエドキプログラム+」

まずはNTTドコモの施策からいこう。ドコモが発表したのは「いつでもカエドキプログラム+」だ。

ドコモは端末購入補助プログラム「いつでもカエドキプログラム」を展開している。

分割払い+端末下取りでスマホ購入時の負担額を下げる……という取り組みは多いが、NTTドコモの採っていたやり方は、「購入時に分割払い24回目の残価を設定」「早期にスマホをNTTドコモへ返却すると、23回目の支払いまでに割引がつく」という形だった。そのため、高価な端末を短期間(例えば毎年)買い替えるような場合でも負担額を抑えやすい、という特徴があった。

「いつでもカエドキプログラム+」はその特性をさらに強め、「毎年新機種を買うような行動」を支える施策と言っていい。

「いつでもカエドキプログラム+」は毎月「プログラム早期利用料」を支払う必要があり、さらに「smartあんしん補償」への加入も必須になる。

「プログラム早期利用料」「smartあんしん補償」は機種によって異なるが、年額で2万円くらいになる。「smartあんしん補償」は従来も使えたので料金が増える訳ではないが、どちらにしろ「支払い項目が増える」ことに変わりはない。

しかし、「いつでもカエドキプログラム+」では残価額の支払いに加え、機種買い換え・返却後の分割支払金も免除される。

以下はドコモが例として示しているものだが、結果としてかなり支払い免除額が大きくなっているのがわかるだろう。

NTTドコモがウェブ上で公開している、「いつでもカエドキプログラム+」適応例。支払い免除額は4万円近く安くなっている。

建て付けとしては「状態の良い機種を早く仕入れることでドコモからのリセールバリューが上がる分、顧客に還元している」とでも言えばいいだろうか。

機種を壊して良い状態のものが回収できなくなることを防ぐため、「smartあんしん補償」への加入が必須になっている。ロジックを考えると納得はゆく。

重要なのは、なぜドコモがここまで「1年でハイエンドスマホを買い替える人に着目するのか」という点だ。

おそらく理由は、ハイエンドスマホのユーザーほどデータ利用量も多く、料金の高いプランを安定的に使ってくれる顧客だからだろう。

9月はGalaxyやiPhoneなど、ハイエンドスマホが増えるタイミングだ。そこでこの種のプランを使い、「毎年買い換えるならドコモで」と誘導したいわけだ。ドコモで買ったからといってドコモの回線を使う必要はないのだが、多くの人は自分の使っている回線事業者の割引プランを使うもの、というのも事実だ。

ただドコモは現状、回線品質の問題も抱えている。ハイエンドスマホでデータをたくさん使う人ほど、そうした課題にも敏感である。同社としては秋のスマホ買い替えシーズンが活況になるまでには回線問題にケリをつけたい……と考えているのではないだろうか。状況を見ると、もう少し時間がかかりそうではあるが。

KDDIは「じぶん銀行」「カブコム証券」の資産形成を携帯料金にセット

KDDIが採ったのは「マネ活」だ。auのデータ使い放題プランである「使い放題MAX」に金融サービス利用をセットにすることで、au PAYによる残高還元などが受けられる、というものだ。

KDDIはauのプランと「じぶん銀行」「カブコム証券」を連携

従来から携帯電話各社は、自らが発行するクレジットカードやポイントサービスと連携し、携帯電話回線顧客の引き止めに使ってきた。

だが「auマネ活プラン」の場合、KDDI傘下の「auじぶん銀行」の普通口座金利や「auカブコム証券」の積立にも特典がつく。

「マネ活プラン」では、カードでのポイント還元に加えて普通預金金利の優遇や積立によるポイント還元も

狙いは間違いなく、比較的家計に余裕がある層だ。だが日本の場合、家計に余裕があっても資産形成が進んでいるとは言えない。携帯電話回線という切り口からお得さをアピールし、さらに日常的な資産形成のサービスとしてKDDI傘下の企業を選んでもらう……という連携である。

こうした連携で銀行まで巻き込めるのはKDDIならではだ。

NTTドコモにはそこまでのID連携ができておらず、ソフトバンクは「PayPay」なので、日常の決済までの関係となる。

施策としては若干ハードルが高く、大量の新規顧客を得られる訳ではないだろう。だが、こうしたサービスを使う人は当然、携帯電話回線事業者をひんぱんに変えたりしない。安定的に多額のサービスを契約する安定顧客になる。一方で、価格重視のPovoやUQ mobileとは狙いが違う。だから「auの使い放題プラン」とのセットになる。

ワイモバイルはデータ容量ニーズに合わせて「シンプルに拡大」

ではソフトバンク(ワイモバイル)の施策はなにか?

こちらの狙いは「今のデータ量推移に合わせたわかりやすさ」だ。

ドコモにしろKDDIにしろ、新施策の理解には「計算」が必須だ。狙いは明確だが多少は考える必要がある。

しかしワイモバイルの「シンプル2」はわかりやすい。

基本料金が8.5%から23%値上げになる一方で、データ容量がおおむね30%ずつ増えている。値上げは気になるだろうが、プランM2であっても過去の「大容量プラン」に近づいている。

「シンプル2」の概要。価格は若干上がったが、それ以上にデータ容量が増えている

なぜこのような決断を下したのか? ソフトバンク 専務執行役員の寺尾洋幸氏は「コロナ禍以降の生活様式の変化によるデータ利用量増大」を指摘する。

写真は会見で示されたグラフだ。縦軸の数字はないが、棒グラフの高さに注目していただきたい。2020年度と2023年度予測を見比べると、ほぼ倍といっていい量に伸びているのがわかる。

ソフトバンクの会見より。データトラフィックは2020年から2023年の間で倍に増えると想定されている

このトラフィック増大により、従来のプランでは「少し窮屈になってきた」(寺尾氏)という。

その中で、利用者にも販売するショップ店員にもわかりやすい、キリのいい数字ということで新プランのデータ量が設定されている。

一方、他者との併用ユーザーや利用量に波がある顧客を意識したのか、「導入したくはなかった」としつつも、シンプルM2とシンプルL2では、月間データ利用量が1GB以下だった場合、利用料金が1,100円(M2)もしくは2,200円(L2)割引になる。

今後9月に向けて、各社はさらに新施策を発表する可能性も高い。筆者には、9月の前哨戦ではどこを重視してきたのか、というのが現れたように思えるのだ。質疑応答の中でソフトバンク・寺尾氏は「この層は、9月に売られるスマホにはあまり影響を受けないので……」と、ポロリと漏らしてもいる。

特にソフトバンクがシンプルさ・わかりやすさを重視するのは、狙う顧客層が他社よりもマスに近い層であるから、という部分があるだろう。単純に比較は出来ないが、競合の中でソフトバンクがどこにテコ入れが必要と考えていたか……という部分も見えてくる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41