西田宗千佳のイマトミライ

第163回

スマホ値上がり中のiPhone発表シーズン「今のスマホの買い方」を考える

9月8日にアップルが発表会を開催。筆者は現地での取材を予定している

9月8日(日本時間)、アップルが発表会を行なう。当然なにが発表されるかは公開されていないが、例年この時期にiPhoneの新型が発表されているので「今年もそうなのでは」と、多くの人々が予想しているところだろう。筆者も現地で取材すべく渡米を予定している。

アップルが9月8日2時に発表会開催へ、新型iPhoneに期待

いつ発売されるにしろ、今年のiPhoneは、急激な円安の影響を受ける。今年7月には、iPhoneを含む各社製品が値上げされており、そこから考えると、「次のiPhone」の価格も例年よりは上がる可能性が高い。

「iPhone」値上げ、5000円~4万円アップ

このあとやってくる「秋のスマホシーズン」に向けて、スマホの価格がどうなるか、購入手段がどうなるかなどを、改めて考えてみよう。

あらゆるスマホメーカーを「円安」が直撃

日本のスマホは値上げ傾向にある。理由はやはり「円安」だ。

前述のように、7月に5,000円から4万円という大幅な値上げもあったため、今はiPhoneに注目が集まっているわけだが、円安の影響を受けているのはiPhoneだけではない。

スマホを構成するパーツの大半が日本以外で作られており、製造も日本以外で行なわれており、スマホメーカーとしても国外の方が増えている現在、どのスマートフォンメーカーも等しく円安の影響を受けているといっていい。

サムスンの「Galaxy Z Fold4」「Galaxy Z Flip4」のように、海外で発表は終わっているものの、日本での発売予定や価格は公開されていない。

サムスンから「Galaxy Z Fold4」 Android 12Lで大画面の体験を進化

2021年モデルの「Z Fold3 5G」とFold4は、発売時には同じ1,799ドルだ。Fold3発売時の円・ドルレート(1ドル110円)では198,000円程度だったが、今のレート(1ドル140円)で計算すると25万円を超える。円安のさらなる進行により、前掲の発表日(8月10日)に書かれた記事での換算価格(24万円)よりもさらに1万円値上がりしている。

ミドルクラスのスマホも例外ではない。

9月1日に発表されたHTCの「Desire 22 pro」も64,900円と、他社の同じSoCを採用した同等製品に比べ、1万円以上高い値付けになっている。完全日本市場向け製品で、量産力に長けた中国系メーカーのミドルクラスと比較するのは厳しい部分もある。同社が久々の日本市場に期待し、価格面でも相当努力したようだが、現在の円安が相当不利に働いているのも間違いないようだ。

だからこそHTCは、スマホ単体以上に、自社のHMD「VIVE Flow」との組み合わせによる世界観を推している。ちなみに、Desire 22 pro単体とVIVE Flow単体を別々に買うより、セットの方が安い価格が設定されている。

HTCの「Desire 22 pro」。自社のHMD「VIVE Flow」との組み合わせをアピールした

HTC「Desire 22 pro」国内で10月1日発売。64,900円

では実際、これから発売されるスマホがいくらになるのか? それは正直わからない。為替をストレートに反映し、超ハイエンドから多数売れるモデルまで、すべてを同じように値上げするかどうかわからないからだ。

iPhoneについては7月の値上げ時も、モデルによる値上げ幅は異なっており、安価なモデルほど小さくなる傾向にあった。「4万円も値上げした」と話題になることがあったが、それはiPhone 13 Pro Maxでストレージを1TBにした非常に特別なモデルであり、逆に言えば「欲しい人にとっては価格差以上の価値がある」製品と言える。

だから、スペックやモデルによる価格差は、いままでのiPhone以上に明確になる可能性はある、と筆者は予想している。

また、ハイエンドで高価なスマホは、日本だけでなく世界中で売れにくくなっている。ファンからの手堅い支持はあるが、売れるのはやはり「より安い製品」になってきているのだ。

それを考えると、売れ筋(iPhoneでいえば13などの“無印”。Proなどが付かないモデル)は販売価格を維持、もしくは安くし、超ハイエンドは付加価値をつけて高くする、という戦略も考えられる。

日本の多くが「大手キャリア」「分割」でスマホを買う

スマホの販売価格を考える場合には、やはり「大手携帯電話事業者での販売価格」を考慮せざるを得ない。

通信費と携帯電話端末販売価格の「完全分離」が行なわれて以降、携帯電話事業者でのスマートフォン販売価格は、オープン市場(いわゆるSIMフリー市場。現在は販売されるすべてのスマホが基本的にSIMロックフリーなので、オープン市場と呼ぶのが正しい)モデルに比べ価格が高くなる傾向にある。

例えばiPhone 13の場合、7月の値上げ後の価格を比較すると以下のようになる。

iPhone 13(128GB)に関し、アップル直販と携帯電話事業者経由で購入した場合の価格を比較。販売総額では、携帯電話事業者経由の方がグッと高くなる

iPhoneがもっともわかりやすいために比較例として出したが、携帯電話事業者とオープン市場の両方で売っている機種なら、傾向としては似たようなところがある。

ただそれでも、多くの人はオープン市場より携帯電話事業者からの購入を選び、中古よりも新品のスマホを選ぶ率が高いようだ。

MMD研究所が2022年5月13日に公表した消費者調査によると、日本で利用者数の多いスマートフォンは以下のようになる。Androidでの人気モデルとそのシェアを見る限り、オープン市場モデルが大きなシェアを得ているとは想定しにくい。

MMD研究所が2022年5月13日に公表した「現在メインに使用しているスマートフォン」の調査。携帯電話事業者を主軸に販売するメーカーに人気が集中している

また、同じくMMD研究所の調査によると、メインに使っているスマートフォンの入手方法は84.5%が新品とされ、人気メーカーの偏りに中古製品が影響を与えているとは考えづらい。

MMD研究所が2022年5月19日に公表した「中古スマートフォン」に関する調査より。メインに中古スマホを使っている人の率は15.5%。過去に比べ上がっているが、それでも大半の人が「新品のスマホを買っている」のがわかる

さらに、MMD研究所・5月13日公表の調査から、「現在使用中のスマホの使用年数」に関するグラフをピックアップしてみよう。2年未満、もしくは3年未満の人が多いことがわかる。

MMD研究所が2022年5月13日公表の調査より。購入から1〜2年、もしくは2〜3年の場合が多い

可能性が高い理由は2つある。

1つはそもそも、バッテリーなどの寿命を勘案すると、3年強が1つの目安で買い替えられている、という点。

そしてもう1つが、携帯電話事業者の「残価設定型販売プログラム」の利用者が多い、ということだ。

このプログラムでは、スマホを48回分割払いとした上で、使用したスマホを一定の利用期間後に、購入した携帯電話事業者へと返却すると、返却タイミングに応じた残価分の支払いが不要になるもの。例えば購入から25カ月後に返却するなら、実質半額程度でスマホを購入できる……ということになる。

KDDIの「スマホトクするプログラム」の解説。分割払いと本体返却がセットになった割引プログラムであることがわかる

iPhoneについては、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天の4社ともに展開しているので、利用者側も必要としているもの、ということなのだろう。支払いの扱いなどは事業者ごとに少しずつ違うので、実際の利用には、各社の条件をご確認いただきたい。例えば楽天の場合、他社より販売価格は安くなるものの、「楽天モバイルiPhoneアップグレードプログラム」の利用には楽天カードの利用が必須になる。

「シンプル」を旗頭にする楽天モバイルも、他社と同じようなアップグレード向けプログラムを用意している。価格は他社より安いが楽天カードの利用が必須になる点に注意

前出・MMD研究所の中古スマホに関するアンケート調査によると、古いスマホは「売っていない」人がもっとも多く、携帯電話事業者などの引き取りモデル利用者は18%弱となっている。そうすると、実際は「48回」もしくは「36回」の分割をフルに支払って端末を引き渡していない人がまだ多い、ということになるだろう。一方で、他の処理としては「引き取り」が最も多くなったこと、「中古販売店へ売った」という層も多い点を考えると、「スマホを買う原資は使っているスマホ」という部分があることも見えてくる。

MDD研究所が5月に公開した「スマホの処分方法」についての調査。そのまま持っている人が多いものの、中古引き取りが増えているのも見て取れる

そもそも、アップル自身も「分割販売」と「本体下取り」をアピールしている。

彼らとしても、高価になったiPhoneをいかに買ってもらうか、という点に苦慮しているわけだ。

アップルでiPhoneを買う際も、分割払いや下取りをアピールするようになっている

そろそろ「回線契約に伴う割引」の復活を検討すべきでは

ちょっと別の話もある。

香港の調査会社Counterpointの調べによると、400ドル以上のスマートフォンのグローバルシェアについて、アップルとサムスンが若干ではあるが成長を見せているという。

香港の調査会社Counterpointが9月1日に公開したリポートによる、世界のプレミアムスマホシェア。アップルが圧倒的だが、サムスンもシェアを伸ばし2強状態に

コロナ禍から抜け出す中で、カメラなどに付加価値があるハイエンドスマートフォンの利用率は上がっており、それらを長く使える良いものとして買う傾向にある、と報告書の中で彼らは主張している。アップルはその中でもシェアを上げている、という。

逆に言えば、今後そうした傾向についていける「景気のいい市場」と、ついていけない「景気の悪い市場」は二分化される可能性も高い。

春には「iPhone一括1円」販売が話題になった。詳細は石野純也氏の記事に詳しい。

回線契約に紐づく割引額は「22,000円まで」とされているが、店舗が独自に端末を割り引いて売ることは禁じられていない。だから両者を組み合わせることで、トータルでの価格を下げることができたわけだ。

ただ、端末利用が目的でない「転売」が増え、携帯電話事業者も総務省も問題視したことから、現在は「1円」的な売り方はかなり減ってきたようだ。

おそらくは、前述の「本体返却前提の販売モデル」に回線を紐づけた割引、くらいのところで、当面は進むのではないだろうか。色々な手段で「値下げ」が行なわれるのは、発売されたばかりの今年中、というよりは来春あたりだろう。

できれば、日本は前者の「景気のいい市場」市場であって欲しい。そのためには、携帯電話回線と紐づいた割引をもう少し認めてもいいのではないか、とも思う。無理に分離を維持し、転売ヤーだけが得をするよりはずっといいと思うのだが。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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